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3 魔法学校の聖人候補
586 ご相談
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「それはまた……」
まず最初にこの話を伝えたのはグッケンス博士とセイリュウ。ふたりはお猪口と杯を持ったまま、若干呆れ気味にそう言った。
いつものように夕ご飯を食べながら相談したのだが、私がシルベスター公爵家の縁戚で、公爵家の御家騒動に巻き込まれないために、分家として爵位を求めなければならないと聞いてさすがに驚いていた。
「私だけなら逃げてしまってもいいんですが、シラン村や牧場のある地域の管理権を、あまり信用できない人に任せるのは嫌なんです」
中央の大貴族にとって、シラン村のある辺境の土地はなんの価値もないお荷物だ。おそらく村に産業が勃興していることなど、知りもしないだろう。人頭税の支払いはしているが、それも地方の官吏に丸投げの仕事で受け取っているのはお金だけ。この土地についての調べも何年も来ていないし、なにひとつこの土地のために行動してくれているわけじゃない。
正直なところ、確かに最低限の管理をするだけでも人も多くないこの地域の人頭税だけでは、全然足りないだろうし、むしろ持ち出しだ。調査のための人員を割くことすらできない。先先代シルベスター公は、ヴァイス=アーサーの育った場所だったから、いつからか手に入れ、持ち続けていただけだろう。
もしかしたら、庶民として生きるという息子に、自分が生きている間に譲渡するつもりだったのかも知れないが、現状は譲るべき相手もなくなり宙に浮いている状態だ。
もし、私の存在を会長の兄が見つけてしまったとき、私がシラン村と深い関係にあることを知れば、面倒になる気しかしない。なんとかその前に〝父の遺産〟として正当な形で受け継いでしまわなければ、最悪乳製品ビジネスにも影響が出てくるかもしれない。
「つまり、メイロードがヴァイス=アーサー・シルベスターの正当な後継者であることを主張して、遺産である北東部州を相続し、貴族となり、領主になる……この方法しかあの地域を守る道はないってわけだね。しかも、相手がメイロードを見つける前に」
セイリュウはやれやれという顔で杯の冷酒をグビリと飲んだ。
「とりあえず私が公爵家の血筋であることははっきりしているので、貴族として爵位を賜り分家を起こすのにはなんの問題もないそうです。ただ、このまま成人していない私がそれを主張するだけだと、結局後見人としてシルベスター本家が出てくる可能性があるんですよ」
私には〝帝国の代理人〟であるサガン・サイデム男爵という、強力な後見人がいるが、今回の場合、おじさまだけでは公爵家からゴリ押しされた場合、立場的におじさまに迷惑をかけてしまう可能性がある。面倒なことに、公爵という地位は貴族の中でも最も高いのだ。
「まぁ、できるだけの根回しをしてから、競技会に臨むしかないかの」
グッケンス博士はお猪口で温燗をチビチビやりながら、アドバイスをくれる。
「ですよね……。それに競技会でも優勝して注目を集めないといけないみたいで……。私としては、魔法力が膨大にあることまで公にはしたくないんですよね~、はぁ」
私はため息をつきながら、一夜干しした魚を焼いたものを食卓に出した。魚から溢れた油がジジジッと音を立て、少し焦げた身から立ち上る香ばしい香り。熱々の白味の食感は、酒のアテにもご飯のおかずとしてもたまらない美味しさだ。
ソーヤが言葉にならない奇声を上げながらご飯と魚を往復し続けている。
(はいはい、すっごくおいしいのね)
ちなみにこの家で使っているお銚子とお猪口、ぐい飲みなどは異世界からの購入品。こちらの世界でも作ってみようとは思っているのだが、現物があった方が作りやすいかと思い買ってみた。陶磁器の技術はこちらの世界にもあるため、金額補正も三倍程度だったので、いくつか揃えてある。
「ふむ……そういうことならこういう手でいくかの」
私の〝魔法競技会〟対策については、博士からいいアドバイスをもらった。だがそのために新たな魔法を習得しつつ、根回しも行うという多忙な日々を送る必要が出てきてしまった。またしばらく学校の授業にはあまり顔が出せないかも知れない。
(どうにも忙しい日が続くなぁ)
さて、次はサイデムおじさまへの報告だ。翌日にはおじさまにアポイントをとり、商人ギルドの執務室で会うことができた。
私の話を聞いたおじさまは、意外なことにあまり驚かなかった。どうやら、事情については知っている様子だが、今更シルベスター家が、出張ってくるとはお思っていなかったらしい。
「貴族のお家騒動なんて珍しくもなんともないからな。あいつがシラン村にきたころの様子は、どう見たって平民には見えなかったし、なんとなくわかってはいたさ。だが、辛い目にあってやってきたことも想像がついてたからな……追求したりはしなかった。そのうち、ポツポツ事情は話してくれたよ……
そういや、確かにだいぶ大人になってから父親と再会したとは言っていたが、その親父さんが亡くなってからは一切関係はなくなったと言ってたんだがな……」
事情を話すとおじさまも、私がシルベスター公爵家の分家として貴族を名乗ることに賛成してくれたが、やはり年齢から後見人については、口を挟ませないよう、しっかりと根回しをした方がいいと言われた。
「爵位についてのこともあるし、ここはドール侯爵家のルミナーレ様から皇宮に繋いでもらっておくのがいいだろう。使える人脈はすべて使わないと公爵家には対抗できんぞ」
「ですよねぇ」
対公爵家対策、しっかり整えよう!
まず最初にこの話を伝えたのはグッケンス博士とセイリュウ。ふたりはお猪口と杯を持ったまま、若干呆れ気味にそう言った。
いつものように夕ご飯を食べながら相談したのだが、私がシルベスター公爵家の縁戚で、公爵家の御家騒動に巻き込まれないために、分家として爵位を求めなければならないと聞いてさすがに驚いていた。
「私だけなら逃げてしまってもいいんですが、シラン村や牧場のある地域の管理権を、あまり信用できない人に任せるのは嫌なんです」
中央の大貴族にとって、シラン村のある辺境の土地はなんの価値もないお荷物だ。おそらく村に産業が勃興していることなど、知りもしないだろう。人頭税の支払いはしているが、それも地方の官吏に丸投げの仕事で受け取っているのはお金だけ。この土地についての調べも何年も来ていないし、なにひとつこの土地のために行動してくれているわけじゃない。
正直なところ、確かに最低限の管理をするだけでも人も多くないこの地域の人頭税だけでは、全然足りないだろうし、むしろ持ち出しだ。調査のための人員を割くことすらできない。先先代シルベスター公は、ヴァイス=アーサーの育った場所だったから、いつからか手に入れ、持ち続けていただけだろう。
もしかしたら、庶民として生きるという息子に、自分が生きている間に譲渡するつもりだったのかも知れないが、現状は譲るべき相手もなくなり宙に浮いている状態だ。
もし、私の存在を会長の兄が見つけてしまったとき、私がシラン村と深い関係にあることを知れば、面倒になる気しかしない。なんとかその前に〝父の遺産〟として正当な形で受け継いでしまわなければ、最悪乳製品ビジネスにも影響が出てくるかもしれない。
「つまり、メイロードがヴァイス=アーサー・シルベスターの正当な後継者であることを主張して、遺産である北東部州を相続し、貴族となり、領主になる……この方法しかあの地域を守る道はないってわけだね。しかも、相手がメイロードを見つける前に」
セイリュウはやれやれという顔で杯の冷酒をグビリと飲んだ。
「とりあえず私が公爵家の血筋であることははっきりしているので、貴族として爵位を賜り分家を起こすのにはなんの問題もないそうです。ただ、このまま成人していない私がそれを主張するだけだと、結局後見人としてシルベスター本家が出てくる可能性があるんですよ」
私には〝帝国の代理人〟であるサガン・サイデム男爵という、強力な後見人がいるが、今回の場合、おじさまだけでは公爵家からゴリ押しされた場合、立場的におじさまに迷惑をかけてしまう可能性がある。面倒なことに、公爵という地位は貴族の中でも最も高いのだ。
「まぁ、できるだけの根回しをしてから、競技会に臨むしかないかの」
グッケンス博士はお猪口で温燗をチビチビやりながら、アドバイスをくれる。
「ですよね……。それに競技会でも優勝して注目を集めないといけないみたいで……。私としては、魔法力が膨大にあることまで公にはしたくないんですよね~、はぁ」
私はため息をつきながら、一夜干しした魚を焼いたものを食卓に出した。魚から溢れた油がジジジッと音を立て、少し焦げた身から立ち上る香ばしい香り。熱々の白味の食感は、酒のアテにもご飯のおかずとしてもたまらない美味しさだ。
ソーヤが言葉にならない奇声を上げながらご飯と魚を往復し続けている。
(はいはい、すっごくおいしいのね)
ちなみにこの家で使っているお銚子とお猪口、ぐい飲みなどは異世界からの購入品。こちらの世界でも作ってみようとは思っているのだが、現物があった方が作りやすいかと思い買ってみた。陶磁器の技術はこちらの世界にもあるため、金額補正も三倍程度だったので、いくつか揃えてある。
「ふむ……そういうことならこういう手でいくかの」
私の〝魔法競技会〟対策については、博士からいいアドバイスをもらった。だがそのために新たな魔法を習得しつつ、根回しも行うという多忙な日々を送る必要が出てきてしまった。またしばらく学校の授業にはあまり顔が出せないかも知れない。
(どうにも忙しい日が続くなぁ)
さて、次はサイデムおじさまへの報告だ。翌日にはおじさまにアポイントをとり、商人ギルドの執務室で会うことができた。
私の話を聞いたおじさまは、意外なことにあまり驚かなかった。どうやら、事情については知っている様子だが、今更シルベスター家が、出張ってくるとはお思っていなかったらしい。
「貴族のお家騒動なんて珍しくもなんともないからな。あいつがシラン村にきたころの様子は、どう見たって平民には見えなかったし、なんとなくわかってはいたさ。だが、辛い目にあってやってきたことも想像がついてたからな……追求したりはしなかった。そのうち、ポツポツ事情は話してくれたよ……
そういや、確かにだいぶ大人になってから父親と再会したとは言っていたが、その親父さんが亡くなってからは一切関係はなくなったと言ってたんだがな……」
事情を話すとおじさまも、私がシルベスター公爵家の分家として貴族を名乗ることに賛成してくれたが、やはり年齢から後見人については、口を挟ませないよう、しっかりと根回しをした方がいいと言われた。
「爵位についてのこともあるし、ここはドール侯爵家のルミナーレ様から皇宮に繋いでもらっておくのがいいだろう。使える人脈はすべて使わないと公爵家には対抗できんぞ」
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