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6 謎の事件と聖人候補
935 ダンジョン料理人
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935
少なくなっていたスパイスの買い出しにイスの外国人街まで行ってもらったソーヤが、近々大規模なダンジョン攻略があるらしいという噂が街にすでにかなり出回っていることを教えてくれた。
「〝剣士の荷馬車〟が大量の物資を各所から買い集めていますから、かなりめだったようですよ。大規模なパーティーが組まれるとなれば、それに便乗して儲けようという商人も当然多いわけで、噂は加速しているようでした。まぁ、噂なので正しいものばかりじゃないようですが……」
「うーん、さすがイス。大金が動きそうとなると情報が早いわねぇ。いい加減な話が流れるのもしょうがないかな? とりあえず私に関する噂じゃないなら放置でいいか」
私はイスの自宅で、いくつかの保存食を試作中。なかなか楽しい作業なのだが、実はこれもダンジョン対策。
今回のダンジョン攻略では、できる限り私の持っている能力のあれやこれやは見せないようにしたいと考えているからだ。
(〝魔法契約書〟があるとはいえ、大人数に知られることはなるべく少なくしたいもんね)
とはいえ、私としては食に妥協はしたくない。
もちろん《生産の陣》や《無限回廊の扉》を駆使すれば、どこにいても満足できる食事が可能だが、それは今回のダンジョンでは使わない方針だ。
「それに今回は三十名以上のパーティーになるから、食事の用意も簡単じゃないよね。一応各クランから二名の生活補助役を出して、彼らで賄いをしてもらう予定だけど、彼らの腕が未知数で不安なんだよね」
そしてそうなった場合、私はきっと手を出さずにはいられないだろう…‥だが、それはいろいろな意味でまずい。
「確かに…‥食事は大事でございますから! ですがダンジョンへ入る以上、きっと料理の腕よりも腕っぷしの方が重要視されるでしょうし、あまり期待はできないかと……困りましたね」
日頃から食に命を賭けている食い意地妖精ソーヤとしても、ご飯が美味しくないダンジョンでの長期滞在は相当ストレスが溜まるはずだ。だが、冒険者にとっては料理の腕などあくまで補助的なものだ。彼らにだけに準備を任せてしまっては、長いダンジョン移動の間、おそらくソーヤも私も相当の我慢を強いられることになってしまうだろう。
「毎食私が作るというわけにもいかないしねぇ」
彼らにしてみれば、貴族でしかも大事な〝壁抜き〟役である私には、できる限り気力体力を温存してほしいはずだ。おそらく、料理のためにちょこまか動き回ることにいい顔はしないだろう。
「あっ、そうだ! マルコとロッコはいまパレスにいるわよね」
「はい。〝カカオの誘惑〟それにパレスに作ったサイデム様用の秘密レストランの手伝いもしています」
「あの子たち、相変わらず武芸も続けているのよね」
「はい。私とセーヤもたまに相手をしていますが、なかなかいいスジをしています」
「ソーヤがそういうなら、かなり鍛えてるってことよね……よし、頼んでみよう」
私はすぐに行動することにし、パレスへと向かった。
《無限回廊の扉》を抜けて〝パレス・フロレンシア〟に設置している扉からパレスへ行くと、そのまま〝カカオの誘惑〟へと向かう。当初の倍ぐらいには増築した店だが、相変わらず行列は絶えない。マルコとロッコも積極的に新作を作ってくれているし、店の評判は高まるばかりなのだが、上質のカカオの供給はやはり大量には難しい状況が続いており、これ以上は商売を大きくできないのが現状なのだ。
(カカオ畑を広げることはできるけど、なんでも私が作ってちゃ、ノウハウが身につかないからね。最初は仕方ないとしても、そこからはしっかり学んで、彼らがいちから作った畑から農家の皆さんにきっちり収入を得て欲しいんだよね。サポートはサイデム商会がしているし、あとは時間が解決してくれるのを待つしかないかぁ)
裏口から私が厨房に入ると、マルコとロッコがものすごい勢いですっ飛んできた。
「メイロードさま、よくおいでくださいました!」
「メイロードさま、何かご用でございますか?」
いつの間にか私よりずっと背が高くなってしまったふたりだが、そのキラキラした目は昔のままだ。
「久しぶりね、マルコ、ロッコ」
休憩に入ったふたりに、私は手短にこれまでの経緯について話した。
「それでね、パーティーを支える生活補助役として、あなたたちふたりにダンジョンへ……」
「はい、お供します! いつからでございますか?」
「ここは任せられる後輩をしっかり育成してありますので、いつでも旅立てます!」
私の説明の途中で、ふたりは食い気味に同行を了承してくれた。
「絶対安全とは確約できないのよ。このダンジョンは誰も、まだ中がどうなっているのか知らないんだから。それでもいいの?」
私の言葉にふたりはキョトンとしている。
「だって、メイロードさまがご一緒なのでございましょう? なんの不安がありましょう!」
「はい、われらが主のご要望。断る道理がありませんよ!」
満面の笑顔のふたりに、私は感謝を伝えた。
「きっと、みんなとても助かると思う。ありがとう、ふたりとも……それでね」
私はふたりに、これからの予定を伝えた。
「望むところです!」
「任せてください!」
私の言葉に、ふたりは自信たっぷりに笑った。
少なくなっていたスパイスの買い出しにイスの外国人街まで行ってもらったソーヤが、近々大規模なダンジョン攻略があるらしいという噂が街にすでにかなり出回っていることを教えてくれた。
「〝剣士の荷馬車〟が大量の物資を各所から買い集めていますから、かなりめだったようですよ。大規模なパーティーが組まれるとなれば、それに便乗して儲けようという商人も当然多いわけで、噂は加速しているようでした。まぁ、噂なので正しいものばかりじゃないようですが……」
「うーん、さすがイス。大金が動きそうとなると情報が早いわねぇ。いい加減な話が流れるのもしょうがないかな? とりあえず私に関する噂じゃないなら放置でいいか」
私はイスの自宅で、いくつかの保存食を試作中。なかなか楽しい作業なのだが、実はこれもダンジョン対策。
今回のダンジョン攻略では、できる限り私の持っている能力のあれやこれやは見せないようにしたいと考えているからだ。
(〝魔法契約書〟があるとはいえ、大人数に知られることはなるべく少なくしたいもんね)
とはいえ、私としては食に妥協はしたくない。
もちろん《生産の陣》や《無限回廊の扉》を駆使すれば、どこにいても満足できる食事が可能だが、それは今回のダンジョンでは使わない方針だ。
「それに今回は三十名以上のパーティーになるから、食事の用意も簡単じゃないよね。一応各クランから二名の生活補助役を出して、彼らで賄いをしてもらう予定だけど、彼らの腕が未知数で不安なんだよね」
そしてそうなった場合、私はきっと手を出さずにはいられないだろう…‥だが、それはいろいろな意味でまずい。
「確かに…‥食事は大事でございますから! ですがダンジョンへ入る以上、きっと料理の腕よりも腕っぷしの方が重要視されるでしょうし、あまり期待はできないかと……困りましたね」
日頃から食に命を賭けている食い意地妖精ソーヤとしても、ご飯が美味しくないダンジョンでの長期滞在は相当ストレスが溜まるはずだ。だが、冒険者にとっては料理の腕などあくまで補助的なものだ。彼らにだけに準備を任せてしまっては、長いダンジョン移動の間、おそらくソーヤも私も相当の我慢を強いられることになってしまうだろう。
「毎食私が作るというわけにもいかないしねぇ」
彼らにしてみれば、貴族でしかも大事な〝壁抜き〟役である私には、できる限り気力体力を温存してほしいはずだ。おそらく、料理のためにちょこまか動き回ることにいい顔はしないだろう。
「あっ、そうだ! マルコとロッコはいまパレスにいるわよね」
「はい。〝カカオの誘惑〟それにパレスに作ったサイデム様用の秘密レストランの手伝いもしています」
「あの子たち、相変わらず武芸も続けているのよね」
「はい。私とセーヤもたまに相手をしていますが、なかなかいいスジをしています」
「ソーヤがそういうなら、かなり鍛えてるってことよね……よし、頼んでみよう」
私はすぐに行動することにし、パレスへと向かった。
《無限回廊の扉》を抜けて〝パレス・フロレンシア〟に設置している扉からパレスへ行くと、そのまま〝カカオの誘惑〟へと向かう。当初の倍ぐらいには増築した店だが、相変わらず行列は絶えない。マルコとロッコも積極的に新作を作ってくれているし、店の評判は高まるばかりなのだが、上質のカカオの供給はやはり大量には難しい状況が続いており、これ以上は商売を大きくできないのが現状なのだ。
(カカオ畑を広げることはできるけど、なんでも私が作ってちゃ、ノウハウが身につかないからね。最初は仕方ないとしても、そこからはしっかり学んで、彼らがいちから作った畑から農家の皆さんにきっちり収入を得て欲しいんだよね。サポートはサイデム商会がしているし、あとは時間が解決してくれるのを待つしかないかぁ)
裏口から私が厨房に入ると、マルコとロッコがものすごい勢いですっ飛んできた。
「メイロードさま、よくおいでくださいました!」
「メイロードさま、何かご用でございますか?」
いつの間にか私よりずっと背が高くなってしまったふたりだが、そのキラキラした目は昔のままだ。
「久しぶりね、マルコ、ロッコ」
休憩に入ったふたりに、私は手短にこれまでの経緯について話した。
「それでね、パーティーを支える生活補助役として、あなたたちふたりにダンジョンへ……」
「はい、お供します! いつからでございますか?」
「ここは任せられる後輩をしっかり育成してありますので、いつでも旅立てます!」
私の説明の途中で、ふたりは食い気味に同行を了承してくれた。
「絶対安全とは確約できないのよ。このダンジョンは誰も、まだ中がどうなっているのか知らないんだから。それでもいいの?」
私の言葉にふたりはキョトンとしている。
「だって、メイロードさまがご一緒なのでございましょう? なんの不安がありましょう!」
「はい、われらが主のご要望。断る道理がありませんよ!」
満面の笑顔のふたりに、私は感謝を伝えた。
「きっと、みんなとても助かると思う。ありがとう、ふたりとも……それでね」
私はふたりに、これからの予定を伝えた。
「望むところです!」
「任せてください!」
私の言葉に、ふたりは自信たっぷりに笑った。
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