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3 魔法学校の聖人候補
564 突破口
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564
私はまず〝ヒールロック〟を取り囲むように、前衛の皆さんの身長より高さがあり突進されても一撃では砕かれないだけの厚みのある《石壁》を、人は自由に行き来できるぐらいの間隔を開けて、ちょうど歯が生えているような感じにたくさん配置した。
しっかり消音しながら数分で作業を終えたので、〝ヒールロック〟にこちらの動きを気づかれることもなく、準備は順調だ。
「これで、多少は〝ヒールロック〟の動きは止められますし、一時避難する場所にもなるでしょう」
「なるほど、人は縦横無尽に通り抜けられるが、巨体の〝ヒールロック〟は自由に動けないわけですね。これは前衛たちは助かるでしょう。ありがとうございます」
スフィロさんは私の設置した《石壁》の強度を手で実際に触りながら、何度もうなずきなにやら嬉しそうな表情だ。
《鑑定》によって得られた〝ヒールロック〟の情報は、巨体である以外は〝ロックバイター〟と大きな差がない、というものだった。基本的には静止しているが、刺激を受けると動き始めるという点も同じだ。だがその巨体により、防御力が非常に高く、攻め手が難しい。
まずは転がりながらスピードを上げられ攻撃する隙がない、という状況だけは〝ヒールロック〟の動きを制限することで封じてはみたが、たとえ素晴らしい剣技を持つこのパーティーの前衛の方々が全力で剣を振り下ろし続けても、この岩の塊に有効なダメージが与えられるとも思えない。
(岩、岩かぁ……岩は強固だけど、岩である以上割れなくはないよね……)
私は自分が閃いた方法が可能かどうか確かめるため、確認作業に入った。
「皆さんは採取用の道具をお持ちですよね?」
「ああもちろん。それだけは欠かさずたくさん持っているよ。商売道具だからね」
スフィロさんの言葉に、どうやらイケそうだと判断した私は、こう相談してみた。
「〝ヒールロック〟の表面を剣で傷つけるという方法では、ほとんど効果はないと思います。もし可能でしたら、その採取用の道具でくさびを打つように〝ヒールロック〟に穴を開けていただけませんか?」
「もちろんそれは可能だが、あの大きさだ。表面に近い場所にしか届かないぞ」
「ええ、それで構いません。そんなに簡単な相手じゃないことはわかっています。でも、皆さんの道具とお力、そして私とトルルの魔法があればなんとかなるかもしれません」
私の言葉にスフィロさんはとても面白そうな表情を浮かべ、全面協力を約束してくれた。
「どちらにせよ、剣技だけでは攻め手を欠く状況なのは明らかです。仮にマリスさんの提案された方法が失敗したとしても、それもまた情報として有用ですしね。可能性があるのなら、できるだけのことをやってみましょう。穴を開けるクサビの他に必要なものはありますか?」
「では、第一階層で採取した鉄鉱石を頂いてもいいですか?」
「ええ、また帰りに採取すればいいので、いくらでも。でも資料用なので小さなものが多いですよ」
私はちょっと悪戯っぽく微笑みつつ、スフィロさんがアイテムバッグから出してくれた鉄鉱石を選別しながらこう言った。
「私に必要なのは、小さなものなんです。これ、完璧ですね」
「それはよかった。では作戦をお聞きしましょうか」
そこから、私とスフィロさんで暫し作戦会議をし、その後は全員を集めてこれからの計画を話した。
「なるほどねぇ。さすが魔術師は俺たちとは考えることが違うね!」
「本当にそんなことであの怪物が倒せるならすごいがなぁ……」
作戦を聞いた前衛の皆さんが、少し呆れ顔で笑う。
「いやいや、これって魔術師だからじゃなくて、マリスさんだからだって! こんなこと学校でも教わらないし、普通の魔術師は知らないよ!」
トルルが、全力で魔術師だからじゃない、私がものすごく特殊なのだと否定する。まぁ、確かにそうかもしれないが、そんなに言わなくても……とは思ったが、皆さんトルルの言葉になんだか納得しているし、ここで言い争っても仕方がないので、曖昧に微笑んで話を続けた。
「この作戦でどこまでダメージが与えられるかはわかりません。一気に倒せる方法でもないので、戦い始めれば長期戦になります。そのつもりで、トルルは魔法力に、他の皆さんは体力に十分に気をつけながら作戦を進めてください」
「クサビを打ち込むのはお手のものだ、任せといてくれ!」
「私も頑張るよ!」
「前衛の皆さんを守り〝ヒールロック〟の動きを制限する《石壁》は、攻撃を始めれば徐々に破壊されていってしまうと思われます。ですが、破壊されたら出来る限り迅速に新しい《石壁》を作っていきますので、安心してください。
壁は三重に設置してありますので、少しでも危険を感じたら後退してください。命優先でお願いします。では、トルル、お願いね」
「はいはーい、任せて!」
最初の攻撃はトルルお得意の《雷鳴》だ。
もちろん、これでは表面を少し傷つけることしかできないが、うまくいけば小さな亀裂を作ることができる。
この《雷鳴》に驚いた〝ヒールロック〟は、唯一の攻撃方法である高速回転によるブチかましをしようと、ゆっくりと動き始めたが、私の《石壁》に阻まれ、転がることができずにいる。
(よしよし、作戦通り)
その間にもトルルは《雷鳴》を何度も繰り出し〝ヒールロック〟の表面にはいくつかの裂け目ができ始めた。
その中でも大きな裂け目を狙って前衛の皆さんが近寄り、最初の一本を打ち込むため、私よりずっと重そうなハンマーを使って思い切り大きなクサビを突き立てる。クサビが深く刺さることにより亀裂が大きくなると、その亀裂に沿って新しいクサビを打ち込み、徐々に亀裂を大きくしていく。
鉄壁の守りを誇る〝ヒールロック〟と違い、少しの衝撃でも大きな怪我になってしまう私たち。作業は〝ヒールロック〟の動きを見ながら慎重に進められた。
私の強固な《石壁》もあっという間にボロボロになっていったが、私の修復スピードの方が優っているので、まだ〝ヒールロック〟は自由を完全に奪われた状態のままだ。
(この状況ならいけるかも!)
「トルルーー! 打ち込んだクサビに向かって《雷鳴》をおねがーい!」
「わかったー! じゃ、いっくよー!」
次の瞬間、打ち込まれた五本のクサビの上に雷が落ち、大きな振動とともに、クサビの部分からゴロリと人が持ち上げるのは不可能な大きさの岩石の塊がゴロリと地面へと落ちた。表面だけとはいえ、この攻撃の成果だ。
(よし! これを突破口に〝ヒールロック〟を攻略するぞ!」
私はまず〝ヒールロック〟を取り囲むように、前衛の皆さんの身長より高さがあり突進されても一撃では砕かれないだけの厚みのある《石壁》を、人は自由に行き来できるぐらいの間隔を開けて、ちょうど歯が生えているような感じにたくさん配置した。
しっかり消音しながら数分で作業を終えたので、〝ヒールロック〟にこちらの動きを気づかれることもなく、準備は順調だ。
「これで、多少は〝ヒールロック〟の動きは止められますし、一時避難する場所にもなるでしょう」
「なるほど、人は縦横無尽に通り抜けられるが、巨体の〝ヒールロック〟は自由に動けないわけですね。これは前衛たちは助かるでしょう。ありがとうございます」
スフィロさんは私の設置した《石壁》の強度を手で実際に触りながら、何度もうなずきなにやら嬉しそうな表情だ。
《鑑定》によって得られた〝ヒールロック〟の情報は、巨体である以外は〝ロックバイター〟と大きな差がない、というものだった。基本的には静止しているが、刺激を受けると動き始めるという点も同じだ。だがその巨体により、防御力が非常に高く、攻め手が難しい。
まずは転がりながらスピードを上げられ攻撃する隙がない、という状況だけは〝ヒールロック〟の動きを制限することで封じてはみたが、たとえ素晴らしい剣技を持つこのパーティーの前衛の方々が全力で剣を振り下ろし続けても、この岩の塊に有効なダメージが与えられるとも思えない。
(岩、岩かぁ……岩は強固だけど、岩である以上割れなくはないよね……)
私は自分が閃いた方法が可能かどうか確かめるため、確認作業に入った。
「皆さんは採取用の道具をお持ちですよね?」
「ああもちろん。それだけは欠かさずたくさん持っているよ。商売道具だからね」
スフィロさんの言葉に、どうやらイケそうだと判断した私は、こう相談してみた。
「〝ヒールロック〟の表面を剣で傷つけるという方法では、ほとんど効果はないと思います。もし可能でしたら、その採取用の道具でくさびを打つように〝ヒールロック〟に穴を開けていただけませんか?」
「もちろんそれは可能だが、あの大きさだ。表面に近い場所にしか届かないぞ」
「ええ、それで構いません。そんなに簡単な相手じゃないことはわかっています。でも、皆さんの道具とお力、そして私とトルルの魔法があればなんとかなるかもしれません」
私の言葉にスフィロさんはとても面白そうな表情を浮かべ、全面協力を約束してくれた。
「どちらにせよ、剣技だけでは攻め手を欠く状況なのは明らかです。仮にマリスさんの提案された方法が失敗したとしても、それもまた情報として有用ですしね。可能性があるのなら、できるだけのことをやってみましょう。穴を開けるクサビの他に必要なものはありますか?」
「では、第一階層で採取した鉄鉱石を頂いてもいいですか?」
「ええ、また帰りに採取すればいいので、いくらでも。でも資料用なので小さなものが多いですよ」
私はちょっと悪戯っぽく微笑みつつ、スフィロさんがアイテムバッグから出してくれた鉄鉱石を選別しながらこう言った。
「私に必要なのは、小さなものなんです。これ、完璧ですね」
「それはよかった。では作戦をお聞きしましょうか」
そこから、私とスフィロさんで暫し作戦会議をし、その後は全員を集めてこれからの計画を話した。
「なるほどねぇ。さすが魔術師は俺たちとは考えることが違うね!」
「本当にそんなことであの怪物が倒せるならすごいがなぁ……」
作戦を聞いた前衛の皆さんが、少し呆れ顔で笑う。
「いやいや、これって魔術師だからじゃなくて、マリスさんだからだって! こんなこと学校でも教わらないし、普通の魔術師は知らないよ!」
トルルが、全力で魔術師だからじゃない、私がものすごく特殊なのだと否定する。まぁ、確かにそうかもしれないが、そんなに言わなくても……とは思ったが、皆さんトルルの言葉になんだか納得しているし、ここで言い争っても仕方がないので、曖昧に微笑んで話を続けた。
「この作戦でどこまでダメージが与えられるかはわかりません。一気に倒せる方法でもないので、戦い始めれば長期戦になります。そのつもりで、トルルは魔法力に、他の皆さんは体力に十分に気をつけながら作戦を進めてください」
「クサビを打ち込むのはお手のものだ、任せといてくれ!」
「私も頑張るよ!」
「前衛の皆さんを守り〝ヒールロック〟の動きを制限する《石壁》は、攻撃を始めれば徐々に破壊されていってしまうと思われます。ですが、破壊されたら出来る限り迅速に新しい《石壁》を作っていきますので、安心してください。
壁は三重に設置してありますので、少しでも危険を感じたら後退してください。命優先でお願いします。では、トルル、お願いね」
「はいはーい、任せて!」
最初の攻撃はトルルお得意の《雷鳴》だ。
もちろん、これでは表面を少し傷つけることしかできないが、うまくいけば小さな亀裂を作ることができる。
この《雷鳴》に驚いた〝ヒールロック〟は、唯一の攻撃方法である高速回転によるブチかましをしようと、ゆっくりと動き始めたが、私の《石壁》に阻まれ、転がることができずにいる。
(よしよし、作戦通り)
その間にもトルルは《雷鳴》を何度も繰り出し〝ヒールロック〟の表面にはいくつかの裂け目ができ始めた。
その中でも大きな裂け目を狙って前衛の皆さんが近寄り、最初の一本を打ち込むため、私よりずっと重そうなハンマーを使って思い切り大きなクサビを突き立てる。クサビが深く刺さることにより亀裂が大きくなると、その亀裂に沿って新しいクサビを打ち込み、徐々に亀裂を大きくしていく。
鉄壁の守りを誇る〝ヒールロック〟と違い、少しの衝撃でも大きな怪我になってしまう私たち。作業は〝ヒールロック〟の動きを見ながら慎重に進められた。
私の強固な《石壁》もあっという間にボロボロになっていったが、私の修復スピードの方が優っているので、まだ〝ヒールロック〟は自由を完全に奪われた状態のままだ。
(この状況ならいけるかも!)
「トルルーー! 打ち込んだクサビに向かって《雷鳴》をおねがーい!」
「わかったー! じゃ、いっくよー!」
次の瞬間、打ち込まれた五本のクサビの上に雷が落ち、大きな振動とともに、クサビの部分からゴロリと人が持ち上げるのは不可能な大きさの岩石の塊がゴロリと地面へと落ちた。表面だけとはいえ、この攻撃の成果だ。
(よし! これを突破口に〝ヒールロック〟を攻略するぞ!」
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