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4 聖人候補の領地経営
691 叙勲式典の始まり
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691
叙勲式典は、帝国にとって大きな意味のある重要な行事だ。
多くの貴族や重要な仕事に就いている者にとって、この〝叙勲〟という名誉は何ものにも変えがたい価値を持っている。下位の叙勲は、格別な褒賞もなく名誉と勲章が与えられるだけなのだが、それでも帝国の皇帝に直接授与されるという栄誉は、彼らにとって輝かしいものなのだ。
もちろん重要な任務を果たした叙勲者たちには、高価な品物や報奨金、領地の増加といった大きな褒美が与えられる。こうした帝国に大いに貢献した重要人物が一堂に会すということにも大きな意味がある。
僕たち皇族にとっては、そういった有能な国を支える人材と直接知己を結ぶことができる貴重な機会となるからだ。こうした機会に有能な人材を自分の側近に取り立てたり、知識を得たりすることができれば、将来必ず役に立つし、帝国のためになるはずだ。
「ユリシル、早いね。僕が最初かと思っていたよ」
ラスレイ兄上が、皇族のために用意された控えの間に現れた。この兄は、母こそ違うが、一番気の合う兄弟だ。生真面目で穏やかな彼は、魔法学校卒業後、士官学校へと進み、着々と目標に向かっている。彼は魔法騎士として国防を担うつもりのようで、最近は軍部にもよく出入りしているらしい。きっと今回の受勲者の中から武芸に秀でた者を探すつもりだろう。
「ラスレイ兄上、今日はメアリ嬢はご一緒ではないのですか?」
「もちろん同伴するが、女性は支度に時間がかかるからね」
メアリは、兄上の婚約者でバーリスタ侯爵家の三女。このふたりは昔から仲が良く、本人たちも周囲も自然に認める形で、この間正式に婚約した。もっと早く婚約していてもおかしくはなかったのだが、メアリの魔法力があまり高くないことにラスレイ兄上の母君が難色を示されていたせいで、ずいぶん時間がかかってしまったのだ。
(とはいっても、ギリギリ魔法学校に入れないというだけで、十分高い魔法力なんだがな)
ともあれ相思相愛のふたりは粘り強く周囲を説得し、いまではメアリは公式行事でもラスレイ兄と同伴できるような立場になっている。きっと士官学校を卒業したら、すぐ結婚ということになるだろう。
一番上の兄はすでに結婚していて、現在婚約者もいない状況なのは僕とエーデン兄上のふたりだ。
第四、第五皇子の立場となると、上の兄たちほどの結婚への圧力がないので、興味がなさそうにしていることで、周囲からのさまざまな紹介攻撃もいままではなんとか回避できていた。
(正直なところ、僕はそんなことにかまける時間があったら魔法を磨きたいし、他にも勉強したいことが沢山ある。結婚なんて、はるか先で全然構わない……けれど……)
そんな物思いにふけっていると、メアリや兄たちも揃い、いよいよ式典の時刻が近づいてきた。
僕らはそこから自分たちの立ち位置に案内され、壇上に登場すると拍手で迎えられた。
すでに広間の中は大勢の人々で埋め尽くされている。正装に身を包んだ人々は、どの顔も緊張と高揚で少し赤みを帯びていて、どことなくソワソワして見える。
(多くの人はこの日のために遠い領地からわざわざパレスまでやってきている。移動だけでも大変だな……)
大昔、北東部州の軍事施設まで行き来したときの長い行軍を思い出しながら、彼らの移動の大変さに思いを馳せていると、ファンファーレが鳴り響いた。
「皇帝陛下、ならびに皇后陛下のお出ましにございます」
その声とともに、一同は片膝を折りひざまづく。身を低くして陛下の言葉を待つのだ。
「この国のために力を尽くしてくれる者たちよ、その面を上げよ。この式典は、皆のこの国への忠誠を称えるめでたき祝いの席である。さぁ、式典を始めよ!」
その声とともに、立ち上がった臨席者から大きな拍手が沸き起こり、「皇帝陛下万歳!」「シド帝国に栄光あれ!」といった言葉が飛び交った。
それが収まると、まずは下位の受勲者の発表が行われる。十人が名を呼ばれ、皇帝の前に進み出てひざまづき、代表者に勲章を渡す。これが、十五回ほど繰り返された。直接勲章を渡された者たちの緊張と興奮は凄まじいもので、倒れる者や感涙の大泣きをしてしまう者が出るのも毎年のことだ。
今年は緊張のあまり動けなくなって壇上から転げ落ちた者まであったが、大きな怪我には至らず式典は続行された。
次は五人ひと組で呼ばれ、ひとりひとり勲章が渡される。彼らの多くは戦闘での活躍に対する受勲なので、多くは恰幅の良い男たちだ。だが、中には数人の小柄な男女もいる。彼らは魔術師、そのほとんどは国家魔術師だ。
(どんな功績での叙勲なのか、彼らに聞いてみたいな……)
そんなことを考えていると、一旦の休憩が告げられた。この一時間ほどの休憩は、飲み物や軽食も提供され、緊張している受勲者たちも一息つける時間だ。
兄たちは早速目をつけていたらしい受勲者にお祝いを言いながら会話を始めている。
(さすが行動が早いな……)
僕も時間を無駄にはできない。早速、先ほど勲章を受け取っていた魔術師たちのいる方へ足早になり過ぎないよう気をつけながら向かっていった。
(いったいどんな話が聞けるだろうか。楽しみだ)
叙勲式典は、帝国にとって大きな意味のある重要な行事だ。
多くの貴族や重要な仕事に就いている者にとって、この〝叙勲〟という名誉は何ものにも変えがたい価値を持っている。下位の叙勲は、格別な褒賞もなく名誉と勲章が与えられるだけなのだが、それでも帝国の皇帝に直接授与されるという栄誉は、彼らにとって輝かしいものなのだ。
もちろん重要な任務を果たした叙勲者たちには、高価な品物や報奨金、領地の増加といった大きな褒美が与えられる。こうした帝国に大いに貢献した重要人物が一堂に会すということにも大きな意味がある。
僕たち皇族にとっては、そういった有能な国を支える人材と直接知己を結ぶことができる貴重な機会となるからだ。こうした機会に有能な人材を自分の側近に取り立てたり、知識を得たりすることができれば、将来必ず役に立つし、帝国のためになるはずだ。
「ユリシル、早いね。僕が最初かと思っていたよ」
ラスレイ兄上が、皇族のために用意された控えの間に現れた。この兄は、母こそ違うが、一番気の合う兄弟だ。生真面目で穏やかな彼は、魔法学校卒業後、士官学校へと進み、着々と目標に向かっている。彼は魔法騎士として国防を担うつもりのようで、最近は軍部にもよく出入りしているらしい。きっと今回の受勲者の中から武芸に秀でた者を探すつもりだろう。
「ラスレイ兄上、今日はメアリ嬢はご一緒ではないのですか?」
「もちろん同伴するが、女性は支度に時間がかかるからね」
メアリは、兄上の婚約者でバーリスタ侯爵家の三女。このふたりは昔から仲が良く、本人たちも周囲も自然に認める形で、この間正式に婚約した。もっと早く婚約していてもおかしくはなかったのだが、メアリの魔法力があまり高くないことにラスレイ兄上の母君が難色を示されていたせいで、ずいぶん時間がかかってしまったのだ。
(とはいっても、ギリギリ魔法学校に入れないというだけで、十分高い魔法力なんだがな)
ともあれ相思相愛のふたりは粘り強く周囲を説得し、いまではメアリは公式行事でもラスレイ兄と同伴できるような立場になっている。きっと士官学校を卒業したら、すぐ結婚ということになるだろう。
一番上の兄はすでに結婚していて、現在婚約者もいない状況なのは僕とエーデン兄上のふたりだ。
第四、第五皇子の立場となると、上の兄たちほどの結婚への圧力がないので、興味がなさそうにしていることで、周囲からのさまざまな紹介攻撃もいままではなんとか回避できていた。
(正直なところ、僕はそんなことにかまける時間があったら魔法を磨きたいし、他にも勉強したいことが沢山ある。結婚なんて、はるか先で全然構わない……けれど……)
そんな物思いにふけっていると、メアリや兄たちも揃い、いよいよ式典の時刻が近づいてきた。
僕らはそこから自分たちの立ち位置に案内され、壇上に登場すると拍手で迎えられた。
すでに広間の中は大勢の人々で埋め尽くされている。正装に身を包んだ人々は、どの顔も緊張と高揚で少し赤みを帯びていて、どことなくソワソワして見える。
(多くの人はこの日のために遠い領地からわざわざパレスまでやってきている。移動だけでも大変だな……)
大昔、北東部州の軍事施設まで行き来したときの長い行軍を思い出しながら、彼らの移動の大変さに思いを馳せていると、ファンファーレが鳴り響いた。
「皇帝陛下、ならびに皇后陛下のお出ましにございます」
その声とともに、一同は片膝を折りひざまづく。身を低くして陛下の言葉を待つのだ。
「この国のために力を尽くしてくれる者たちよ、その面を上げよ。この式典は、皆のこの国への忠誠を称えるめでたき祝いの席である。さぁ、式典を始めよ!」
その声とともに、立ち上がった臨席者から大きな拍手が沸き起こり、「皇帝陛下万歳!」「シド帝国に栄光あれ!」といった言葉が飛び交った。
それが収まると、まずは下位の受勲者の発表が行われる。十人が名を呼ばれ、皇帝の前に進み出てひざまづき、代表者に勲章を渡す。これが、十五回ほど繰り返された。直接勲章を渡された者たちの緊張と興奮は凄まじいもので、倒れる者や感涙の大泣きをしてしまう者が出るのも毎年のことだ。
今年は緊張のあまり動けなくなって壇上から転げ落ちた者まであったが、大きな怪我には至らず式典は続行された。
次は五人ひと組で呼ばれ、ひとりひとり勲章が渡される。彼らの多くは戦闘での活躍に対する受勲なので、多くは恰幅の良い男たちだ。だが、中には数人の小柄な男女もいる。彼らは魔術師、そのほとんどは国家魔術師だ。
(どんな功績での叙勲なのか、彼らに聞いてみたいな……)
そんなことを考えていると、一旦の休憩が告げられた。この一時間ほどの休憩は、飲み物や軽食も提供され、緊張している受勲者たちも一息つける時間だ。
兄たちは早速目をつけていたらしい受勲者にお祝いを言いながら会話を始めている。
(さすが行動が早いな……)
僕も時間を無駄にはできない。早速、先ほど勲章を受け取っていた魔術師たちのいる方へ足早になり過ぎないよう気をつけながら向かっていった。
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