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6 謎の事件と聖人候補
910 メイロードのお仕事
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910
本人があちこちフラフラしている間に、メイロード・マリスが関わる事業は年々多くなっている。
というか、知らない間に私に振り込まれる報酬がどんどん増えてきている。既存の事業の業績がすべて右肩上がりということが大きいが、実はそれ以外の新規の振込額も年々増え続けているのだ。
領主としての仕事やマリス商会の仕事をすべて人任せにしているいま私のポジションは〝企画立案〟と〝開発〟に特化する形になっていて、私がそのときの気分で作ったり、考えたりしたことが、いまではセーヤ・ソーヤ、キッペイなどを通して企画になり、それが具体化され、仕事になっていくからだ。
この仕組みを作ったのはキッペイ。
私が教えた組織作りをキッペイはしっかりとしたものにしていき、マリス商会はプランニング専門のコンサルティング会社みたいなものとして現在は機能している。
「メイロードさまのお時間を書類仕事などで浪費してしまうわけにはいきません。とはいえその発想力から生み出される素晴らしい商品を作らずにおくのはあまりにも惜しいですからね。メイロードさまの発想を具体化する仕事は別会社でしっかりとさせていただきますので、ご安心ください」
「えー、そう? そうなの? それはありがたいんだけど、この増え続ける不労所得……いいのかな?」
「これでもメイロードさまのご意思を尊重して、最低限の報酬に留めてあるのですよ。他の領主や商人でしたらあり得ないほど、メイロード様の取り分は低く抑えているのです」
私のすまなそうな表情に、キッペイは呆れ顔で諭すように話を続ける。
「本当に、ここまで領地や領民そして従業員優先のご領主など見たことも聞いたこともありません!
ですが、このところのマリス領の発展をみておりますと、それが大きな発展の礎になっていると私も理解いたしました」
キッペイは私が私財を使って教育やインフラ整備に莫大な投資を行い続けたことに、最初はかなりハラハラしていたそうだ。確かに、小さな領地とはいえ道路や水道の整備や衛生環境の改善を広域で行うとなると、個人の資産ではかなりきつい。だが、当初は得られる人頭税や商業関連の税金が多くなかったため、私財を投じるしかなかったのだ。
だが、私の都市計画が形になると、交通量が増え、人口も増加、病人も減少し、教育水準の向上により、新しいより高い賃金が稼げる仕事が増えていった。キッペイはそのことでも、私の手腕をとても評価してくれているのだ。
「いまもメイロードさまがお受け取りにならない分の報酬は、領地やマリス商会の資金としてさまざまな事業に使わせていただいております。
メイロードさまの領主としてのお仕事の成果は目覚ましいものでございます」
キッペイによれば、私の始めた教育事業は着実な成果を上げているようで、マリス領は他の地域からは考えられない識字率の高さを誇り、基礎学力を有した若い人材がたくさん出てきているという。
そのおかげで以前は募集に苦労していた事務系の仕事についても領内では人材に事欠かなくなった。それにマリス領で育ち、給食や図書館、奨学金制度といった多くの施策に支えられてきた彼らの忠誠度はとても高いため、私に関わる事業の運営はうまくいっているそうだ。
「メイロードさまのもとで働けることに、みなさん心から喜んでいらっしゃいますよ。もちろん、メイロードさまからご指示されているように、働く者たちの環境整備も他とはまったく違う最高の条件で運営しております」
「ああ、そんな話もしたわね。じゃ、社員食堂と産休や有休制度も取り入れてくれたんだ」
「はい、しっかりと。託児施設や再雇用制度も動き出しております。メイロードさまからたくさんのレシピをいただいた社員食堂はあまりの人気に、いまでは独立した会社になりました」
「え? 社員食堂が独立?」
「社員たちからこのおいしい料理を家族にも食べさせたい、家に持って帰りたいという要望が多くてですね。〝社員食堂〟食堂という店を作りました。品質重視ですので、現在は本社のあるカングンに二店舗のみですが、他の地域からも熱烈な勧誘がきておりますので、条件が合えばすぐに増えていくでしょう」
「ああ……そ、そうなんだ」
「ワインにつきましても、高級品の〝ラボ〟以外の畑が収穫できるようになりましたので、新しい銘柄として〝シャトーマリス〟が発売になりました。こちらは〝ラボ〟より低価格でというメイロードさまのご指示を守って発売したのですが〝ラボ〟の名声のせいなのでございましょう、どんどん値上がりしてしまうという困った状態です」
「ああ〝シャトーマリス〟で名前決まったんだ、あれ。まぁ、土地の名前を売る意味でも、いいかもね。みんな新しいワインに飛びついている状況だと、値上がりは静観するしかないかな。これからさらに販売量が増えれば、そのうち落ち着くでしょう」
「そうでございますね。現状では黒字が大きすぎるので、それを使って作付面積の大幅な拡大を試みております」
「うん、それでいいんじゃない。あと、儲かったときはみんなにもお祝い金を出してあげてね」
「はい、確か〝ぼーなす〟でしたか。ちゃんと準備しておりますよ」
「さすがだね、ありがと、キッペイ!」
私は本当に仲間に恵まれている。
「もちろんお祝い金ですのでメイロードさまも受け取っていただきますよ」
満面の笑みのキッペイ。
「いや、それは別に……」
「お祝いですから!」
「もう十分もらってる……」
「〝ぼーなす〟ですから!」
「はい……ありがたく、いただきます」
笑顔のキッペイに負けた私は、マリス領の発展とともに公共投資のリターンそして新事業の業績アップのボーナスという、とんでもない額のボーナスをもらうことになったのだった。
(また、これも使い方考えなくちゃ)
本人があちこちフラフラしている間に、メイロード・マリスが関わる事業は年々多くなっている。
というか、知らない間に私に振り込まれる報酬がどんどん増えてきている。既存の事業の業績がすべて右肩上がりということが大きいが、実はそれ以外の新規の振込額も年々増え続けているのだ。
領主としての仕事やマリス商会の仕事をすべて人任せにしているいま私のポジションは〝企画立案〟と〝開発〟に特化する形になっていて、私がそのときの気分で作ったり、考えたりしたことが、いまではセーヤ・ソーヤ、キッペイなどを通して企画になり、それが具体化され、仕事になっていくからだ。
この仕組みを作ったのはキッペイ。
私が教えた組織作りをキッペイはしっかりとしたものにしていき、マリス商会はプランニング専門のコンサルティング会社みたいなものとして現在は機能している。
「メイロードさまのお時間を書類仕事などで浪費してしまうわけにはいきません。とはいえその発想力から生み出される素晴らしい商品を作らずにおくのはあまりにも惜しいですからね。メイロードさまの発想を具体化する仕事は別会社でしっかりとさせていただきますので、ご安心ください」
「えー、そう? そうなの? それはありがたいんだけど、この増え続ける不労所得……いいのかな?」
「これでもメイロードさまのご意思を尊重して、最低限の報酬に留めてあるのですよ。他の領主や商人でしたらあり得ないほど、メイロード様の取り分は低く抑えているのです」
私のすまなそうな表情に、キッペイは呆れ顔で諭すように話を続ける。
「本当に、ここまで領地や領民そして従業員優先のご領主など見たことも聞いたこともありません!
ですが、このところのマリス領の発展をみておりますと、それが大きな発展の礎になっていると私も理解いたしました」
キッペイは私が私財を使って教育やインフラ整備に莫大な投資を行い続けたことに、最初はかなりハラハラしていたそうだ。確かに、小さな領地とはいえ道路や水道の整備や衛生環境の改善を広域で行うとなると、個人の資産ではかなりきつい。だが、当初は得られる人頭税や商業関連の税金が多くなかったため、私財を投じるしかなかったのだ。
だが、私の都市計画が形になると、交通量が増え、人口も増加、病人も減少し、教育水準の向上により、新しいより高い賃金が稼げる仕事が増えていった。キッペイはそのことでも、私の手腕をとても評価してくれているのだ。
「いまもメイロードさまがお受け取りにならない分の報酬は、領地やマリス商会の資金としてさまざまな事業に使わせていただいております。
メイロードさまの領主としてのお仕事の成果は目覚ましいものでございます」
キッペイによれば、私の始めた教育事業は着実な成果を上げているようで、マリス領は他の地域からは考えられない識字率の高さを誇り、基礎学力を有した若い人材がたくさん出てきているという。
そのおかげで以前は募集に苦労していた事務系の仕事についても領内では人材に事欠かなくなった。それにマリス領で育ち、給食や図書館、奨学金制度といった多くの施策に支えられてきた彼らの忠誠度はとても高いため、私に関わる事業の運営はうまくいっているそうだ。
「メイロードさまのもとで働けることに、みなさん心から喜んでいらっしゃいますよ。もちろん、メイロードさまからご指示されているように、働く者たちの環境整備も他とはまったく違う最高の条件で運営しております」
「ああ、そんな話もしたわね。じゃ、社員食堂と産休や有休制度も取り入れてくれたんだ」
「はい、しっかりと。託児施設や再雇用制度も動き出しております。メイロードさまからたくさんのレシピをいただいた社員食堂はあまりの人気に、いまでは独立した会社になりました」
「え? 社員食堂が独立?」
「社員たちからこのおいしい料理を家族にも食べさせたい、家に持って帰りたいという要望が多くてですね。〝社員食堂〟食堂という店を作りました。品質重視ですので、現在は本社のあるカングンに二店舗のみですが、他の地域からも熱烈な勧誘がきておりますので、条件が合えばすぐに増えていくでしょう」
「ああ……そ、そうなんだ」
「ワインにつきましても、高級品の〝ラボ〟以外の畑が収穫できるようになりましたので、新しい銘柄として〝シャトーマリス〟が発売になりました。こちらは〝ラボ〟より低価格でというメイロードさまのご指示を守って発売したのですが〝ラボ〟の名声のせいなのでございましょう、どんどん値上がりしてしまうという困った状態です」
「ああ〝シャトーマリス〟で名前決まったんだ、あれ。まぁ、土地の名前を売る意味でも、いいかもね。みんな新しいワインに飛びついている状況だと、値上がりは静観するしかないかな。これからさらに販売量が増えれば、そのうち落ち着くでしょう」
「そうでございますね。現状では黒字が大きすぎるので、それを使って作付面積の大幅な拡大を試みております」
「うん、それでいいんじゃない。あと、儲かったときはみんなにもお祝い金を出してあげてね」
「はい、確か〝ぼーなす〟でしたか。ちゃんと準備しておりますよ」
「さすがだね、ありがと、キッペイ!」
私は本当に仲間に恵まれている。
「もちろんお祝い金ですのでメイロードさまも受け取っていただきますよ」
満面の笑みのキッペイ。
「いや、それは別に……」
「お祝いですから!」
「もう十分もらってる……」
「〝ぼーなす〟ですから!」
「はい……ありがたく、いただきます」
笑顔のキッペイに負けた私は、マリス領の発展とともに公共投資のリターンそして新事業の業績アップのボーナスという、とんでもない額のボーナスをもらうことになったのだった。
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