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4 聖人候補の領地経営
679 衣装合わせ
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679
「久しぶりね、エマさん、サーラさん」
笑顔で声をかけた私の姿を見てとてもうれしそうな様子を見せながらも、ふたりは貴族に対しての腰を落としたとても丁寧な挨拶をした。
「まぁ、恐れ多いことでございます。どうぞ、エマ、サーラとお呼びくださいませ、メイロードさま」
「そうでございますとも。どうかそうしてくださいませ。それにしても大きくなられましたね。もうすっかり淑女でいらっしゃいます」
「そ、そぉ?」
久しぶりに会ったので、ふたりは私の成長の様子がよくみえるようだ。まだまだちびっ子の私だが、さすがにあの頃に比べれば大きくなっているし、もうすぐ年相応になれる……はずだ。でも、ちゃんと成長していることを素直に褒められて、なんだかとても嬉しい。
「……にしても、これはすご過ぎない?」
サイデム商会の中にあるその部屋には、百や二百では到底きかない大量の織物のロールに、さまざまなアクセサリーや宝飾品、靴や小物が所狭しと並んでいる。その総額にしたら何十億にもなりそうな、まるでデパートをそのまま移動してきたかのようなゴージャスさ加減に、私は呆れて言葉を失っていた。
「サイデム商会のあらゆるツテを総動員いたしまして、厳選に厳選を重ねたお品物をご用意させていただきました」
「メイロードさまの晴れの舞台でございますもの。サイデム様からも、絶対に費用を惜しむことのないようにと厳命されておりますから」
「ああ……そう……」
そこからは完全に着せ替え人形タイム。今回のために招聘されたという超一流のお針子さん軍団に囲まれながら、一日中あーでもないこーでもないと着せ替え三昧。
「いったい何着作るの?!」
私が呆れ気味にそう聞くと、こともなげに最低でも十着と返してきた。
「な、なな、なんでそんなに!?」
もちろん何かで汚れてしまったり、破損してしまった場合の予備は必要だが、それ以外にも高貴な方がお召しになる衣装との兼ね合いや、当日の招待客にあわせてのお色直しも必要だそうで、男性でも最低五着は新調するそうだ。
(これは、またたくさんシュシュが作れそう……)
私は半ば呆れながら、少し笑った。
その後も、流行の襟がどうとか、パレスの人気はこちらだとか、わいわいと話し合いが続き、ようやく解放されたのは夕方。私は皆さんの熱に当てられてぐったりだった。
「おじさま、お久しぶりですーぅ……」
やっとサイデムおじさまの執務室に現れた私のやつれように、仕事をしながらおじさまは笑う。
「エマたちにだいぶ絞られてきたようだな。俺も三時間やられて死にそうになったぞ」
そういえばおじさまも発起人という立場、しっかり最新流行のパレスファッションの仮縫いをさせられたようだ。
「三時間で済むなら、私もここまで疲れませんよぉ~」
私はみるからにお高そうなソファーにドッカと腰をかけるとそのまま倒れ伏した。
「少し休んだら〝大地の恵み〟亭にいくぞ! それまでにシャキッとしろよ!」
仕事の書類に目を通しながらおじさまはそう言った。そんな予定は聞いていなかったので、私はびっくり。
「ええ、もう疲れましたよー。なんで今日なんですかぁ?」
おじさまが書類から目を離すことなく説明してくれたところによると、今回のパーティーのために、サイデム商会はあらゆる人に協力要請をしているのだそうだ。当然、イスの七傑には最初に応援要請がされた。皆快く〝どんな相談にものる〟と確約をくれたそうだが、それにはひとつだけ条件があった。
「お前に会わせろってうるさくてなぁ。急先鋒はもちろんレシータだが、他の連中も絶対お前に会って直接祝いの言葉をってきかなくてなぁ……で、まぁ……」
どうやら、さすがのおじさまも彼らの圧力に屈したそうだ。そこに私が衣装合わせにやってくることになったので、急遽宴席を用意した、という顛末らしい。
「なんなんだろうなぁ……お前はどうしてあいつらにそんなに好かれてるんだ? そう何度も会っているわけでもないだろうに……」
おじさまは不思議そうだが、そういえば、彼らとはなんやかんや因縁は深い……ような気もする。
「まぁ、この国で暮らしていればいろいろとお会いする機会もありますから……は、はは」
目が泳ぎ気味の私に、おじさまは怪訝そうな顔だ。
「なんだか、お前があちこちで盛大にやらかしている気しかせんが、まぁ、彼らの協力が得られるのは何にしても心強い。しっかり愛想を振りまけよ!」
「ふぁーい……」
相変わらずソファーにぐたっと横になり、クッションに寄りかかりつつ、私はウトウトしながらおじさまの仕事が終わるのを待った。
一時間ほど過ぎたところでおじさまから、
「そろそろ、時間切れだ! あとは戻ってからやる! いくぞ、メイロード」
と、起こされ、半分寝ていた私は目を擦りながら起き上がった。おじさまは、私の寝起きのぼんやりした顔を見て
「こんなんで領主が本当に務まっているのかねぇ……」
と、ちょっといじわるそうに笑った。
「ちゃんとやってますって! 見ててくださいよ、来年には絶対黒字転換してみせますからね!」
「ああ、いろいろやってるようだな。お前もほどほどにな」
「おじさまに言われても、説得力なさすぎですよ!」
私が間髪を入れずに返すと、上着を着ながらおじさまが
「まぁ、そうだな」
と笑った。
「さて、うまいもの食ってさっさと帰ってくるぞ!」
おじさまと私は執務室のドアを開け、すぐ隣にある〝大地の恵み〟亭へと足早に向かった。
「久しぶりね、エマさん、サーラさん」
笑顔で声をかけた私の姿を見てとてもうれしそうな様子を見せながらも、ふたりは貴族に対しての腰を落としたとても丁寧な挨拶をした。
「まぁ、恐れ多いことでございます。どうぞ、エマ、サーラとお呼びくださいませ、メイロードさま」
「そうでございますとも。どうかそうしてくださいませ。それにしても大きくなられましたね。もうすっかり淑女でいらっしゃいます」
「そ、そぉ?」
久しぶりに会ったので、ふたりは私の成長の様子がよくみえるようだ。まだまだちびっ子の私だが、さすがにあの頃に比べれば大きくなっているし、もうすぐ年相応になれる……はずだ。でも、ちゃんと成長していることを素直に褒められて、なんだかとても嬉しい。
「……にしても、これはすご過ぎない?」
サイデム商会の中にあるその部屋には、百や二百では到底きかない大量の織物のロールに、さまざまなアクセサリーや宝飾品、靴や小物が所狭しと並んでいる。その総額にしたら何十億にもなりそうな、まるでデパートをそのまま移動してきたかのようなゴージャスさ加減に、私は呆れて言葉を失っていた。
「サイデム商会のあらゆるツテを総動員いたしまして、厳選に厳選を重ねたお品物をご用意させていただきました」
「メイロードさまの晴れの舞台でございますもの。サイデム様からも、絶対に費用を惜しむことのないようにと厳命されておりますから」
「ああ……そう……」
そこからは完全に着せ替え人形タイム。今回のために招聘されたという超一流のお針子さん軍団に囲まれながら、一日中あーでもないこーでもないと着せ替え三昧。
「いったい何着作るの?!」
私が呆れ気味にそう聞くと、こともなげに最低でも十着と返してきた。
「な、なな、なんでそんなに!?」
もちろん何かで汚れてしまったり、破損してしまった場合の予備は必要だが、それ以外にも高貴な方がお召しになる衣装との兼ね合いや、当日の招待客にあわせてのお色直しも必要だそうで、男性でも最低五着は新調するそうだ。
(これは、またたくさんシュシュが作れそう……)
私は半ば呆れながら、少し笑った。
その後も、流行の襟がどうとか、パレスの人気はこちらだとか、わいわいと話し合いが続き、ようやく解放されたのは夕方。私は皆さんの熱に当てられてぐったりだった。
「おじさま、お久しぶりですーぅ……」
やっとサイデムおじさまの執務室に現れた私のやつれように、仕事をしながらおじさまは笑う。
「エマたちにだいぶ絞られてきたようだな。俺も三時間やられて死にそうになったぞ」
そういえばおじさまも発起人という立場、しっかり最新流行のパレスファッションの仮縫いをさせられたようだ。
「三時間で済むなら、私もここまで疲れませんよぉ~」
私はみるからにお高そうなソファーにドッカと腰をかけるとそのまま倒れ伏した。
「少し休んだら〝大地の恵み〟亭にいくぞ! それまでにシャキッとしろよ!」
仕事の書類に目を通しながらおじさまはそう言った。そんな予定は聞いていなかったので、私はびっくり。
「ええ、もう疲れましたよー。なんで今日なんですかぁ?」
おじさまが書類から目を離すことなく説明してくれたところによると、今回のパーティーのために、サイデム商会はあらゆる人に協力要請をしているのだそうだ。当然、イスの七傑には最初に応援要請がされた。皆快く〝どんな相談にものる〟と確約をくれたそうだが、それにはひとつだけ条件があった。
「お前に会わせろってうるさくてなぁ。急先鋒はもちろんレシータだが、他の連中も絶対お前に会って直接祝いの言葉をってきかなくてなぁ……で、まぁ……」
どうやら、さすがのおじさまも彼らの圧力に屈したそうだ。そこに私が衣装合わせにやってくることになったので、急遽宴席を用意した、という顛末らしい。
「なんなんだろうなぁ……お前はどうしてあいつらにそんなに好かれてるんだ? そう何度も会っているわけでもないだろうに……」
おじさまは不思議そうだが、そういえば、彼らとはなんやかんや因縁は深い……ような気もする。
「まぁ、この国で暮らしていればいろいろとお会いする機会もありますから……は、はは」
目が泳ぎ気味の私に、おじさまは怪訝そうな顔だ。
「なんだか、お前があちこちで盛大にやらかしている気しかせんが、まぁ、彼らの協力が得られるのは何にしても心強い。しっかり愛想を振りまけよ!」
「ふぁーい……」
相変わらずソファーにぐたっと横になり、クッションに寄りかかりつつ、私はウトウトしながらおじさまの仕事が終わるのを待った。
一時間ほど過ぎたところでおじさまから、
「そろそろ、時間切れだ! あとは戻ってからやる! いくぞ、メイロード」
と、起こされ、半分寝ていた私は目を擦りながら起き上がった。おじさまは、私の寝起きのぼんやりした顔を見て
「こんなんで領主が本当に務まっているのかねぇ……」
と、ちょっといじわるそうに笑った。
「ちゃんとやってますって! 見ててくださいよ、来年には絶対黒字転換してみせますからね!」
「ああ、いろいろやってるようだな。お前もほどほどにな」
「おじさまに言われても、説得力なさすぎですよ!」
私が間髪を入れずに返すと、上着を着ながらおじさまが
「まぁ、そうだな」
と笑った。
「さて、うまいもの食ってさっさと帰ってくるぞ!」
おじさまと私は執務室のドアを開け、すぐ隣にある〝大地の恵み〟亭へと足早に向かった。
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