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4 聖人候補の領地経営
619 作戦の下準備
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619
私がこの〝麦食い〟掃討作戦に街の人の協力を頼まず、誰もついてこなくていいと言ったのにはいくつか理由がある。
ひとつ目の理由は、いつものアレだ。そう、グッケンス博士たちにいつも呆れられているバケモノじみた魔法力を隠すため。
派手な魔法を惜しみなく何度も使うところを至近距離から大勢に見られて、いらぬ噂が立つことを避けたかった。私の魔法力量や戦闘能力を推察されそうな噂はできるかぎり立てたくない。貴族となったいま、私にはいままで以上の慎重さが必要なのだ。
この作戦のために私が考えている魔法は、なかなか大きなものなので、目にする人間は極力少なくしておくに限る。
(魔法が使えることを隠し立てする必要はもうないけど、だからといって目立ちすぎて変な人たちに目をつけられるなんて絶対いやだからね。特に軍部とか最悪! 魔法で名を売る気がない私としては、私の魔法に関する情報はもう徹底的に隠蔽したい。私の魔法の詳細は〝言わない・見せない・教えない〟を徹底していくんだ)
というわけで、そのための努力を惜しまない。
私はアタタガ・フライとともに上空から広域の《索敵》と《地形探査》を行い、この周囲に人がないことを確認し、敵のおおよその位置を掴んだ。〝麦食い〟の集団は、確かにとんでもない数のようだ。この大量の危険な攻撃をしてくる〝虫の形をした魔物〟を相手に、人の手だけで駆除を試みたら、地域の人たちにどれだけ被害が出るかわからない。
(やっぱり私がやるのが正解だよね)
まず、私は時間をかけて〝麦食い〟の生息地域周辺に《迷彩魔法》を施した《土障壁》を張り巡らせた。ちょうど魔法を使った工事現場の目隠し壁のようなもので、その場所の最も自然に見える景観だけが見える壁だ。きっと、周囲に人がいたら、いきなり〝麦食い〟が消え、ただの草原に戻ったように見えているだろう。虫の飛べる高さ以上にしてあるので、虫は逃げられないし、人も中へは入れない。これでよっぽどの上空から覗きでもしない限り、中で私がしている作業は外側の人は見えることもない。
《迷彩魔法》を施した壁をここまで広域に、一気に張り巡らせるのはかなりの魔法力を消費する。でも、私の魔法力量を持ってすれば大したことではないし、これは絶対必要な下準備だ。
唸りを上げる大量の虫を眼下に見て、再び鳥肌が立ち始めるのを無理やり押さえ込み、アタタガ・フライに侵入経路と決めた場所へと下ろしてもらう。
「ふぅ、これで周囲への配慮は大丈夫かな。それじゃ〝麦食い〟の生息地域へ入りますか……」
ここまできたら、もう仕事を終えるまで、自分の虫嫌いのことは考えないようにすると決めた私は《迷彩魔法》で自分の姿を消した。さらに私の躰の周りに《物理結界》を作った。三重の防壁を施したので何百匹襲ってきても〝麦食い〟の毒針による攻撃は、これで完璧の防げるはずだ。
防御を固めた私は意を決して、群れへと近づいていき、やはり倒れそうになった。まだまだ、距離的には本隊からは遠いのだが、それでもその凄まじい数ははっきりと視認できる。
それは、大量の点が集まった何かで、その点は常に動いている。そして、見渡す限りの草原がその〝点〟で埋め尽くされているのだ。
(これ、どれだけいるの?! 百万とかいうレベルじゃないよね……千万単位? いや、もっとだ……彼らが通ってきた草原地帯は、もうあらかた食い荒らされてる。本当に一刻の猶予もないわ、これ)
すべてを喰らい尽くして増殖する〝麦食い〟の被害は上空から見た時からわかってはいたが、間近から見るその惨状は目を覆いたくなるほどひどいものだった。これでは、他の動物たちの食料もなくなってしまう。
近づいたことで私の結界にも〝麦食い〟の攻撃が及び始めた。攻撃と言っても《迷彩魔法》で隠れている私が見えているわけではないから、ただ飛んできて《物理結界》に激突しているだけなのだろうが、ビタン、ビタンと結界に体当たりして、つぎつぎにグシャリとつぶれていくさまは見るに耐えない。それに、このままでは視界がこの死骸でうまってしまいそうだ。
「いやぁーー!! もう、あっちにいってーーー!!」
私はたまらず結界の外側に《雷鳴柱》を立てまくり、魔法の電柵を構築。結界の外側で〝麦食い〟を叩き落とすことにした。
この急ごしらえの魔法の電柵はうまく機能してくれて、そこからはもう防壁までたどり着く虫はいなくなり、私はあの虫が潰れるいやな音をそれ以上聞かずに済んだ。その代わりに電柵の外側に大量の虫が落ちているのは、見えないことにして気持ちを立て直す。
魔法の成否は集中力が大きく関係する。特にいまから私がやろうとしているような、複数の魔法を一定時間持続して正確に行使しなければならない魔法では、気の緩みは命取りだ。
大量の虫が動き回る不気味な羽音も、空さえ隠すほどの黒い集団の不気味さも、バチバチと電柵の周りに落ちる不気味な虫の様子も、いまだけは忘れる。
「よーし! 〝麦食い掃討作戦〟開始!」
私がこの〝麦食い〟掃討作戦に街の人の協力を頼まず、誰もついてこなくていいと言ったのにはいくつか理由がある。
ひとつ目の理由は、いつものアレだ。そう、グッケンス博士たちにいつも呆れられているバケモノじみた魔法力を隠すため。
派手な魔法を惜しみなく何度も使うところを至近距離から大勢に見られて、いらぬ噂が立つことを避けたかった。私の魔法力量や戦闘能力を推察されそうな噂はできるかぎり立てたくない。貴族となったいま、私にはいままで以上の慎重さが必要なのだ。
この作戦のために私が考えている魔法は、なかなか大きなものなので、目にする人間は極力少なくしておくに限る。
(魔法が使えることを隠し立てする必要はもうないけど、だからといって目立ちすぎて変な人たちに目をつけられるなんて絶対いやだからね。特に軍部とか最悪! 魔法で名を売る気がない私としては、私の魔法に関する情報はもう徹底的に隠蔽したい。私の魔法の詳細は〝言わない・見せない・教えない〟を徹底していくんだ)
というわけで、そのための努力を惜しまない。
私はアタタガ・フライとともに上空から広域の《索敵》と《地形探査》を行い、この周囲に人がないことを確認し、敵のおおよその位置を掴んだ。〝麦食い〟の集団は、確かにとんでもない数のようだ。この大量の危険な攻撃をしてくる〝虫の形をした魔物〟を相手に、人の手だけで駆除を試みたら、地域の人たちにどれだけ被害が出るかわからない。
(やっぱり私がやるのが正解だよね)
まず、私は時間をかけて〝麦食い〟の生息地域周辺に《迷彩魔法》を施した《土障壁》を張り巡らせた。ちょうど魔法を使った工事現場の目隠し壁のようなもので、その場所の最も自然に見える景観だけが見える壁だ。きっと、周囲に人がいたら、いきなり〝麦食い〟が消え、ただの草原に戻ったように見えているだろう。虫の飛べる高さ以上にしてあるので、虫は逃げられないし、人も中へは入れない。これでよっぽどの上空から覗きでもしない限り、中で私がしている作業は外側の人は見えることもない。
《迷彩魔法》を施した壁をここまで広域に、一気に張り巡らせるのはかなりの魔法力を消費する。でも、私の魔法力量を持ってすれば大したことではないし、これは絶対必要な下準備だ。
唸りを上げる大量の虫を眼下に見て、再び鳥肌が立ち始めるのを無理やり押さえ込み、アタタガ・フライに侵入経路と決めた場所へと下ろしてもらう。
「ふぅ、これで周囲への配慮は大丈夫かな。それじゃ〝麦食い〟の生息地域へ入りますか……」
ここまできたら、もう仕事を終えるまで、自分の虫嫌いのことは考えないようにすると決めた私は《迷彩魔法》で自分の姿を消した。さらに私の躰の周りに《物理結界》を作った。三重の防壁を施したので何百匹襲ってきても〝麦食い〟の毒針による攻撃は、これで完璧の防げるはずだ。
防御を固めた私は意を決して、群れへと近づいていき、やはり倒れそうになった。まだまだ、距離的には本隊からは遠いのだが、それでもその凄まじい数ははっきりと視認できる。
それは、大量の点が集まった何かで、その点は常に動いている。そして、見渡す限りの草原がその〝点〟で埋め尽くされているのだ。
(これ、どれだけいるの?! 百万とかいうレベルじゃないよね……千万単位? いや、もっとだ……彼らが通ってきた草原地帯は、もうあらかた食い荒らされてる。本当に一刻の猶予もないわ、これ)
すべてを喰らい尽くして増殖する〝麦食い〟の被害は上空から見た時からわかってはいたが、間近から見るその惨状は目を覆いたくなるほどひどいものだった。これでは、他の動物たちの食料もなくなってしまう。
近づいたことで私の結界にも〝麦食い〟の攻撃が及び始めた。攻撃と言っても《迷彩魔法》で隠れている私が見えているわけではないから、ただ飛んできて《物理結界》に激突しているだけなのだろうが、ビタン、ビタンと結界に体当たりして、つぎつぎにグシャリとつぶれていくさまは見るに耐えない。それに、このままでは視界がこの死骸でうまってしまいそうだ。
「いやぁーー!! もう、あっちにいってーーー!!」
私はたまらず結界の外側に《雷鳴柱》を立てまくり、魔法の電柵を構築。結界の外側で〝麦食い〟を叩き落とすことにした。
この急ごしらえの魔法の電柵はうまく機能してくれて、そこからはもう防壁までたどり着く虫はいなくなり、私はあの虫が潰れるいやな音をそれ以上聞かずに済んだ。その代わりに電柵の外側に大量の虫が落ちているのは、見えないことにして気持ちを立て直す。
魔法の成否は集中力が大きく関係する。特にいまから私がやろうとしているような、複数の魔法を一定時間持続して正確に行使しなければならない魔法では、気の緩みは命取りだ。
大量の虫が動き回る不気味な羽音も、空さえ隠すほどの黒い集団の不気味さも、バチバチと電柵の周りに落ちる不気味な虫の様子も、いまだけは忘れる。
「よーし! 〝麦食い掃討作戦〟開始!」
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