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4 聖人候補の領地経営
740 塔を立てよう!
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740
試合はとても静かに始まった。
まずはお互いの陣地を作る局面だ。どこにどんな塔を作るのかは、その後の戦略を左右する大きな要素となる。私たちはお互いに、かなり距離をとって立ち、自分の前の広い土地に陣地を示す塔を配置していくことになった。
私は、初めて見る〝院長先生〟の魔法の観察をしつつ、自陣目前の左右と中央に《土魔法》を使ってごくシンプルながら堅牢な塔を建設していった。この塔はブロック状に固めた石を積み上げたもので、均整のとれた外観に整えてある。それぞれが十メートル近くまで魔法で積み上げられていく様子は、なかなか見応えがあるだろう。
しかも、私は同時平行作業で複数の魔法を発動することができるため、この三つの塔はほぼ同時に出来上がっていった。
この様子に観客席からは大きな歓声が上がる。
「すごい、一度にこんなことができるなんて……信じられない!」
「同時に作っているんだよね。これだけ立派な塔、ひとつだけだって大変なのにメイロードさまにはいくつ頭がついているんだろう」
とても感心されているようだが、それも道理で、集中力を必要とする魔法を複数同時に操るというのは、意識の集中と分散という相反するものを同時に行うことであるため、とてつもなくコントロールが難しいのだ。
ふたつの魔法を同時に発動できれば、魔法使いとしてはかなり優秀だとされるし、魔法学校のトップクラスにもそれができる子は数人しかいなかった。
だが、実は私は物事を同時進行で処理する能力が小幡初子時代に異常に鍛えられている。学校、家事、子育て、少し育ってからは地元の名士である小幡家の対外的な対応といういわば秘書的業務まで抱えていた私は、たくさんのことを同時に考えながらこなすことができなければ立ち行かなかったのだ。そのせいなのだろう。この世界にきても私には最初から、複数の魔法を扱うことは難しい、という意識がなかった。
逆にできないならできるように工夫すべきだと考えていたので、魔法が使えるようになるとすぐ魔法が複数展開ができるよう訓練を始めたし、その後あと魔法を覚える過程でグッケンス博士に相談しながら、効率よく複数の魔法を扱うことのできる方法を探していった。
そして、この技術にとても優れた人物との出会いで、一気に私の魔法の精度は上がっていった。それはイスの天才魔法薬師トルッカ・ゼンモンさんとの出会いだ。彼は、大量の魔法薬をしかも同時に作ることができるという、他の人にはない技術を会得した人だった。
それはゼンモンさんの固有スキル《魔法転写》によるものだと教えてもらったことで、私は固有スキルがなくとも魔法をコピーして使うことができる方法があるのではないかと考え始め、グッケンス博士からのアドバイスもあって、意外に早くそれに成功した。
ただし、この《魔法転写》は、ゼンモンさんのような固有スキルと違い、かかる負荷が大変大きく、実際の行使のためには莫大な魔法力を必要とした。簡単な基礎魔法なら三倍から五倍、難しい魔法になればなるほど負荷は当然大きくなっていく。
とはいえ、魔法力さえあれば簡単に同じ魔法の複数同時発動ができる《魔法転写》は、私が使うのにうってつけの魔法だった。
グッケンス博士もこの魔法を大変気に入って、便利に使っているそうだが、人には教えないことをふたりで決めている。人前で発動して怪しまれた場合には〝固有スキル〟だととぼけようと相談済みだ。
(私のような魔法力のバケモノは別だけど、この《魔法転写》かなり気をつけないと湯水のような勢いでじゃぶじゃぶ魔法力を使うことになるから取扱注意なんだよね。特に戦闘系の仕事をさせられている魔術師さんがこれを強制されたりすると、ひどいことになりそうだし……)
というわけで、あまりこの《魔法転写》も派手には使わないことにしているのだが、今回のように同じ塔を三箇所に同時に建てると言った場合には非常に便利なのでシレッと使ってみた。
(まぁ、この程度なら技術でやっていると思ってもらえるしね……たぶん)
この魔法のおかげで私は魔法の発動だけに意識を集中することなく〝院長〟の様子も常にじっくり見ることができている。
〝院長〟もその高い魔法力のおかげで、しっかり修練を積んでいるようで、適性のない《土魔法》をハイスピードで発動し、土の塔を次々に作り出していた。しかもそれぞれの塔には城壁まで作り、より堅牢にしている。
(小さなお城がたくさん建っているみたい。でも、〝院長〟も魔法の複数発動はしてないね……)
魔法の複数発動の訓練はものすごく地味だ。基本の魔法の訓練をひたすら並列で使えるまで数限りなく使い続ける。とにかく根気がないと続かないし、そもそも魔法力がたくさんないとこなせない。
これを魔法力に問題がないはずの〝院長〟が使えないとすれば、彼は決して根気のある地道な努力をするタイプの人間ではないということだ。
次々に建てられていく立派な塔を見ながら、私はなんとなく彼の性格を推測し始めていた。
試合はとても静かに始まった。
まずはお互いの陣地を作る局面だ。どこにどんな塔を作るのかは、その後の戦略を左右する大きな要素となる。私たちはお互いに、かなり距離をとって立ち、自分の前の広い土地に陣地を示す塔を配置していくことになった。
私は、初めて見る〝院長先生〟の魔法の観察をしつつ、自陣目前の左右と中央に《土魔法》を使ってごくシンプルながら堅牢な塔を建設していった。この塔はブロック状に固めた石を積み上げたもので、均整のとれた外観に整えてある。それぞれが十メートル近くまで魔法で積み上げられていく様子は、なかなか見応えがあるだろう。
しかも、私は同時平行作業で複数の魔法を発動することができるため、この三つの塔はほぼ同時に出来上がっていった。
この様子に観客席からは大きな歓声が上がる。
「すごい、一度にこんなことができるなんて……信じられない!」
「同時に作っているんだよね。これだけ立派な塔、ひとつだけだって大変なのにメイロードさまにはいくつ頭がついているんだろう」
とても感心されているようだが、それも道理で、集中力を必要とする魔法を複数同時に操るというのは、意識の集中と分散という相反するものを同時に行うことであるため、とてつもなくコントロールが難しいのだ。
ふたつの魔法を同時に発動できれば、魔法使いとしてはかなり優秀だとされるし、魔法学校のトップクラスにもそれができる子は数人しかいなかった。
だが、実は私は物事を同時進行で処理する能力が小幡初子時代に異常に鍛えられている。学校、家事、子育て、少し育ってからは地元の名士である小幡家の対外的な対応といういわば秘書的業務まで抱えていた私は、たくさんのことを同時に考えながらこなすことができなければ立ち行かなかったのだ。そのせいなのだろう。この世界にきても私には最初から、複数の魔法を扱うことは難しい、という意識がなかった。
逆にできないならできるように工夫すべきだと考えていたので、魔法が使えるようになるとすぐ魔法が複数展開ができるよう訓練を始めたし、その後あと魔法を覚える過程でグッケンス博士に相談しながら、効率よく複数の魔法を扱うことのできる方法を探していった。
そして、この技術にとても優れた人物との出会いで、一気に私の魔法の精度は上がっていった。それはイスの天才魔法薬師トルッカ・ゼンモンさんとの出会いだ。彼は、大量の魔法薬をしかも同時に作ることができるという、他の人にはない技術を会得した人だった。
それはゼンモンさんの固有スキル《魔法転写》によるものだと教えてもらったことで、私は固有スキルがなくとも魔法をコピーして使うことができる方法があるのではないかと考え始め、グッケンス博士からのアドバイスもあって、意外に早くそれに成功した。
ただし、この《魔法転写》は、ゼンモンさんのような固有スキルと違い、かかる負荷が大変大きく、実際の行使のためには莫大な魔法力を必要とした。簡単な基礎魔法なら三倍から五倍、難しい魔法になればなるほど負荷は当然大きくなっていく。
とはいえ、魔法力さえあれば簡単に同じ魔法の複数同時発動ができる《魔法転写》は、私が使うのにうってつけの魔法だった。
グッケンス博士もこの魔法を大変気に入って、便利に使っているそうだが、人には教えないことをふたりで決めている。人前で発動して怪しまれた場合には〝固有スキル〟だととぼけようと相談済みだ。
(私のような魔法力のバケモノは別だけど、この《魔法転写》かなり気をつけないと湯水のような勢いでじゃぶじゃぶ魔法力を使うことになるから取扱注意なんだよね。特に戦闘系の仕事をさせられている魔術師さんがこれを強制されたりすると、ひどいことになりそうだし……)
というわけで、あまりこの《魔法転写》も派手には使わないことにしているのだが、今回のように同じ塔を三箇所に同時に建てると言った場合には非常に便利なのでシレッと使ってみた。
(まぁ、この程度なら技術でやっていると思ってもらえるしね……たぶん)
この魔法のおかげで私は魔法の発動だけに意識を集中することなく〝院長〟の様子も常にじっくり見ることができている。
〝院長〟もその高い魔法力のおかげで、しっかり修練を積んでいるようで、適性のない《土魔法》をハイスピードで発動し、土の塔を次々に作り出していた。しかもそれぞれの塔には城壁まで作り、より堅牢にしている。
(小さなお城がたくさん建っているみたい。でも、〝院長〟も魔法の複数発動はしてないね……)
魔法の複数発動の訓練はものすごく地味だ。基本の魔法の訓練をひたすら並列で使えるまで数限りなく使い続ける。とにかく根気がないと続かないし、そもそも魔法力がたくさんないとこなせない。
これを魔法力に問題がないはずの〝院長〟が使えないとすれば、彼は決して根気のある地道な努力をするタイプの人間ではないということだ。
次々に建てられていく立派な塔を見ながら、私はなんとなく彼の性格を推測し始めていた。
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