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3 魔法学校の聖人候補
565 最後の一撃
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565
もちろん、これぐらいの岩が削れたところで、〝ヒールロック〟にとっては、ニキビが潰れた程度のものだろう。なんの痛痒も感じていないことは、動きが変わらないことからも明らかだ。
(でも、これで魔法攻撃が使える)
私は大きくえぐれたその岩があった場所に、〝エアバブル〟を作った。それをぴっちりを岩のくぼみに沿わせて隙間なく作り上げた後、その中に魔法で水を送り込み、隙間なく岩にぴっちりと張り付くように水の玉を作った。
そのあと、動きを制限するために作った《石壁》を一部崩すことで〝ヒールロック〟を少し動かし、水で満たされた〝エアバブル〟がちょうど巨体の下敷きになったところで魔法を発動。
「《氷結》!」
私がその水の塊を凍らせていくと〝ヒールロック〟から、ギチギチという岩が擦れ合うような音が上がる。そしてピシピシといった亀裂の入る音がし始め、やがて傷の塊の周囲の表面がボロボロと崩れ落ち始めた。エアバブル周辺にはもう目視で確認できる大きな亀裂がいくつも入り始めている。
〝ヒールロック〟も自分の身に起きた異変を感じ始めたのか、先ほどまでよりも大きな力でなんとか動こうともがいているが、壊しても壊しても瞬時に再建される《石壁》で動きは封じられ、しかも攻撃開始からこれまで小さなエリアで動きすぎたため地面もえぐれ始めている。この自らの動きでできてしまったくぼみで、さらに動きにくくなっているようだ。
《エアバブル》の中で完全に凍った水は、氷となることで体積を増やしていった。このふくらもうとする氷の力に〝ヒールロック〟の巨体の下敷きにすることでさらに圧力をかけ、余すところなく岩の内部へと向けた。その結果、内側へとめり込むように膨張力を解放し、岩の強度を超える力で内部を押し広げたのだ。
亀裂が大きくなると、その周囲から徐々に大きな岩がボロボロと落ち始めて、抉り取られた面積は先ほどの五倍以上の面積になっている。
私は再び《石壁》を操作して〝ヒールロック〟を動かし、抉り取られた場所にアクセスできるよう体勢を変えさせた。あらわになった大穴は小さな公園になりそうなほど広かったが、これでもまだ表面に傷をつけたに過ぎない。
だが、そこには氷の圧力で生じたより内部へと食い込める新たな亀裂があった。そこを足がかりに再び前衛の皆さんがクサビを打ち込み、いくつか打ち込んだところでトルルの《雷鳴》で亀裂を大きくし、私の《エアバブル》《水出》《氷結》のコンボで岩をバキバキと砕いていった。
とにかく巨大な〝ヒールロック〟手応えはあるものの、少しづつしか前進できない。私たちは、このコンビネーション攻撃をそのあと十一回行った。
この数時間にわたる長い攻撃で、体力自慢の前衛の方たちにも、さすがに疲労の色が見え始め、トルルの魔法力もそろそろ心配になってきた。とはいえ、ここまでの成果は確実に積み上げられている。削った石はもう、その巨体の五分の一以上に及んでおり、地面は〝ヒールロック〟から剥がれた岩だらけで足の踏み場もなくなっており、かなり深いところまでクサビを刺せるようになってきた。
状況をしっかり見ていたのだろう。スフィロさんが私に話しかけてきた。
「そろそろ、攻撃陣の疲れが見えてきました。この方法が有効であることもわかりましたし、撤退の時期を考えたほうが良いのではないかと思います」
ここまできても、深追いをしない冷静な判断はさすがだ。確かに、これ以上彼らを動かせば、疲労と集中力の低下で事故が起こる確率が高くなる。
(ここが引き時かなぁ……)
「それじゃ、最後に私の考えたもうひとつの岩砕きの方法を試させてください。それで終わりにしましょう。危険かもしれませんので、皆さんは後方に下がってくださいね」
私は最後の攻撃準備に入る。まずは《エアバブル》の準備だ。先ほどまでと違い、今回は三重の層を作る。一層目と二層目の間には、小さな鉄鉱石を全体に配置して固定。次の二層はぴっちりと重ねて強化する。
それをみんなが開けてくれた大穴の最深部へセット。
「《着火》」
私はその空気玉の中心で火を燃やした。《エアバブル》の内部で燃焼が起こったことで空気が膨張し大きくなっていく。それに従い、随所に配置された鉄鉱石の先端に集中した力が岩を砕きにかかる。やがてこの膨張と連動して〝ヒールロック〟が左右に小刻みに揺れ始めた。そして、その揺れの中から、今までとは段違いの大きな亀裂の入る音が響き渡る。
バキッ! バキッ!
地面の振動を感じるほどの大きな音は、しばらく続き、最後にキーン、という金属音のようなものが響いたかと思うと、轟音と共にヒールロックは真っ二つに割れてしまった。あの金属音は〝ヒールロック〟の断末魔の音だったらしい。
(終わった……のかな?)
ヒールロックの前で立っている私の後ろで、絶叫が響き渡った。
「うおーーーー!! やった! すげえぜ! やっちまったよ!!」
「マジか! ヒールロックを倒したのか、俺たち!?」
「信じられないけど、倒せたんだよな? おいおい、いったいどれだけの儲けになるんだよぉ!!」
体力の限界近くまで戦って疲労困憊のはずの〝剣士の荷馬車〟の面々が、踊り叫び駆け回っている。
(だ、だ、大丈夫なの? 落ち着こうよ、休まないとダメだよ)
私の思いとは逆に、トルルまで巻き込んでテンションは上がる一方だ。私の横に立ったスフィロさんも落ち着いたフリはしているが、顔は紅潮しているし、自分も叫びたくてウズウズしている雰囲気。
(大金星だもんね。気持ちはわかるけど、ひとまず落ち着こうよ、みんな……)
そんなことを言おうとしていた私の躰は、前衛の方にひょいと抱えられてみんなの中心に連れて行かれ、そのあとは胴上げ状態。
(これは何を言っても無駄ね。落ち着くまで待ちますか……)
私は胴上げされながら、彼らが落ち着くのを待つしかないと諦めた。
もちろん、これぐらいの岩が削れたところで、〝ヒールロック〟にとっては、ニキビが潰れた程度のものだろう。なんの痛痒も感じていないことは、動きが変わらないことからも明らかだ。
(でも、これで魔法攻撃が使える)
私は大きくえぐれたその岩があった場所に、〝エアバブル〟を作った。それをぴっちりを岩のくぼみに沿わせて隙間なく作り上げた後、その中に魔法で水を送り込み、隙間なく岩にぴっちりと張り付くように水の玉を作った。
そのあと、動きを制限するために作った《石壁》を一部崩すことで〝ヒールロック〟を少し動かし、水で満たされた〝エアバブル〟がちょうど巨体の下敷きになったところで魔法を発動。
「《氷結》!」
私がその水の塊を凍らせていくと〝ヒールロック〟から、ギチギチという岩が擦れ合うような音が上がる。そしてピシピシといった亀裂の入る音がし始め、やがて傷の塊の周囲の表面がボロボロと崩れ落ち始めた。エアバブル周辺にはもう目視で確認できる大きな亀裂がいくつも入り始めている。
〝ヒールロック〟も自分の身に起きた異変を感じ始めたのか、先ほどまでよりも大きな力でなんとか動こうともがいているが、壊しても壊しても瞬時に再建される《石壁》で動きは封じられ、しかも攻撃開始からこれまで小さなエリアで動きすぎたため地面もえぐれ始めている。この自らの動きでできてしまったくぼみで、さらに動きにくくなっているようだ。
《エアバブル》の中で完全に凍った水は、氷となることで体積を増やしていった。このふくらもうとする氷の力に〝ヒールロック〟の巨体の下敷きにすることでさらに圧力をかけ、余すところなく岩の内部へと向けた。その結果、内側へとめり込むように膨張力を解放し、岩の強度を超える力で内部を押し広げたのだ。
亀裂が大きくなると、その周囲から徐々に大きな岩がボロボロと落ち始めて、抉り取られた面積は先ほどの五倍以上の面積になっている。
私は再び《石壁》を操作して〝ヒールロック〟を動かし、抉り取られた場所にアクセスできるよう体勢を変えさせた。あらわになった大穴は小さな公園になりそうなほど広かったが、これでもまだ表面に傷をつけたに過ぎない。
だが、そこには氷の圧力で生じたより内部へと食い込める新たな亀裂があった。そこを足がかりに再び前衛の皆さんがクサビを打ち込み、いくつか打ち込んだところでトルルの《雷鳴》で亀裂を大きくし、私の《エアバブル》《水出》《氷結》のコンボで岩をバキバキと砕いていった。
とにかく巨大な〝ヒールロック〟手応えはあるものの、少しづつしか前進できない。私たちは、このコンビネーション攻撃をそのあと十一回行った。
この数時間にわたる長い攻撃で、体力自慢の前衛の方たちにも、さすがに疲労の色が見え始め、トルルの魔法力もそろそろ心配になってきた。とはいえ、ここまでの成果は確実に積み上げられている。削った石はもう、その巨体の五分の一以上に及んでおり、地面は〝ヒールロック〟から剥がれた岩だらけで足の踏み場もなくなっており、かなり深いところまでクサビを刺せるようになってきた。
状況をしっかり見ていたのだろう。スフィロさんが私に話しかけてきた。
「そろそろ、攻撃陣の疲れが見えてきました。この方法が有効であることもわかりましたし、撤退の時期を考えたほうが良いのではないかと思います」
ここまできても、深追いをしない冷静な判断はさすがだ。確かに、これ以上彼らを動かせば、疲労と集中力の低下で事故が起こる確率が高くなる。
(ここが引き時かなぁ……)
「それじゃ、最後に私の考えたもうひとつの岩砕きの方法を試させてください。それで終わりにしましょう。危険かもしれませんので、皆さんは後方に下がってくださいね」
私は最後の攻撃準備に入る。まずは《エアバブル》の準備だ。先ほどまでと違い、今回は三重の層を作る。一層目と二層目の間には、小さな鉄鉱石を全体に配置して固定。次の二層はぴっちりと重ねて強化する。
それをみんなが開けてくれた大穴の最深部へセット。
「《着火》」
私はその空気玉の中心で火を燃やした。《エアバブル》の内部で燃焼が起こったことで空気が膨張し大きくなっていく。それに従い、随所に配置された鉄鉱石の先端に集中した力が岩を砕きにかかる。やがてこの膨張と連動して〝ヒールロック〟が左右に小刻みに揺れ始めた。そして、その揺れの中から、今までとは段違いの大きな亀裂の入る音が響き渡る。
バキッ! バキッ!
地面の振動を感じるほどの大きな音は、しばらく続き、最後にキーン、という金属音のようなものが響いたかと思うと、轟音と共にヒールロックは真っ二つに割れてしまった。あの金属音は〝ヒールロック〟の断末魔の音だったらしい。
(終わった……のかな?)
ヒールロックの前で立っている私の後ろで、絶叫が響き渡った。
「うおーーーー!! やった! すげえぜ! やっちまったよ!!」
「マジか! ヒールロックを倒したのか、俺たち!?」
「信じられないけど、倒せたんだよな? おいおい、いったいどれだけの儲けになるんだよぉ!!」
体力の限界近くまで戦って疲労困憊のはずの〝剣士の荷馬車〟の面々が、踊り叫び駆け回っている。
(だ、だ、大丈夫なの? 落ち着こうよ、休まないとダメだよ)
私の思いとは逆に、トルルまで巻き込んでテンションは上がる一方だ。私の横に立ったスフィロさんも落ち着いたフリはしているが、顔は紅潮しているし、自分も叫びたくてウズウズしている雰囲気。
(大金星だもんね。気持ちはわかるけど、ひとまず落ち着こうよ、みんな……)
そんなことを言おうとしていた私の躰は、前衛の方にひょいと抱えられてみんなの中心に連れて行かれ、そのあとは胴上げ状態。
(これは何を言っても無駄ね。落ち着くまで待ちますか……)
私は胴上げされながら、彼らが落ち着くのを待つしかないと諦めた。
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