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4 聖人候補の領地経営
656 バブルボール
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656
街の方が私の滞在中に用意してくれたのは、この町で一番立派な宿の一番広いお部屋。そのゴテゴテした貴族仕様ぶりに若干引きつつも、会議もできる大きなテーブルのある部屋があったのはありがたかった。そこで私はタエスさんたちと、今後の方針について話をしておくことにした。
「私は、この港の拡充を考えています。私の領地で作られる商品の海上輸送のための基地として、大型船が停泊できる港を早く稼働させたいのです」
私の言葉にタエスさんが恐る恐るこう言った。
「あの……大変申し上げにくいのでございますが、ご領主様のお考えになっていらっしゃいますような大きな港を作るには、莫大な予算が必要でございます。多くの人足を雇わねばなりませんし、時間はかなりかかるのではございませんでしょうか……」
「そうですね。それについての調査の意味もあって、こちらにお邪魔した、というのもあります。ただ、いずれにせよ初期投資の負担を皆さんに強いるようなことは考えておりません。それだけはご安心ください」
私の言葉に、街の皆さんは緊張をとき息をついた。やはり、この事業にかかるだろう莫大な工事費用が、彼らに港の拡充をいままでさせなかった最も大きな理由なのだろう。
彼らに、この港を大型船が入港できるようにするために必要なことを聞いてみたところ、大型船が積み荷を下ろせるしっかりとした岸壁、そして港の中の波を弱めるための防波堤、そして大型船が座礁したりせず航行可能なように航路を掘り下げる浚渫、これらの工事をしなければ、大型船を迎え入れることはできないとわかった。
確かにどの作業にもかなりの人員が必要で、お金も時間もかなりかかりそうだ。工事はたくさんの人を使うことになるため、その間街には人も増え、収入も増える。だが、それは一時的なものでしかないし、この港だけに領地の予算を大量に投入するというのも、バランスが悪い。
(うーん、どうしようかなぁ)
皆さんとはまた翌日話し合うことにして別れた後、あれこれ考えながら、私は再び港の桟橋へと向かった。
トライドのアルと待ち合わせたのは、午後4時ごろ。朝の早い港はすでに人が少なくなる時間帯だ。
再びペンダントが光り、アルの声が聞こえてくる。
〔おかえりー!〕
〔アル、待たせちゃったね。じゃ、これから海の中に入るわね〕
桟橋の突端でそう声をかけるとアルは顔を出して嬉しそうにキュイキュイと鳴いた。
海の中に入るのは久しぶりのことだ。あの時も、タイチのいるバンダッタの海を調査するために、まだ拙い魔法でなんとか海に様子を観察して、大きな収穫があった。
(あれから魔法学校にも入ったし、グッケンス博士の内弟子としてしっかり修行したからね。私の魔法もあの頃よりは、マシになっている……と思う)
私はまず自分の躰を空中の浮かべ、躰の周りに大きな《エアバブル》を作り出した。そして《重力操作》を使って《エアバブル》ごと、海の中に入っていく。
〔わぁ、おもしろーい!〕
アルは丸い玉の中に入って海中を移動する私が、面白くてたまらないようだ。
〔一応、強化もしてあるけど、ふざけてこのバブルを割ったりしないでね。私、溺れちゃうから〕
〔しないよー。でも、そうか、人って不便だねぇ〕
私の周囲をクルクルと泳ぎ回りながら、アルが面白そうに笑う。
湾内はかなり透明度が高い綺麗な海水で満たされていた。小さな魚は多いが、海藻はそう多くなく、かなりゴツゴツした岩が多い印象だ。実際にここを航行した場合、これにぶつかれば船は座礁確実だという箇所がかなり目につく。
ただいい点として、湾内は少し沖に出るだけで非常に深くなっていた。そのため実際に海底を掘り下げる浚渫が必要な区域は思ったほど広くはなさそうだった。
とはいえ、これは海底での工事。実際に行うとなれば、かなり危険だし工事には相当の時間が必要とされるだろう。
〔アル、この辺りの海はこういった岩場が多いの?〕
〔うん。この周りは石だらけだよ。あまり砂が舞わないからよく物が見えていいんだ〕
どうやら、この周囲一帯は岩場だらけらしい。
そこからアルは、小魚がたくさん住んでいる場所や船が沈んでいる場所、トライドたちが住む小さな入江も案内してくれた。私を仲間のもとに連れてきたアルは自慢げで、得意そうに紹介してくれた。どうやら彼らと話せる私は〝神のみ使い〟と思われたようで、トライドたちはとても友好的だった。
遊びたがる彼らのために、水中にいくつか《エアバブル》を作り、それをボールに見立てたところ、珍しいおもちゃがとても気に入ったようでみんな夢中になって追いかけていた。
トライドたちにもこの周辺の海について話を聞いてみたが、やはり大きな船は遠くを航行する姿を多く見せるものの、この付近に近寄ることはないという。
(大型船の寄港地はないけど、この付近の海は航行しているってことね。なら、整備をすれば寄港地としての需要は見込めそう)
私は楽しげに《エアバブル》のボールを追いかけるトライドたちの姿を見ながら、この港の工事をどうすればいいのか考えていた。
街の方が私の滞在中に用意してくれたのは、この町で一番立派な宿の一番広いお部屋。そのゴテゴテした貴族仕様ぶりに若干引きつつも、会議もできる大きなテーブルのある部屋があったのはありがたかった。そこで私はタエスさんたちと、今後の方針について話をしておくことにした。
「私は、この港の拡充を考えています。私の領地で作られる商品の海上輸送のための基地として、大型船が停泊できる港を早く稼働させたいのです」
私の言葉にタエスさんが恐る恐るこう言った。
「あの……大変申し上げにくいのでございますが、ご領主様のお考えになっていらっしゃいますような大きな港を作るには、莫大な予算が必要でございます。多くの人足を雇わねばなりませんし、時間はかなりかかるのではございませんでしょうか……」
「そうですね。それについての調査の意味もあって、こちらにお邪魔した、というのもあります。ただ、いずれにせよ初期投資の負担を皆さんに強いるようなことは考えておりません。それだけはご安心ください」
私の言葉に、街の皆さんは緊張をとき息をついた。やはり、この事業にかかるだろう莫大な工事費用が、彼らに港の拡充をいままでさせなかった最も大きな理由なのだろう。
彼らに、この港を大型船が入港できるようにするために必要なことを聞いてみたところ、大型船が積み荷を下ろせるしっかりとした岸壁、そして港の中の波を弱めるための防波堤、そして大型船が座礁したりせず航行可能なように航路を掘り下げる浚渫、これらの工事をしなければ、大型船を迎え入れることはできないとわかった。
確かにどの作業にもかなりの人員が必要で、お金も時間もかなりかかりそうだ。工事はたくさんの人を使うことになるため、その間街には人も増え、収入も増える。だが、それは一時的なものでしかないし、この港だけに領地の予算を大量に投入するというのも、バランスが悪い。
(うーん、どうしようかなぁ)
皆さんとはまた翌日話し合うことにして別れた後、あれこれ考えながら、私は再び港の桟橋へと向かった。
トライドのアルと待ち合わせたのは、午後4時ごろ。朝の早い港はすでに人が少なくなる時間帯だ。
再びペンダントが光り、アルの声が聞こえてくる。
〔おかえりー!〕
〔アル、待たせちゃったね。じゃ、これから海の中に入るわね〕
桟橋の突端でそう声をかけるとアルは顔を出して嬉しそうにキュイキュイと鳴いた。
海の中に入るのは久しぶりのことだ。あの時も、タイチのいるバンダッタの海を調査するために、まだ拙い魔法でなんとか海に様子を観察して、大きな収穫があった。
(あれから魔法学校にも入ったし、グッケンス博士の内弟子としてしっかり修行したからね。私の魔法もあの頃よりは、マシになっている……と思う)
私はまず自分の躰を空中の浮かべ、躰の周りに大きな《エアバブル》を作り出した。そして《重力操作》を使って《エアバブル》ごと、海の中に入っていく。
〔わぁ、おもしろーい!〕
アルは丸い玉の中に入って海中を移動する私が、面白くてたまらないようだ。
〔一応、強化もしてあるけど、ふざけてこのバブルを割ったりしないでね。私、溺れちゃうから〕
〔しないよー。でも、そうか、人って不便だねぇ〕
私の周囲をクルクルと泳ぎ回りながら、アルが面白そうに笑う。
湾内はかなり透明度が高い綺麗な海水で満たされていた。小さな魚は多いが、海藻はそう多くなく、かなりゴツゴツした岩が多い印象だ。実際にここを航行した場合、これにぶつかれば船は座礁確実だという箇所がかなり目につく。
ただいい点として、湾内は少し沖に出るだけで非常に深くなっていた。そのため実際に海底を掘り下げる浚渫が必要な区域は思ったほど広くはなさそうだった。
とはいえ、これは海底での工事。実際に行うとなれば、かなり危険だし工事には相当の時間が必要とされるだろう。
〔アル、この辺りの海はこういった岩場が多いの?〕
〔うん。この周りは石だらけだよ。あまり砂が舞わないからよく物が見えていいんだ〕
どうやら、この周囲一帯は岩場だらけらしい。
そこからアルは、小魚がたくさん住んでいる場所や船が沈んでいる場所、トライドたちが住む小さな入江も案内してくれた。私を仲間のもとに連れてきたアルは自慢げで、得意そうに紹介してくれた。どうやら彼らと話せる私は〝神のみ使い〟と思われたようで、トライドたちはとても友好的だった。
遊びたがる彼らのために、水中にいくつか《エアバブル》を作り、それをボールに見立てたところ、珍しいおもちゃがとても気に入ったようでみんな夢中になって追いかけていた。
トライドたちにもこの周辺の海について話を聞いてみたが、やはり大きな船は遠くを航行する姿を多く見せるものの、この付近に近寄ることはないという。
(大型船の寄港地はないけど、この付近の海は航行しているってことね。なら、整備をすれば寄港地としての需要は見込めそう)
私は楽しげに《エアバブル》のボールを追いかけるトライドたちの姿を見ながら、この港の工事をどうすればいいのか考えていた。
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