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4 聖人候補の領地経営

681 イスの新名所

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681

おじさまに連れて行かれたそこは屋台の並ぶ路地のような場所で、夜だというのにびっくりするほど多くの人で賑わっていた。

〝西ノ森味噌を使用した最高級味噌ラーメン!〟
〝たっぷり野菜の塩ラーメン、アキツ昆布を使った絶品のスープ〟
〝鳥出汁で食べるあっさり細打ち麺〟
〝超濃厚オーク骨スープ〟

店にはそれぞれの売り文句が掲げられていて、人々は楽しそうにあちこちの屋台を品定めしながら行き交い、どこも行列ができるほど繁盛している。

「おじさま……これって……」

「ここの営業を開始してから、まだ二か月ってところだが、どうだ? 大盛況だろう!」

自慢げなおじさまを見て、私はすべてを理解した。

ラーメン好きをこじらせにこじらせたサイデムおじさまは、ついにラーメン屋を集結させたいわゆる〝グルメストリート〟をイスに作ってしまったのだ。

「呆れた! イスのこんな地価の高い好立地に屋台を出させるなんて、おじさまが来やすい場所だからですよね? ちゃんと商売になっているんでしょうね!?」

私の言葉に少しむくれたおじさまは、すぐに言い返してきた。

「あ、当たり前だ! 誰が赤字の店なんぞ作るか! 見ろよ、この繁盛ぶりを! どの店も客でいっぱいだろうが!」

私はおじさまを疑り深くジトッと見つつ、とりあえずその屋台が連なる路地の様子を観察する。確かにそこはイスではかなりいい立地ではあるが、広い面積が取れない細い土地で、大きな店を建てることは難しい場所だった。

この形状の土地なら、確かにこのいい立地でも交渉次第では比較的安く手に入れられるかもしれない。おじさまのことだ、ちゃんと土地は購入済みで外に使用料を払ったりはしていないだろうから、賃料は総取りだろう。いずれ隣接した土地が買収できるまでの休眠地の利用としては、いいアイディアかもしれない。賃料を売り上げのパーセンテージで契約しているなら、流行りさえすれば儲けも期待できるだろう。

しかも、ここに出店するにはかなり厳しい選考を潜り抜けなければならないそうだ。イスでは私が広めてしまったせいで、他の土地に先駆けてラーメン文化が根付いてきているので、すでにかなり数のラーメン店がある。この場所への出店は、その中で選考を勝ち残った最高の店という称号を得られる晴れ舞台、しかも年に一度は入れ替え戦もあるという狭き門だそうだ。

(ラーメン甲子園とかそういう感じかな? それにしてもここまでやるとは、すごい情熱)

よく見ると、どの店も客単価はかなり高めに設定されている。ラーメンに三ポルなんてつけている店もあるのに、誰も全然気にしていないのは、この場所に出店されているというだけで付加価値がついている、ということのようだ。

まだまだラーメンが高級食として認知されているということもあるだろうけど、手の届く贅沢品と考えれば、比較的裕福なイスに住む人たちなら、庶民でも十分食べに来られる程度の価格というのがほどよいのかもしれない。この値段なら作る方もきっちり原価がかけられるから、しっかりした味のものが出せて、決して信用を落とすようなことは起こらないだろうし、どちらにもいい状況だ。

(さすがおじさまというべきね……これは流行るわ)

「おじさま、もしかして選考にも口を出してます?」
「当たり前だ! 選考会には必ず出ているし、ここにある店の看板商品は全部味見してるぞ。ふっふっふ」

得意げなおじさまに、私は頭を抱える。おじさまのラーメン好きは思った以上の暴走特急になってしまっていた。ついにはラーメンを食べることを仕事に取り込むまでになっているとは……

おじさまはスタスタと一軒の屋台に近づく。おじさまの姿が見えただけで、店の方は屋台の後ろに席を作ってくれていた。

「ここに出店する条件でな。俺の〝視察〟には即対応することっていうのがあるのさ」
「あっきれた! 強権発動ですね!」
「いいじゃねーかよ、そのぐらい。ここの屋台は半分は俺の店みたいなもんなんだし……」

確かにここの主催者はおじさまで、地権者で、選考委員でもある。多忙にすぎるおじさまに対して並んで食べろというのはそれはそれで無理だろうし……

元々がおじさまの食い意地……というかラーメン道楽から端を発した屋台村だ。最初の契約時からその条件になっているわけだし、ちゃんとお金は払っているんだし、一応店の裏に入るぐらいは気を使っていることだし……このぐらいの余禄は認めてもいいのかもしれない。

(それにしても幸せそうに大盛り味噌ラーメンを食べてるわね……さっき、あんなにご馳走を食べてきたのに……)

私は子供用サイズの小さな器で少しだけいただく。

(うん、なかなか美味しい。太めの縮れ麺にたっぷりの油が浮いていてこってり。スープにはやや雑味があるけど、油で蓋がされているからスープが冷めにくくて熱々なのが嬉しいね。でも、私にはちょっと油が強いかな……とはいえ、このコッテリ感は、シド好みではある……)

おじさまがもう食べ終わった器を置いて、私を見る。

「わかってるさ。まだまだどの店もお前の味にはたどり着けていない。だが、悪くもないだろう? この屋台村の店も、きっとどんどん旨くなっていくさ。先が楽しみだとは思わないか?」

「ふふ、おじさまのラーメン好きも、ここまで来ちゃいましたか。そうですね……もうこんなにたくさんの方たちが楽しむ味のなったんです。きっと、もっと美味しくなって行きますよ。ええ、楽しみですね」

「また、食べに来よう。俺といればどの店も顔パスだ」

「おじさまは、少し控えた方がいいんじゃないですか? 屋台の方に言っておこうかしら……すいませーん!」
「バカ! やめろよメイロード!!」

私とおじさまは軽口を叩き合いながら、新しいイスの名物、ラーメン屋台街を楽しんだ。
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