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3 魔法学校の聖人候補
581 三色のソース
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581
「まずはコロッケのバリエーションからね」
私はイスで手に入れてもらった食材を確認すると、調理を開始した。
まずは、人気の料理の改良からだ。コロッケのバリエーションを増やし、さらにソースを工夫することで、栄養価をアップし更に美しい〝魅せる〟一皿を作ることにした。もちろん味の種類も増えるので、より楽しい食事になるだろう。高い値段をとるからにはそれなりの演出が必要だ。
「野菜の色を鮮やかに生かした少し粘りのあるソースを作っていきましょう」
私は緑が鮮やかな野菜、赤が際立つ野菜、黄色が美しく出る野菜を選び、それらをピュレ状にしたソースを作っていった。ブレンダーやフードプロセッサーがあればお手軽なのだが、そうもいかないのでなかなか手間がかかる工程になってしまうが、だからこそ価値があるとも言える。職人たちの腕の見せ所だ。
この世界は肉偏重で、野菜嫌いも多いが、だからこそ私としては美味しく食べてもらいたい。野菜の臭みを消す工夫として、柑橘系の素材を使ったり、他の素材の香りでマスキングしたりという方法も伝授した。
(弟たちに野菜を食べさせるための工夫が、異世界でも役に立つとはね)
本当は胡椒を始めとした香辛料を使う方法も積極的に用いていきたいところだが、まだまだこちらの世界ではそのあたりのものは気軽に手に入らない。ここは高級店なので、おじさまを通じて胡椒も使えるようには取り寄せているが、それだけに頼りすぎてもいけない。私が《鑑定》の旅で発見したハーブにも臭みを消す効果のあるものがいくつかあるので、今回はそれも用いようと思う。
「せっかくの新鮮野菜だから色鮮やかに野菜を茹でたいので、かなり塩は多めよ。海の水と同じぐらいの濃度だから、びっくりするだろうけど、これを使って短時間で茹でると、本当に鮮やかな色に仕上がるの。もちろん、ソース以外の素材でもこの方法は使えるから、しっかり覚えてね」
ゆで上げた野菜は濾したり潰したりしてペースト状にし、味を調えていく。
「できるだけ、野菜の味を生かした味付けをしてください。お客様には濃い味がお好きな方が多いので、あまり控えすぎてもいけませんが、できるだけ素材の旨味を使って塩分は抑えましょう」
うちの料理で美食三昧をして体調を壊されてはたまらない。私としては、むしろ健康になったと言ってもらえるような料理が理想なのだ。
調理場のみんなに囲まれながら、具材を変えた丸いコロッケを三種類作り、用意した皿に、まず色鮮やかな三種類のソースを丸い座布団のように敷いた。
その上に、ひとつづつ丸いコロッケを並べ、さらに、三色のソースを使って皿の上に曲線を引き飾りつけた。
「これは鮮やかですね。しかも割ると、それぞれ違う素材が出てくるとは、なんと楽しい一皿でしょう。お見事です。メイロードさま」
料理長のチェダルさんは、興奮気味にそれぞれのソースの味を確かめている。
「私はあまり食べられないものを飾りつけるのは好きじゃないの。なので、こういうものを考えてみました。でも、これもひとつの方法に過ぎないのよ。いくらでも変更してもらって構わないし、いい方法が他に見つかったら、どんどん取り入れていってね。もちろん、旬の野菜は積極的に使ってほしいわ」
私の言葉を調理場のみんなは一言も漏らすまいという真剣な眼差しで聞き、忘れないようメモを取る子も多くいる。ここの調理場の子たちは、あまり勉強の経験がない子たちが多かったので、全員に私の作った子供用の教科書“メイロードのことばあそび”と“メイロードのすうじあそび”を支給し、週に一度は自主参加の勉強会も行ってもらっている。みんな料理のためならば、と一生懸命やってくれているそうだ。おかげで、いまは読み書きに苦労する子はあまりいなくなり、こうしてメモを取ったりすることも、簡単にできるようになってきている。
(結局、こうしてみんなの学習が進んだほうが、お店としても助かるんだよね。やっぱり基礎教育は大事だと思うな)
コロッケのバリエーションについては、いろいろみんなのアイディアを取り入れていけば、この店の名物になるだろう。一階のデリとの差別化も図れるし、高級感も出るしで、簡単な変更だが、これからが期待できる。
じゃ、つぎに“イス風トマト煮込み”を作りましょう。
これはセルツの居酒屋“オロンコロ”亭のおかみさんのトマト煮込みを参考に、さらにチーズを加えてコクを出したものだ。ドライトマトを加えることで、凝縮されたトマトの旨味がさらに濃くなり、パンやパスタとも相性抜群の一品となる。
「これはまた濃厚なおいしさですね。肉の種類は鳥がよろしいのでしょうか?」
味見をしたチェダルさんは分量を書いて渡しておいた紙に何か書き込みながら、質問をしてきた。
「そうね、私はこの濃厚なトマトソースにはさっぱりした味の鳥の肉が合う気がするけど、他の肉を試してみるのもいいと思うわ。それに、魚介もかなりイケる味になるんじゃないかしら……」
「なるほど、魚介……。それはイスでは珍しい料理になりますね」
イスは少し漁港とは離れているが、この店には贅沢なことにマジックバッグが常備されているため、鮮度の高い魚介類をストックしておくことが可能だ。この状況ならば、きっとおいしい魚料理ができるだろう。
この店は乳製品普及のための旗艦レストランなので、いままでその方面の料理を中心にしてきているが、お客様に飽きられないためにも、これからはもう少し幅広いメニューを増やしていくほうがいいだろう。
「そうね。新しい美味しい料理がこの店の売りだもの。じゃ、つぎはもっと面白い調理法を教えるわね」
そう言いながら私が魔道具を取り出すと、みんなの頭には大きな“?”という記号が浮かんでいた。
(まあ、そうなるよね)
私は苦笑しながら、その新しい料理の作り方の説明を始めた。
「まずはコロッケのバリエーションからね」
私はイスで手に入れてもらった食材を確認すると、調理を開始した。
まずは、人気の料理の改良からだ。コロッケのバリエーションを増やし、さらにソースを工夫することで、栄養価をアップし更に美しい〝魅せる〟一皿を作ることにした。もちろん味の種類も増えるので、より楽しい食事になるだろう。高い値段をとるからにはそれなりの演出が必要だ。
「野菜の色を鮮やかに生かした少し粘りのあるソースを作っていきましょう」
私は緑が鮮やかな野菜、赤が際立つ野菜、黄色が美しく出る野菜を選び、それらをピュレ状にしたソースを作っていった。ブレンダーやフードプロセッサーがあればお手軽なのだが、そうもいかないのでなかなか手間がかかる工程になってしまうが、だからこそ価値があるとも言える。職人たちの腕の見せ所だ。
この世界は肉偏重で、野菜嫌いも多いが、だからこそ私としては美味しく食べてもらいたい。野菜の臭みを消す工夫として、柑橘系の素材を使ったり、他の素材の香りでマスキングしたりという方法も伝授した。
(弟たちに野菜を食べさせるための工夫が、異世界でも役に立つとはね)
本当は胡椒を始めとした香辛料を使う方法も積極的に用いていきたいところだが、まだまだこちらの世界ではそのあたりのものは気軽に手に入らない。ここは高級店なので、おじさまを通じて胡椒も使えるようには取り寄せているが、それだけに頼りすぎてもいけない。私が《鑑定》の旅で発見したハーブにも臭みを消す効果のあるものがいくつかあるので、今回はそれも用いようと思う。
「せっかくの新鮮野菜だから色鮮やかに野菜を茹でたいので、かなり塩は多めよ。海の水と同じぐらいの濃度だから、びっくりするだろうけど、これを使って短時間で茹でると、本当に鮮やかな色に仕上がるの。もちろん、ソース以外の素材でもこの方法は使えるから、しっかり覚えてね」
ゆで上げた野菜は濾したり潰したりしてペースト状にし、味を調えていく。
「できるだけ、野菜の味を生かした味付けをしてください。お客様には濃い味がお好きな方が多いので、あまり控えすぎてもいけませんが、できるだけ素材の旨味を使って塩分は抑えましょう」
うちの料理で美食三昧をして体調を壊されてはたまらない。私としては、むしろ健康になったと言ってもらえるような料理が理想なのだ。
調理場のみんなに囲まれながら、具材を変えた丸いコロッケを三種類作り、用意した皿に、まず色鮮やかな三種類のソースを丸い座布団のように敷いた。
その上に、ひとつづつ丸いコロッケを並べ、さらに、三色のソースを使って皿の上に曲線を引き飾りつけた。
「これは鮮やかですね。しかも割ると、それぞれ違う素材が出てくるとは、なんと楽しい一皿でしょう。お見事です。メイロードさま」
料理長のチェダルさんは、興奮気味にそれぞれのソースの味を確かめている。
「私はあまり食べられないものを飾りつけるのは好きじゃないの。なので、こういうものを考えてみました。でも、これもひとつの方法に過ぎないのよ。いくらでも変更してもらって構わないし、いい方法が他に見つかったら、どんどん取り入れていってね。もちろん、旬の野菜は積極的に使ってほしいわ」
私の言葉を調理場のみんなは一言も漏らすまいという真剣な眼差しで聞き、忘れないようメモを取る子も多くいる。ここの調理場の子たちは、あまり勉強の経験がない子たちが多かったので、全員に私の作った子供用の教科書“メイロードのことばあそび”と“メイロードのすうじあそび”を支給し、週に一度は自主参加の勉強会も行ってもらっている。みんな料理のためならば、と一生懸命やってくれているそうだ。おかげで、いまは読み書きに苦労する子はあまりいなくなり、こうしてメモを取ったりすることも、簡単にできるようになってきている。
(結局、こうしてみんなの学習が進んだほうが、お店としても助かるんだよね。やっぱり基礎教育は大事だと思うな)
コロッケのバリエーションについては、いろいろみんなのアイディアを取り入れていけば、この店の名物になるだろう。一階のデリとの差別化も図れるし、高級感も出るしで、簡単な変更だが、これからが期待できる。
じゃ、つぎに“イス風トマト煮込み”を作りましょう。
これはセルツの居酒屋“オロンコロ”亭のおかみさんのトマト煮込みを参考に、さらにチーズを加えてコクを出したものだ。ドライトマトを加えることで、凝縮されたトマトの旨味がさらに濃くなり、パンやパスタとも相性抜群の一品となる。
「これはまた濃厚なおいしさですね。肉の種類は鳥がよろしいのでしょうか?」
味見をしたチェダルさんは分量を書いて渡しておいた紙に何か書き込みながら、質問をしてきた。
「そうね、私はこの濃厚なトマトソースにはさっぱりした味の鳥の肉が合う気がするけど、他の肉を試してみるのもいいと思うわ。それに、魚介もかなりイケる味になるんじゃないかしら……」
「なるほど、魚介……。それはイスでは珍しい料理になりますね」
イスは少し漁港とは離れているが、この店には贅沢なことにマジックバッグが常備されているため、鮮度の高い魚介類をストックしておくことが可能だ。この状況ならば、きっとおいしい魚料理ができるだろう。
この店は乳製品普及のための旗艦レストランなので、いままでその方面の料理を中心にしてきているが、お客様に飽きられないためにも、これからはもう少し幅広いメニューを増やしていくほうがいいだろう。
「そうね。新しい美味しい料理がこの店の売りだもの。じゃ、つぎはもっと面白い調理法を教えるわね」
そう言いながら私が魔道具を取り出すと、みんなの頭には大きな“?”という記号が浮かんでいた。
(まあ、そうなるよね)
私は苦笑しながら、その新しい料理の作り方の説明を始めた。
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