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6 謎の事件と聖人候補

928 有名クラン

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928

私はクランについてはよく知らない。聞いた話から想像するのはゆるい会社組織のようなものだ。大小さまざまで受ける仕事もさまざま。職人は工房という形を取るので、クランはそれ以外の職種、主に冒険者と魔法使いによって構成されているみたいだ。
当然有名無名いろいろで、有名クランの中には、弱小貴族など遠く及ばないとんでもない利益をあげているところがいくつもある。

この世界では当たり前のように出没する危険生物の討伐には各所から莫大な報奨金が与えられるし、クランの中にはそうした討伐を専門とする武闘派クランもあるが、実はそれ専業のクランは少ないそうだ。どうしてかといえば、討伐依頼は不定期でクランを支えるには、もっと安定した定期的な実入が必要…‥ということらしい。

(いくら強くたって、ただ戦って暴れるだけじゃ、組織が持たないってことか……世知辛いねぇ)

その点、ダンジョンは素材の宝庫でコンスタントな利益が見込める。ダンジョンに行かなくても採取できる素材も、ダンジョン内の方が大量に取れることが多く、さらにダンジョンで採取できない素材となれば、価値はさらに上がる。クランの維持を考えるなら、戦闘力はクランで使うのが効率がいいわけだ。

というわけで一部の特殊なクラン以外は、ダンジョンを大事な稼ぎ口としている。

クランのタイプは多岐に渡り、名誉を重んじる貴族中心のクランや利益最優先のクラン、最初の攻略者に名を刻むことに特化しているクラン、一部の特殊アイテムだけを狙うクランなどなど、実にいろいろな特徴を持ったクランが存在しているそうだ。

そして技を見せてしまった私に興味を持ち、超高額の報酬を提示することにも怯まず猛プッシュしてきているというクランは、その中でも大手中の大手であり、その規模はもちろんのこと、どこも多くの貴族たちを凌駕する莫大な収益を上げている超一流どころだ。

(まぁ、それじゃなきゃ貴族である〝女伯爵〟を勧誘はしないよね、しかも私は〝ご領主さま〟だし……ははは)

ーーーーー

レシータさんとの話し合いから一週間後〝壁抜きのメイロード〟争奪戦に名乗りを挙げたクランが出揃ったというので、私は再度〝冒険者ギルド〟へと向かった。

私に対しての直接交渉を不可としたことに、どのクランもだいぶ不服そうだったらしいが、私の代理人がレシータ・ゴルムだと知ってみなさん一切文句を言わなくなったそうだ。レシータさんに代理人エージェントをお願いできたのは最良の手だったと私はホッとする。

(これで抜け駆けしようとするようなクランは出てこないでしょうね。ありがたい!)

「いろいろとメイロードちゃんの状況を説明するうちに、ほとんどのクランは諦めてくれたんだけどねぇ。この三つのクランは引き下がる気がなくて……まぁ、条件だけでもみてあげてくれるかな」

レシータさんや秘書の方々の話を聞くと、彼らには私が公爵家にもつながる上級貴族で、さらに領主を務めるマリス領は発展著しくまったくお金には困っておらず、しかもメイロード自身は超多忙であるというように、私が冒険者として仕事をする理由がないことを説明して諦めさせていったそうだ。

「特にシルベスター公爵家の縁者だというのが効いたわよ。皇族に近いとなればさすがに腰が引けるわよね。まぁ、どうみてもメイロードちゃんは〝深窓のご令嬢〟と思われる可愛すぎる容姿だし、過酷なダンジョン探索には向かないと判断してくれるところも多くて助かったわ」

「実際は田舎育ちの完全な庶民ですけどね」

「いいのいいの、メイロードちゃんのその美しすぎる姿の映し絵を見せるだけで、勝手にそう思ってくれるんだから。美人って得よね」

「その〝映し絵〟って、以前レシータさんがどうしても欲しいっていって画家に描かせた一点ものの絵のことですよね。あれ、人には見せないって約束しませんでしたっけ?」

「だって、見せるとみんな納得するから……まあ今回だけは許して!」

そう言ってウインクするレシータさんもまた、なかなかいない迫力のある美女だ。美しさの利用価値も良くご存知なのだろう。確かに、効果があったようだし、今回は不問としよう。

「それで、これが契約条件ですか……って、なんです? えっと、専属契約金は契約締結時一括で大金貨五十枚を即金で支払うものとする⁉︎」
「そうなのよぉ~、どのクランもそこまで釣り上げても引いてくれないの、どうしようかしらねぇ」

「これって、専属契約料だけですよね。本気ですか、この方たち?」

(大金貨は一枚一千万相当なわけで、つまり契約料だけで五十億円⁉︎  私はどこかのメジャーリーガーだったのかしら?)

私は半ば呆れ気味に、それでも書類に目を通していく。

この断られること間違いなしの無茶な高額契約にも怯まなかったクランは

〝金獅子の咆哮〟〝朝日の誓約〟〝剣士の荷馬車〟

というらしい。

(ん? 〝剣士の荷馬車〟ってどこかで聞いたような……)

考えていると、レシータさんがこれらのクランについて説明してくれた。

「間違いなく、どれも超一流のクランよ。〝金獅子の咆哮〟はこの国で一番有名なクランでしょうね。クランの代表はエルディアス・テーセウス。テーセウス伯爵家の次男で元〝魔法騎士〟っていう火の打ちどころのない経歴ね。このクランは貴族が多いし、魔法にも剣技にも長けた一流剣士揃いよ。厄介な魔獣が出たら、ここに頼めば間違いないっていわれてる」

「なるほど、そういう人たちなら私へ依頼するのもあまり怖がらないでしょうね」

「まぁね。さて〝朝日の誓約〟だけど、私はここを個人的に応援してるの。クランの代表がヴァニラ・ピントという女性で、女冒険者を多く抱えたクランなのよ。しかも実力は本物。魔法使いもかなり多いから、仕事はものすごく多岐にわたっていて〝魔術師ギルド〟ができる前は魔法の依頼となると真っ先に〝朝日の誓約〟に話がいってたぐらい。ただし、料金は高いから庶民はなかなか頼めないけどね」

「魔法使いは希少な専門職ですもんね。どうしてもそうなっちゃいますか。それにしても女性中心というのは面白いですね。私もちょっと応援したくなっちゃいます」

「でしょう? 次は〝剣士の荷馬車〟ね。彼らは素材の収集に特化した最大手のクランなの。代表はエンデっていうわ。なかなか頭の切れる、でも人当たりのいい男よ。ちょっとサイデムに似てるかもね。このクランは本拠をここイスに置いてるわ。まぁ、素材の売り買いをするならイスが一番でしょうからね。ほら、この旗印イスで見たことない?」

レシータさんが指差した書類にも書かれている、赤地に二本の剣と荷馬車が刺繍された旗には確かに見覚えがあった。

「私あまり街歩きはできてないので……あれ? ああ‼︎  知ってます、この旗印。そうだ、あのときの……」
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