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5森に住む聖人候補
854 〝青の巫女〟の帰還
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854
「なんだ、もう命が尽きるのか……だらしのない蛇の王がいたものよ。巫女の躰を奪い取ることもできずこれで終わりとは、実に、実につまらぬ結末だ」
私たちの目の前には、浄化の光によってもう九割がた消えてしまった蛇の魔物の崩れかけた死骸があるだけだったが、いまその死骸から言葉を発しているのは先程までの蛇ではない何かだった。
その何かの声は、低く落ち着いたものだがノイズが乗っているようで聞き取りにくく、尊大さが感じられる口調はとても不気味に感じられた。声の主にはこの状況が見えているのか、私たちに向かってこう言いかけた。
「お前のことは覚えたぞ。ふふふ、この魔法力量……実にいい。人間界で最初に食うのはお前に……」
そこで蛇の残骸は完全に朽ち果て、不気味な声も最後まで話すことなく、沈黙した。
なにが起こったのかよくわからず、しばらくその状況に呆然としていた私だが、しばらくすると気絶していたセイカが目を覚ましたので慌てて声をかけた。
「セイカ、がんばったね。もうあの蛇は消えたよ。悪いものは全部なくなってる。だから、もう大丈夫」
倒れたままわたしを見上げたセイカはげっそりとやつれている。このところほとんどなにも食べられずにいたそうなので致し方ないのだろうが、とても気の毒で痛々しい。だが目の光が戻ってくると、躰を起こし、今度は私を抱きしめてわんわんと泣き始めた。
「ばかばか、なんで助けに来ちゃうのよ! 危険だってわかってたでしょう!」
「だって…‥ともだちだから?」
「友達だからってこんな危ないこと誰もしないわ。ここの神官たちだってなにもできなかったんだから! いえ……そうじゃないわね。メイロードならこうする……知ったら必ずそうする子だったわ」
「ははは……うん、まぁ、そうだね」
セイカはクスッと笑いながら、
「ありがとう」
と、かすれ気味の声で私の手を握った。
その手の細さに、私は慌てて〝ハイポーション〟を一本セイカに渡し、それをゆっくり飲んでもらった。さすがに〝ハイポーション〟の効き目は素晴らしく、セイカの顔には徐々に生気が戻りフラフラした感じも消えたので、用心しながら立ち上がる。
「みんな心配してるだろうから、まずは大丈夫な姿を見せないとね」
「そうだね、でも、セイカ本当に大丈夫?」
「ありがとう、メイロード。あなたの魔法薬のおかけで、もう立ち上がれるわ。あんな上級魔法薬を持って歩いているなんて、すごい人ね」
「あは、あはは、まぁね」
そんな会話をしながら私とセイカはもうなにも隔てる必要がなくなった結界を外し、危機が去ったことをセイカは侍従たちに告げた。
「この神殿から悪しきものは去った。もうここに穢れはない。安心するがよい!」
巫女姫が自信に溢れたその声と共に姿を現すと、クモイさんたち侍従のみなさんが一斉に寝所へと駆け込んできて、そこからはみなさんひとしきり巫女姫の生還を喜び大泣きに泣いた。
もちろんクモイさんも一番に駆けつけて、滂沱の涙を流していたが、ハッと我に返ったようで、自分の仕事を思い出したらしく、そこからは巫女姫の躰を気遣い、すべてを取り替えさせた寝所の真新しい寝具に、たくさんの柔らかな枕を背にして巫女姫を座らせた。必要なものを的確に揃えるよう電光石火の指示を出し続けるクモイさんとそれに応える侍従の方々の対応の速さは実に見事だった。
(すごい早ワザ! さすがだわ)
花が飾られ、軽食や飲み物が用意され、なにやら香も焚かれた寝所で私とセイカが話していると、セイリュウからの《念話》が届く。
〔呪具というのとはちょっと違ったんだけど、まぁ、思った場所にあったから、こちらも取り除けたよ。巫女姫にも話したほうがいいから、そこへ行くね〕
〔了解。お疲れさまでした〕
私はクモイさんに寝所付近の人払いをお願いして、寝所横の庭に出るとセイリュウを呼んだ。
〔ここだよ、セイリュウ!〕
どうやら上空にいたらしいセイリュウは、竜の姿で下降してきたが、私の前に立ったときにはいつもの貴族スタイルの衣装の綺麗な男性の姿になっていた。
セイリュウの姿に、セイカは布団の上で正座をし、頭を下げている。唯一この場にいる侍従のクモイさんももちろん、床で少し震えながら平伏している。
日ごろすっかり忘れているが、セイリュウはこういう扱いをされる神の眷属なのだ。
「〝青の巫女〟よ。まずは御身が無事で何よりだ。もう平伏せずともよい。いまは躰を休められよ」
「はい。青龍さまのありがたきお言葉、痛み入ります」
まだ少し緊張気味のセイカと共に、そこから聞いた今回の〝呪〟の実態の話は、思った以上に不気味で、嫌な話だった。
「なんだ、もう命が尽きるのか……だらしのない蛇の王がいたものよ。巫女の躰を奪い取ることもできずこれで終わりとは、実に、実につまらぬ結末だ」
私たちの目の前には、浄化の光によってもう九割がた消えてしまった蛇の魔物の崩れかけた死骸があるだけだったが、いまその死骸から言葉を発しているのは先程までの蛇ではない何かだった。
その何かの声は、低く落ち着いたものだがノイズが乗っているようで聞き取りにくく、尊大さが感じられる口調はとても不気味に感じられた。声の主にはこの状況が見えているのか、私たちに向かってこう言いかけた。
「お前のことは覚えたぞ。ふふふ、この魔法力量……実にいい。人間界で最初に食うのはお前に……」
そこで蛇の残骸は完全に朽ち果て、不気味な声も最後まで話すことなく、沈黙した。
なにが起こったのかよくわからず、しばらくその状況に呆然としていた私だが、しばらくすると気絶していたセイカが目を覚ましたので慌てて声をかけた。
「セイカ、がんばったね。もうあの蛇は消えたよ。悪いものは全部なくなってる。だから、もう大丈夫」
倒れたままわたしを見上げたセイカはげっそりとやつれている。このところほとんどなにも食べられずにいたそうなので致し方ないのだろうが、とても気の毒で痛々しい。だが目の光が戻ってくると、躰を起こし、今度は私を抱きしめてわんわんと泣き始めた。
「ばかばか、なんで助けに来ちゃうのよ! 危険だってわかってたでしょう!」
「だって…‥ともだちだから?」
「友達だからってこんな危ないこと誰もしないわ。ここの神官たちだってなにもできなかったんだから! いえ……そうじゃないわね。メイロードならこうする……知ったら必ずそうする子だったわ」
「ははは……うん、まぁ、そうだね」
セイカはクスッと笑いながら、
「ありがとう」
と、かすれ気味の声で私の手を握った。
その手の細さに、私は慌てて〝ハイポーション〟を一本セイカに渡し、それをゆっくり飲んでもらった。さすがに〝ハイポーション〟の効き目は素晴らしく、セイカの顔には徐々に生気が戻りフラフラした感じも消えたので、用心しながら立ち上がる。
「みんな心配してるだろうから、まずは大丈夫な姿を見せないとね」
「そうだね、でも、セイカ本当に大丈夫?」
「ありがとう、メイロード。あなたの魔法薬のおかけで、もう立ち上がれるわ。あんな上級魔法薬を持って歩いているなんて、すごい人ね」
「あは、あはは、まぁね」
そんな会話をしながら私とセイカはもうなにも隔てる必要がなくなった結界を外し、危機が去ったことをセイカは侍従たちに告げた。
「この神殿から悪しきものは去った。もうここに穢れはない。安心するがよい!」
巫女姫が自信に溢れたその声と共に姿を現すと、クモイさんたち侍従のみなさんが一斉に寝所へと駆け込んできて、そこからはみなさんひとしきり巫女姫の生還を喜び大泣きに泣いた。
もちろんクモイさんも一番に駆けつけて、滂沱の涙を流していたが、ハッと我に返ったようで、自分の仕事を思い出したらしく、そこからは巫女姫の躰を気遣い、すべてを取り替えさせた寝所の真新しい寝具に、たくさんの柔らかな枕を背にして巫女姫を座らせた。必要なものを的確に揃えるよう電光石火の指示を出し続けるクモイさんとそれに応える侍従の方々の対応の速さは実に見事だった。
(すごい早ワザ! さすがだわ)
花が飾られ、軽食や飲み物が用意され、なにやら香も焚かれた寝所で私とセイカが話していると、セイリュウからの《念話》が届く。
〔呪具というのとはちょっと違ったんだけど、まぁ、思った場所にあったから、こちらも取り除けたよ。巫女姫にも話したほうがいいから、そこへ行くね〕
〔了解。お疲れさまでした〕
私はクモイさんに寝所付近の人払いをお願いして、寝所横の庭に出るとセイリュウを呼んだ。
〔ここだよ、セイリュウ!〕
どうやら上空にいたらしいセイリュウは、竜の姿で下降してきたが、私の前に立ったときにはいつもの貴族スタイルの衣装の綺麗な男性の姿になっていた。
セイリュウの姿に、セイカは布団の上で正座をし、頭を下げている。唯一この場にいる侍従のクモイさんももちろん、床で少し震えながら平伏している。
日ごろすっかり忘れているが、セイリュウはこういう扱いをされる神の眷属なのだ。
「〝青の巫女〟よ。まずは御身が無事で何よりだ。もう平伏せずともよい。いまは躰を休められよ」
「はい。青龍さまのありがたきお言葉、痛み入ります」
まだ少し緊張気味のセイカと共に、そこから聞いた今回の〝呪〟の実態の話は、思った以上に不気味で、嫌な話だった。
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