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4 聖人候補の領地経営

760 最後の洗濯屋

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「はい、こちらのドレス、綺麗になりましたよ」

笑顔でお客様に真っ白になった美しいドレスを手渡すと、受け取った女性客は頬を紅潮させて本当にうれしそうにそれを受け取った。

「ああ、本当に綺麗! どこに行っても絶対無理だって匙を投げられた汚れだったのに……ああ、なんて綺麗なの、信じられないわ! ここにお願いして本当によかった!」

ドレスを抱き締めんばかりの女性の目には涙が浮かんでいる。

「大切なドレスが綺麗になって良かったですね。このアカウルシの汚れは、ちょっと普通の洗濯や魔法では厳しかったかもしれません。でも、しっかり落とせましたからご安心ください。それでは受取り証に署名をお願いします」

イスの魔法屋〝貴方の魔法〟のエミは、今日も笑顔で接客を続けていた。

エミがキルムから逃れてきた逃亡魔術師だった母から受け継いだ魔法屋〝貴方の魔法〟は、いまでは店の大きさも三倍になり、従業員も増えたが、仕事は引きも切らず、相変わらずの忙しさだ。

特にエミの汚染除去技術の素晴らしさは、イスどころかシド帝国全体さらには他の国にまで噂が届いており、いまでは遠い沿海州からも貴重な布製品の修復依頼が届くほどになっている。

その仕事の確かさから、巷でエミは〝最後の洗濯屋〟と呼ばれており、〝貴方の魔法〟はどうにもならない汚れを、どうしても修復したい人たちの最後の砦となっているという。

とはいえ、名を馳せる〝魔法屋〟となったエミにも悩みはあった。

エミがメイロードから授けられたオリジナル魔法《パーフェクト・バニッシュ》は、素晴らしい魔法ではあるが、エミの仕事にはときとして素晴らしすぎる側面があったからだ。なにせこのメイロード・グッケンス博士共同開発のオリジナル魔法は、魔法構築の基準がメイロードなので、極力抑えたとはいえ、この《パーフェクト・バニッシュ》の行使には魔法力をそれなりに消費することになる。もちろん、魔法学校へ入学できるほどの魔法力量のあるエミには、まったく問題のない程度であるし、効果についてはその名の通り完璧だ。だが依頼が増え続ける中で、魔法力量の限界を超えるオーダーが常態化してしまうようになって久しい。

こうした、すべての依頼を受け入れることが困難になってきた状況のなかで、さまざまな汚れに対峙してきたエミは、《パーフェクト・バニッシュ》だけに、そのまま頼り続けていてはいけないと感じ始めた。

そこでエミは仕事をする傍ら《パーフェクト・バニッシュ》の改良に着手した。普通に魔法屋が使う《清浄》と《バニッシュ》を使えば、泥汚れといった一般的に落としにくいとされる汚れは大方綺麗にできる。だが、特殊なインクや魔物の血、時間が経過した汚れ、いくつかの汚れが重なったものとなると、何度か《清浄》と《バニッシュ》の重ねがけをしたりしても除去が難しくなってしまう。

(重ねがけは有効だけど、生地をいためる危険はどうしても高くなっちゃうから、極力しないほうがいいんだよね)

そこでエミは《パーフェクト・バニッシュ》の効力を弱めることで、魔法力の消費も抑えられるよう五段階の出力調整ができるよう改良を試みたのだ。

これはエミにとって日々の仕事そのものが、そのための実験という側面があったため可能だった改良だ。

そうして一年以上を費やし、千回を超えるほど《パーフェクト・バニッシュ》を使い続けた結果、エミは魔法力のコントロールで五段階の洗濯グレードを明確することができるようになった。こうして魔法のグレードの設定が可能になったことにより、汚れのレベルに合わせて値段も下げることができたのだった。

この改良により、さらに依頼しやすくなり〝貴方の魔法〟の評判はますます高まったのだが、ここで新たな問題が生じてしまった。

(ああ、これもう、私ひとりじゃ抱えきれないや……)

高まる評判、良心的な価格、立地も最高の〝貴方の魔法〟、そして増え続ける依頼……どうしても予約の待ち時間は長くなり、いまでは三ヶ月待ちは当たり前だ。

(これ以上お客様を待たせるようになったら、逆にお店の評判が悪くなっちゃうかも……)

頭を抱える日々を過ごしつつ、それでも今日も押し寄せる依頼をこなして、少し広くなった事務所に戻ると、ツヤッツヤの長い髪をなびかせたものすごく綺麗な女の子が笑顔で手を振っていた。

「め、メイロードさま!!」

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