404 / 840
3 魔法学校の聖人候補
593 受賞パーティー
しおりを挟む
593
「リ、リリ、リアーナ妃殿下……」
私の言ったことの意味を理解した途端、まともに口が聞けなくなった公爵は、何度も言葉を発しようとして、失敗するという状況に陥った。そんな公爵を、生徒会長が舞台袖に冷静に誘導し、そのまま公爵はフェードアウト。私も壇上でお辞儀をして受賞者たちの並ぶ列へと下がった。
(よーし、計画通り!)
私は心の中でニンマリしながら、極めてしおらしく授賞式をやり過ごした。このちょっとした事件の後も、プレゼンターを何処かへと連れて行かれた公爵様から学校長に変えて表彰式はつつがなく進行した。
(貴族ってこういう時のスルースキルがとても高いのね。みんな何事もなかったかのように平然としてたもの)
引き続いて、祝賀パーティーが始まり、軽快な音楽が流れる中、受賞者たちは多くの人たちから祝福を受け、乾杯し、踊っている。やはりこの《魔法競技会》でいい成績を残すことは、一族の誉れのようで、クローナも親族や知り合いに囲まれ、褒めちぎられている。
(私がいなければ優勝だったのかもしれないと思うと、ちょっと気の毒しちゃったな、とは思う。ごめんね、クローナ)
私は壇上から降りた途端に貴族たちに取り囲まれ、質問攻めだ。
「皇妃様とはどのようにお知り合いに?」
「いままで本当にご自身の出自を知らなかったのですか?」
「今日の攻撃はどれも難しいものではなかったようですが、どれぐらい魔法力を使われたのでしょう?」
次から次へとくり出される質問を微笑みつつはぐらかしていると、いいタイミングで「グッケンス博士がお呼びです」とセーヤ伝えにきてくれた。私は〝内弟子の立場上、博士優先〟のため、好奇心でパンパンに膨らんだみなさんを残して、すぐにその場を離れた。
もちろん、事前の打ち合わせ通りだ。
「グッケンス博士、ありがとうございます。助かりました」
壁際の目立たない場所でお酒を飲んでいた博士と会って、私は少し緊張が抜けた。ソーヤが飲み物を持ってきてくれたので、それを飲んで一息つく。
そのあと周囲を見渡すと、こんな目立たない場所にいるのに、私とグッケンス博士の周りには、話しかけたそうにしている人がたくさんうろうろしている。でも、誰も話しかけてはこない。それぐらい博士は怖がられているし、敬われているのだ。
以前聞いたことがあるが、様々な武勲を立て、多くの重要な発明発見をシド帝国にもたらした博士は、勲章やら爵位やらをその度にもらうことになったため、すでに次に位をあげると皇帝を超えるとまで噂されているのだ。
博士が最後に願った褒美が〝貴族としての公式行事や義務的行動の免除〟であったため、爵位すら名乗ることのない博士だが、立場としては皇帝の次ぐらいに高位の人物なのだ。
だから、こうした公式な場では、博士から話しかけられない限り、誰も博士に話しかけることができない。
そのため、まわりをうろうろしながら遠巻きに見る人たちがたくさん出てくる。皆伝説の魔法使いに話しかけられたくてそうしているのだが、博士はいつも全無視だ。というか、こうした行事そのものに出てすらこない。
いまはさらにセーヤとソーヤがガッチリガードしているため、そばにいる私も話しかけられずに済んでいる。
私と博士は、そんな彼らに聞かれないよう《消音》の魔法を使いながら立ち話。
「一応出席はしたのだし、元々このパーティーは、強制参加でもない。メイロードはこのまま仕事にかこつけて、わしと一緒に出てしまうのが良かろう。彼らに広めさせたい情報は、セーヤとソーヤに適当に広めさせておけばいいじゃろう。あとは彼らに任せれば勝手に拡散される。お前の立場はすでに衆人の知るところとなったのだから、公爵家はこれ以上何もできん」
「……だと、いいのですが、そう言っていただけて、ちょっとほっとしました」
「アーシアン・シルベスターも、そろそろわしの研究棟にやってきているだろう。あれはいい仕事をしてくれた。しっかり礼を言っておくことだ」
「そうですね。あの方のおかげで、公爵が動く前に迅速に計画を立てることができました。先先代のシルベスター公爵が、ヴァイス=アーサー・シルベスターに爵位を与えていた事実も突き止めてくれましたし……」
メイロードの祖父は、大人になったヴァイス=アーサーと再会を果たした後、彼がいつ貴族に戻ってもいいよう正式に伯爵位を与えていた。貴族には、名誉の戦死者だけでなく、病気で亡くなったり、事故にあったりした子供に〝名誉として爵位を与える〟という習慣がある。先先代の公爵はこれを利用して、行方不明の息子に爵位を与えていたのだ。
サイデムおじさまをみてもわかるように、庶民が貴族として家を構えるためには非常に高い壁がある。おじさまは若い頃仕事を通じてとても親しくなった地方の有力者に養子にしてもらい、その家の名字〝サイデム〟を名乗れるようになった。こうして苗字を得ても、爵位を得られるまでには、さらに十年以上の時間がかかっている。
反対に高い位にある貴族の直系の子孫であれば、その継承はとてもスムースなのだ。
私たちは多くの人に見つめられながら、ゆっくりと会場を後にした。
メイロード女伯爵の話は、すぐに貴族たちへ広まるだろう。
(でも、この後が実は大変なんだよね……)
「リ、リリ、リアーナ妃殿下……」
私の言ったことの意味を理解した途端、まともに口が聞けなくなった公爵は、何度も言葉を発しようとして、失敗するという状況に陥った。そんな公爵を、生徒会長が舞台袖に冷静に誘導し、そのまま公爵はフェードアウト。私も壇上でお辞儀をして受賞者たちの並ぶ列へと下がった。
(よーし、計画通り!)
私は心の中でニンマリしながら、極めてしおらしく授賞式をやり過ごした。このちょっとした事件の後も、プレゼンターを何処かへと連れて行かれた公爵様から学校長に変えて表彰式はつつがなく進行した。
(貴族ってこういう時のスルースキルがとても高いのね。みんな何事もなかったかのように平然としてたもの)
引き続いて、祝賀パーティーが始まり、軽快な音楽が流れる中、受賞者たちは多くの人たちから祝福を受け、乾杯し、踊っている。やはりこの《魔法競技会》でいい成績を残すことは、一族の誉れのようで、クローナも親族や知り合いに囲まれ、褒めちぎられている。
(私がいなければ優勝だったのかもしれないと思うと、ちょっと気の毒しちゃったな、とは思う。ごめんね、クローナ)
私は壇上から降りた途端に貴族たちに取り囲まれ、質問攻めだ。
「皇妃様とはどのようにお知り合いに?」
「いままで本当にご自身の出自を知らなかったのですか?」
「今日の攻撃はどれも難しいものではなかったようですが、どれぐらい魔法力を使われたのでしょう?」
次から次へとくり出される質問を微笑みつつはぐらかしていると、いいタイミングで「グッケンス博士がお呼びです」とセーヤ伝えにきてくれた。私は〝内弟子の立場上、博士優先〟のため、好奇心でパンパンに膨らんだみなさんを残して、すぐにその場を離れた。
もちろん、事前の打ち合わせ通りだ。
「グッケンス博士、ありがとうございます。助かりました」
壁際の目立たない場所でお酒を飲んでいた博士と会って、私は少し緊張が抜けた。ソーヤが飲み物を持ってきてくれたので、それを飲んで一息つく。
そのあと周囲を見渡すと、こんな目立たない場所にいるのに、私とグッケンス博士の周りには、話しかけたそうにしている人がたくさんうろうろしている。でも、誰も話しかけてはこない。それぐらい博士は怖がられているし、敬われているのだ。
以前聞いたことがあるが、様々な武勲を立て、多くの重要な発明発見をシド帝国にもたらした博士は、勲章やら爵位やらをその度にもらうことになったため、すでに次に位をあげると皇帝を超えるとまで噂されているのだ。
博士が最後に願った褒美が〝貴族としての公式行事や義務的行動の免除〟であったため、爵位すら名乗ることのない博士だが、立場としては皇帝の次ぐらいに高位の人物なのだ。
だから、こうした公式な場では、博士から話しかけられない限り、誰も博士に話しかけることができない。
そのため、まわりをうろうろしながら遠巻きに見る人たちがたくさん出てくる。皆伝説の魔法使いに話しかけられたくてそうしているのだが、博士はいつも全無視だ。というか、こうした行事そのものに出てすらこない。
いまはさらにセーヤとソーヤがガッチリガードしているため、そばにいる私も話しかけられずに済んでいる。
私と博士は、そんな彼らに聞かれないよう《消音》の魔法を使いながら立ち話。
「一応出席はしたのだし、元々このパーティーは、強制参加でもない。メイロードはこのまま仕事にかこつけて、わしと一緒に出てしまうのが良かろう。彼らに広めさせたい情報は、セーヤとソーヤに適当に広めさせておけばいいじゃろう。あとは彼らに任せれば勝手に拡散される。お前の立場はすでに衆人の知るところとなったのだから、公爵家はこれ以上何もできん」
「……だと、いいのですが、そう言っていただけて、ちょっとほっとしました」
「アーシアン・シルベスターも、そろそろわしの研究棟にやってきているだろう。あれはいい仕事をしてくれた。しっかり礼を言っておくことだ」
「そうですね。あの方のおかげで、公爵が動く前に迅速に計画を立てることができました。先先代のシルベスター公爵が、ヴァイス=アーサー・シルベスターに爵位を与えていた事実も突き止めてくれましたし……」
メイロードの祖父は、大人になったヴァイス=アーサーと再会を果たした後、彼がいつ貴族に戻ってもいいよう正式に伯爵位を与えていた。貴族には、名誉の戦死者だけでなく、病気で亡くなったり、事故にあったりした子供に〝名誉として爵位を与える〟という習慣がある。先先代の公爵はこれを利用して、行方不明の息子に爵位を与えていたのだ。
サイデムおじさまをみてもわかるように、庶民が貴族として家を構えるためには非常に高い壁がある。おじさまは若い頃仕事を通じてとても親しくなった地方の有力者に養子にしてもらい、その家の名字〝サイデム〟を名乗れるようになった。こうして苗字を得ても、爵位を得られるまでには、さらに十年以上の時間がかかっている。
反対に高い位にある貴族の直系の子孫であれば、その継承はとてもスムースなのだ。
私たちは多くの人に見つめられながら、ゆっくりと会場を後にした。
メイロード女伯爵の話は、すぐに貴族たちへ広まるだろう。
(でも、この後が実は大変なんだよね……)
308
お気に入りに追加
13,163
あなたにおすすめの小説
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。


魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。