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6 謎の事件と聖人候補

915 パレス入場

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915

私はいま、帝都パレスの表門の前に立っている。

帝都を取り囲む石造りの巨大な壁の正面には何本もの帝国旗がたなびき、多くの衛兵たちが常時守りを固めているその様子は、なかなかの威圧的だ。

パレスに入るための門はふたつあり、左側に庶民の入場用の小さめの門、中央には貴族用の大きな門がある。

左手にはパレスに入るための審査を受け入場料を払う人々が、長蛇の列を作っている。その様子もいつも通りだった。

「〝パレス・フロレンシア〟にある《無限回廊の扉》から出入りできれば面倒がなかったんだけど、今回は表門でお迎えがずっとお持ちになっているそうだから、そうもいかなくて……アタタガに送ってもらえて助かったわ」

「このぐらいのこと、なんの苦でもありませんよ、メイロードさま。お役に立てて嬉しいです」

突然頼んだのに、アタタガは本当に嬉しそうな笑顔でフライトを引き受けてくれた。

現在私が安全な場所に設置している扉の中で一番パレスに近いのは、例の〝退魔教〟の教会のあるエストレートの街にある家だ。そこで、そこから飛び立ってもらいパレス近くで降り、あとは街道を徒歩で移動した。ますます速度を増しているアタタガならば、早朝に出発すれば日が傾く前にパレスに到着できるのだからありがたい。

「でも、なんだか街道の周りの様子がちょっとおかしくない?」

私の問いにソーヤも辺りを見渡しながら少し不思議そうにしている。

「この街道は人も物も多い場所ですが、少し外れれば魔物が出ることもありますし、皇帝陛下も通られる道ということで、街道の側での一般人の野営などは認めていないはずなのですが……どうしたのでしょう?」

もうその荘厳な外壁が見え始めているパレスの街道の左右には、テントや土魔法で作ったらしい簡易的な家が立ち並び、あちこちで焚き火の炎が上がっている。みたところ、そこにいる人たちは冒険者のようだが、その数があまりに多い。

「えっと……パレスは〝住む〟となると敷居が高い街だけど、宿泊施設は充実してると聞いていたんだけど、なんでこんなに野営している人たちがいるのかしら?」
「そうでございますね。確かに人も物も多く集まるパレスでは、他の場所よりは高い値段を取りますが宿が足りないということはあまり聞いたことがありません。とはいえ、これだけの数ですからひょっとしたらあふれたのかもしれませんね」
「なにか大規模討伐でもあるのかしら、だとしたら大変ね」

表門に到着した私は、帽子を取りセーヤが気合を入れて整えてくれた緑の髪で、表門の兵士へと近づいた。すると、笑顔の私の前にするりとソーヤが現れて、兵士に先日皇宮から届けられた手紙を差し出す。

「メイロード・マリス伯爵、ユリシル・シド殿下に謁見するためまかりこしました。ご開門をお願い申し上げます」
「た、確かに承っております……が、馬車はどちらに?」

貴族が馬車にも乗らず街道を歩いて入場するなど、彼らにしても想定外だったのだろう。書状も本物、どうみても私は緑の髪で有名なマリス女伯爵なのだが、お供はひとりだけだし歩きでなにも持たずにいる。

(まぁ、違和感しかないのもわかるけどね)

ソーヤは笑顔のまま、説明をする。

「ここまでどうやってきたのかについては、詳しいことは申し上げられませんが、わが主はグッケンス博士の直弟子にして、すでに偉大な魔法使いであられます。魔物に遅れをとるようなお方ではございませんので、供など私ひとりで十分なのでございます。もちろん、移動に馬車など必要ございません」

「そうでございました。大変失礼を……では、こちらからご入場ください」

魔法使いだからといえば、大抵のことは追及されないのはとても助かる。それにグッケンス博士の名前も絶大な効力を持っている。皇族からの召喚状を持ったグッケンス博士の弟子となれば、衛兵たちは細かいことは聞かずに通してくれるわけだ。

かしこまる衛兵たちに私は笑顔で挨拶して、ゆっくりと大きな門をくぐっていった。

珍しいものでも観るような衛兵たちの視線を感じつつ、やれやれと思いながら門を抜けると、十名の皇宮に仕える兵士たちと皇族専用の馬車が私を待ち構えていた。

「お待ち申し上げておりました、マリス伯爵さま。長旅にてお疲れのところ申し訳ございませんが、これより皇宮へとご案内させていただきます」

「わかりました。ありがとうございます」

断れるような雰囲気でもないので、私はおとなしく馬車に乗り皇宮へと移動した。

馬車の窓からパレスの様子を見ると、以前よりだいぶ人が多い。それも冒険者風の人たちが多い気がした。

(こんなにたくさんの冒険者がパレスに集結しているのは初めて見た気がする。やはり大規模討伐かなぁ……でも、あまり殺伐とした雰囲気でもないんだよね。笑顔の人も多いし。一体何が起こっているんだろう)

いつもと違うパレスの雰囲気に疑問を感じながら、私は馬車に揺られていったのだった。
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