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6 謎の事件と聖人候補
878 サイデム商会でお話
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サイデムおじさまのラーメン愛は、イス中を巻き込んで進化(深化?)を続けている。
おじさま肝入りの〝ラーメン横丁〟という、サガン・サイデム厳選の個性的なラーメン店がひしめく一角は、すでにイスの名物となっていて、大賑わいが続いている。
(さすがというべきか収益化も手抜かりなく、サイデム商会にはもうラーメン事業部まで立ち上がってるんだよねぇ。なんやかんや絶対採算度外視しないところが商売人だわ、尊敬する)
遂にはおじさま、以前私がレシピを提供して社交界で流行らせたアキツ産の素材満載の塩ラーメンにどっぷりハマってから、ラーメンオタクと化してしまったドール参謀まで巻き込み、今度はパレスにラーメン横丁を作ることまで画策しているそうだ。
(ホントに、どこまで好きなのよ! いや………でもおそらくこれって私が『ラーメンは地域が変わると新しい個性が出て、いろいろな新しい味が楽しめるかも』って言っちゃったせいなんだよね)
実際、地元でたくさん手に入る材料って、美味しさもわかっているし、コストも安く抑えられるし、他の地方の人には目新しいしで、いいことづくめなので、おじさまが普及に力をいれるのもわかるのだ。
(まぁ…‥いいことだよね)
そして、今日は契約関係の書類の確認ということで呼び出されてサイデム商会に来ているのだが、書類にサインを続ける私の横で、のっけからラーメンの話が続いていた。
「ついに〝ラーメン横丁〟の店舗数が三十軒を超えたぞ。これで毎日違うラーメンが食えるんだ。すごいだろ?」
「……毎日食べるおつもりですか、おじさま。そのうち躰を壊しますよ」
「なんてことを言うんだ。ラーメンはスープに野菜を使っているし、上に乗せる具だって野菜や肉、いろいろあるんだぞ! しかも素早く食べられてウマい! 完璧だろう?」
「完璧って……ものには限度というものがですね……」
もちろんことあるごとに、おじさまには食べ過ぎは躰によくないと言い続けているのだが、ことラーメンに関しては愛に目が眩んでいるらしく、私の言葉は全然届いている気がしない。
(それでも言い続けるのは、ラーメンをおじさまに教えてしまった私の責任だよねぇ、はぁ)
私の心を知ってか知らずか、おじさまは今日の仕事終わりに一緒にその〝ラーメン横丁〟に行こうという。
「博士とセイリュウにも見せたい。みんなで一緒に店巡りをしようぜ。俺がオススメの店を教えてやるよ」
「それはまぁ、楽しそうですけど……」
《伝令》を送ったところふたりとも大丈夫だというので、今日の夜はおじさま引率で〝ラーメンツアー〟をすることになった。
ご機嫌のおじさまといくつか打ち合わせをしたあと、私は他の部門の方ともマリス領の輸出入品について話をして午後を忙しく過ごした。マリス領にあるセータイズ港は、中継基地としての役割が年々高まり、港の規模も大きくなってきた。港湾内にはサイデム商会の大きな倉庫も立ち並んでいて、さらに増やしたいという要望も出ている。
「船での貨物の移動は、海の魔物による被害を必ず想定しなければならず、その分割高になるのですが、マリス領付近の海域には、あの港が整備されたあたりからそうした魔物の出現が極端に少なくなったのです。その事実が広まったおかげで、セータイズ港にはどんどん船が集まり、いまでは順番待ちや入港制限まで起こるほどの状態なのです。サイデム商会としても、安全な荷上げ場所としてもう少し倉庫を拡充したいと思いまして、メイロードさまにお力添えをいただきたく……」
「あー、それについては私はなにもできません。そうした便宜を図る立場には私はもういないので」
「え? メイロードさまは、マリス領のご領主様でいらっしゃいますよね」
担当の方はびっくりした顔で私を見ている。
「私はあちこちフラフラしている領主なので、領内で起こる事象に即時対応できません。それで、現在は領主代行を立て、領内のことは領民の代表に決めてもらっているんです」
「は? だ、代表?」
「私の領地での問題解決は、私の領民がどうするかを決めているので、私にはなにもできないということです」
「そんなバカな……あっ、失礼いたしました」
「ふふ、気にしないでください。この世界では考えられないことだとはわかってます。でも、うちは実際そうなんですから……」
困惑している担当の方が気の毒だったので、一応の口添えはする、と伝えてとりあえず様子を見ることになった。
(まぁ、サイデム商会が適正な条件で交渉すれば、大丈夫だと思うけどね)
サイデムおじさまのラーメン愛は、イス中を巻き込んで進化(深化?)を続けている。
おじさま肝入りの〝ラーメン横丁〟という、サガン・サイデム厳選の個性的なラーメン店がひしめく一角は、すでにイスの名物となっていて、大賑わいが続いている。
(さすがというべきか収益化も手抜かりなく、サイデム商会にはもうラーメン事業部まで立ち上がってるんだよねぇ。なんやかんや絶対採算度外視しないところが商売人だわ、尊敬する)
遂にはおじさま、以前私がレシピを提供して社交界で流行らせたアキツ産の素材満載の塩ラーメンにどっぷりハマってから、ラーメンオタクと化してしまったドール参謀まで巻き込み、今度はパレスにラーメン横丁を作ることまで画策しているそうだ。
(ホントに、どこまで好きなのよ! いや………でもおそらくこれって私が『ラーメンは地域が変わると新しい個性が出て、いろいろな新しい味が楽しめるかも』って言っちゃったせいなんだよね)
実際、地元でたくさん手に入る材料って、美味しさもわかっているし、コストも安く抑えられるし、他の地方の人には目新しいしで、いいことづくめなので、おじさまが普及に力をいれるのもわかるのだ。
(まぁ…‥いいことだよね)
そして、今日は契約関係の書類の確認ということで呼び出されてサイデム商会に来ているのだが、書類にサインを続ける私の横で、のっけからラーメンの話が続いていた。
「ついに〝ラーメン横丁〟の店舗数が三十軒を超えたぞ。これで毎日違うラーメンが食えるんだ。すごいだろ?」
「……毎日食べるおつもりですか、おじさま。そのうち躰を壊しますよ」
「なんてことを言うんだ。ラーメンはスープに野菜を使っているし、上に乗せる具だって野菜や肉、いろいろあるんだぞ! しかも素早く食べられてウマい! 完璧だろう?」
「完璧って……ものには限度というものがですね……」
もちろんことあるごとに、おじさまには食べ過ぎは躰によくないと言い続けているのだが、ことラーメンに関しては愛に目が眩んでいるらしく、私の言葉は全然届いている気がしない。
(それでも言い続けるのは、ラーメンをおじさまに教えてしまった私の責任だよねぇ、はぁ)
私の心を知ってか知らずか、おじさまは今日の仕事終わりに一緒にその〝ラーメン横丁〟に行こうという。
「博士とセイリュウにも見せたい。みんなで一緒に店巡りをしようぜ。俺がオススメの店を教えてやるよ」
「それはまぁ、楽しそうですけど……」
《伝令》を送ったところふたりとも大丈夫だというので、今日の夜はおじさま引率で〝ラーメンツアー〟をすることになった。
ご機嫌のおじさまといくつか打ち合わせをしたあと、私は他の部門の方ともマリス領の輸出入品について話をして午後を忙しく過ごした。マリス領にあるセータイズ港は、中継基地としての役割が年々高まり、港の規模も大きくなってきた。港湾内にはサイデム商会の大きな倉庫も立ち並んでいて、さらに増やしたいという要望も出ている。
「船での貨物の移動は、海の魔物による被害を必ず想定しなければならず、その分割高になるのですが、マリス領付近の海域には、あの港が整備されたあたりからそうした魔物の出現が極端に少なくなったのです。その事実が広まったおかげで、セータイズ港にはどんどん船が集まり、いまでは順番待ちや入港制限まで起こるほどの状態なのです。サイデム商会としても、安全な荷上げ場所としてもう少し倉庫を拡充したいと思いまして、メイロードさまにお力添えをいただきたく……」
「あー、それについては私はなにもできません。そうした便宜を図る立場には私はもういないので」
「え? メイロードさまは、マリス領のご領主様でいらっしゃいますよね」
担当の方はびっくりした顔で私を見ている。
「私はあちこちフラフラしている領主なので、領内で起こる事象に即時対応できません。それで、現在は領主代行を立て、領内のことは領民の代表に決めてもらっているんです」
「は? だ、代表?」
「私の領地での問題解決は、私の領民がどうするかを決めているので、私にはなにもできないということです」
「そんなバカな……あっ、失礼いたしました」
「ふふ、気にしないでください。この世界では考えられないことだとはわかってます。でも、うちは実際そうなんですから……」
困惑している担当の方が気の毒だったので、一応の口添えはする、と伝えてとりあえず様子を見ることになった。
(まぁ、サイデム商会が適正な条件で交渉すれば、大丈夫だと思うけどね)
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