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3 魔法学校の聖人候補
568 セジャムへの帰還
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568
地上に帰り着いた私たちは、セジャムの街に戻ったところで一時解散することになった。
徐々に面積が狭くなるという、このダンジョンの特徴に助けられてダンジョン後半はとても早く抜けられた。地図がしっかりできた帰り道は狩りも最小限しかせず、常時《裂風》と《強筋》をかけ続け、最短距離で進んで行けた。おかげで最初の予定より深い第11階層まで到達したのに、予定通り五日目の朝にはセジャムの街に戻ることができた。
ダンジョンから出て、明るい日差しを浴びたときには確かな達成感があり、みんなとてもいい笑顔をしていた。冒険者の方たちと連携をしながらのこのお仕事は、トルルの初ダンジョン体験としても、とても実りあるものだっただろう。
(そして改めてトルルのコミュニケーション能力の高さに感心した。案外こういう仕事は向いているみたいだ)
“剣士の荷馬車”の皆さんは、〝冒険者ギルド〟で帰還報告書を提出した後、今回作成した地図の買い取り交渉をするそうだ。“ヒールロック”の情報つきの第十一階層までの完全地図だ。きっと高値で引き取ってくれるに違いない。
私たちは〝魔術師ギルド〟にスフィロさんからサインをもらった依頼完了届を提出し、ギルドに預けられている私とトルルの報酬をもらい、その後、オルダンさんのところへ奥さんの様子を見に行くことにした。
「では、今夜のお食事は私たちにおごらせてください。おふたりがお泊りの“ミノンの宿”は食事も美味しいと聞いています。そこで祝勝会といきましょう」
スフィロさんがそう提案してくれたので、それまでは彼らと別行動になった。別れる前に私が保管している“ヒールロックの核”をスフィロさんに渡そうとしたのだが、いますぐ換金するわけではないので、そのままでいいと言われてしまった。
(なんだかものすごく信用されてるなぁ、ワタシ……)
その信頼の理由が少し気にはなるが、ともあれ、まずは“魔術師ギルド”での手続きだ。
「はい、依頼完了届を確認させていただきました。お疲れさまです」
受付にいた笑顔のお姉さんは、書類を受け取るとすぐに報酬の計算を手慣れた様子で始めた。この依頼完了届を提出するこの場所は、高い衝立で仕切られたボックス席になっている。報酬を受け取る様子を他の人に見られないよう配慮されているのだ。魔法使いの場合報酬が高額になることも多いため、いらぬ争いに巻き込まれないよう、報酬の授受は目につかないほうが良いのだろう。
(冒険者ギルドはこういうところは開けっぴろげだものね。まぁ、報酬額が一桁違うとそうなるか……)
私の報酬は一日200ポルを五日分で1000ポル、トルルはその半分の500ポル。これでも、他の依頼票に示されていた額からすれば、半分以下だが、とはいえ学生には大金だ。
偶然だが、ゼリアン狩りと同じような報酬になった。そう考えると数時間で稼げたゼリアン狩りの方がずっと割りのいい仕事だと言えるが、これは基本費用でダンジョン内で得られた物品から得られる報酬は含まれていない。つまりこういった仕事の場合は、能力が高ければ高いほど多くの収入が加算されるわけだ。
とはいえ、現時点でもトルルはゼリアン狩りの報酬と合わせて1000ポルの大金を手にすることになった。
「すごい、この一週間で1000ポルも、夢みたい」
トルルはお金の半分を家族に送金、残りの半分はギルドに預けるそうだ。
「学校に必要なお金は狩猟同好会で帰ってから稼げばいいし、これは将来のために貯金する。“ヒールロックの核”は、いったいいくらになるのかわからないけど、それも貯金する。
……今回の経験でわかったの。私は全然役に立たないって」
「そんなことないよ。トルルのおかけで助かったよ」
私の言葉にトルルは首を振る。
「でも、マリスさんがいなかったら絶対あのお宝は手に入っていなかったし、地図だって作れなかった。魔法学校を卒業したからって、すぐにちゃんとお金がもらえるだけの仕事ができる魔法使いになれるわけじゃないってよくわかった。
だから、貯金しておくことにしたの。いざ仕事に出るとなったら活動費は必要になるもの。いまはしっかりお金を貯めておかなくちゃね」
どうやらトルルはこの短い魔術師体験で、いろいろと考えるところがあったようだ。若い魔術師に降りかかりやすい危険や求められている技術、その報酬の意味についても……
「私も“剣士の荷馬車”の人たちに一人前と認められるように早くなりたいなぁ」
トルルは彼らの仕事ぶりがとても気に入ったらしい。確かに堅実で無理をせず、いいチームワークでしっかり稼ぐ彼らのやり方はトルルにはぴったりだろう。
「それじゃ、ここですることは終わったし、オルダンさんのところへ行きましょうか」
「うん、奥さん元気になってるといいね。途中でお見舞いにお花を買っていこうよ」
私たちは“魔術師ギルド”を出ると、オルダンさんの店へと向かうため〝冒険者ギルド〟の前を通り進んで行った。近くに花屋さんを見つけたので、そこでお見舞い用の花を探していると、冒険者らしき人たちの声が聞こえてきた。
「おい! ついに“ヒールロック”狩りに成功したヤツが出たぞ!」
「地図も十一階層までできたらしい」
「攻略情報つきの地図はかなり高価になりそうだな……」
(さすが噂は早いわね)
セジャムの話題は“ヒールロック討伐”で持ち切りのようだ。
「なんだか、すごくうれしいっていうか、誇らしいっていうか、そういう気分よね」
みんなからすごいすごいと言われるのがよっぽど嬉しかったのだろう。トルルはいまにも自分が行ってきたのだとしゃべり出しそうだったので、慌てて袖をつかんで首を振り、黙っているようにたしなめる。初めての冒険、初めての成功、話したくて仕方がない気持ちはわかるが、少なくともここではだめだ。
「あそこでの話をすることは、ここでは高値で売れる“情報”をたれ流すのと同じよ。言いたい気持ちはわかるけど、少なくともセジャム近郊では軽々しく話しちゃダメだよ」
トルルはものすごく残念そうだったが、大事なお金になる情報だということに納得してくれたようで口を指で作ったバツ印でふさぎ、そこからはあちこちでささやかれているダンジョンの話題を聞かないようにしながら、道を急いだ。
(おしゃべり大好きのトルルには辛いだろうけど、これも大事な経験だね)
“セジャムのなんでも屋”は開店していて、お店ではオルダンさんが機嫌よく店番をしていた。足の怪我もまったく問題なく治っているようだ。
「ああ、神様! 偉大なるマーブ神の御使い様!」
私が店に入った瞬間、オルダンさんは土下座の勢いで私の前に跪いて、涙ながらに聖天神教の神様に対する感謝らしきことを言い始めた。当然お店で買い物中の人はびっくり顔でこちらの注目している。
(これはまいったなぁ……)
地上に帰り着いた私たちは、セジャムの街に戻ったところで一時解散することになった。
徐々に面積が狭くなるという、このダンジョンの特徴に助けられてダンジョン後半はとても早く抜けられた。地図がしっかりできた帰り道は狩りも最小限しかせず、常時《裂風》と《強筋》をかけ続け、最短距離で進んで行けた。おかげで最初の予定より深い第11階層まで到達したのに、予定通り五日目の朝にはセジャムの街に戻ることができた。
ダンジョンから出て、明るい日差しを浴びたときには確かな達成感があり、みんなとてもいい笑顔をしていた。冒険者の方たちと連携をしながらのこのお仕事は、トルルの初ダンジョン体験としても、とても実りあるものだっただろう。
(そして改めてトルルのコミュニケーション能力の高さに感心した。案外こういう仕事は向いているみたいだ)
“剣士の荷馬車”の皆さんは、〝冒険者ギルド〟で帰還報告書を提出した後、今回作成した地図の買い取り交渉をするそうだ。“ヒールロック”の情報つきの第十一階層までの完全地図だ。きっと高値で引き取ってくれるに違いない。
私たちは〝魔術師ギルド〟にスフィロさんからサインをもらった依頼完了届を提出し、ギルドに預けられている私とトルルの報酬をもらい、その後、オルダンさんのところへ奥さんの様子を見に行くことにした。
「では、今夜のお食事は私たちにおごらせてください。おふたりがお泊りの“ミノンの宿”は食事も美味しいと聞いています。そこで祝勝会といきましょう」
スフィロさんがそう提案してくれたので、それまでは彼らと別行動になった。別れる前に私が保管している“ヒールロックの核”をスフィロさんに渡そうとしたのだが、いますぐ換金するわけではないので、そのままでいいと言われてしまった。
(なんだかものすごく信用されてるなぁ、ワタシ……)
その信頼の理由が少し気にはなるが、ともあれ、まずは“魔術師ギルド”での手続きだ。
「はい、依頼完了届を確認させていただきました。お疲れさまです」
受付にいた笑顔のお姉さんは、書類を受け取るとすぐに報酬の計算を手慣れた様子で始めた。この依頼完了届を提出するこの場所は、高い衝立で仕切られたボックス席になっている。報酬を受け取る様子を他の人に見られないよう配慮されているのだ。魔法使いの場合報酬が高額になることも多いため、いらぬ争いに巻き込まれないよう、報酬の授受は目につかないほうが良いのだろう。
(冒険者ギルドはこういうところは開けっぴろげだものね。まぁ、報酬額が一桁違うとそうなるか……)
私の報酬は一日200ポルを五日分で1000ポル、トルルはその半分の500ポル。これでも、他の依頼票に示されていた額からすれば、半分以下だが、とはいえ学生には大金だ。
偶然だが、ゼリアン狩りと同じような報酬になった。そう考えると数時間で稼げたゼリアン狩りの方がずっと割りのいい仕事だと言えるが、これは基本費用でダンジョン内で得られた物品から得られる報酬は含まれていない。つまりこういった仕事の場合は、能力が高ければ高いほど多くの収入が加算されるわけだ。
とはいえ、現時点でもトルルはゼリアン狩りの報酬と合わせて1000ポルの大金を手にすることになった。
「すごい、この一週間で1000ポルも、夢みたい」
トルルはお金の半分を家族に送金、残りの半分はギルドに預けるそうだ。
「学校に必要なお金は狩猟同好会で帰ってから稼げばいいし、これは将来のために貯金する。“ヒールロックの核”は、いったいいくらになるのかわからないけど、それも貯金する。
……今回の経験でわかったの。私は全然役に立たないって」
「そんなことないよ。トルルのおかけで助かったよ」
私の言葉にトルルは首を振る。
「でも、マリスさんがいなかったら絶対あのお宝は手に入っていなかったし、地図だって作れなかった。魔法学校を卒業したからって、すぐにちゃんとお金がもらえるだけの仕事ができる魔法使いになれるわけじゃないってよくわかった。
だから、貯金しておくことにしたの。いざ仕事に出るとなったら活動費は必要になるもの。いまはしっかりお金を貯めておかなくちゃね」
どうやらトルルはこの短い魔術師体験で、いろいろと考えるところがあったようだ。若い魔術師に降りかかりやすい危険や求められている技術、その報酬の意味についても……
「私も“剣士の荷馬車”の人たちに一人前と認められるように早くなりたいなぁ」
トルルは彼らの仕事ぶりがとても気に入ったらしい。確かに堅実で無理をせず、いいチームワークでしっかり稼ぐ彼らのやり方はトルルにはぴったりだろう。
「それじゃ、ここですることは終わったし、オルダンさんのところへ行きましょうか」
「うん、奥さん元気になってるといいね。途中でお見舞いにお花を買っていこうよ」
私たちは“魔術師ギルド”を出ると、オルダンさんの店へと向かうため〝冒険者ギルド〟の前を通り進んで行った。近くに花屋さんを見つけたので、そこでお見舞い用の花を探していると、冒険者らしき人たちの声が聞こえてきた。
「おい! ついに“ヒールロック”狩りに成功したヤツが出たぞ!」
「地図も十一階層までできたらしい」
「攻略情報つきの地図はかなり高価になりそうだな……」
(さすが噂は早いわね)
セジャムの話題は“ヒールロック討伐”で持ち切りのようだ。
「なんだか、すごくうれしいっていうか、誇らしいっていうか、そういう気分よね」
みんなからすごいすごいと言われるのがよっぽど嬉しかったのだろう。トルルはいまにも自分が行ってきたのだとしゃべり出しそうだったので、慌てて袖をつかんで首を振り、黙っているようにたしなめる。初めての冒険、初めての成功、話したくて仕方がない気持ちはわかるが、少なくともここではだめだ。
「あそこでの話をすることは、ここでは高値で売れる“情報”をたれ流すのと同じよ。言いたい気持ちはわかるけど、少なくともセジャム近郊では軽々しく話しちゃダメだよ」
トルルはものすごく残念そうだったが、大事なお金になる情報だということに納得してくれたようで口を指で作ったバツ印でふさぎ、そこからはあちこちでささやかれているダンジョンの話題を聞かないようにしながら、道を急いだ。
(おしゃべり大好きのトルルには辛いだろうけど、これも大事な経験だね)
“セジャムのなんでも屋”は開店していて、お店ではオルダンさんが機嫌よく店番をしていた。足の怪我もまったく問題なく治っているようだ。
「ああ、神様! 偉大なるマーブ神の御使い様!」
私が店に入った瞬間、オルダンさんは土下座の勢いで私の前に跪いて、涙ながらに聖天神教の神様に対する感謝らしきことを言い始めた。当然お店で買い物中の人はびっくり顔でこちらの注目している。
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