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4 聖人候補の領地経営
689 皇子たちの狙い
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689
皇子様たちはまだまだ食べ足りなそうにしていたが、三十分ほどでご退席されることになった。
「本当はもっとラーメンも食べたいし、君とももっと話したかったんだけれど……」
退席の間際、ものすごく残念そうにユリシル皇子はそう言った。
この時期に開かれる多くのパーティーへ出席しなければならない皇族の皆様方は、余計な憶測を生まぬよう、ひとつのパーティーに長居をしないというのが不文律なのだそうだ。三十分はその中でもギリギリの長時間だったらしい。
「僕もメイロードとはあまり話せなくて残念だよ。また次の機会に、いろいろ話をしたいね」
エーデン皇子も名残惜しそうに、そう言って帰っていかれた。
おふたりをお見送りした後は、さすがに少し緊張がとけて、私も一息つく感じになり、会場全体も、少し緩んだ感じだ。
(やはり皇族が会場にいるというのは、特殊な緊張感を生むんだなぁ……)
皇子たちのお相手をしている間は、まったく食べ物に手をつける余裕がなかったので、蜂蜜を溶かした薔薇水で少し喉を潤しつつ休憩状態になっていた。
私の様子にルミナーレ様とアリーシアが、少し気の毒そうに笑っている。
「さすがのメイロードでも、やはり皇子様のお相手は緊張したのよね」
貴族になりたての私を気遣って、座持ちをよくしてくれていたおふたりには本当に感謝している。やはり、上級貴族は場数が違うと感心した。私はといえば、料理の説明以外は、基本笑顔で相槌を打つの一択でなんとか乗り切ったという感じだ。
(皇子様を罵倒しかけたり……私の社交術は0点だわ……)
「みなさまに助けていただいて、なんとか主賓の面目を保つことができました。ありがとうございました」
私は自分の行動を反省しつつお礼を言った。
「メイロード、大丈夫。あなたはよくやっていましたよ」
ルミナーレ様からは、そんな私の態度でも、なんとか及第点はいただけたようだ。あのひとこと以外は、特に問題はなかったようで、ホッとした。
「エーデン様はますます素敵になられていて、私も少し緊張しちゃったわ。でも、こんなに間近でお話しできる機会は多くないもの。今日はいい日。メイロードも、一度にふたりの皇子様にお会いできるなんて、本当に幸運よ」
アリーシアはこの突然訪れた王子様たちとの親しい会話がよほど楽しかったらしく、まだ少し夢見心地の様子で、頬は紅潮したままだしすこぶる上機嫌だ。思わぬ皇子様たちとの出会いに、いろいろ妄想が膨らんでいるのかもしれない。
そんな娘の様子を見ながら、ルミナーレ様は私にこっそり耳打ちをした。
「アリーシアには気の毒で言えませんけれど、おふたりともあなたに会いにいらしたのよ、メイロード」
「え、それはどういう……」
追究しようとする私に、ルミナーレ様は艶然と微笑み、後は普通の会話に戻ってしまった。
私はといえば、なんだかよくわからないまま、その後次々にやってきた上流貴族の皆さんへ挨拶を繰り返し、最後の主賓挨拶を迎え、多くの方々に拍手でお祝いを受け会場を後にした。
グッタリして、控え室に戻った私のところに、おじさまがやってきたので、パーティーの間ずっと気にかかっていたルミナーレ様の意味深な言葉の意味を聞いて見ることにした。
「サイデムおじさま。今日は私のためにこのような盛大な祝宴を用意していただき本当にありがとうございました。みなさまからの評判もよかったようで、成功できてほっとしました。ところで、ルミナーレ様に皇子様たちは〝私に会いにきた〟って言われたんですけど、どういう意味なんですかね?」
さすがに気疲れしたのか、襟を緩めてソファーへ躰を預けるように座ったおじさまが、少し鋭い目で私を見た。
「ルミナーレ様の言われる通りさ。メイロード・マリス新伯爵を皇子たちは〝見にきた〟のさ」
「はぁ……」
ピンとこない私に、若干のイラつきを見せながら、おじさまがさらに言った。
「つまりだな、お前は皇子の妃候補に入ったってことだ、それも有力な候補としてな! まさかふたりもやってくるとは予想外だったが、相手として可能性のある娘たちには、こうして必ず公式の場で話をする機会を作られるんだよ」
「は、はあ!? 妃候補ぉ? 私がですが? いやいやいやいや」
大きく手を振って全否定しようとする私に、サイデムおじさまは真面目な顔でさらに言う。
「いいか、お前は貴族だ。それも俺のような一代貴族とは違う、長年続く名門貴族であるシルベスター公爵家の血を引く娘だ。しかも、誰一人弟子を持ったことのなかったハンス・グッケンス博士の内弟子であり、魔法学校の競技会で優勝するほどの腕がある。妃になるために必須の高い魔法力もあると思われているはずだ」
どうやら、私はいろいろな点でお妃候補の条件を満たしてしまっているらしい。
「だが、今回のことは悪いことばかりじゃない」
おじさまが言うには、公式のパーティーへわざわざ皇子がお出ましになったという事実が広まれば、他の求婚者に付き纏われる可能性が低くなるのだそうだ。
「幸いお前はパレスにまったくいなかったから、いままではそれを匂わす誘いがあっても、俺のところで適当に断れていたが、いつまでもそれをしてはいられないからな。皇子の妃候補に上がっているという噂が立てば、それを盾にできる」
つまり私は煩わしい求婚騒動に遭遇しなくても済むらしい。
(っていうか、そんなのがきていたなんて全然知らなかった……)
「皇子様にお会いしたことが抑止になるとすれば、それはとてもありがたいですが……皇子様の方はどうなるんですか?」
「それはわからん!」
「わからんって……」
皇子様からの求婚がもしあった場合、波風立てずに断るのは相当難しそうだ。ただし、候補は多く皇子本人の意思もちゃんと加味されるので、積極的に近づかないようにする手は有効のようだ。
「では、これからもなるべくパレスに来ず皇子に会う機会も作らないようにします。いい評判についてもとにかく広がらないよう、慎重に行動しないといけないですよね」
私の言葉に、おじさまは
「慎重にねぇ……お前にそんなことができるとは思えないが……まあ頑張れ」
と言い、とりあえず結婚などする気は一切ない私の意思を尊重し、これからも私の後見人として一応盾にはなってくれると約束してくれた。
(正直、いまはそんなことにかまけている余裕はない!)
皇子様たちはまだまだ食べ足りなそうにしていたが、三十分ほどでご退席されることになった。
「本当はもっとラーメンも食べたいし、君とももっと話したかったんだけれど……」
退席の間際、ものすごく残念そうにユリシル皇子はそう言った。
この時期に開かれる多くのパーティーへ出席しなければならない皇族の皆様方は、余計な憶測を生まぬよう、ひとつのパーティーに長居をしないというのが不文律なのだそうだ。三十分はその中でもギリギリの長時間だったらしい。
「僕もメイロードとはあまり話せなくて残念だよ。また次の機会に、いろいろ話をしたいね」
エーデン皇子も名残惜しそうに、そう言って帰っていかれた。
おふたりをお見送りした後は、さすがに少し緊張がとけて、私も一息つく感じになり、会場全体も、少し緩んだ感じだ。
(やはり皇族が会場にいるというのは、特殊な緊張感を生むんだなぁ……)
皇子たちのお相手をしている間は、まったく食べ物に手をつける余裕がなかったので、蜂蜜を溶かした薔薇水で少し喉を潤しつつ休憩状態になっていた。
私の様子にルミナーレ様とアリーシアが、少し気の毒そうに笑っている。
「さすがのメイロードでも、やはり皇子様のお相手は緊張したのよね」
貴族になりたての私を気遣って、座持ちをよくしてくれていたおふたりには本当に感謝している。やはり、上級貴族は場数が違うと感心した。私はといえば、料理の説明以外は、基本笑顔で相槌を打つの一択でなんとか乗り切ったという感じだ。
(皇子様を罵倒しかけたり……私の社交術は0点だわ……)
「みなさまに助けていただいて、なんとか主賓の面目を保つことができました。ありがとうございました」
私は自分の行動を反省しつつお礼を言った。
「メイロード、大丈夫。あなたはよくやっていましたよ」
ルミナーレ様からは、そんな私の態度でも、なんとか及第点はいただけたようだ。あのひとこと以外は、特に問題はなかったようで、ホッとした。
「エーデン様はますます素敵になられていて、私も少し緊張しちゃったわ。でも、こんなに間近でお話しできる機会は多くないもの。今日はいい日。メイロードも、一度にふたりの皇子様にお会いできるなんて、本当に幸運よ」
アリーシアはこの突然訪れた王子様たちとの親しい会話がよほど楽しかったらしく、まだ少し夢見心地の様子で、頬は紅潮したままだしすこぶる上機嫌だ。思わぬ皇子様たちとの出会いに、いろいろ妄想が膨らんでいるのかもしれない。
そんな娘の様子を見ながら、ルミナーレ様は私にこっそり耳打ちをした。
「アリーシアには気の毒で言えませんけれど、おふたりともあなたに会いにいらしたのよ、メイロード」
「え、それはどういう……」
追究しようとする私に、ルミナーレ様は艶然と微笑み、後は普通の会話に戻ってしまった。
私はといえば、なんだかよくわからないまま、その後次々にやってきた上流貴族の皆さんへ挨拶を繰り返し、最後の主賓挨拶を迎え、多くの方々に拍手でお祝いを受け会場を後にした。
グッタリして、控え室に戻った私のところに、おじさまがやってきたので、パーティーの間ずっと気にかかっていたルミナーレ様の意味深な言葉の意味を聞いて見ることにした。
「サイデムおじさま。今日は私のためにこのような盛大な祝宴を用意していただき本当にありがとうございました。みなさまからの評判もよかったようで、成功できてほっとしました。ところで、ルミナーレ様に皇子様たちは〝私に会いにきた〟って言われたんですけど、どういう意味なんですかね?」
さすがに気疲れしたのか、襟を緩めてソファーへ躰を預けるように座ったおじさまが、少し鋭い目で私を見た。
「ルミナーレ様の言われる通りさ。メイロード・マリス新伯爵を皇子たちは〝見にきた〟のさ」
「はぁ……」
ピンとこない私に、若干のイラつきを見せながら、おじさまがさらに言った。
「つまりだな、お前は皇子の妃候補に入ったってことだ、それも有力な候補としてな! まさかふたりもやってくるとは予想外だったが、相手として可能性のある娘たちには、こうして必ず公式の場で話をする機会を作られるんだよ」
「は、はあ!? 妃候補ぉ? 私がですが? いやいやいやいや」
大きく手を振って全否定しようとする私に、サイデムおじさまは真面目な顔でさらに言う。
「いいか、お前は貴族だ。それも俺のような一代貴族とは違う、長年続く名門貴族であるシルベスター公爵家の血を引く娘だ。しかも、誰一人弟子を持ったことのなかったハンス・グッケンス博士の内弟子であり、魔法学校の競技会で優勝するほどの腕がある。妃になるために必須の高い魔法力もあると思われているはずだ」
どうやら、私はいろいろな点でお妃候補の条件を満たしてしまっているらしい。
「だが、今回のことは悪いことばかりじゃない」
おじさまが言うには、公式のパーティーへわざわざ皇子がお出ましになったという事実が広まれば、他の求婚者に付き纏われる可能性が低くなるのだそうだ。
「幸いお前はパレスにまったくいなかったから、いままではそれを匂わす誘いがあっても、俺のところで適当に断れていたが、いつまでもそれをしてはいられないからな。皇子の妃候補に上がっているという噂が立てば、それを盾にできる」
つまり私は煩わしい求婚騒動に遭遇しなくても済むらしい。
(っていうか、そんなのがきていたなんて全然知らなかった……)
「皇子様にお会いしたことが抑止になるとすれば、それはとてもありがたいですが……皇子様の方はどうなるんですか?」
「それはわからん!」
「わからんって……」
皇子様からの求婚がもしあった場合、波風立てずに断るのは相当難しそうだ。ただし、候補は多く皇子本人の意思もちゃんと加味されるので、積極的に近づかないようにする手は有効のようだ。
「では、これからもなるべくパレスに来ず皇子に会う機会も作らないようにします。いい評判についてもとにかく広がらないよう、慎重に行動しないといけないですよね」
私の言葉に、おじさまは
「慎重にねぇ……お前にそんなことができるとは思えないが……まあ頑張れ」
と言い、とりあえず結婚などする気は一切ない私の意思を尊重し、これからも私の後見人として一応盾にはなってくれると約束してくれた。
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