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6 謎の事件と聖人候補
934 女神のパーティー
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934
こうして〝壁抜き〟獲得交渉は無事幕を閉じたが、大変なのはそれからだ。
「やれやれ、準備期間はウチの主導で進めて大丈夫だと大見栄切っちまったぜ。まぁ、調達に特化している〝剣士の荷馬車〟が本領発揮できるとすれば事前準備だろうからな。ここで真価を発揮できないようじゃ、大きな顔もできん。やつらを感心させるほど完璧にやってみせなくてはな。しばらく忙しくなりそうだ」
〝剣士の荷馬車〟の代表であるエンデは、この三クラン合同パーティーによるダンジョン攻略に並々ならぬ意欲を見せていた。〝ハイエナ〟揶揄されることさえある素材獲得に特化した彼らのクランは、普通のクランとは違い商人という側面も強く、資金管理や資材調達に明らかに秀でている。ここは彼らの腕の見せ所だった。
「それにしてもスフィロ、あのお嬢様はとんでもないな。魔法だけじゃない。さすがサイデム様の婚約者というべきか……うまく俺たちを操ってくれるぜ」
会議での改まった口調は綺麗に消え失せ、エンデは従者として列席させたスフィロに話しかける。スフィロをこの席に呼んだのは、彼がとても有能だからということと彼のパーティーがメイロード・マリスとダンジョンへ入ったことがあるという、とても珍しい経験をしていたからだ。
そのことで彼女の好感度が少しでも上がってくれれば儲けモノという気持ちだったが、結果からいえばあれよあれよというまに合同パーティーという三者に配慮された、いままでにない最強パーティーを組むことになっていた。こんな枠組みをあっという間に決めてしまえるのは、〝壁抜き〟ができるたったひとりの魔術師、メイロード・マリス女伯爵しかいないだろう。
「あのときから、メイロードさまはとんでもないお人でしたよ。使える魔法がすごかったのは確かですが、なにより発想が俺たちの理解を超えてましたね。しかも本人はそういう意識がまるでなくて、なんでもないことのようにやってのけちまう……見た目は美しさに目が行きがちですが、あれは怪物ですよ」
そう言いながらスフィロはニヤリと笑った。
「ああ、わかってるさ。イスで活動している俺たちは〝金獅子の咆哮〟や〝朝日の誓約〟と違って〝メイロード・マリス〟という存在についてはずっと聞いてきた。あの娘の天才ぶりが料理や商才だけじゃなかったというのは驚きだが、実は会えたってことにちょっと感動しちまったよ」
「そうですね。噂ばかりでほとんど姿を見せない謎の存在ですからね」
「それが今度は有名三クランを率いて、謎のダンジョンへ初潜入か。ますます〝イスの女神〟っぽくなってきたな」
「われわれは〝イスの女神〟さまをがっかりさせないよう、せいぜい準備に力を尽くしましょう、スフィロ様」
「そうだな。〝剣士の荷馬車〟の名にかけて!」
今回のようにダンジョンの情報が極端に少ない状態での攻略準備は、物資の選定から持ち込む資材の量まで、考えなければならないことが目白押しだ。
あの交渉のあと、ダンジョン・アタックの準備、特に資材関係は〝剣士の荷馬車〟の主導で行うと決まってから、エンデを含むクランの資材担当の多くが寝る間もないほど働き詰めになっている。
「水に関しては、魔法使いに頼んで大丈夫だな。〝金獅子の咆哮〟と〝朝日の誓約〟からは、まだ魔法使いたちの使える魔法リストが届いてないのか⁉︎ 対応が遅いな。魔法で補うことで減らせる物資についてもう少し正確に把握したい。とりあえず〝朝日の誓約〟のピントに確認をとってくれ。特に水と灯りを操れる魔法使いの人数と能力についてはできるだけ詳細な報告を早急にくれと《伝令》を」
「エンデ様、やはりダンジョン内での食料調達は考えない方向で準備ですよね」
「ああ、もちろんだ。《鑑定》のできる者は連れて行くが、そもそも食べられるような魔物がいると想定して準備をすることは絶対に避けねばな。複数のマジックバッグとそれに振り分ける資材のリストは想定行動日数から割り出すしかないが、どう算出するか……うーん」
「うちはこうした〝最初の攻略〟とは無縁ですからねぇ。〝金獅子の咆哮〟の資材担当に工程の予想日数を確認してみます」
「そうしてくれ。ダンジョンの第一攻略の経験ならあそこが一番多いからな」
万が一に備えての準備を怠らないため、資材は想定日数の何倍も準備しなくてはならない。だが、無限に金はかけられないし、マジックバッグの数も有限だ。
「今回のパーティーは各クランから八名、それにメイロードさまとその従者の二十六名。大喰らいの多い冒険者たちがしっかり動けるだけの食糧を運ぶだけでもかなりの量だ。準備期間も短い……予備の武器や防具の調達は順調か?」
「はい、任せてください。一流の防具工房と鍛冶工房を抑えました」
「よし、必要な武器リストは各クランから来ているか?」
「はい、すでに製作に入っています」
「スフィロ様、防具の補修用品についてなんですが……」
こうして、忙しく日々は進んでいく、女神さまのパーティーの完璧な準備のために。
こうして〝壁抜き〟獲得交渉は無事幕を閉じたが、大変なのはそれからだ。
「やれやれ、準備期間はウチの主導で進めて大丈夫だと大見栄切っちまったぜ。まぁ、調達に特化している〝剣士の荷馬車〟が本領発揮できるとすれば事前準備だろうからな。ここで真価を発揮できないようじゃ、大きな顔もできん。やつらを感心させるほど完璧にやってみせなくてはな。しばらく忙しくなりそうだ」
〝剣士の荷馬車〟の代表であるエンデは、この三クラン合同パーティーによるダンジョン攻略に並々ならぬ意欲を見せていた。〝ハイエナ〟揶揄されることさえある素材獲得に特化した彼らのクランは、普通のクランとは違い商人という側面も強く、資金管理や資材調達に明らかに秀でている。ここは彼らの腕の見せ所だった。
「それにしてもスフィロ、あのお嬢様はとんでもないな。魔法だけじゃない。さすがサイデム様の婚約者というべきか……うまく俺たちを操ってくれるぜ」
会議での改まった口調は綺麗に消え失せ、エンデは従者として列席させたスフィロに話しかける。スフィロをこの席に呼んだのは、彼がとても有能だからということと彼のパーティーがメイロード・マリスとダンジョンへ入ったことがあるという、とても珍しい経験をしていたからだ。
そのことで彼女の好感度が少しでも上がってくれれば儲けモノという気持ちだったが、結果からいえばあれよあれよというまに合同パーティーという三者に配慮された、いままでにない最強パーティーを組むことになっていた。こんな枠組みをあっという間に決めてしまえるのは、〝壁抜き〟ができるたったひとりの魔術師、メイロード・マリス女伯爵しかいないだろう。
「あのときから、メイロードさまはとんでもないお人でしたよ。使える魔法がすごかったのは確かですが、なにより発想が俺たちの理解を超えてましたね。しかも本人はそういう意識がまるでなくて、なんでもないことのようにやってのけちまう……見た目は美しさに目が行きがちですが、あれは怪物ですよ」
そう言いながらスフィロはニヤリと笑った。
「ああ、わかってるさ。イスで活動している俺たちは〝金獅子の咆哮〟や〝朝日の誓約〟と違って〝メイロード・マリス〟という存在についてはずっと聞いてきた。あの娘の天才ぶりが料理や商才だけじゃなかったというのは驚きだが、実は会えたってことにちょっと感動しちまったよ」
「そうですね。噂ばかりでほとんど姿を見せない謎の存在ですからね」
「それが今度は有名三クランを率いて、謎のダンジョンへ初潜入か。ますます〝イスの女神〟っぽくなってきたな」
「われわれは〝イスの女神〟さまをがっかりさせないよう、せいぜい準備に力を尽くしましょう、スフィロ様」
「そうだな。〝剣士の荷馬車〟の名にかけて!」
今回のようにダンジョンの情報が極端に少ない状態での攻略準備は、物資の選定から持ち込む資材の量まで、考えなければならないことが目白押しだ。
あの交渉のあと、ダンジョン・アタックの準備、特に資材関係は〝剣士の荷馬車〟の主導で行うと決まってから、エンデを含むクランの資材担当の多くが寝る間もないほど働き詰めになっている。
「水に関しては、魔法使いに頼んで大丈夫だな。〝金獅子の咆哮〟と〝朝日の誓約〟からは、まだ魔法使いたちの使える魔法リストが届いてないのか⁉︎ 対応が遅いな。魔法で補うことで減らせる物資についてもう少し正確に把握したい。とりあえず〝朝日の誓約〟のピントに確認をとってくれ。特に水と灯りを操れる魔法使いの人数と能力についてはできるだけ詳細な報告を早急にくれと《伝令》を」
「エンデ様、やはりダンジョン内での食料調達は考えない方向で準備ですよね」
「ああ、もちろんだ。《鑑定》のできる者は連れて行くが、そもそも食べられるような魔物がいると想定して準備をすることは絶対に避けねばな。複数のマジックバッグとそれに振り分ける資材のリストは想定行動日数から割り出すしかないが、どう算出するか……うーん」
「うちはこうした〝最初の攻略〟とは無縁ですからねぇ。〝金獅子の咆哮〟の資材担当に工程の予想日数を確認してみます」
「そうしてくれ。ダンジョンの第一攻略の経験ならあそこが一番多いからな」
万が一に備えての準備を怠らないため、資材は想定日数の何倍も準備しなくてはならない。だが、無限に金はかけられないし、マジックバッグの数も有限だ。
「今回のパーティーは各クランから八名、それにメイロードさまとその従者の二十六名。大喰らいの多い冒険者たちがしっかり動けるだけの食糧を運ぶだけでもかなりの量だ。準備期間も短い……予備の武器や防具の調達は順調か?」
「はい、任せてください。一流の防具工房と鍛冶工房を抑えました」
「よし、必要な武器リストは各クランから来ているか?」
「はい、すでに製作に入っています」
「スフィロ様、防具の補修用品についてなんですが……」
こうして、忙しく日々は進んでいく、女神さまのパーティーの完璧な準備のために。
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