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4 聖人候補の領地経営

756 孤児院の終わり

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756

私たちは、そのまま〝先生〟や〝お母様〟のいる建物へと向かった。もともと子供たちの世話を積極的にする気がない〝先生〟や〝お母様〟は、義務的な授業と礼拝以外はほとんどこの建物に詰めているので、授業も終わったいまの時間なら皆いるはずだった。

〝孤児院〟の中を八組の子たちを従えて歩く私の姿は、かなり目立っていたが、いまはそれでいい。出会う子供たちには余裕のある表情で笑顔を向けつつも、早足で到着。そのままノックも挨拶もせずに私はドアを開けた。

院長先生抜きで、いきなり現れた私に、事情が飲み込めず驚いた表情になっている〝先生〟たちに私はこう言い放つ。

「この〝孤児院〟は只今をもって閉鎖する。追って沙汰があるまでお前たちは待機せよ!」

なにかしらの抵抗があるかと思い、私も八組の子たちも身構えたが、彼らは私言葉に拍子抜けするほどなんの抵抗もみせず従った。どうやら職員すら信用していなかったらしい枢機卿は彼らにもアーティファクトを使っていたようだ。おかげで自分で考える力が弱い洗脳状態にあり、さらに教会を盲信しているため、光り輝く〝聖戦士〟らしい神々しい姿で再び現れた私の言葉を、彼らは疑ったりせず、無抵抗のまま従ったのだ。

それでも中には〝院長先生〟のことを聞いてくる枢機卿の側近もいたので、そこは雷系の魔法を浴びせて、瞬時に失神させた。

「罰当たりめ! 〝救国の聖戦士〟たる私の意向に逆らえば、瞬時に天罰が下るぞ!」

そう言いながら、私はその建物ごと結界の中に封じ込めた。電光石火の速さの魔法で一気に数人を失神させた私の姿を見て、そこにいた者たちは〝聖戦士〟の力に恐れをなし、平伏し指示を待つ姿勢になっている。これでしばらくは彼らは動かないはずだ。

彼らの拘束については、ロームバルト・シド連合軍に任せることにしよう。

そうしているうちに広場には、すべての子供たちが集合していた。

「メイロードさま、みんながお待ちかねですよ」

ソルトーニ君が、私に広場の様子を指さす。

「そうみたいね。それじゃ、行ってくるわ」

私はそう言うと、《浮遊》を使ってふわりと空へ浮き上がった。

「すごい魔法を使えるのね。本当にあなたは〝聖戦士〟そのものよ!」

ノルエリアが眩しそうに私を見ている。

「外にいる職員が邪魔しに出てくるようなら制圧をお願いね。子供たちに抵抗しないよう言い含めたあとには、すぐにシド帝国とロームバルト王国の人たちがあの塔の人たちを拘束し、子供たちを保護するためにやってきます。あなたたちも協力してあげてちょうだい」

「おまかせを!」

八組の子たちはとてもいい顔をしている。いい仲間を得て、私も安心してそのまま空を飛び、子供たちのところへ向かっていった。

「ああ、メイロードさまだ! メイロードさまがお帰りになった!!」

ここを出る前に、できる限り子供たちと接し、彼らが強く私の存在を意識してくれるようにしていたのはこのときのためだ。おかげで彼らは私のことを〝聖戦士〟であり、自分たちをちゃんと見てくれる人物だとしっかり認識してくれている。

私は衣装にさらに魔法力を込めて綺麗に光らせてから、崇拝の目で見つめている子供たちとの前に、できる限りゆっくりと優雅に見えそうな動きを心がけながら降りていった。

その姿に子供たちは祈るように手を組み、〝聖戦士〟の言葉を待っている。

私はまず《雷魔法》を応用した大きな光の球を作り出し、それを上空に放った。それは、子供たちの上で光の粒を広げ、幻想的な光景を作り出す。

「子供たちよ、〝光の子〟よ、聞きなさい。

そなたたちは〝聖戦士〟となるべく、ここに集められた選ばれし者である。だが、そなたたちが向かうべき聖戦はすでにない。そなたたちの役目はもうなくなったのだ。もう新たな〝聖戦士〟はいらぬ。これからはそれぞれの場所で、新しい人生を生きなさい。もうここにいる必要はない」

アーティファクトによる長期間の洗脳を受け続けている〝孤児院〟の子供たちには、いま本当の事情を話したところで理解はできない。下手に彼らに刷り込まれている内容を否定して刺激すれば、彼らは魔法で抵抗し怪我人や死者を出してしまいかねなかった。そこで私は、彼らの洗脳を解くまでの間、彼らにおとなしくしてもらうため〝聖戦士〟として語たりかけることにしたのだ。

すでに〝院長先生〟からはっきりと〝聖戦士〟であることを皆の前で認められている私の言葉ならば必ず彼らに届く。そのことを利用した誘導で、子供たちを一時的に掌握し、無力化する、これが私の作戦だ。

(嘘をつくのは心苦しいけど、これしか方法がないんだよね)

「これからこの地にはそなたたちを新たな地へ導く方々がやってくる。〝光の子〟らよ! その方々を快く受け入れなさい。そして抵抗せずに指示に従いなさい。さすれば、正しき場所へと必ず導かれよう」

私の言葉に、少し泣き出している子もいる。その気持ちが解放の喜びなのか、それとも〝聖戦〟に参加できなかったことへの嘆きなのか、混乱のためなのか、それはわからないが、いまはそれでいい。いずれは彼らもその身に起こった真実を知ることになるだろう。

身体の健康と健全な精神状態を取り戻し、アーティファクトの影響が抜ければ、魔法力のあるこの子たちはしっかり自分の《鑑定》ができるようになるはずだ。そうすれば本当の名前や年齢も明らかになり、家族を探すことも容易になるだろう。それまでの間、とりあえずシドが資金提供しロームバルトに彼らのための宿泊施設を用意することで、合意は得られている。

先ほど上空に投げた光の球は、タイミングを待っていた兵士たちへの合図。

すでに《索敵》では、一万に近い兵士たちが隠された門を壊し〝孤児院〟へ進軍してくる様子が確認できた。これでこの〝孤児院〟という名のキルム誘拐団の拠点は終わりだ。

(ふぅ、長かったなぁ……)

私は保護されていく子供たちの様子を見ながら、次にやるべきことを考えていた。
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