432 / 832
4 聖人候補の領地経営
621 大歓迎
しおりを挟む
621
(さて、次はどこに行こうか)
第七区の〝麦食い〟大量発生問題を解決した私が、次に向かうことにしたのは最も問題の多い第八区。
この地区はほかの地区と比較して、圧倒的に農地に適した土地が少ない。かといって、カングンのように山林を資源とすることも難しい。この地区の山は魔物だらけなのだ。
売り物になるいい樹木を育てるためには、手入れが欠かせないが、魔物が多いこの地区ではそれができない。そのため林業で生計を立てる人はごくわずかだ。それどころか、魔物との遭遇を避けるために森と人の住む地域の間に緩衝地を作らねばならず、それがさらに農地を少なくしている。
しかも、農地から得られる収入が少ないために、危険だと知りつつお金になる素材を得ようと森に入り命を落とす人たちは一向に減らない。
おそらく私が提供した新しい麦の種を使えば、いままでの倍近い収穫が得られるとは思うが、他の地域で得られる収穫と比較すれば、見劣りするだろうことは予想がつく。
(うーん、どうしてあげたらいいんだろう……)
アタタガの移動箱で、第八区の街“ソホス”へ向かいながら、私は考えを巡らせていた。
いつものように街に続く街道の近くで徒歩に切り替え、ソホスの街へと入る。今回は、やってくる時間もしっかり事前に伝えたので、私が門に近づくと、普段は開けられない大門を開けて、街の人々が迎えてくれた。
先頭には、先日の会議にも出席してくれたサシさんがいる。
「メイロードさま、この遠い地までようこそおいでくださいました。
先日はメイロードさまから土地神を祀る祠を建てるために過分なる費用を頂戴し、一同大変に感激しております」
サシさんによると、この第八区は土地神信仰が大変強い土地なのだそうだ。しかもこの地で信仰されている土地神は“魔物”なのだという。彼らは魔物におびえながらも、その討伐によって得られる食料やお金に依存しなければ生活できない。
そのために、恐れと敬う感情の両方を魔物に持っているのだという。その象徴は“ジャイアントボア”というこの地で一番多い魔獣で、多くの家にこの置物が飾られている。
いままでも魔物を祀る建物はあったそうだが、老朽化してかなりひどいことになっていたのだそうだ。貧しい彼らには、新しく立て直すようなゆとりはなく、何とかしたいという思いのまま、何十年も予算が立たないまま時間だけが過ぎていたそうだ。
「新しいご領主様が、私どもの大切にする神を祀るための祠を作る費用をお恵み下さるとお聞きした時には、街中で大騒ぎでございました」
サシさんを始め、皆さんキラキラして目で私を見ている。そして、一様にテンションが高い。
「明日は祠の完成を祝う祭りを開催する予定になっております。この近辺の歌自慢、踊り自慢、楽器自慢が集まり、土地神様とメイロードさまへの感謝を捧げさせていただきたく……」
この祭りへの参加、どうやら拒否権はなさそうだと私は判断した。
話を総合すると、この“祠開きの祭り”は、彼らにとって一大イベントのようで、皆命がけの勢いで準備してきたらしい。明日の祭りで歌や踊りを披露できる人たちを選ぶために、厳しい選考会が何度も行われ、血のにじむような練習に皆明け暮れてきたという。
(これを、結構ですと言って、蹴っていいわけがないよね)
「盛大な祭りになるのですね。とても楽しみです」
一様に紅潮した彼らに、他に何と言えばいいというのか。私は“私も祭りが見られてうれしいですよ”という態度を崩さないよう気を付けながら、彼らの祠建築の苦労話を聞き、祭りの準備の進捗状況を聞いた。
「以前からございました“魔物殿”という社の宮司が、三日三晩祈祷をとり行なっております。古い社から、メイロードさまがお恵み下さった社殿へ、神様にお渡りいただく儀式を明日は執り行う予定なのでございます」
「そうですか……」
どうも、小さな祠という雰囲気ではない。彼らはかなり立派な建物を作り上げてしまったようだ。
(まぁ、私が《無限回廊の扉》を隠して設置できる場所さえあればいいんだけどね)
「もちろん、メイロードさま専用の祈祷所は、ご指示の通りご用意しておりますのでご安心くださいませ。ご領主様自ら祈りを捧げてくださいますとは、本当にうれしいことでございます」
土地神に理解のある領主がよほどうれしいようで、この八区での私の好感度は爆上がりしている様子だ。お出迎えの後の移動も、なんだか大きな輿のようなものに乗せられて、かなりの大人数に担がれたまま、パレードみたいに宿まで運ばれたし、その間もあちこちから拍手やら声がかかり、花びらがふりまかれた。
私はそのあまりの大歓迎ぶりに戸惑いつつも、〝領主スマイル”を貼り付けて手を振り、沿道の人たちの声援に応えながらなんとか宿までたどり着いた。
(いきなり、パレードとか!? 領主ってこんなこともするわけ)
ご厚意だとわかってはいるものの、貴族的な慣習にまだ対応しきれない私は、明日はどうなることやらと、ちょっと憂鬱になりながら、夜のダイエット宴会を早めに抜け出し、案内された宿で早めの眠りについた。
だが、私は残念ながらすぐに眠りにはつけなかった……
(さて、次はどこに行こうか)
第七区の〝麦食い〟大量発生問題を解決した私が、次に向かうことにしたのは最も問題の多い第八区。
この地区はほかの地区と比較して、圧倒的に農地に適した土地が少ない。かといって、カングンのように山林を資源とすることも難しい。この地区の山は魔物だらけなのだ。
売り物になるいい樹木を育てるためには、手入れが欠かせないが、魔物が多いこの地区ではそれができない。そのため林業で生計を立てる人はごくわずかだ。それどころか、魔物との遭遇を避けるために森と人の住む地域の間に緩衝地を作らねばならず、それがさらに農地を少なくしている。
しかも、農地から得られる収入が少ないために、危険だと知りつつお金になる素材を得ようと森に入り命を落とす人たちは一向に減らない。
おそらく私が提供した新しい麦の種を使えば、いままでの倍近い収穫が得られるとは思うが、他の地域で得られる収穫と比較すれば、見劣りするだろうことは予想がつく。
(うーん、どうしてあげたらいいんだろう……)
アタタガの移動箱で、第八区の街“ソホス”へ向かいながら、私は考えを巡らせていた。
いつものように街に続く街道の近くで徒歩に切り替え、ソホスの街へと入る。今回は、やってくる時間もしっかり事前に伝えたので、私が門に近づくと、普段は開けられない大門を開けて、街の人々が迎えてくれた。
先頭には、先日の会議にも出席してくれたサシさんがいる。
「メイロードさま、この遠い地までようこそおいでくださいました。
先日はメイロードさまから土地神を祀る祠を建てるために過分なる費用を頂戴し、一同大変に感激しております」
サシさんによると、この第八区は土地神信仰が大変強い土地なのだそうだ。しかもこの地で信仰されている土地神は“魔物”なのだという。彼らは魔物におびえながらも、その討伐によって得られる食料やお金に依存しなければ生活できない。
そのために、恐れと敬う感情の両方を魔物に持っているのだという。その象徴は“ジャイアントボア”というこの地で一番多い魔獣で、多くの家にこの置物が飾られている。
いままでも魔物を祀る建物はあったそうだが、老朽化してかなりひどいことになっていたのだそうだ。貧しい彼らには、新しく立て直すようなゆとりはなく、何とかしたいという思いのまま、何十年も予算が立たないまま時間だけが過ぎていたそうだ。
「新しいご領主様が、私どもの大切にする神を祀るための祠を作る費用をお恵み下さるとお聞きした時には、街中で大騒ぎでございました」
サシさんを始め、皆さんキラキラして目で私を見ている。そして、一様にテンションが高い。
「明日は祠の完成を祝う祭りを開催する予定になっております。この近辺の歌自慢、踊り自慢、楽器自慢が集まり、土地神様とメイロードさまへの感謝を捧げさせていただきたく……」
この祭りへの参加、どうやら拒否権はなさそうだと私は判断した。
話を総合すると、この“祠開きの祭り”は、彼らにとって一大イベントのようで、皆命がけの勢いで準備してきたらしい。明日の祭りで歌や踊りを披露できる人たちを選ぶために、厳しい選考会が何度も行われ、血のにじむような練習に皆明け暮れてきたという。
(これを、結構ですと言って、蹴っていいわけがないよね)
「盛大な祭りになるのですね。とても楽しみです」
一様に紅潮した彼らに、他に何と言えばいいというのか。私は“私も祭りが見られてうれしいですよ”という態度を崩さないよう気を付けながら、彼らの祠建築の苦労話を聞き、祭りの準備の進捗状況を聞いた。
「以前からございました“魔物殿”という社の宮司が、三日三晩祈祷をとり行なっております。古い社から、メイロードさまがお恵み下さった社殿へ、神様にお渡りいただく儀式を明日は執り行う予定なのでございます」
「そうですか……」
どうも、小さな祠という雰囲気ではない。彼らはかなり立派な建物を作り上げてしまったようだ。
(まぁ、私が《無限回廊の扉》を隠して設置できる場所さえあればいいんだけどね)
「もちろん、メイロードさま専用の祈祷所は、ご指示の通りご用意しておりますのでご安心くださいませ。ご領主様自ら祈りを捧げてくださいますとは、本当にうれしいことでございます」
土地神に理解のある領主がよほどうれしいようで、この八区での私の好感度は爆上がりしている様子だ。お出迎えの後の移動も、なんだか大きな輿のようなものに乗せられて、かなりの大人数に担がれたまま、パレードみたいに宿まで運ばれたし、その間もあちこちから拍手やら声がかかり、花びらがふりまかれた。
私はそのあまりの大歓迎ぶりに戸惑いつつも、〝領主スマイル”を貼り付けて手を振り、沿道の人たちの声援に応えながらなんとか宿までたどり着いた。
(いきなり、パレードとか!? 領主ってこんなこともするわけ)
ご厚意だとわかってはいるものの、貴族的な慣習にまだ対応しきれない私は、明日はどうなることやらと、ちょっと憂鬱になりながら、夜のダイエット宴会を早めに抜け出し、案内された宿で早めの眠りについた。
だが、私は残念ながらすぐに眠りにはつけなかった……
190
お気に入りに追加
13,095
あなたにおすすめの小説
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。