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4 聖人候補の領地経営
671 異世界働き方改革
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671
「私が育てたいと考えているものは、沿海州が原産の〝イワムシ草〟という、大変特殊な生態を持つ植物です」
そう言うと私は以前沿海州で買い求めた〝イワムシ軟膏〟の瓶を机に置いた。
「これが〝イワムシ草〟を使った代表的な傷治療薬です。〝傷消し膏〟とも呼ばれている有名な沿海州の傷薬で、擦り傷や切り傷を治す効能があり、水に強いため水仕事の多い漁師が多い沿海州では古くから使われているものです。ですが、この〝イワムシ草〟最近は収穫量が激減してしまい、もうこの〝イワムシ軟膏〟も庶民の買える値段ではなくなってしまいました」
マズロさんはまじまじと、薄い水色をした軟膏を見つめたあと、私に笑顔を向けた。
「ご領主さまは、その〝イワムシ草〟を育てられようと……それは皆喜びましょう! われわれ農民もすり傷や切り傷は年中です。鬱陶しいのはもちろんですが、仕事がどうしても遅くなってしまい、イライラする原因にもなります。それに小さな怪我が元で命を落とす者だってたくさんいるのです」
「その通りです。傷口は清潔にして通気性を保つよう覆えば傷の治りも早いのですよ」
〝イワムシ草〟を塗ることで得られる治療効果は〝湿潤療法〟に非常に近いものだった。患部に潤いを持たせた状態で通気性を確保しながら保護するこの方法は、傷の治りが早くしかも修復状態もいいという元いた世界でも近年注目されていた治療法なのだ。絆創膏などにも取り入れられてきていたので、私も知ってはいたのだが、まさか異世界の植物で同じような効果が得られるとは思ってもみなかった。
〝イワムシ草〟を使ってできるこの軟膏は、通気性を確保しながらも水に強いという素晴らしい商品で、長年愛用されてきていることも納得の傷薬なのだ。
「〝イワムシ軟膏〟は、沿海州の外では販売されてきませんでした。とても需要に追いつかないからです。いまは、その沿海州の需要さえまったく賄えてないのですけどね……」
「ではご領主さまは……」
「ああ、メイロードでいいですよ。ご領主さまとか呼ばれると、自分が髭を生やしたいかつい男の人になったようで、なんとなく居心地が悪いので……みなさんにも是非そうお伝えください」
「わかりました、ご領……メイロードさま。では、かなりの広さの農地をお作りになるお考えなのでございますね。そういたしますと、斧やノコギリ、鍬ももっと必要に……」
マズロさんは、これから農地を作るためにこの地を切り開いていくのだと思っている様子だ。
そこで私は書いてきた地図を机に広げた。そこにはこの村と〝厭魅〟によって丸裸になっている土地の場所が示されている。
「なぜ、こんな森の中にこの広大な空き地があるのかについては、またいずれご説明しますね。当面はこの土地を使用して実験的な栽培を行なっていき、この土地一杯に〝イワムシ草〟が栽培できるようになった暁には、更なる開拓を考えるつもりです。まぁ、これだけの土地に〝イワムシ草〟が栽培できれば、十分特産品といえる規模になりますよ」
私のやろうとしている〝農業〟が、彼らの考えている〝農業〟とあまりに違っていたのか、マズロさんは少し戸惑っている様子だ。この〝イワムシ草〟に必要なのは、水でも柔らかい土でもなく〝日当たり〟だけだ。そう聞くと簡単に聞こえるかもしれないが〝イワムシ草〟が好むのはとんでもない光量の日当たり、彼らにはその維持のために動いてもらうことになる。
「ほかの草が生えて光を遮ったりしないように毎日手入れが必要なので、いくつかの組を作っていただき、それを順繰りに組み合わせるようにしましょう。働く人たちが週休2日になるように予定を作ってくださいますか?」
私の言葉にマズロさんがキョトンとしている。
「週休二日というのは、いったいなんでございましょう、メイロードさま」
(ああ、そうだった。そんな考え方ないよね。農家に休みなしが基本だから、決まった休みなんてないのが当たり前だし。もちろん、ここでもすべての人を同じ日に休ませるわけにはいかないけど、きちんと休日は取った方がいいから、五勤二休みの体制にしたいんだよね)
「それは、ここで働く上で採用する新しいやり方です。日にちをずらしたいくつかの組が作業を行うことで、いつでも畑に人がいる状態を保ちながら、週に二日間の休みを取ってもらいます」
「週に二日もでございますか?! それはあまりにも……」
農家の仕事の仕方に慣れているマズロさんのような人たちには、二日も畑に出ない日があるなど、考えられないのだろう。だが、私もこの〝完全週休二日制〟というやり方を譲る気はない。この山深い地で過重労働で倒れるなど、危険極まりないし、健康でいてもらうのは村のためにも大事なことだ。
「この新しい村では、私の農場のこと以外にもたくさんしなければならないことがあるはずです。それを考えれば、農場に二日行かないからといって気にする必要などないのですよ。ここを皆さんが健康に楽しく暮らしていけるいい村にしていくこともまたあなたたちの仕事なのです」
「メイロードさま……」
マズロさんは何人かの村人と協力してこのシフト表作りに取り組むことにするそうだ。私もそれで異存はないのでシフト作成の細かいことは、マズロさんと村人たちに決めてもらうことにし、次に明日からの仕事の内容を伝えた。
だが、説明はしてみたもののマズロさんにはもうひとつよくわからないようだった。それは実際に見てもらった方が早いだろう。
(明日はいよいよみんなと農地へいくよ。さあ〝イワムシ草〟栽培の始まりだ!)
「私が育てたいと考えているものは、沿海州が原産の〝イワムシ草〟という、大変特殊な生態を持つ植物です」
そう言うと私は以前沿海州で買い求めた〝イワムシ軟膏〟の瓶を机に置いた。
「これが〝イワムシ草〟を使った代表的な傷治療薬です。〝傷消し膏〟とも呼ばれている有名な沿海州の傷薬で、擦り傷や切り傷を治す効能があり、水に強いため水仕事の多い漁師が多い沿海州では古くから使われているものです。ですが、この〝イワムシ草〟最近は収穫量が激減してしまい、もうこの〝イワムシ軟膏〟も庶民の買える値段ではなくなってしまいました」
マズロさんはまじまじと、薄い水色をした軟膏を見つめたあと、私に笑顔を向けた。
「ご領主さまは、その〝イワムシ草〟を育てられようと……それは皆喜びましょう! われわれ農民もすり傷や切り傷は年中です。鬱陶しいのはもちろんですが、仕事がどうしても遅くなってしまい、イライラする原因にもなります。それに小さな怪我が元で命を落とす者だってたくさんいるのです」
「その通りです。傷口は清潔にして通気性を保つよう覆えば傷の治りも早いのですよ」
〝イワムシ草〟を塗ることで得られる治療効果は〝湿潤療法〟に非常に近いものだった。患部に潤いを持たせた状態で通気性を確保しながら保護するこの方法は、傷の治りが早くしかも修復状態もいいという元いた世界でも近年注目されていた治療法なのだ。絆創膏などにも取り入れられてきていたので、私も知ってはいたのだが、まさか異世界の植物で同じような効果が得られるとは思ってもみなかった。
〝イワムシ草〟を使ってできるこの軟膏は、通気性を確保しながらも水に強いという素晴らしい商品で、長年愛用されてきていることも納得の傷薬なのだ。
「〝イワムシ軟膏〟は、沿海州の外では販売されてきませんでした。とても需要に追いつかないからです。いまは、その沿海州の需要さえまったく賄えてないのですけどね……」
「ではご領主さまは……」
「ああ、メイロードでいいですよ。ご領主さまとか呼ばれると、自分が髭を生やしたいかつい男の人になったようで、なんとなく居心地が悪いので……みなさんにも是非そうお伝えください」
「わかりました、ご領……メイロードさま。では、かなりの広さの農地をお作りになるお考えなのでございますね。そういたしますと、斧やノコギリ、鍬ももっと必要に……」
マズロさんは、これから農地を作るためにこの地を切り開いていくのだと思っている様子だ。
そこで私は書いてきた地図を机に広げた。そこにはこの村と〝厭魅〟によって丸裸になっている土地の場所が示されている。
「なぜ、こんな森の中にこの広大な空き地があるのかについては、またいずれご説明しますね。当面はこの土地を使用して実験的な栽培を行なっていき、この土地一杯に〝イワムシ草〟が栽培できるようになった暁には、更なる開拓を考えるつもりです。まぁ、これだけの土地に〝イワムシ草〟が栽培できれば、十分特産品といえる規模になりますよ」
私のやろうとしている〝農業〟が、彼らの考えている〝農業〟とあまりに違っていたのか、マズロさんは少し戸惑っている様子だ。この〝イワムシ草〟に必要なのは、水でも柔らかい土でもなく〝日当たり〟だけだ。そう聞くと簡単に聞こえるかもしれないが〝イワムシ草〟が好むのはとんでもない光量の日当たり、彼らにはその維持のために動いてもらうことになる。
「ほかの草が生えて光を遮ったりしないように毎日手入れが必要なので、いくつかの組を作っていただき、それを順繰りに組み合わせるようにしましょう。働く人たちが週休2日になるように予定を作ってくださいますか?」
私の言葉にマズロさんがキョトンとしている。
「週休二日というのは、いったいなんでございましょう、メイロードさま」
(ああ、そうだった。そんな考え方ないよね。農家に休みなしが基本だから、決まった休みなんてないのが当たり前だし。もちろん、ここでもすべての人を同じ日に休ませるわけにはいかないけど、きちんと休日は取った方がいいから、五勤二休みの体制にしたいんだよね)
「それは、ここで働く上で採用する新しいやり方です。日にちをずらしたいくつかの組が作業を行うことで、いつでも畑に人がいる状態を保ちながら、週に二日間の休みを取ってもらいます」
「週に二日もでございますか?! それはあまりにも……」
農家の仕事の仕方に慣れているマズロさんのような人たちには、二日も畑に出ない日があるなど、考えられないのだろう。だが、私もこの〝完全週休二日制〟というやり方を譲る気はない。この山深い地で過重労働で倒れるなど、危険極まりないし、健康でいてもらうのは村のためにも大事なことだ。
「この新しい村では、私の農場のこと以外にもたくさんしなければならないことがあるはずです。それを考えれば、農場に二日行かないからといって気にする必要などないのですよ。ここを皆さんが健康に楽しく暮らしていけるいい村にしていくこともまたあなたたちの仕事なのです」
「メイロードさま……」
マズロさんは何人かの村人と協力してこのシフト表作りに取り組むことにするそうだ。私もそれで異存はないのでシフト作成の細かいことは、マズロさんと村人たちに決めてもらうことにし、次に明日からの仕事の内容を伝えた。
だが、説明はしてみたもののマズロさんにはもうひとつよくわからないようだった。それは実際に見てもらった方が早いだろう。
(明日はいよいよみんなと農地へいくよ。さあ〝イワムシ草〟栽培の始まりだ!)
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