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4 聖人候補の領地経営

753 王軍

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753

メイロードの言葉が理解できず、どよめく聴衆。だが、人々の不安を吹き消す透き通った声をしたメイロードの言葉は力強かった。

「何も恐れることはありません。神はみなさんとともにあります。魔法の力はみなさんを助けるでしょうが、それに頼りすぎることを神は望みません。みなさんは聖国キルムの民、いつも心に信仰を持ち神を敬う方々……いまのキルムの現状を憂い、これからなすべきことを考えれば、この神のご意志を理解できるはずです。天に地に感謝し、魔法だけに頼ることなく、日々の生活を立て直しましょう。そしてキルムはそれを支えます。キルム王はあなた方とともにいらっしゃいます」

私の言葉とともに、キルム王が忽然と舞台袖に現れ、力強い足取りで壇上へと上がった。
背後では正教会の者たちが慌てふためいてたが、さすがに聴衆の面前で一国の王を遮ることはできず、また王は法皇に一瞥もくれることなく、その横を平然と通り過ぎた。そして緊張をみせることなく威厳のある表情で私の前に立ち、聴衆を、彼の国民を真っ直ぐに見据えた。私が深く礼をとって一歩下がると、キルム王は口を開く。

「キルムはその長き歴史にわたり神の恩恵に甘えすぎた。我々は与えられた魔法力に頼りすぎ、天と地への日々の感謝と努力を惜しんだ。そんな我々を神はいま試されている! このとき聖国たるわれらがキルム王国は、神にわれらが忠誠を示すため、奮起し、立ち上がらねばならぬ! われらが献身を捧げねばならぬときが来たのだ!!」

一同からは不安のざわめきが起き始めるが、王の言葉はその後も強く続いた。

「キルムの王たるわれが約束しよう。決して我が民だけに苦しみを与えはせぬと! 新しき聖国キルムを豊かな国へ導けるよう、われとわが国はわが民とともにどんな努力でもしよう! すぐに具体的な施策も始める準備もある。さあ、国を再び興すのだ! その先に、必ず聖国の未来がある!!」

キルム王の力強い言葉は、人々の心を打ち、聴衆は沸き立った。

「われわれは魔法がなくともマーヴ神への信仰を捨てることはないぞ!」
「我々には素晴らしい王と信仰がある! これでできぬことなどないはずだ!」
「神がそれを望まれるのであれば、俺たちはそれに答えるだけだ!」
「ああ、神よ。どうか愚かな私たちにお慈悲を……これよりは、より天と地へ感謝をいたします!」

王の直接民に語りかける演説に感激した人々の言葉は広がり、確実に人々の信頼を勝ち得ていた。人々の心の不安は落ち着き、彼らは、これからすべきことを考え、それを信仰と覚悟を持って行うことを理解してくれたのだ。

そんな人々に、私は再び讃美歌を歌い、集っていた人々は一緒にそれを讃美歌を歌いながら、明るい表情で会場を後にしていった。その顔は、幸せそうで希望に溢れたものだった。

正教会側は、まったく予想だにしなかった展開の連続に、指示系統がまったく機能しない状態だった。しかも、いつの間にか王軍が会場警備へ参加しており、正教会側の兵士や魔術師の動きを監視していた。

これから戦いへと臨むつもりだった正教会側は、なんとか帰ろうとする聴衆を遮ろうと試みたが、無抵抗のまま賛美歌とともに進み続ける人々に対して、武力も魔法も行使することはできず、粛々と人々を帰宅へと誘導する王軍の兵士たちと睨み合いながら、なんの行動も起こせずにいた。

「メイロード、メイロード!!」

人々を見送りながら讃美歌を歌っていた私に背後から、聞き覚えのある怒鳴り声が飛んできた。

「おのれメイロード!! キサマ、貴様、何をしているのだ!! 信徒たちを呼び戻せ!! いますぐだ!!」

顔を真っ赤にして怒鳴り散らすその姿には、法皇の威厳も何もなかった。

「キルムの王がいらっしゃるのですよ。その物言いはあまりに失礼ではありませんか?」

振り向いた私がそういうと、さらに法皇は激昂する。

「な、何をいう。キルムで最も尊敬され敬われるべきは法皇たる私である。それは国王とて知っておろう!」

小馬鹿にしたような法皇の言葉に対し、キルム王は至極冷静にこう返した。

「法皇ラプキン四世、あなたには法皇の座を降りていただく。理由は……多すぎてここでは語れんがな」

そして、法皇のそばに立っていた枢機卿にも、こう言葉をかける。

「サシア・エンダーロア・ジョリコフ・イル・キルム……ジョリコフ枢機卿。王籍を離れた後もそなたに名乗ることを許していたそなたの王名は剥奪する。これ以上キルムの名を名乗ることは許さん。枢機卿の身分もないものと思うように」

「父上! まさか、そんな……」

「国家転覆を企てておいて、まだ父と申すかサシア! その恵まれた魔法力をこのような愚かな計画に使うとは……情けない」

このやりとりの間に、集まっていた人々の撤収は完了し、壇上には正教会側の司祭たちとそれを守る魔術師たち、そしてその背後には王軍の兵士たちが集結していた。

キルム王は。セーヤ・ソーヤが正教会の中からかき集めてきた、彼らの誘拐や聖戦の準備に関わる書類を法皇と枢機卿の前に投げ出し、こう言った。

「お前たちの悪事はすべて白日のもとに晒された! 他国の人々までも巻き込んでの犯罪を犯し続けておきながら、まだ聖職にある者だと自ら名乗れるのか! すでにお前たちの〝孤児院〟にも、子供を誘拐されたシド帝国から捜査が入っている。この国の恥をこれ以上晒すことを我は許さぬ!」

王の怒号に、背後にいた正教会の司祭や職員たちの多くはガタガタと震え、へたり込んでいる。

王軍は舞台の背後から司祭や法皇を取り囲み、王軍に対して抵抗する意思のない関係者から拘束を進めつつ、法皇たちを守るため配置されていた魔術師と対峙し始めていた。そして、ついに魔術師たちの攻撃が始まろうとしたとき、王軍の前に四人が進み出た。

「この魔術師たちはわしらに任せなさい」
「そのふたりのことはメイロードにまかせるよ」
「ここはおまかせください、メイロードさま!」
「ここはおまかせください、メイロードさま!」

(グッケンス博士、セイリュウ、セーヤ、ソーヤ!)

頼もしい仲間の姿に、笑顔でうなずいた私は四人が上手く魔術師と法皇を引き離した隙に結界を作って、外から見えないよう視界を遮ると同時に、キルム王と私、そして法皇とジョリコフ枢機卿の四人だけの空間を作った。

(すべて聞かせてもらうわよ、おふたりさん!)
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