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4 聖人候補の領地経営
724 庭掃除
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724
私の〝覇者決定戦〟出場のニュースは、光の勢いで〝孤児院〟中を駆けめぐった。
もともと娯楽などないここでの生活では、こうした魔法の試合は数少ない盛り上がるイベントらしいが、その中でも〝孤児院〟のトップを決める〝覇者決定戦〟は、全員が注目する一大イベントなのだという。
「本当にすごいですね。まだここへいらしたばかりなのに、いきなり〝覇者決定戦〟だなんて!」
「ははは……そうね。びっくりね」
いま私は、庭の掃除に参加している。
もちろん、八組の私にはこれをする義務はないのだが、一般生徒の話を聞いておきたかったこともあり〝体力作りの一環〟と適当なことを言って、下位の組の子たちに混じって働いている。この行為自体が相当珍しかったのと、八組の寮生と話せる機会がうれしいのとで、私の周りにはたくさんの子たちが集まって、話しかけたそうにしていたので、私の方から積極的に笑顔で接し話しかけていった。
私のフレンドリーな対応に、少し緊張が解けたらしい子たちが、いろいろと内情を教えてくれる。
「きっと他の八組の皆さんは、魔法の練習に明け暮れているはずです。本当にこんなところで、お掃除などしていてよろしいのですか?」
序列が染み付いている子供たちは、八組の私には明らかに年下であっても敬語を崩さない。
その子たちの話を総合すると〝覇者決定戦〟は基本的に序列を争うための競技であり、勝負が決まればそれ以上の攻撃は行われない。だが、上位の組によるものになると、それでも大怪我になることもあり、ときには明らかなやり過ぎもあるそうだ。強い魔術師に対して〝孤児院〟は何も言わないということをわかっていて、気に入らない相手に対する公開リンチとしてこの試合を利用しているフシがあるという。
「ここでの私闘は許されていませんが、試合中に怪我を負わせることは容認されているので……」
「それは困ったことね。教育上いいとは思えないんだけどなぁ」
「きっと八組の方々は怪我を負わせるようなきつい攻撃をしてきますよ。本当に、お掃除などしている場合じゃ……」
みんなとても私のことを心配している様子だ。きっと過去にもそういったリンチまがいの試合があったのだろう。それに見た目だけでは、私が彼らに勝てるようには絶対見えないだろうから、彼らがのほほんとしている私に不安を感じるのも当然といえば当然だ。
ともかく私は彼らに心配をかけないよう、ごく普通の態度で接していく。
「平気、平気。それにしても広いわね。まずは落ち葉よね、庭ほうきはどこかしら?」
「ああ、それでしたら、まずは《流風》で葉っぱを集めましょう」
子供たちは風を起こす基礎魔法《流風》を使って、散った葉っぱを集め始めた。
「なるほど、これはいいわね」
私も一緒に《流風》を使って草を集めていく。ただし、私は《流風》を複数展開してそれぞれを操作した。あっという間に見える範囲の草が一箇所へと集まる様子に、歓声が上がる。
「わぁ! すごいですね。早い!」
「複数展開ですか!? あっという間に終わりました!」
私の魔法に驚きながらも、子供たちは楽しそうにしている。彼らにとって魔法の技能の高さは、そのまま尊敬や憧れになっているようだ。
「ここでは、魔法を生活の中で使うのが当たり前なのね」
私の言葉に、子供たちは不思議な顔だ。この子たちにはそれが当たり前ということなのだろう。みていると、水は運ばず魔法で作り出しているし、火を起こす、物を運ぶ、掃除をする……とにかく、あらゆる場面で魔法を使っている。
生活の中で魔法を使うのは、私のように使いきれないほどの膨大な魔法力を持つ人間だけかと思っていたのに、決してそうではない子たちも、かなりの量の魔法力を生活の中で消費していた。
「あのね……魔法力は魔法の修練に使うように持っていた方がいいんじゃないの? こうして生活に使ってしまったら、それだけ訓練できる機会が減ってしまうんじゃないの?」
「それはそうなんですが、ご覧の通り私たちは非力で、普通に動いていては全然仕事が終わらないのです。それでどうしても魔法に頼るようになってしまっていて……」
実際は非力なだけじゃない。彼ら下位の組の子たちは食事すら十分とは言い難く、成長に必要な食事量に足りているかもあやしいのだ。そんな状況で体力のいる仕事が長時間できるわけもない。
そして〝孤児院〟側も、それを容認している。もしかしたら〝孤児院〟は、この子たちを魔術師として育てようとする気さえあまりなのかもしれない。自ら誘拐までして集めておきながら、下位の組の子たちを才能のある子たちを支えるためだけの存在とでも考えているのだろうか。
なんだかムカついてきた私は、一旦彼らから離れ、自分の部屋へと戻りあるものを持って戻った。
「いまから私の魔法を見せてあげる! ちょっと場所を空けてね」
そこから私は《土魔法》で土を動かして柔らかくし、そこに手に持っていた種芋を置いた。そのあと、手を土の上に置き《緑の手》を発動。一同が目を丸くしている間にスルスルと茎は伸び、いくつかの芽が種芋から出てきた。それを切り取り、畑に植えていけばさつま芋畑の完成だ。さらに《緑の手》を発動すれば、それぞれの苗からグングン緑の大きな葉を広げていき、見事なさつま芋があっという間に出来上がった。
そこで、さらに振動系《土魔法》で土を動かして、さつまいもを掘り出すと、《風魔法》で作った渦に《水出》で水を作り出しその中で芋を洗った。
「はい、収穫終了! さあみんな、集めた落ち葉でこれを焼いて食べましょう!」
私の作業をあっけに取られて見ていた子供たちが、何か食べられるらしいと知って、わっと集まってくる。
(本当は紙を濡らして包んであげると、さらに美味しくできるんだけど、それはさすがにやりすぎかな。まだ、ここには紙文化がそこまで浸透していない感じだしね)
さつま芋はじっくりと火を通せば甘さが増す。大量の落ち葉で焼き上げるまでの時間に、みんなで残りの掃除を終え、私が耕した土も元に戻しておいた。後に楽しみが待っていると思うだけで、子供たちの動きは良くなり、作業はとても捗った。
そして、ついに焼き上がりの時間。あたりには甘く香ばしい香りが漂い、いやがおうにも期待は高まっていく。
「さあ、食べてみましょうか」
私は笑顔ですでに熾火となった落ち葉の中から、笑顔で最初の焼き芋を取り出した。
私の〝覇者決定戦〟出場のニュースは、光の勢いで〝孤児院〟中を駆けめぐった。
もともと娯楽などないここでの生活では、こうした魔法の試合は数少ない盛り上がるイベントらしいが、その中でも〝孤児院〟のトップを決める〝覇者決定戦〟は、全員が注目する一大イベントなのだという。
「本当にすごいですね。まだここへいらしたばかりなのに、いきなり〝覇者決定戦〟だなんて!」
「ははは……そうね。びっくりね」
いま私は、庭の掃除に参加している。
もちろん、八組の私にはこれをする義務はないのだが、一般生徒の話を聞いておきたかったこともあり〝体力作りの一環〟と適当なことを言って、下位の組の子たちに混じって働いている。この行為自体が相当珍しかったのと、八組の寮生と話せる機会がうれしいのとで、私の周りにはたくさんの子たちが集まって、話しかけたそうにしていたので、私の方から積極的に笑顔で接し話しかけていった。
私のフレンドリーな対応に、少し緊張が解けたらしい子たちが、いろいろと内情を教えてくれる。
「きっと他の八組の皆さんは、魔法の練習に明け暮れているはずです。本当にこんなところで、お掃除などしていてよろしいのですか?」
序列が染み付いている子供たちは、八組の私には明らかに年下であっても敬語を崩さない。
その子たちの話を総合すると〝覇者決定戦〟は基本的に序列を争うための競技であり、勝負が決まればそれ以上の攻撃は行われない。だが、上位の組によるものになると、それでも大怪我になることもあり、ときには明らかなやり過ぎもあるそうだ。強い魔術師に対して〝孤児院〟は何も言わないということをわかっていて、気に入らない相手に対する公開リンチとしてこの試合を利用しているフシがあるという。
「ここでの私闘は許されていませんが、試合中に怪我を負わせることは容認されているので……」
「それは困ったことね。教育上いいとは思えないんだけどなぁ」
「きっと八組の方々は怪我を負わせるようなきつい攻撃をしてきますよ。本当に、お掃除などしている場合じゃ……」
みんなとても私のことを心配している様子だ。きっと過去にもそういったリンチまがいの試合があったのだろう。それに見た目だけでは、私が彼らに勝てるようには絶対見えないだろうから、彼らがのほほんとしている私に不安を感じるのも当然といえば当然だ。
ともかく私は彼らに心配をかけないよう、ごく普通の態度で接していく。
「平気、平気。それにしても広いわね。まずは落ち葉よね、庭ほうきはどこかしら?」
「ああ、それでしたら、まずは《流風》で葉っぱを集めましょう」
子供たちは風を起こす基礎魔法《流風》を使って、散った葉っぱを集め始めた。
「なるほど、これはいいわね」
私も一緒に《流風》を使って草を集めていく。ただし、私は《流風》を複数展開してそれぞれを操作した。あっという間に見える範囲の草が一箇所へと集まる様子に、歓声が上がる。
「わぁ! すごいですね。早い!」
「複数展開ですか!? あっという間に終わりました!」
私の魔法に驚きながらも、子供たちは楽しそうにしている。彼らにとって魔法の技能の高さは、そのまま尊敬や憧れになっているようだ。
「ここでは、魔法を生活の中で使うのが当たり前なのね」
私の言葉に、子供たちは不思議な顔だ。この子たちにはそれが当たり前ということなのだろう。みていると、水は運ばず魔法で作り出しているし、火を起こす、物を運ぶ、掃除をする……とにかく、あらゆる場面で魔法を使っている。
生活の中で魔法を使うのは、私のように使いきれないほどの膨大な魔法力を持つ人間だけかと思っていたのに、決してそうではない子たちも、かなりの量の魔法力を生活の中で消費していた。
「あのね……魔法力は魔法の修練に使うように持っていた方がいいんじゃないの? こうして生活に使ってしまったら、それだけ訓練できる機会が減ってしまうんじゃないの?」
「それはそうなんですが、ご覧の通り私たちは非力で、普通に動いていては全然仕事が終わらないのです。それでどうしても魔法に頼るようになってしまっていて……」
実際は非力なだけじゃない。彼ら下位の組の子たちは食事すら十分とは言い難く、成長に必要な食事量に足りているかもあやしいのだ。そんな状況で体力のいる仕事が長時間できるわけもない。
そして〝孤児院〟側も、それを容認している。もしかしたら〝孤児院〟は、この子たちを魔術師として育てようとする気さえあまりなのかもしれない。自ら誘拐までして集めておきながら、下位の組の子たちを才能のある子たちを支えるためだけの存在とでも考えているのだろうか。
なんだかムカついてきた私は、一旦彼らから離れ、自分の部屋へと戻りあるものを持って戻った。
「いまから私の魔法を見せてあげる! ちょっと場所を空けてね」
そこから私は《土魔法》で土を動かして柔らかくし、そこに手に持っていた種芋を置いた。そのあと、手を土の上に置き《緑の手》を発動。一同が目を丸くしている間にスルスルと茎は伸び、いくつかの芽が種芋から出てきた。それを切り取り、畑に植えていけばさつま芋畑の完成だ。さらに《緑の手》を発動すれば、それぞれの苗からグングン緑の大きな葉を広げていき、見事なさつま芋があっという間に出来上がった。
そこで、さらに振動系《土魔法》で土を動かして、さつまいもを掘り出すと、《風魔法》で作った渦に《水出》で水を作り出しその中で芋を洗った。
「はい、収穫終了! さあみんな、集めた落ち葉でこれを焼いて食べましょう!」
私の作業をあっけに取られて見ていた子供たちが、何か食べられるらしいと知って、わっと集まってくる。
(本当は紙を濡らして包んであげると、さらに美味しくできるんだけど、それはさすがにやりすぎかな。まだ、ここには紙文化がそこまで浸透していない感じだしね)
さつま芋はじっくりと火を通せば甘さが増す。大量の落ち葉で焼き上げるまでの時間に、みんなで残りの掃除を終え、私が耕した土も元に戻しておいた。後に楽しみが待っていると思うだけで、子供たちの動きは良くなり、作業はとても捗った。
そして、ついに焼き上がりの時間。あたりには甘く香ばしい香りが漂い、いやがおうにも期待は高まっていく。
「さあ、食べてみましょうか」
私は笑顔ですでに熾火となった落ち葉の中から、笑顔で最初の焼き芋を取り出した。
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