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3 魔法学校の聖人候補
580 スタッフミーティング
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580
俺は最後のお客様のデザートを作り終わって、額の汗を拭った。
「今日も忙しかったなぁ」
いつもと変わらぬいい料理をしっかり作れたことに満足感を覚えながら、俺は厨房の奥にふと目を走らせた。そこは、食材置き場の入り口で、いくつか野菜の入っていた空の木箱が置いてあったのだが、なぜかその箱にちんまりとものすごく綺麗な女の子が座っており、お茶を飲みながら俺に向かって手を振っている。依然お会いしたときより少しだけ背が伸びた気がするその方の姿が、なぜこんな厨房のすみっこにあるのか、混乱した俺はあまりの驚きで動きが一瞬止まってしまった。
「え、あ、えええ!! メイロードさま! メイロードさまですよね!? いつからそこにいらっしゃったんですか?!」
俺の問いに、メイロードさまは楽しそうな笑顔で笑って答えた。
「ええと、3時間ぐらいかな? とっても楽しかったよ、みんながよく働いてくれている姿を見るのは。
久しぶりね、ロッコ。マルコはパレスの店かしら? 」
「は……はい、でも明日にはこちらに戻る予定です。メイロードさまがいらっしゃるなら是が非でも戻ると言ってサイデムさまにねじ込んでいたようですから」
「無茶するわね。大型の輸送用〝天船〟なら、風さえ良ければ5日で航行できるとは聞いてるけど、貨物船に無理やり乗り込むなんてマルコらしいわ」
最初にお会いしたころのメイロードさまは、小さなかわいらしい子供だったのだが、今日お会いした様子は、明らかに“美少女”の風格が出ていた。もともと、その落ち着きぶりは俺たちより年下とはとても思えないものだったが、美しく微笑まれるその姿はこんな厨房の中にあっても、凛として輝いて見える。
俺の声に驚いた料理人たちが、一斉にメイロードさまに気づきその周りへ集まってきた。
「メイロードさま、おひさしぶりでございます!」
「メイロードさま、いったいいつ厨房へ入られたのですか?」
「メイロードさま、相変わらず神出鬼没でございますね」
みんなメイロードさまと話したくて、仕方がなかったのだろう。われ先にと挨拶を始め、メイロードさまの周りを取り囲む。木箱の上のメイロードさまは、そんなみんなに微笑みかけ、しっかりみんなの名前を呼びながらそれに応えている。
(すごいな、もう新入りの子たちのことも覚えてるんだ……)
「この店ではみんながいい仕事をしてくれているのね。その姿を今日は見せてもらいました。ここは本当にいい店ね。お客様もとてもいい笑顔で食事をされていましたよ。皆さんの努力のおかげね。本当にありがとう」
「それにしてもお人の悪い……教えていただければもう少し良いお席をご用意いたしましたのに」
料理長のチェダルさんが、相変わらず野菜が入っていた木箱に座っているメイロードさまにそう言って、手を取った。
メイロードさまは、クスクス笑いながらその手を取って立ち上がる。
すかさず、いつも後ろに付き従っているソーヤさんが、メイロードさまがいつもお召しになる“カッポーギ”という、ちょっと変わったエプロンと頭に巻く“サンカクキン”という布を差し出した。
「ありがとう、ソーヤ。じゃ、私たちもお片付けを手伝いますね。
チェダル料理長、お掃除が終わったら、明日の予定をお話ししましょう。今回のレシピを教えますので、必要な材料を揃えてくださいますか?」
「厨房の片付けなど私たちが……と言っても、お聞きにはならないでしょうな。それでは、お願いいたしましょうか。さあ、みんなちゃっちゃとやろう!」
俺たちは声を揃えてあいさつすると、すぐに鍋や調理器具の片付けに取り掛かった。
またメイロードさまの新しい料理を見られると思うだけでワクワクが止まらない。みんな思いは同じのようで、掃除をする顔もいつもより楽しそうだ。
メイロードさまはフロアの従業員たちにもあいさつに行き、そちらでもどよめきの声が上がっていた。
(いつものこととはいえ、毎度驚かせて下さる)
俺も力を込めて鍋を磨きながら苦笑した。最初は、鍋磨きをすると言っていたメイロードさまだが、やはり厨房用の重い鍋やフライパンを持たせるのは、みんなハラハラするらしく、心配だからと取り上げられたようで、銀食器磨きをすることで落ち着いたらしい。
いまは最近の店の様子を給仕たちに聞きながら一生懸命フォークやスプーンを磨いている。
メイロードさまは、厨房や店の清潔さにとても厳しい方だ。そのこともみんなわかっているので、俺もいつも以上に頑張った。おかげでいつもよりずっと早く片付けが終わり、みんなでレストランの方へ集まって話を聞くことになった。
フロアの従業員たちは帰ってもいいと言ったのだが、誰一人帰ることはなかった。みんな少しでもメイロードさまといたいらしい。その気持ちは俺も同じだが……
メイロードさまは“カッポーギ”を着たまま、説明を始めた。
「皆さん、お疲れさまでした。では、明日は予定通り、調理担当者は午前中から新作料理を覚えてもらうために、こちらへ来ていただきます。給仕の方たちには、お料理の説明ができるよう、出来上がったお料理を試食していただくので、いつもより少し早く来ていただきたいと思います。今回のお料理も少し変わっているので、よく覚えてくださいね」
それから説明された料理は、本当に不思議なレシピで、俺は明日が待ちきれず、その日はよく眠ることができなかった。
俺は最後のお客様のデザートを作り終わって、額の汗を拭った。
「今日も忙しかったなぁ」
いつもと変わらぬいい料理をしっかり作れたことに満足感を覚えながら、俺は厨房の奥にふと目を走らせた。そこは、食材置き場の入り口で、いくつか野菜の入っていた空の木箱が置いてあったのだが、なぜかその箱にちんまりとものすごく綺麗な女の子が座っており、お茶を飲みながら俺に向かって手を振っている。依然お会いしたときより少しだけ背が伸びた気がするその方の姿が、なぜこんな厨房のすみっこにあるのか、混乱した俺はあまりの驚きで動きが一瞬止まってしまった。
「え、あ、えええ!! メイロードさま! メイロードさまですよね!? いつからそこにいらっしゃったんですか?!」
俺の問いに、メイロードさまは楽しそうな笑顔で笑って答えた。
「ええと、3時間ぐらいかな? とっても楽しかったよ、みんながよく働いてくれている姿を見るのは。
久しぶりね、ロッコ。マルコはパレスの店かしら? 」
「は……はい、でも明日にはこちらに戻る予定です。メイロードさまがいらっしゃるなら是が非でも戻ると言ってサイデムさまにねじ込んでいたようですから」
「無茶するわね。大型の輸送用〝天船〟なら、風さえ良ければ5日で航行できるとは聞いてるけど、貨物船に無理やり乗り込むなんてマルコらしいわ」
最初にお会いしたころのメイロードさまは、小さなかわいらしい子供だったのだが、今日お会いした様子は、明らかに“美少女”の風格が出ていた。もともと、その落ち着きぶりは俺たちより年下とはとても思えないものだったが、美しく微笑まれるその姿はこんな厨房の中にあっても、凛として輝いて見える。
俺の声に驚いた料理人たちが、一斉にメイロードさまに気づきその周りへ集まってきた。
「メイロードさま、おひさしぶりでございます!」
「メイロードさま、いったいいつ厨房へ入られたのですか?」
「メイロードさま、相変わらず神出鬼没でございますね」
みんなメイロードさまと話したくて、仕方がなかったのだろう。われ先にと挨拶を始め、メイロードさまの周りを取り囲む。木箱の上のメイロードさまは、そんなみんなに微笑みかけ、しっかりみんなの名前を呼びながらそれに応えている。
(すごいな、もう新入りの子たちのことも覚えてるんだ……)
「この店ではみんながいい仕事をしてくれているのね。その姿を今日は見せてもらいました。ここは本当にいい店ね。お客様もとてもいい笑顔で食事をされていましたよ。皆さんの努力のおかげね。本当にありがとう」
「それにしてもお人の悪い……教えていただければもう少し良いお席をご用意いたしましたのに」
料理長のチェダルさんが、相変わらず野菜が入っていた木箱に座っているメイロードさまにそう言って、手を取った。
メイロードさまは、クスクス笑いながらその手を取って立ち上がる。
すかさず、いつも後ろに付き従っているソーヤさんが、メイロードさまがいつもお召しになる“カッポーギ”という、ちょっと変わったエプロンと頭に巻く“サンカクキン”という布を差し出した。
「ありがとう、ソーヤ。じゃ、私たちもお片付けを手伝いますね。
チェダル料理長、お掃除が終わったら、明日の予定をお話ししましょう。今回のレシピを教えますので、必要な材料を揃えてくださいますか?」
「厨房の片付けなど私たちが……と言っても、お聞きにはならないでしょうな。それでは、お願いいたしましょうか。さあ、みんなちゃっちゃとやろう!」
俺たちは声を揃えてあいさつすると、すぐに鍋や調理器具の片付けに取り掛かった。
またメイロードさまの新しい料理を見られると思うだけでワクワクが止まらない。みんな思いは同じのようで、掃除をする顔もいつもより楽しそうだ。
メイロードさまはフロアの従業員たちにもあいさつに行き、そちらでもどよめきの声が上がっていた。
(いつものこととはいえ、毎度驚かせて下さる)
俺も力を込めて鍋を磨きながら苦笑した。最初は、鍋磨きをすると言っていたメイロードさまだが、やはり厨房用の重い鍋やフライパンを持たせるのは、みんなハラハラするらしく、心配だからと取り上げられたようで、銀食器磨きをすることで落ち着いたらしい。
いまは最近の店の様子を給仕たちに聞きながら一生懸命フォークやスプーンを磨いている。
メイロードさまは、厨房や店の清潔さにとても厳しい方だ。そのこともみんなわかっているので、俺もいつも以上に頑張った。おかげでいつもよりずっと早く片付けが終わり、みんなでレストランの方へ集まって話を聞くことになった。
フロアの従業員たちは帰ってもいいと言ったのだが、誰一人帰ることはなかった。みんな少しでもメイロードさまといたいらしい。その気持ちは俺も同じだが……
メイロードさまは“カッポーギ”を着たまま、説明を始めた。
「皆さん、お疲れさまでした。では、明日は予定通り、調理担当者は午前中から新作料理を覚えてもらうために、こちらへ来ていただきます。給仕の方たちには、お料理の説明ができるよう、出来上がったお料理を試食していただくので、いつもより少し早く来ていただきたいと思います。今回のお料理も少し変わっているので、よく覚えてくださいね」
それから説明された料理は、本当に不思議なレシピで、俺は明日が待ちきれず、その日はよく眠ることができなかった。
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