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6 謎の事件と聖人候補
947 大魔法使い
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947
魔法使いの皆さんはどことなく得意げな表情なのだが、冒険者の皆さんの表情は一様に硬い。私に向けられるのは、まるで別の生き物を見ているかのような目なのだ。
「ピントさん、私こんなに驚かれるようなことしちゃいました?」
まだクスクス笑っているピントさんは、おやまぁという驚きも表情で、彼らの硬い表情の理由を教えてくれた。
「本当にメイロードさまにとっては〝壁抜き〟はたいしたことではないのですねぇ……いいですか、私たちはあなたさまが〝壁抜き〟の魔法が使えるということを存じてはおりました。ですが、このパーティーにはいまのいままで、誰もそれを見た者はいなかったのです」
「まぁ、そうですね。ダンジョンの外で〝壁抜き〟をすることはないですから……」
「実のところ私たち全員が〝壁抜き〟の魔法について、もっと小規模な魔法を想像しておりました。〝壁抜き〟とは一点に魔法を集中するという技術……と漠然と思っていたのです。もちろん、誰もできない強力な魔法ではありますが、広範囲に展開できる超強力魔法とは別の技術だと思っていたのですよ」
なるほど、それはなんとなく理解できる。私は家事魔法以外の魔法は極力人前で使わないように暮らしているし、見た目はどうみてもヨワヨワのお嬢様風だし、相変わらず小さいし……とてもドカンドカン大きな魔法を使うようには見えないのだろう。
「ところが、躰も小さく可愛らしい、そして地図作りが得意なお姫さまだと思っていたメイロードさまの魔法は、とんでもない破壊力のある一撃必殺の強力すぎる魔法でございました。それを目の当たりにして、特に冒険者の皆さんは、まぁ簡単にいえば〝怖気付いた〟のです」
「ほへっ? 私を怖がっている…‥ってことですか?」
私は思わず変な声を出して驚いてしまった。それに対し、ピントさんの声は少し弾んでいる。
「ほほほ、そのとおりですわ。あれを見た瞬間、全員がこのパーティーで誰が一番強いのかを理解したと思います。このパーティー最強はメイロード・マリス伯爵であるとね」
「そんな! 私には冒険者の皆さんのような技術も経験もないんです。たとえ強力な魔法がいくつか使えても、それだけが戦いにおける強さとはいえないのではありませんか?」
「メイロードさまはよく戦いというものをおわかりですね」
そう言いながら私のとこにやってきたのはテーセウスさんだった。
「確かに、剣の腕や強い魔法があるだけでは勝ち続けることは難しい。それが、ルールに守られた闘技場とは違う、なにが起こるかわからない世界でのわれわれの戦いです。とはいうものの、そこには必ずある判断があるのです」
「判断ですか?」
「ええ、あらゆる局面において敵をどれぐらいの力と時間で倒し切れるかを計算し、もっとも消耗の少ない戦いを考えます。ときには無理に押しもしますが、必要と判断すれば退却します。その判断ができない冒険者は長生きできません」
その言葉にピントさんが深くうなずく。
「ええ、その判断を誤って逃げられない冒険者は生き残りが難しいですわね」
「ですが、先ほどメイロードさまに見せていただいた魔法……あれは、そうした判断の外にあるものでした」
テーセウスさんの顔は、相変わらず青ざめている。
「あれだけの破壊力のある魔法を連続で放ち続けても、一切の疲れを見せないその魔法力。しかも、その攻撃の信じられない正確さ。針の穴を通すような正確さで強い威力の魔法を放たれては、どんな場所から攻撃してもあなたは確実に相手を仕留められる。しかも、その驚異的な《索敵》スキルで敵の情報は筒抜け。相手の攻撃は決してあなたに当たることはないでしょう」
「えーと、あはは……そんなにお褒めいただかなくともいいんですよ、テーセウスさん。私はただ〝壁抜き〟としての勤めを果たそうとしているだけですから」
今回の私に課せられたミッションは〝壁抜き〟というレスキュー役だ。そのために効率的な攻撃を考えたらああなっただけだ。冒険者のみなさんに引かれるほどの威力だったのもそれを見られたことも、今回は致し方ない。
「今回はそういうお仕事をさせていただいているだけですよ。お役に立ててなによりです」
私は態度を改め、今回は有能な魔法使いである事実を隠さずにいくことを自分に言い聞かせた。
(怖がられたって、へ、平気だもーん)
魔法使いの皆さんはどことなく得意げな表情なのだが、冒険者の皆さんの表情は一様に硬い。私に向けられるのは、まるで別の生き物を見ているかのような目なのだ。
「ピントさん、私こんなに驚かれるようなことしちゃいました?」
まだクスクス笑っているピントさんは、おやまぁという驚きも表情で、彼らの硬い表情の理由を教えてくれた。
「本当にメイロードさまにとっては〝壁抜き〟はたいしたことではないのですねぇ……いいですか、私たちはあなたさまが〝壁抜き〟の魔法が使えるということを存じてはおりました。ですが、このパーティーにはいまのいままで、誰もそれを見た者はいなかったのです」
「まぁ、そうですね。ダンジョンの外で〝壁抜き〟をすることはないですから……」
「実のところ私たち全員が〝壁抜き〟の魔法について、もっと小規模な魔法を想像しておりました。〝壁抜き〟とは一点に魔法を集中するという技術……と漠然と思っていたのです。もちろん、誰もできない強力な魔法ではありますが、広範囲に展開できる超強力魔法とは別の技術だと思っていたのですよ」
なるほど、それはなんとなく理解できる。私は家事魔法以外の魔法は極力人前で使わないように暮らしているし、見た目はどうみてもヨワヨワのお嬢様風だし、相変わらず小さいし……とてもドカンドカン大きな魔法を使うようには見えないのだろう。
「ところが、躰も小さく可愛らしい、そして地図作りが得意なお姫さまだと思っていたメイロードさまの魔法は、とんでもない破壊力のある一撃必殺の強力すぎる魔法でございました。それを目の当たりにして、特に冒険者の皆さんは、まぁ簡単にいえば〝怖気付いた〟のです」
「ほへっ? 私を怖がっている…‥ってことですか?」
私は思わず変な声を出して驚いてしまった。それに対し、ピントさんの声は少し弾んでいる。
「ほほほ、そのとおりですわ。あれを見た瞬間、全員がこのパーティーで誰が一番強いのかを理解したと思います。このパーティー最強はメイロード・マリス伯爵であるとね」
「そんな! 私には冒険者の皆さんのような技術も経験もないんです。たとえ強力な魔法がいくつか使えても、それだけが戦いにおける強さとはいえないのではありませんか?」
「メイロードさまはよく戦いというものをおわかりですね」
そう言いながら私のとこにやってきたのはテーセウスさんだった。
「確かに、剣の腕や強い魔法があるだけでは勝ち続けることは難しい。それが、ルールに守られた闘技場とは違う、なにが起こるかわからない世界でのわれわれの戦いです。とはいうものの、そこには必ずある判断があるのです」
「判断ですか?」
「ええ、あらゆる局面において敵をどれぐらいの力と時間で倒し切れるかを計算し、もっとも消耗の少ない戦いを考えます。ときには無理に押しもしますが、必要と判断すれば退却します。その判断ができない冒険者は長生きできません」
その言葉にピントさんが深くうなずく。
「ええ、その判断を誤って逃げられない冒険者は生き残りが難しいですわね」
「ですが、先ほどメイロードさまに見せていただいた魔法……あれは、そうした判断の外にあるものでした」
テーセウスさんの顔は、相変わらず青ざめている。
「あれだけの破壊力のある魔法を連続で放ち続けても、一切の疲れを見せないその魔法力。しかも、その攻撃の信じられない正確さ。針の穴を通すような正確さで強い威力の魔法を放たれては、どんな場所から攻撃してもあなたは確実に相手を仕留められる。しかも、その驚異的な《索敵》スキルで敵の情報は筒抜け。相手の攻撃は決してあなたに当たることはないでしょう」
「えーと、あはは……そんなにお褒めいただかなくともいいんですよ、テーセウスさん。私はただ〝壁抜き〟としての勤めを果たそうとしているだけですから」
今回の私に課せられたミッションは〝壁抜き〟というレスキュー役だ。そのために効率的な攻撃を考えたらああなっただけだ。冒険者のみなさんに引かれるほどの威力だったのもそれを見られたことも、今回は致し方ない。
「今回はそういうお仕事をさせていただいているだけですよ。お役に立ててなによりです」
私は態度を改め、今回は有能な魔法使いである事実を隠さずにいくことを自分に言い聞かせた。
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