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5森に住む聖人候補

857 お疲れさま会

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857


「やっぱり〝青の巫女〟の権威は絶大ね。いまの〝ポーション〟は巷では奪い合いになっているという話も聞くぐらい貴重なものだから盗難や略奪の心配もしていたんだけど、神罰を恐れてか、そんなことはなかったみたいだし」

〝呪〟が原因だった謎の奇病の蔓延が沈静化したころ、沿海州マホロの別荘でグッケンス博士とセイリュウ、もちろんセーヤとソーヤも含めたいつものメンバーで、お疲れさま会を兼ねて新鮮な魚介のバーベキューに舌鼓を打ちながら、博士の調べた今回の呪物の〝核〟の話も聞くことになった。

ソーヤはいつもより気合の入った食卓に最初から飛ばしていて、具材どっさりのシーフードピザとクラフトビールにご満悦で、幸せそうに爆食い中。

グッケンス博士とセイリュウも魚介の炭火焼きとキリリと冷やした辛口の日本酒を堪能中だ。

「あの〝ポーション〟大神殿としては神の御使いである青龍様からの大事な賜りものなわけだしの。アキツの兵士を大量に動かしてきっちりした供給体制を作ったのだろうよ、のう御使い様?」

グッケンス博士がからかうようにセイリュウにそう言うと、苦笑いが返ってきた。

「〝ポーション〟に関しては、僕はなーんにもしてないからねぇ。まぁ、確かに市井の人々に何の心配もない状態で、突然現れたあの大量の魔法薬を受け入れてもらうには〝青の巫女〟のもとに現れた青龍、そして衆生を救うため託された〝天からの賜り品〟という物語が必要だった……というのは確かだったしね」

「そうですよ。あそこで〝ポーション〟の入手先を疑われたりしていたら、それだけでも大きな時間の無駄ですからね。もちろん『私が固有スキル《生産の陣》で、パパッと作っちゃいました、テヘッ』って言えるわけもないですし。あの場では、ああいう風にもっていくのが、一番すんなり受け入れてもらえると思ったんです」

セイリュウはアキツの人々にすっかり祭り上げられている〝青龍様〟の状況が手柄の独り占めっぽくて、どうにもスッキリしていないようだが、この作戦を考えてセイリュウに指示したのは私なのだから、セイリュウが気にする必要なんてまったくない。

「セイリュウが神の眷属なのはその通りでしょう? しかもこの世界の均衡を保つためにいろいろしてくれているのは事実なんだし、少し余計に感謝してもらうぐらいいいじゃない。人々の祈りはセイリュウの力にもなるんでしょう?」

「まぁ、それはそうなんだけどさぁ……まぁ、それはいいや。でも、メイロード。君もうひとつ?」

なんとか気持ちの折り合いをつけたセイリュウが言い始めた言葉に、盃を傾けていたグッケンス博士が反応する。

「ああ、なるほど。アキツの巷で〝奇跡の魔法薬〟〝神薬〟〝お救い水〟とやたらと大げさに持ち上げられているとは思っていたが、そういうことか」

「メイロード、君、あの〝ポーション〟半分ぐらい〝ハイポーション〟混ぜてるよね?」

「テヘッ!」

私の渾身のボケは、みんなから白い目で見られてしまった。

「〝ポーション〟だけだと、即効性が期待できなかったんですよ! すでに状況が悪い人たちのことを考えると、ちょっと後押しが欲しいなっと。それに今回のお薬は天からの贈りものですから、多少効果に補正があってもあまり問題ないかなー、っと……」

そこでグッケンス博士が笑ってくれた。

「わかったわかった。確かに今回のメイロードの判断は正しかったと言って良いと思うぞ。対策が早かったこと、〝ポーション〟ではなかったこと。どちらもあの〝呪〟からの被害を最小限に抑えられた大きな要因になった。それは間違いないことじゃ」

「そうだね。セイカもメイロードも、今回はいい働きだったと思うよ」
「そうですよ。セイカもあんなことがあったのに、先頭に立って事態の収拾に動いてくれました」

ふたりはご苦労様という感じで盃を掲げて微笑んでいる。それに私も笑顔で返す。

さあ次の料理を出そう。

ちゃんちゃん焼きは北海道の料理として有名だが、こうしたバーベキューにとても向いた逸品だ。たくさんの葉野菜やキノコを敷き詰めた上に、脂の乗った鮭(ここでは鮭に似た魚だけど)の半身を豪快にドカンの乗せて、味噌をベースに酒や砂糖それにみりんなどで味を整えて蒸し焼き、そしてバターもたっぷりと。アルミホイルを使えば簡単だが、今回は大きな葉っぱを使って代用している。

「これは……実にご飯と合いますが、お酒のアテとしてもたまりません! なんとも滋養のある奥深い味の蒸し料理と言えましょう。脂の乗った魚の旨味とバターの風味、そして甘味に加えて味噌の香りと塩味を十二分に染み込ませたお野菜が、キノコが!! ああ、なんという豊かな食感でございましょう!! そしてこのふっくらと仕上がった魚のなんという軽やかで芳醇な旨味! まだまだメイロード様のお料理は底が知れません! 美味しい! 美味しすぎますぅ!!」

ソーヤは半分泣きながら、物凄い勢いでご飯とちゃんちゃん焼きと日本酒の間を往復しつつ、相変わらず立板に水の食レポだ。

「ほめてくれてありがとう。美味しいよね。たくさん食べてね」

博士とセイリュウも美味しそうに食べてくれている。私もその様子に満足しながら、一緒に食事をしていると、博士から意外な言葉が出てきた。

「メイロード、まだまだ旅は途中だとは思うが、その……しばらくだな……領地に戻った方がいいかもしれんぞ」
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