上 下
501 / 813
4 聖人候補の領地経営

690 叙勲式典直前

しおりを挟む
690

私が公式に領主として認められるために行わなければならない第二のミッション〝盛大な領主就任祝いの宴を開催する〟は、無事成功することができた。

各方面から今回のパーティーは高い評価を受けたようで、全体総指揮を担当したサイデム商会の催事部は、その独創性と優秀さをパレスでも知らしめることができた。もちろん今回の宴を主催したサガン・サイデム男爵の評判も大いに上がることになり〝帝国の代理人〟の実力もパレス中に轟かせることとなった。

催事部にはパーティー直後から捌き切れないほどの引き合いが来ているそうで、驚いたことに今回の叙勲予定者から急遽パーティーを仕切ってはもらえないかという無茶な依頼がきたそうだ。

私の宴があまりにも評判が良かったため、比較されて貶められたくないという方々が、なんとか形だけでも〝サイデム商会催事部〟風に、いまからでも変更して開きたいと泣きついてきているという。だが、これだけの規模の宴となると数日でなんとかなるといった簡単なものではない。私のパーティーも、多くの方々の協力を得て、それでも軽く二か月は準備に費やしたのだ。

「そのようなご依頼は、さすがにお断りさせていただいております。以前ならば、こういったゴリ押しの無茶な依頼への対応には一苦労でございましたが、サイデム様が〝帝国の代理人〟となられてからは、以前よりお断りしやすくなって助かっております。もうすでに、来年の叙勲を予定されている方々からの予約も入っておりますし、催事部はさらに忙しくなりそうです」

私が今回のお礼にと、催事部の皆さんに差し入れのお菓子を持っていったとき、嬉しそうにやや興奮気味に催事部の方がそう言っていた。この部署はまだまだ成長しそうだ。

他にも大きく評判を上げた人たちがいる。

パーティーの直後から、イスの芸人ギルドには、パレスからの音楽家や舞姫の派遣依頼が殺到しているそうで、幹事のケイト・マシアさんから、イスの芸術家たちの大変良いお披露目の機会になった、という《伝令》がきていた。なんでも、パレスからの依頼は出張費も含め通常の報酬の二倍三倍とふっかけられるそうで、大変実入りがいい仕事なのだそうだ。

「イスの芸術がパレスで認められたということも、本当に嬉しいことでしたわ。素晴らしい機会を与えてくださったマリス伯爵さまに心より感謝申し上げます」

その《伝令》の声は弾んでいて、私も嬉しくなった。

イス一丸となってのパーティーは、ちゃんとイスの皆さんにも色々な利益をもたらしてくれた。有意義な宴ができて私も嬉しい。

(後は式典への出席とお茶会を終えれば終了……気を抜かずに頑張ろう!)

ーーーーー

そしてやってきた叙勲式典前日。

お茶会用のシツラえのため、私は予定通り皇宮に入り、指定された控え室を整えることにした。セーヤとソーヤそしてセイツェさんもお呼びして、一日中ドタバタと準備していたので、まだこれからだというのに、前日ですでにかなり疲れている。

とはいえ、張り切って働いた自分のせいではある。通常はこのお茶会準備については、貴族たちは指示を出すことはあっても自らが動いて設営までするということはまずないそうだ。指示すらせず丸投げで、お茶会のホスト役をするだけの方々も多く、どちらかといえば家令やそれぞれの家の使用人たちの実力が試される催しなのかもしれない。

(でも、私にはそんなにたくさん使用人なんていないからね。うちは少数精鋭なんだもん)

ともかくなんとか設営を終えた私は、一秒でも長く寝て髪とお肌の調子を整えるようにとセーヤに厳命されて十二時直前になんとか就寝。そして朝五時にセーヤに叩き起こされた。式典のためのドレスを整え、化粧そしてヘアメイクをするためだ。

「メイロードさま、式典のため九時には会場にお入りにならなければなりません。さあ、急いでお支度を!」

「ふぁーい、でも眠い……」

ノロノロと起き上がった私は、疲れ知らずの妖精さんにバスルームへ追い立てられた。

「本日はこちらのコンディショナーをしっかり髪に浸透させてください」

渡されたのは異世界から購入しているヘアケアグッズの中でも最高級のもの。アミノ酸・コラーゲンその他モロモロたっぷり配合の逸品。

(セーヤ、今日も気合入ってるなぁ……)

まだ寝ぼけマナコの私はそれを受け取り、イスのマリス邸にも作った半露天の魔石温泉に浸かってなんとか目を覚まそうとした。

それでもまだシャキッとしないお風呂上がりの私は、セーヤにされるがまま、まずはタオルドライで髪を乾かされ、セーヤによりこちらも進化中の〝魔石ドライヤー〟でさらにお手入れ、髪の状態を厳しくチェックされた。

「さすが、このコンディショナーは素晴らしいです! この光沢! この輝き! こんなにも美しい髪をこの手で手入れできるなんて、ああ本当に夢のようです」

「あ、そう……それはよかったわ……」

朝からハイテンションのセーヤにやや引きつつ、おとなしく髪の手入れをしてもらっていると、ソーヤがレモネード風の爽やかな味のジュースを持ってやってきた。

「おはようございます。朝からお風呂に放り込まれて喉が渇かれたでしょう。こちらをどうぞ」

「ありがとう、ソーヤ。今日はこんな状態なので、朝食はお願いするね」

「はい、もちろん! 本日はエッグベネディクトにコーンスープ、チョップドサラダの梅ドレッシング添えをご用意いたしました。ちゃんとメイロードさまに教えていただいた通りにできているといいのですが……」

「ソーヤなら大丈夫。博士たちが来たら先に出してあげてね。私はまだしばらくかかるから」

私の言葉にソーヤがちょっとセーヤをにらむ。

「メイロードさまにあまりご負担をかけるなよ」

だが、髪のお手入れに夢中のセーヤには全然聞こえていない。私とソーヤは顔を見合わせて苦笑い。

「では、メイロードさま、その〝髪バカ〟から解放されましたらキッチンへおいでくださいませ。出来立ての朝食をお出しいたします」
「ありがとソーヤ、じゃ後で」

こうして私の忙しい叙勲式典の一日は幕を開けたのだった。

(ああ、まだネム……)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。