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4 聖人候補の領地経営
729 水の壁
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729
シャラマン君は、魔法力量にもかなり自信があるようで、まずは持久戦をする算段をつけてきた。
私からの攻撃を遮断するために、お得意の水系の防御魔法《水壁》を展開。これは物理・魔法両方の攻撃防御に効果のあるいい魔法だ。特に火系の魔法に対する効果は鉄壁と言っていい。
彼の戦術は、これで攻撃を防ぎつつ私から何度も攻撃をさせて魔法力を削ぎ、疲弊したところで《水魔法》を使い一気に攻めて勝つというもの……ということは、すでにセーヤ・ソーヤからの報告で予測済みだ。
(一時間ぐらい粘れば、私の魔法力が持たなくなると読んでいるんだろうなぁ……)
その激甘な読みには、もう笑うしかないが、私の魔法力量についてあまり知られるのもイヤなので、そんな茶番には付き合わない。
「《水消失》」
私がそう言ってシャラマン君の方を指さすと、その瞬間彼を守ってくれていた水の壁は一瞬で掻き消え、状況がわからず動きが止まったままのシャラマン君が、突っ立っていた。
「すごい! 魔法の無効化!! こんなことができるなんて、メイロードさま、本当にすごい方ですね!」
「それも一瞬で消してみせるなんて、あれは魔法? それともスキルかな……見たことも聞いたこともないけど」
試合を見ていた子供たちは、この状況に興奮状態だ。
相手の使っている魔法の無効化は、まず相手より自分がその魔法に熟達していることが最低限の条件となる。シャラマン君のように《水魔法》特化型の魔術師の術を無効化しようとすれば、それこそ上級魔法が必要となるし、無効化にかかる魔法力はその発動に必要な魔法力量よりもずっと高いため、これが使える魔法使いは少ない。
というわけで、みんな驚いているのだが、私はそんな高度な魔法は使っていない。ただ目の前の水を魔法で消しただけだ。
みんなが思いつかないのも当然で、水を噴出する基礎魔法《水出》と対になる魔法《水消失》は、かなり魔法力が必要な中級魔法な上に、《水出》と違い実用性が低いため、これを修練する人は少ないどちらかと言えば忘れられがちなマイナー魔法だからだ。
(まぁ、水はいずれ勝手に土に吸い込まれて消えるしね。わざわざ消すためだけに貴重な魔法力を使いたくないよね)
水系魔法がお得意のシャラマン君も、まさか私がこんなコスパの悪いマイナーな中級魔法を使えるなんて思ってもいなかったのだろう。だが、さすがにそこは水系のスペシャリスト。気を取り直してすぐに《水壁》を展開し始めた。
そして再び満足のいく壁に守られほっとしただろう瞬間、彼の目の前の壁は、またも消えた。
「はい、《水消失》」
驚きつつ、ギリギリと歯を噛み締めたシャラマン君は、それでも再び《水壁》を築いていく。
そう、彼はわかったはずだ。私が、何度でも彼の作り出した水壁を消し去ることを。だが、それならば、勝機があると考えてもいた。なぜなら、「《水消失》」は、適正にもよるが《水壁》の五倍から十倍の魔法力が必要な難しい魔法だからだ。
彼はきっと、この作って消しての勝負を続ければ、相手はどんどん魔法力を失っていき、最後には魔法力量に自信のある自分が勝つと思っただろう。
だが、十数回繰り返されたこの攻防の末、息も絶え絶えになったのはシャラマンくんひとりだった。
振り絞るように
「《水壁》!!」
と叫ぶシャラマン君の前からは、彼を守ってくれるはずの水が、またも瞬時に消え去り、そこには彼の方を指差している私の姿だけがある。
十数回の攻防の果てに見た平然と微笑む私の姿に、シャラマン君は声にならない叫び声を上げたあと、泡を吹いて倒れてしまった。
その様子に審判はそれ以上の試合の続行は不可能と判断し、私の勝ちが決まった。
子供たちの大歓声の中、私は倒れたまま何とか目だけは覚ましたシャラマン君へと近づいていった。
「あなたが負けた理由は、あなたが大事にしなかったいろいろなことのせいなの」
私はそこから、偏食が健康を損なうこと、魔法力の回復を妨げること、あなたのために準備をしてくれた子供たちに当たり散らすような態度をし、大事な食料を無駄にするような行動が、結局あなたを追い詰めたのだと話した。
「しっかり食べて、十分な睡眠をとっていれば十分回復するはずの魔法力も、あなたは完全に回復してなかったでしょう?
それに魔法力が少なくなってきたとき、不健康なあなたの躰は、早々にそれを支えきれなくなり倒れてしまった……健康だったら、ここまでひどい倒れ方はしなかったはずなのにね」
シャラマン君は私の言葉に驚きの表情を浮かべ、思い当たることがあったのだろう、何とも恥ずかしそうな表情をしていた。
私はここでもクッキーを渡し、シャラマン君に生活態度の反省を促してからそばを離れ、彼はまたも気を失ってしまった。
でも、クッキーの袋を胸に抱き、タンカで運ばれていくシャラマン君は、妙に清々しい表情で眠っていて、憑き物が取れたような穏やかな顔をしていた。
シャラマン君は、魔法力量にもかなり自信があるようで、まずは持久戦をする算段をつけてきた。
私からの攻撃を遮断するために、お得意の水系の防御魔法《水壁》を展開。これは物理・魔法両方の攻撃防御に効果のあるいい魔法だ。特に火系の魔法に対する効果は鉄壁と言っていい。
彼の戦術は、これで攻撃を防ぎつつ私から何度も攻撃をさせて魔法力を削ぎ、疲弊したところで《水魔法》を使い一気に攻めて勝つというもの……ということは、すでにセーヤ・ソーヤからの報告で予測済みだ。
(一時間ぐらい粘れば、私の魔法力が持たなくなると読んでいるんだろうなぁ……)
その激甘な読みには、もう笑うしかないが、私の魔法力量についてあまり知られるのもイヤなので、そんな茶番には付き合わない。
「《水消失》」
私がそう言ってシャラマン君の方を指さすと、その瞬間彼を守ってくれていた水の壁は一瞬で掻き消え、状況がわからず動きが止まったままのシャラマン君が、突っ立っていた。
「すごい! 魔法の無効化!! こんなことができるなんて、メイロードさま、本当にすごい方ですね!」
「それも一瞬で消してみせるなんて、あれは魔法? それともスキルかな……見たことも聞いたこともないけど」
試合を見ていた子供たちは、この状況に興奮状態だ。
相手の使っている魔法の無効化は、まず相手より自分がその魔法に熟達していることが最低限の条件となる。シャラマン君のように《水魔法》特化型の魔術師の術を無効化しようとすれば、それこそ上級魔法が必要となるし、無効化にかかる魔法力はその発動に必要な魔法力量よりもずっと高いため、これが使える魔法使いは少ない。
というわけで、みんな驚いているのだが、私はそんな高度な魔法は使っていない。ただ目の前の水を魔法で消しただけだ。
みんなが思いつかないのも当然で、水を噴出する基礎魔法《水出》と対になる魔法《水消失》は、かなり魔法力が必要な中級魔法な上に、《水出》と違い実用性が低いため、これを修練する人は少ないどちらかと言えば忘れられがちなマイナー魔法だからだ。
(まぁ、水はいずれ勝手に土に吸い込まれて消えるしね。わざわざ消すためだけに貴重な魔法力を使いたくないよね)
水系魔法がお得意のシャラマン君も、まさか私がこんなコスパの悪いマイナーな中級魔法を使えるなんて思ってもいなかったのだろう。だが、さすがにそこは水系のスペシャリスト。気を取り直してすぐに《水壁》を展開し始めた。
そして再び満足のいく壁に守られほっとしただろう瞬間、彼の目の前の壁は、またも消えた。
「はい、《水消失》」
驚きつつ、ギリギリと歯を噛み締めたシャラマン君は、それでも再び《水壁》を築いていく。
そう、彼はわかったはずだ。私が、何度でも彼の作り出した水壁を消し去ることを。だが、それならば、勝機があると考えてもいた。なぜなら、「《水消失》」は、適正にもよるが《水壁》の五倍から十倍の魔法力が必要な難しい魔法だからだ。
彼はきっと、この作って消しての勝負を続ければ、相手はどんどん魔法力を失っていき、最後には魔法力量に自信のある自分が勝つと思っただろう。
だが、十数回繰り返されたこの攻防の末、息も絶え絶えになったのはシャラマンくんひとりだった。
振り絞るように
「《水壁》!!」
と叫ぶシャラマン君の前からは、彼を守ってくれるはずの水が、またも瞬時に消え去り、そこには彼の方を指差している私の姿だけがある。
十数回の攻防の果てに見た平然と微笑む私の姿に、シャラマン君は声にならない叫び声を上げたあと、泡を吹いて倒れてしまった。
その様子に審判はそれ以上の試合の続行は不可能と判断し、私の勝ちが決まった。
子供たちの大歓声の中、私は倒れたまま何とか目だけは覚ましたシャラマン君へと近づいていった。
「あなたが負けた理由は、あなたが大事にしなかったいろいろなことのせいなの」
私はそこから、偏食が健康を損なうこと、魔法力の回復を妨げること、あなたのために準備をしてくれた子供たちに当たり散らすような態度をし、大事な食料を無駄にするような行動が、結局あなたを追い詰めたのだと話した。
「しっかり食べて、十分な睡眠をとっていれば十分回復するはずの魔法力も、あなたは完全に回復してなかったでしょう?
それに魔法力が少なくなってきたとき、不健康なあなたの躰は、早々にそれを支えきれなくなり倒れてしまった……健康だったら、ここまでひどい倒れ方はしなかったはずなのにね」
シャラマン君は私の言葉に驚きの表情を浮かべ、思い当たることがあったのだろう、何とも恥ずかしそうな表情をしていた。
私はここでもクッキーを渡し、シャラマン君に生活態度の反省を促してからそばを離れ、彼はまたも気を失ってしまった。
でも、クッキーの袋を胸に抱き、タンカで運ばれていくシャラマン君は、妙に清々しい表情で眠っていて、憑き物が取れたような穏やかな顔をしていた。
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