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4 聖人候補の領地経営
751 決行前夜
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751
そこから私とセーヤ・ソーヤは、国王の周囲の人間の中で正教会と繋がりのありそうな者たちを特定して、彼らに情報が渡らないよう注意深く行動するよう国王の信頼できる側近たちに伝えた。キルム王の近くに仕えている者の多くは、キルム王がこの国の安定を保つために正教会に対して強く出られないのだという事情をくやしく思っていたようで、国王の優しさと我慢強さを逆手に取り好き勝手をしている正教会に疑問を持つ者も多かった。
ありがたいことにキルム王の王宮内での人望は厚く、作戦を伝えたあとは、こちらの予想以上に側近たちは素早く動いてくれた。
(これなら、ここは任せられそうね)
私はといえば、キルム王との話し合いも済んだので、根回しの日々。
それからの数日は、日中は相変わらず従順な〝聖戦士〟ぶりっこを続け、人々の前で笑顔を振り撒き、ときにはキャンディーの雨を降らしたり、会場で怪我をして泣いている子供をその場で治療して見せたりもした。
ジョリコフ枢機卿や法皇は、私のパフォーマンスにとても驚いていたが、それが礼拝に来た人々に熱狂的に受け入れられている様子に機嫌を良くし、信徒たちに囲まれ忙しくしている私に詳しいことをそれ以上聞いてきたりはしなかった。
(まぁ、飴は買ってきたものを風魔法に乗せて散らしただけ。怪我を治したのも、どこかで手に入れた〝ポーション〟でも使ったと思っているんだろうけど……)
実はこの飴は私の手作りだ。今回はどうしても手作りにする必要があったので準備したものだ。というより《生産の陣》は使えないが美味しくて大量に配れる食べ物が欲しかった。
そして一番簡単に大量に作れそうなものを考えたとき、魔法を使えば熱い飴を練ったり伸ばしたりすることに力もいらず危険もないと思いついた。というより、魔法さえ使えれば飴作りはものすごく簡単だったのだ。
セーヤとソーヤのちからもかりて、異世界から大量に取り寄せた水飴に、いろいろな果物の美味しいジャムをたっぷり練り込み、カラフルで見ているだけでも楽しくなるキャンディーを大きな樽三個分、わずか三時間で作ることができた。本当に魔法さまさまだ。
さすがにひとつひとつ包むほどは時間はなかったが、撒くときに風をうまく操って、ゆっくりと落ちてくるように工夫したので、ほとんど下に落ちることなく礼拝にいていた人たちの手に渡ったようだった。
異世界素材をたっぷり使って手作りした(魔法作りかも)私の飴は、多くの人に実感があるほどの健康効果を与えた。それは、人々に〝奇跡の飴〟と呼ばれ、おかげで〝聖戦士メイロード〟の人気は爆発寸前。聖堂の前は、昼夜問わず私の姿を一目見たいと集まる人々で埋め尽くされるようになっていった。
「良いぞメイロード! お前の評判は鰻登りだ! これで人々を導ける!」
法皇はゴキゲン。ジョリコフ枢機卿も口元をゆるめながら、高そうなお酒を口にしてこう言った。
「当初の計画では、お前を国中に派遣して魔法で起こした〝奇跡〟を見せつけて人心を掌握していく予定だったのだが、もうその必要もないようだ。よくやった。素晴らしいぞ、メイロード!」
その日の夜の会食時、酒も入っている上に、人々が教会へ押しかけるようになっているという報告を受け、法皇は特に上機嫌だった。そして、ついに彼らの最終目標について口にした。
「メイロード、お前が〝聖戦〟の口火を切るのだ。お前の魔法力でロームバルトを蹴散らせ! 神に導かれし戦いへと人々を駆り立て、魔術師たちとともにロームバルトの豊かな土地を手に入れるのだ。そして、そこに新たな聖教国キルムを作り上げようぞ!」
私は表情に出さないよう張り付けた笑顔を保っていたが、このバカどもの恐ろしく愚かしい計画に心の中でグーパンチを浴びせていた。
彼らは作物の生育に向かない土地の多い北のキルムを捨て、より肥沃な土地を持つロームバルトに侵攻することを計画していた。もちろん国王には一切知らせることなくだ。
そして、武力で無理やりロームバルトに割譲させ、そこに新たな宗教国家を築こうとしているのだった。しかも、その戦いには聖戦士を信じる街の人々、そして誘拐されて魔術師にされた子供たちをを含む魔術師たちを投入して、自分たちは高みの見物。
最悪、その計画が破綻したときには、きっと〝聖戦士〟メイロードの暴走で片付けられるのだろう。
(ふ・ざ・け・る・な!)
私はもうここまででいいと決めた。もう一日もこの連中の相手などしたくなかった。
その日部屋に戻った私は《無限回廊の扉》を抜けて、博士の研究棟へ向かった。明らかに怒っている私の様子に、グッケンス博士は苦笑していたが、コーヒーを飲みながらこう言った。
「そろそろ来るだろうと思っていたよ。あの愚か者たちの〝夢〟を〝悪夢〟に変えてやるとしようか」
「ええ、とびっきりの絶望的な気分を味わってもらいましょう! 夢じゃありませんよ、現実でです!!」
「ああ、そうだな、現実でな」
ーーーーーーーー
翌日、正教会前の広大な敷地の野外集会場には、正教会からの〝重大な発表あり〟のお触れを聞いた人々が、まるでキルム中の人が集まったのではないかという勢いで集結していた。
〝聖戦士〟の評判に物見遊山でやってきた人、供物を渡そうとする人、病気の平癒を願う人、飢饉の救いを求める人、今日は何をもらえるのかと期待する人……それぞれの思いで、壇上を見つめていた。
(さぁ、〝救国の聖戦士メイロード〟の登場だね!)
そこから私とセーヤ・ソーヤは、国王の周囲の人間の中で正教会と繋がりのありそうな者たちを特定して、彼らに情報が渡らないよう注意深く行動するよう国王の信頼できる側近たちに伝えた。キルム王の近くに仕えている者の多くは、キルム王がこの国の安定を保つために正教会に対して強く出られないのだという事情をくやしく思っていたようで、国王の優しさと我慢強さを逆手に取り好き勝手をしている正教会に疑問を持つ者も多かった。
ありがたいことにキルム王の王宮内での人望は厚く、作戦を伝えたあとは、こちらの予想以上に側近たちは素早く動いてくれた。
(これなら、ここは任せられそうね)
私はといえば、キルム王との話し合いも済んだので、根回しの日々。
それからの数日は、日中は相変わらず従順な〝聖戦士〟ぶりっこを続け、人々の前で笑顔を振り撒き、ときにはキャンディーの雨を降らしたり、会場で怪我をして泣いている子供をその場で治療して見せたりもした。
ジョリコフ枢機卿や法皇は、私のパフォーマンスにとても驚いていたが、それが礼拝に来た人々に熱狂的に受け入れられている様子に機嫌を良くし、信徒たちに囲まれ忙しくしている私に詳しいことをそれ以上聞いてきたりはしなかった。
(まぁ、飴は買ってきたものを風魔法に乗せて散らしただけ。怪我を治したのも、どこかで手に入れた〝ポーション〟でも使ったと思っているんだろうけど……)
実はこの飴は私の手作りだ。今回はどうしても手作りにする必要があったので準備したものだ。というより《生産の陣》は使えないが美味しくて大量に配れる食べ物が欲しかった。
そして一番簡単に大量に作れそうなものを考えたとき、魔法を使えば熱い飴を練ったり伸ばしたりすることに力もいらず危険もないと思いついた。というより、魔法さえ使えれば飴作りはものすごく簡単だったのだ。
セーヤとソーヤのちからもかりて、異世界から大量に取り寄せた水飴に、いろいろな果物の美味しいジャムをたっぷり練り込み、カラフルで見ているだけでも楽しくなるキャンディーを大きな樽三個分、わずか三時間で作ることができた。本当に魔法さまさまだ。
さすがにひとつひとつ包むほどは時間はなかったが、撒くときに風をうまく操って、ゆっくりと落ちてくるように工夫したので、ほとんど下に落ちることなく礼拝にいていた人たちの手に渡ったようだった。
異世界素材をたっぷり使って手作りした(魔法作りかも)私の飴は、多くの人に実感があるほどの健康効果を与えた。それは、人々に〝奇跡の飴〟と呼ばれ、おかげで〝聖戦士メイロード〟の人気は爆発寸前。聖堂の前は、昼夜問わず私の姿を一目見たいと集まる人々で埋め尽くされるようになっていった。
「良いぞメイロード! お前の評判は鰻登りだ! これで人々を導ける!」
法皇はゴキゲン。ジョリコフ枢機卿も口元をゆるめながら、高そうなお酒を口にしてこう言った。
「当初の計画では、お前を国中に派遣して魔法で起こした〝奇跡〟を見せつけて人心を掌握していく予定だったのだが、もうその必要もないようだ。よくやった。素晴らしいぞ、メイロード!」
その日の夜の会食時、酒も入っている上に、人々が教会へ押しかけるようになっているという報告を受け、法皇は特に上機嫌だった。そして、ついに彼らの最終目標について口にした。
「メイロード、お前が〝聖戦〟の口火を切るのだ。お前の魔法力でロームバルトを蹴散らせ! 神に導かれし戦いへと人々を駆り立て、魔術師たちとともにロームバルトの豊かな土地を手に入れるのだ。そして、そこに新たな聖教国キルムを作り上げようぞ!」
私は表情に出さないよう張り付けた笑顔を保っていたが、このバカどもの恐ろしく愚かしい計画に心の中でグーパンチを浴びせていた。
彼らは作物の生育に向かない土地の多い北のキルムを捨て、より肥沃な土地を持つロームバルトに侵攻することを計画していた。もちろん国王には一切知らせることなくだ。
そして、武力で無理やりロームバルトに割譲させ、そこに新たな宗教国家を築こうとしているのだった。しかも、その戦いには聖戦士を信じる街の人々、そして誘拐されて魔術師にされた子供たちをを含む魔術師たちを投入して、自分たちは高みの見物。
最悪、その計画が破綻したときには、きっと〝聖戦士〟メイロードの暴走で片付けられるのだろう。
(ふ・ざ・け・る・な!)
私はもうここまででいいと決めた。もう一日もこの連中の相手などしたくなかった。
その日部屋に戻った私は《無限回廊の扉》を抜けて、博士の研究棟へ向かった。明らかに怒っている私の様子に、グッケンス博士は苦笑していたが、コーヒーを飲みながらこう言った。
「そろそろ来るだろうと思っていたよ。あの愚か者たちの〝夢〟を〝悪夢〟に変えてやるとしようか」
「ええ、とびっきりの絶望的な気分を味わってもらいましょう! 夢じゃありませんよ、現実でです!!」
「ああ、そうだな、現実でな」
ーーーーーーーー
翌日、正教会前の広大な敷地の野外集会場には、正教会からの〝重大な発表あり〟のお触れを聞いた人々が、まるでキルム中の人が集まったのではないかという勢いで集結していた。
〝聖戦士〟の評判に物見遊山でやってきた人、供物を渡そうとする人、病気の平癒を願う人、飢饉の救いを求める人、今日は何をもらえるのかと期待する人……それぞれの思いで、壇上を見つめていた。
(さぁ、〝救国の聖戦士メイロード〟の登場だね!)
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