利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

文字の大きさ
上 下
490 / 840
4 聖人候補の領地経営

679 衣装合わせ

しおりを挟む
679

「久しぶりね、エマさん、サーラさん」

笑顔で声をかけた私の姿を見てとてもうれしそうな様子を見せながらも、ふたりは貴族に対しての腰を落としたとても丁寧な挨拶をした。
「まぁ、恐れ多いことでございます。どうぞ、エマ、サーラとお呼びくださいませ、メイロードさま」
「そうでございますとも。どうかそうしてくださいませ。それにしても大きくなられましたね。もうすっかり淑女でいらっしゃいます」
「そ、そぉ?」

久しぶりに会ったので、ふたりは私の成長の様子がよくみえるようだ。まだまだちびっ子の私だが、さすがにあの頃に比べれば大きくなっているし、もうすぐ年相応になれる……はずだ。でも、ちゃんと成長していることを素直に褒められて、なんだかとても嬉しい。

「……にしても、これはすご過ぎない?」

サイデム商会の中にあるその部屋には、百や二百では到底きかない大量の織物のロールに、さまざまなアクセサリーや宝飾品、靴や小物が所狭しと並んでいる。その総額にしたら何十億にもなりそうな、まるでデパートをそのまま移動してきたかのようなゴージャスさ加減に、私は呆れて言葉を失っていた。

「サイデム商会のあらゆるツテを総動員いたしまして、厳選に厳選を重ねたお品物をご用意させていただきました」
「メイロードさまの晴れの舞台でございますもの。サイデム様からも、絶対に費用を惜しむことのないようにと厳命されておりますから」

「ああ……そう……」

そこからは完全に着せ替え人形タイム。今回のために招聘されたという超一流のお針子さん軍団に囲まれながら、一日中あーでもないこーでもないと着せ替え三昧。

「いったい何着作るの?!」

私が呆れ気味にそう聞くと、こともなげに最低でも十着と返してきた。

「な、なな、なんでそんなに!?」

もちろん何かで汚れてしまったり、破損してしまった場合の予備は必要だが、それ以外にも高貴な方がお召しになる衣装との兼ね合いや、当日の招待客にあわせてのお色直しも必要だそうで、男性でも最低五着は新調するそうだ。

(これは、またたくさんシュシュが作れそう……)

私は半ば呆れながら、少し笑った。
その後も、流行の襟がどうとか、パレスの人気はこちらだとか、わいわいと話し合いが続き、ようやく解放されたのは夕方。私は皆さんの熱に当てられてぐったりだった。

「おじさま、お久しぶりですーぅ……」

やっとサイデムおじさまの執務室に現れた私のやつれように、仕事をしながらおじさまは笑う。

「エマたちにだいぶ絞られてきたようだな。俺も三時間やられて死にそうになったぞ」

そういえばおじさまも発起人という立場、しっかり最新流行のパレスファッションの仮縫いをさせられたようだ。

「三時間で済むなら、私もここまで疲れませんよぉ~」

私はみるからにお高そうなソファーにドッカと腰をかけるとそのまま倒れ伏した。

「少し休んだら〝大地の恵み〟亭にいくぞ! それまでにシャキッとしろよ!」
仕事の書類に目を通しながらおじさまはそう言った。そんな予定は聞いていなかったので、私はびっくり。

「ええ、もう疲れましたよー。なんで今日なんですかぁ?」

おじさまが書類から目を離すことなく説明してくれたところによると、今回のパーティーのために、サイデム商会はあらゆる人に協力要請をしているのだそうだ。当然、イスの七傑には最初に応援要請がされた。皆快く〝どんな相談にものる〟と確約をくれたそうだが、それにはひとつだけ条件があった。

「お前に会わせろってうるさくてなぁ。急先鋒はもちろんレシータだが、他の連中も絶対お前に会って直接祝いの言葉をってきかなくてなぁ……で、まぁ……」

どうやら、さすがのおじさまも彼らの圧力に屈したそうだ。そこに私が衣装合わせにやってくることになったので、急遽宴席を用意した、という顛末らしい。

「なんなんだろうなぁ……お前はどうしてあいつらにそんなに好かれてるんだ? そう何度も会っているわけでもないだろうに……」

おじさまは不思議そうだが、そういえば、彼らとはなんやかんや因縁は深い……ような気もする。

「まぁ、この国で暮らしていればいろいろとお会いする機会もありますから……は、はは」

目が泳ぎ気味の私に、おじさまは怪訝そうな顔だ。

「なんだか、お前があちこちで盛大にやらかしている気せんが、まぁ、彼らの協力が得られるのは何にしても心強い。しっかり愛想を振りまけよ!」

「ふぁーい……」

相変わらずソファーにぐたっと横になり、クッションに寄りかかりつつ、私はウトウトしながらおじさまの仕事が終わるのを待った。

一時間ほど過ぎたところでおじさまから、

「そろそろ、時間切れだ! あとは戻ってからやる! いくぞ、メイロード」

と、起こされ、半分寝ていた私は目を擦りながら起き上がった。おじさまは、私の寝起きのぼんやりした顔を見て

「こんなんで領主が本当に務まっているのかねぇ……」

と、ちょっといじわるそうに笑った。

「ちゃんとやってますって! 見ててくださいよ、来年には絶対黒字転換してみせますからね!」
「ああ、いろいろやってるようだな。お前もほどほどにな」
「おじさまに言われても、説得力なさすぎですよ!」

私が間髪を入れずに返すと、上着を着ながらおじさまが

「まぁ、そうだな」
と笑った。

「さて、うまいもの食ってさっさと帰ってくるぞ!」

おじさまと私は執務室のドアを開け、すぐ隣にある〝大地の恵み〟亭へと足早に向かった。
しおりを挟む
感想 3,002

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。