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4 聖人候補の領地経営

621 大歓迎

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621

(さて、次はどこに行こうか)

第七区の〝麦食い〟大量発生問題を解決した私が、次に向かうことにしたのは最も問題の多い第八区。

この地区はほかの地区と比較して、圧倒的に農地に適した土地が少ない。かといって、カングンのように山林を資源とすることも難しい。この地区の山は魔物だらけなのだ。

売り物になるいい樹木を育てるためには、手入れが欠かせないが、魔物が多いこの地区ではそれができない。そのため林業で生計を立てる人はごくわずかだ。それどころか、魔物との遭遇を避けるために森と人の住む地域の間に緩衝地を作らねばならず、それがさらに農地を少なくしている。

しかも、農地から得られる収入が少ないために、危険だと知りつつお金になる素材を得ようと森に入り命を落とす人たちは一向に減らない。

おそらく私が提供した新しい麦の種を使えば、いままでの倍近い収穫が得られるとは思うが、他の地域で得られる収穫と比較すれば、見劣りするだろうことは予想がつく。

(うーん、どうしてあげたらいいんだろう……)

アタタガの移動箱で、第八区の街“ソホス”へ向かいながら、私は考えを巡らせていた。

いつものように街に続く街道の近くで徒歩に切り替え、ソホスの街へと入る。今回は、やってくる時間もしっかり事前に伝えたので、私が門に近づくと、普段は開けられない大門を開けて、街の人々が迎えてくれた。

先頭には、先日の会議にも出席してくれたサシさんがいる。

「メイロードさま、この遠い地までようこそおいでくださいました。
先日はメイロードさまから土地神を祀る祠を建てるために過分なる費用を頂戴し、一同大変に感激しております」

サシさんによると、この第八区は土地神信仰が大変強い土地なのだそうだ。しかもこの地で信仰されている土地神は“魔物”なのだという。彼らは魔物におびえながらも、その討伐によって得られる食料やお金に依存しなければ生活できない。

そのために、恐れと敬う感情の両方を魔物に持っているのだという。その象徴は“ジャイアントボア”というこの地で一番多い魔獣で、多くの家にこの置物が飾られている。

いままでも魔物を祀る建物はあったそうだが、老朽化してかなりひどいことになっていたのだそうだ。貧しい彼らには、新しく立て直すようなゆとりはなく、何とかしたいという思いのまま、何十年も予算が立たないまま時間だけが過ぎていたそうだ。

「新しいご領主様が、私どもの大切にする神を祀るための祠を作る費用をお恵み下さるとお聞きした時には、街中で大騒ぎでございました」

サシさんを始め、皆さんキラキラして目で私を見ている。そして、一様にテンションが高い。

「明日は祠の完成を祝う祭りを開催する予定になっております。この近辺の歌自慢、踊り自慢、楽器自慢が集まり、土地神様とメイロードさまへの感謝を捧げさせていただきたく……」

この祭りへの参加、どうやら拒否権はなさそうだと私は判断した。

話を総合すると、この“祠開きの祭り”は、彼らにとって一大イベントのようで、皆命がけの勢いで準備してきたらしい。明日の祭りで歌や踊りを披露できる人たちを選ぶために、厳しい選考会が何度も行われ、血のにじむような練習に皆明け暮れてきたという。

(これを、結構ですと言って、蹴っていいわけがないよね)

「盛大な祭りになるのですね。とても楽しみです」

一様に紅潮した彼らに、他に何と言えばいいというのか。私は“私も祭りが見られてうれしいですよ”という態度を崩さないよう気を付けながら、彼らの祠建築の苦労話を聞き、祭りの準備の進捗状況を聞いた。

「以前からございました“魔物殿”という社の宮司が、三日三晩祈祷をとり行なっております。古い社から、メイロードさまがお恵み下さった社殿へ、神様にお渡りいただく儀式を明日は執り行う予定なのでございます」

「そうですか……」

どうも、小さな祠という雰囲気ではない。彼らはかなり立派な建物を作り上げてしまったようだ。

(まぁ、私が《無限回廊の扉》を隠して設置できる場所さえあればいいんだけどね)

「もちろん、メイロードさま専用の祈祷所は、ご指示の通りご用意しておりますのでご安心くださいませ。ご領主様自ら祈りを捧げてくださいますとは、本当にうれしいことでございます」

土地神に理解のある領主がよほどうれしいようで、この八区での私の好感度は爆上がりしている様子だ。お出迎えの後の移動も、なんだか大きな輿のようなものに乗せられて、かなりの大人数に担がれたまま、パレードみたいに宿まで運ばれたし、その間もあちこちから拍手やら声がかかり、花びらがふりまかれた。

私はそのあまりの大歓迎ぶりに戸惑いつつも、〝領主スマイル”を貼り付けて手を振り、沿道の人たちの声援に応えながらなんとか宿までたどり着いた。

(いきなり、パレードとか!? 領主ってこんなこともするわけ)

ご厚意だとわかってはいるものの、貴族的な慣習にまだ対応しきれない私は、明日はどうなることやらと、ちょっと憂鬱になりながら、夜のダイエット宴会を早めに抜け出し、案内された宿で早めの眠りについた。

だが、私は残念ながらすぐに眠りにはつけなかった……
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