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5森に住む聖人候補
856 樽で……
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856
〔その呪物はね、それだけではあんな形になるはずもないものでね。いわゆる〝核〟となるものに吸い寄せられる形でできてたよ。まぁ、故意に作られた特殊な呪物だったわけだけど、この話はセイカには聞かせないほうがいいだろう。またあとでね〕
〔わかりました。どうせその〝核〟とやらは、もうグッケンス博士が回収済みなんでしょう?〕
〔ふふ、まあそういうことだね〕
そんな《念話》でのひそひそ話も挟みながら、呪物の無効化完了までの経緯をセイリュウは話してくれた。土地の浄化もセイリュウがきっちり行ってくれたので、もう水源から病気の原因となるようなものが流れ出ることはないそうだ。
私も霊山の水源が通常の状態に戻ったことに安堵しつつ、《念話》の端々に、博士がその初めて見る珍しい呪物に食いついて、嬉々として調べている姿が目に浮かんでしまい、ちょっと笑ってしまった。
(そういうところ、ほんと子供みたいなんだから!)
とはいえ博士はその道の専門家。そのうち今回の呪物や私たちの前に現れた謎の存在について、なにがしかのヒントを見つけてくれるだろう。ただ、現状ではその博士もここにはいないし、謎解きをしている場合ではない。
いま考えるべきなのは、現在進行形で苦しむ人々の救済だ。原因がはっきりしたいま、すでに山から流し込まれた〝呪〟が原因で病気に苦しむ人たちへの対処について話さなければならない。
「セイカ……さっき聞いた通り、病気の原因になった〝呪〟はもうなくなったわ。セイリュウとグッケンス博士のおかげで、呪物は取り除かれた。いま流行している病気がこれ以上広がることはないでしょう」
「ええ、本当にありがたいことです」
私の言葉にセイカは少し安堵した表情を表情を浮かべる。きっと自らが取り憑かれる前から、彼女もまたこの病気の蔓延を憂いていたのだろう。
「それでね!」
私はゴソゴソと取り出す準備をしながら話を続けた。
「この〝呪〟を受けた人たちの症状の緩和には魔法薬が有効なことはわかっているでしょ? だから今回セイリュウの力を借りて、治療のための〝ポーション〟をたくさん用意しましょうということになってね。準備してきたこれを、苦しんでいる人たちに〝青の巫女〟からだということで渡してほしいんだ」
私は笑顔でそう言って、マジックバッグに保管して持ってきた十樽分の〝ポーション〟をセイカに渡した。
もちろんセイリュウの力を借りたというのは方便で、実際は私が《生産の陣》で複製した〝ポーション〟を樽に流し込んで持ってきたもの。ポーションを大量に作る訓練は魔法学校でやっておいたので、水道の蛇口をひねるより簡単だった。
「じゅ……十樽って、樽いっぱいの〝ポーション〟?!」
セイカはその量の凄さに驚きすぎて言葉が出ない。驚かれることは、さすがに私も想定済みだ。
沿海州では魔法力を持つ人が圧倒的に少ないし、魔法学そのものの普及も進んでいないため、魔法薬はとても貴重だ。そのため今回のようなことが起こっても基本の〝ポーション〟ですら、十分に確保することはできず、誰もがその使用を半ば諦めていた。
だが、逆に言えば〝ポーション〟の確保さえできれば、この〝呪〟の潜伏期間を乗り越えられ、生存率は確実に上がる。
「元が断たれたとはいえ、すでに病を得ている人たちには、何か対策をしなければ良くはならないでしょう。それなら、これを使ってほしい。でも、どこの誰だかわからない私の号令では、沿海州の人々を動かすことはできないし、素早く病気の人たちまで届けられない。セイカ、あなたの力が必要よ」
私の言葉にハッとした表情になったセイカは正座をして襟を正し、深々とセイリュウに頭を下げた。
「青龍様、本当に私たちはこの貴重な魔法薬をいただいてよろしいのでございましょうか」
相変わらず盃を傾けながらセイリュウは微笑んでいる。
「メイロードがそういうなら、そういうことだよ。セイカはセイカの使命を果たせばいい」
「はい! ありがとうございます。ありがとうございます!」
そこからは早かった。
セイカの指示で、すぐに〝ポーション〟の分配が行われ〝青の巫女〟の名の下に奇病に苦しむ人々へと下げ渡される作業が、神殿を中心に実にキビキビと動いていった。
〝青の巫女〟が天より賜ったという〝神薬〟の噂はあっという間に国中に広がり、〝ポーション〟という名の神薬は救国の巫女の伝説と共に、必要な人々へと渡されていった。
こうして沿海州を揺るがした奇病騒動は収束し、天地教には大天御神のための神事の他に、新たに青龍を祀る神事が加えられ〝青の巫女〟がそれを取り仕切ることが決まったそうだ。
〔その呪物はね、それだけではあんな形になるはずもないものでね。いわゆる〝核〟となるものに吸い寄せられる形でできてたよ。まぁ、故意に作られた特殊な呪物だったわけだけど、この話はセイカには聞かせないほうがいいだろう。またあとでね〕
〔わかりました。どうせその〝核〟とやらは、もうグッケンス博士が回収済みなんでしょう?〕
〔ふふ、まあそういうことだね〕
そんな《念話》でのひそひそ話も挟みながら、呪物の無効化完了までの経緯をセイリュウは話してくれた。土地の浄化もセイリュウがきっちり行ってくれたので、もう水源から病気の原因となるようなものが流れ出ることはないそうだ。
私も霊山の水源が通常の状態に戻ったことに安堵しつつ、《念話》の端々に、博士がその初めて見る珍しい呪物に食いついて、嬉々として調べている姿が目に浮かんでしまい、ちょっと笑ってしまった。
(そういうところ、ほんと子供みたいなんだから!)
とはいえ博士はその道の専門家。そのうち今回の呪物や私たちの前に現れた謎の存在について、なにがしかのヒントを見つけてくれるだろう。ただ、現状ではその博士もここにはいないし、謎解きをしている場合ではない。
いま考えるべきなのは、現在進行形で苦しむ人々の救済だ。原因がはっきりしたいま、すでに山から流し込まれた〝呪〟が原因で病気に苦しむ人たちへの対処について話さなければならない。
「セイカ……さっき聞いた通り、病気の原因になった〝呪〟はもうなくなったわ。セイリュウとグッケンス博士のおかげで、呪物は取り除かれた。いま流行している病気がこれ以上広がることはないでしょう」
「ええ、本当にありがたいことです」
私の言葉にセイカは少し安堵した表情を表情を浮かべる。きっと自らが取り憑かれる前から、彼女もまたこの病気の蔓延を憂いていたのだろう。
「それでね!」
私はゴソゴソと取り出す準備をしながら話を続けた。
「この〝呪〟を受けた人たちの症状の緩和には魔法薬が有効なことはわかっているでしょ? だから今回セイリュウの力を借りて、治療のための〝ポーション〟をたくさん用意しましょうということになってね。準備してきたこれを、苦しんでいる人たちに〝青の巫女〟からだということで渡してほしいんだ」
私は笑顔でそう言って、マジックバッグに保管して持ってきた十樽分の〝ポーション〟をセイカに渡した。
もちろんセイリュウの力を借りたというのは方便で、実際は私が《生産の陣》で複製した〝ポーション〟を樽に流し込んで持ってきたもの。ポーションを大量に作る訓練は魔法学校でやっておいたので、水道の蛇口をひねるより簡単だった。
「じゅ……十樽って、樽いっぱいの〝ポーション〟?!」
セイカはその量の凄さに驚きすぎて言葉が出ない。驚かれることは、さすがに私も想定済みだ。
沿海州では魔法力を持つ人が圧倒的に少ないし、魔法学そのものの普及も進んでいないため、魔法薬はとても貴重だ。そのため今回のようなことが起こっても基本の〝ポーション〟ですら、十分に確保することはできず、誰もがその使用を半ば諦めていた。
だが、逆に言えば〝ポーション〟の確保さえできれば、この〝呪〟の潜伏期間を乗り越えられ、生存率は確実に上がる。
「元が断たれたとはいえ、すでに病を得ている人たちには、何か対策をしなければ良くはならないでしょう。それなら、これを使ってほしい。でも、どこの誰だかわからない私の号令では、沿海州の人々を動かすことはできないし、素早く病気の人たちまで届けられない。セイカ、あなたの力が必要よ」
私の言葉にハッとした表情になったセイカは正座をして襟を正し、深々とセイリュウに頭を下げた。
「青龍様、本当に私たちはこの貴重な魔法薬をいただいてよろしいのでございましょうか」
相変わらず盃を傾けながらセイリュウは微笑んでいる。
「メイロードがそういうなら、そういうことだよ。セイカはセイカの使命を果たせばいい」
「はい! ありがとうございます。ありがとうございます!」
そこからは早かった。
セイカの指示で、すぐに〝ポーション〟の分配が行われ〝青の巫女〟の名の下に奇病に苦しむ人々へと下げ渡される作業が、神殿を中心に実にキビキビと動いていった。
〝青の巫女〟が天より賜ったという〝神薬〟の噂はあっという間に国中に広がり、〝ポーション〟という名の神薬は救国の巫女の伝説と共に、必要な人々へと渡されていった。
こうして沿海州を揺るがした奇病騒動は収束し、天地教には大天御神のための神事の他に、新たに青龍を祀る神事が加えられ〝青の巫女〟がそれを取り仕切ることが決まったそうだ。
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