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4 聖人候補の領地経営

662 新しい港

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「タコ飯最高です! タコのコリコリ感に出汁の旨味がたまらんです! このタコの唐揚げもまた……歯応えの良さに油のこってり感が加わって、なんとも美味しいものですね。それにこのタコしゃぶ! クラーケンの大きな脚を使っているので、薄切りなのにとても一枚が大きくて食べ応えが抜群です。噛み締めるほど溢れ出す旨み、淡白な味わいにもかかわらず、非常に満足感がございます。いい出汁が出ておりますねぇ。素晴らしい!」

ソーヤはクラーケンのしゃぶしゃぶが大層気に入ったようで、止めどなく喋りながらものすごい勢いで食べ続けていた。博士たちにもこのタコ尽くしは好評で、酒飲みたちはタコとワカメの酢の物なんていう渋いメニューも気に入ったようだ。みんな(私を除く、ちぇ)日本酒を美味しそうに飲みながら、クラーケンを堪能してくれたようだ。

そして、楽しい宴会の翌日、私は〝領主〟モードでセータイズの港へと向かった。

実は昨日の夜、工事完了祝いの〝タコしゃぶ〟宴会をしているとき、グッケンス博士とセイリュウに、今回の港湾整備工事がとても特別で大変なものであったことを伝えたほうがいいというアドバイスをされた。

「確かにこの領地では財源も少ない状況であっただろう。そこでお前さんの力を振るえば、莫大な金と時間が必要な港の整備といった大事業もほとんど金がかからずにできただろう……しかも誰よりも早くな。だが、それは大したことなのだ。それだけの魔法力を、民のために使う領主などおらん。魔法力は民を外敵から守る以外のことには、使わないのが貴族だ。まぁ、攻撃特化の修練ばかりしていて、それ以外の技能は使うスベも知らぬ者が大多数だがな」

グッケンス博士は、現在の魔法使いが攻撃特化型の魔術師になるための訓練ばかりしていることに、以前から異論を唱えている。だがこの国の方針が変わることはなく、多くの魔法力を持つ者たち、つまり貴族は決して攻撃のために必要な魔法力を、今回の工事のような人々の生活を豊かにするためのことには使わない。それは、貴族の本分から外れた、正しくない使い方だとされてしまっているのだ。貴族たちにはいい印象を与えないだろうから、このことは、中央に知られないほうがいいとも助言してくれた。

博士は、私のような使い方をする魔法使いを認めてくれているのだが、それでも今回のようなことをするのには慎重であるべきだと諭された。

「今回のことは領地の経済を底上げするために絶対に必要だった、それゆえに行動を起こしたが、これは極めて特別な措置だったとはっきり言っておくのだ。できればお前のしたことは口外せぬよう釘を刺すべきだし、彼らには、決してお前の魔法力に頼らないよう言い聞かせねばいかんぞ」

稀代の魔法使いとして、長年あらゆるトラブルに遭ってきただろうグッケンス博士の、その言葉は重かった。

私としても、信頼を得られることは嬉しいが、なんでも私の魔法での解決を頼られるようになることは本意ではない。私の身はひとつだし、基本的にその土地の問題はその土地の人たちの手で解決すべきだと思う。

その日の朝、私は真面目な顔で、集まった大勢の街の人々の前で港を隠していた結界を解除した。と、同時に人々から歓声が上がる。

「なんだこれは! 信じられん……港がこんなに立派に、おおお!!」
「おい!この石組み、一体どうやったんだ!? 護岸工事が終わっているぞ! しかもこんな頑丈で立派に……すごいものだな」
「防波堤ができてるぞ! たった一週間で、信じられるか、おい! これは小さな船にもありがたいなぁ」
「大型船が入れるらしいじゃないか、ここも変わるぞ!」

大騒ぎの人々を、タエスさんが制す。

「静かに! これよりご領主様よりお話がある。心して聞くように」

私は笑顔を封印したまま振り返り、浮かれる人たちに向かって語りかけた。

「私の知人の協力を得て、短期間でセータイズの港に必要な工事は成りました。ですが、これはただの基礎に過ぎません。立派な寄港地として機能させるためには、まだまだしなければならないことが山積みです」

私が暗に、この工事をしたのは自分だけではないと匂わせ、他に何人かの魔法使いの協力を得たかのような表現を使った。私がひとりで成したわけではないと知れば、少しは驚きも軽減されるだろうし、納得もしやすいだろう。

(それにアルたちに手伝ってもらったのは本当だしね)

私の声に、シンと静まり返る。

「私が直接手伝えることはここまでです。もちろん領主としてこれからもこの街の発展を見守っていきますが、もう魔法で助けられることはないでしょう。ここからはあなた方が自ら作っていかなければなりません」

私の言葉に、タエスさんがひざまずく。それに続くように港に集まった人々も膝を折り始めた。

「心いたします、ご領主さま。われら一同、ご領主さまから賜りましたこの港、必ずや立派な港にしてご覧に入れます」

そこで私は初めて笑顔を向けた。

「頼みましたよ。ここはあなた方の街。ここを守り創っていくのは、あなた方なのです」

挨拶が終わると、新しい港を一目見ようとたくさんの人々が港の中へ入っていく。

その明るく華やいだ様子を見ながら、私はタエスさんに耳打ちした。

「今回のこと、工事を成したのは、領主からの依頼を受けた数人の魔法使いだということにしておいてください」
「そんな……このように素晴らしい工事をしていただきましたのに……メイロードさまの偉業を称えた石碑の建立の話もご相談させていただきたいと思っておりましたのに……」

私を讃える気満々でいろいろ考えていたらしいタエスさんが、がっかりしたような表情で、ちょっと恨みがましく私を見ているが、それは私の望みではない。

「そのほうがいいのです。お願いしますね」
「……お望みのままにいたします」

私の言葉から何かを察してくれたタエスさんは、きっとしっかりと情報を流布してくれるだろう。

新しい港に湧き立つ人々を見つめながら、私はこの港で運ぶべきものを考えていた。

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