上 下
690 / 824
6 謎の事件と聖人候補

879 〝ラーメン横丁〟異変

しおりを挟む
879

サイデム商会とはいろいろなお仕事をしているので、各所での打ち合わせが終わったころにはもう夕暮れだった。マリス領のお仕事はどれも順調そうで、私の指示が必要そうなこともほとんどなかったのは嬉しいことだ。

あとでできる仕事以外を猛スピードで終わらせたおじさまと、グッケンス博士、セイリュウとセーヤ・ソーヤも合流したところで、いよいよ〝ラーメン横丁〟ツアーの始まりだ。

「馬車ですか? そんなに遠くないんですよね」

わたしが用意された立派な馬車に困惑していると、おじさまに頭をこづかれた。

「ああ、店舗が拡大しすぎたんで、少し移動させたが、歩けないほどじゃない。だがな、このメンツがゾロゾロとヘステスト大通りを歩いてみろ! 目立ってしょうがないだろうが!」
「そういわれれば……確かにそうですね。それじゃ、馬車には結界もしときましょうか?」
「では、わしも魔法防御の結界をかけてやろう」

私と博士にとっては、こうした結界を張るのは帽子を被る、傘をさすぐらいの気軽なことなので、ほぼ一瞬で鉄壁のガードつきの馬車の出来上がりだ。

「ふたりともありがとう。この馬車はかなりのスピードが出るから、安全確保は助かるよ」
「そういえば、そもそも〝馬〟そのものが超高額なんでしたっけ?」
「ああ、街を走るのは飼い慣らした小型の魔獣がほとんどだからな。そうした魔獣と馬車とは速さがまったく違うんでいろいろと危ないから、走る場所もわけられてる」
「なるほど、今日はその〝貴族専用馬車道〟を使うわけですね」
「ああ、サイデム男爵らしいだろ?」

忙しいおじさまには、この高速運転できる馬車道はきっと使い慣れている交通手段なのだろう。

「さあ乗ってくれ、これで行けばすぐに着くよ」

馬車の中でもラーメン談義に花を咲かせながら、私たちは高速で移動していった。

「街が以前より明るくなっている気がします。これも例の〝魔道家電〟の影響ですか?」
「ああ、この馬車道は貴族のために以前から〝魔石ランプ〟が備えつけられているが、安価な〝魔道ランプ〟が急激に普及してきてな。街全体が明るくなったおかげで犯罪も減っているし、事故も少なくなった。いいことづくめだな」
「確かにそうでしょうね」

私は明るいライトの下を歩く人たちが以前より多くなっていて、きっと経済も以前より回っているのだろうと思いながら、流れゆく外の様子を見ていた。

「〝ラーメン横丁〟もおかげで明るくなったんで、夜の人出もますます増えてるよ。店が遅くまで営業してくれれば俺も行きやすくて助かる」

いつでもラーメンが食べたいおじさまはほくほく顔だ。

あっという間に到着した〝ラーメン横丁〟はものすごい人だった。以前は本当に街の一角という感じだったのが、立派な表門ができ、道路の長さも以前の倍以上、屋台の店ももちろん多いが、すでに店舗を構えている有名店も出てきている。

「これは……サイデムが自慢するのもわかるのぉ」

馬車から賑わいを一瞥したグッケンス博士も、その規模と盛況ぶりに感心している。

「さぁ、行こうぜ。まずは、ここで一番の名店〝ロイロイ亭〟に席をとってあるから、ここでコロル鳥の肉を具材にした塩そばを食べてみてくれ。キノコの出汁が絶品だぞ!」

少年のような満面の笑顔でのおじさまに引率され、私たちは馬車を降り、立派になった横丁のメインストリートを進んでいった。そのとき……

バリバリバリバリ‼︎ という凄まじい音とともに、見渡す限りのライトが一斉に爆発音し、ライトを覆っていたガラスが砕け散って散乱し、周辺は一瞬にして真っ暗になった。突然のことに人々は慌てふためき、あちこちで何かが割れる音やぶつかる音がしているし、悲鳴をあげている人もいる。

「博士、このままでは危険です!」
「うむ、すぐに灯りが必要じゃな」

人々を落ち着かせるため、私と博士でラーメン横丁の隅々にまで届くよう《光球ライトボール》を大量に展開する。

〝魔道ライト〟より少し弱くて優しい光の球が、横丁を満たしていくと、明かりが戻ってほっとしたのだろう。なにが起こったのかわからずオロオロしていた人々もすぐに落ち着きを取り戻していった。

「ここにいる者たちが帰るまで、この灯りは維持しておこう。この状態では今日は営業にはなるまい」
「そうですね。ガラスの破片がどこに散っているかわからないですから、食べ物を扱うには危険です」

横丁ではそこかしこで、倒れた屋台や椅子を戻している人がおり、大事なスープのは入った寸胴や食材のかごも散乱した状況だ。

私と博士が灯りを操っていると、そこへ男性が走り込んできた。

「サイデム様、ご無事でよろしゅうございました!」

その人は、この横丁の管理責任者としてサイデム商会が雇っているシュメルさんという方だった。

「シュメル! 一体これはどうしたことだ。なにが起こっている?」
「それが、ワタクシどもにもさっぱりでございまして……こんなことは初めてなのでございます」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。

川嶋マサヒロ
恋愛
「僕たちの婚約を破棄しよう」 愛しき婚約者は無情にも、予測していた言葉を口にした。 伯爵令嬢のバシュラール・ディアーヌは婚約破棄を宣告されてしまう。 「あの女のせいです」 兄は怒り――。 「それほどの話であったのか……」 ――父は呆れた。 そして始まる貴族同士の駆け引き。 「ディアーヌの執務室だけど、引き払うように通達を出してくれ。彼女も今は、身の置き所がないだろうしね」 「我が家との取引を中止する? いつでも再開できるように、受け入れ体勢は維持するように」 「決闘か……、子供のころ以来だよ。ワクワクするなあ」 令嬢ディアーヌは、残酷な現実を覆せるのか?

とある婚約破棄の顛末

瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。 あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。 まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。