上 下
371 / 823
3 魔法学校の聖人候補

560 ダンジョンでの休憩

しおりを挟む
560

とはいえ、そろそろ疲れも溜まってきた。

スフィロさんの判断で暫く休息をとることに決まったので、敵影の少ない場所に私とトルルで土壁を築き、敵が入って来れない簡易的な砦を築いて、そこで休むことを提案してみた。

「魔法使いがいると、こういうことができるのが助かるよなぁ」
「ああ、歩哨がいらず、全員でゆっくりと休めるのは、ダンジョンではまれだからな」

確かに魔法使いがいない状況で、ダンジョン内の魔物のいるエリアで休むとなると、かなり落ち着かないはずだ。休んだ心地もしないのではないだろうか。
この階層には空を飛ぶ魔物はいないので、跳んで襲ってくる魔物が入れない高さにしておけば、厚めの土壁はいい居住空間になる。きっと、いつもより気を張ることなく休めるだろう。

(まぁ、私も《索敵》で周辺の監視はしておくけどね)

「まずは食事、それから仮眠だな。この落ち着いた場所なら、ゆっくり寝られそうだ」

スフィロさんたちはマジックバッグから、用意してきたパンや焼いてある肉を取り出した。セジャムの街で事前に準備したものだそうだ。マジックバッグに入れられていたので肉はまだほんのりと暖かく、パンも瑞々しさを保っていた。

「はい、これ君たちの分だよ。食事は雇用主が用意するのが決まりなんだ」

スフィロさんはそう言って、ちゃんと私たちの分のパンとお肉を皿に用意してくれた。

「ありがとうございます。それじゃ、私たちが持ってきたお料理も出しますね。どうぞこちらも召し上がってください」

私は《無限回廊の扉》につながったマジックバッグの中から、魔石コンロと寸胴を取り出す。

「ああ、君もマジックバッグを持っていたんだね。それに、それは携帯用の魔石コンロかい? 面白いものを持ってるね」

興味津々のスフィロさんとおいしそうな香りに引き寄せられた皆さんに見守られながら、温めた鍋を開ける。

「こちらはたっぷりの野菜を煮込んでチーズと牛乳を加えたシチューです。これは肉じゃなく魚介を具にしているんですよ。大きな漁港の近くに行ったとき、たくさん買って保存しているんです」

貝やエビがたっぷり入った具だくさんのシチューを取り分けると、皆さんものすごい勢いで食べ始めた。

「うめえ、うめえな! これ、たまんねぇ!」
「魚なんて、って思ったが、イケるもんだな。パンと一緒に食うと、さらにたまらんぞ!」
「これがクリームシチューってやつか。肉の入ったやつは食ったことあるが、これは全然別の味がするよ。へえ、こんなのもあるんだなぁ。ああ、温かくてうまい!」

沿海州の新鮮なお魚は本当に美味しいので、魚市場に行くたび山ほど買ってしまう。その上、私のマホロにある別荘には、定期的にタイチが食べきれないほどの海産物を送ってくるので、私のストックはいつでも潤沢だ。

ちなみに、いつもなら真っ先に飛びつくソーヤがいないのは、命の危機を脱したばかりのオルダンさんの奥さんに、まさかの事態が起こったときに対応するため、オルダンさんのお店に看病要員として置いてきたからだ。何かあれば《念話》で連絡が取れるソーヤ以上に素早く対応できる者はいないため、今回はお願いした。

〔奥さんの状態はどう?〕

〔うつらうつらされていますが意識は徐々にしっかりしてきています。短い会話もできるようになってきていますし、問題ないですね。メイロードさまこそ、ご無事なのですか?〕

〔うん。さっきオルダンさんたちのパーティーを見つけて、奥さんが治ったことを伝えて返したから、しばらくしたら着くと思うわ〕

〔それはよかったですね。お早いお帰りをお待ちしております〕

〔ありがと。あと少し見守ってあげてね、よろしく〕

シチューを配りながらそんな《念話》をしていた。

配り終えて食事をしていると、スフィロさんに声をかけられた。

「この料理、サイデム商会のやっているデリカテッセンの味に似ているな。もしかして、君たちイスの出身かい?」

この質問は想定済みだったので、私はスラスラと答える。

「トルルはこのセジャムの近くの出身で、私はイスから馬車で十日ほど離れた小さな村の出身なんですよ。イスには何度か行っているので、そのときに覚えたんです」

「なるほどねえ。いや、本当にうまいよ。イスのデリカテッセンよりうまいかもしれない。マリスさんは料理上手なんだね」

「ありがとうございます」

かなりの量あった寸胴のシーフード入りのチーズクリームシチューは、結局すべて冒険者のみなさんの胃袋に収まった。本当に冒険者の人たちはよく食べる。

そこからは、ひとりが起きて見張り役をしながら、順次仮眠をとることになった。私とトルルは慣れていないのと、見張り役の訓練をしていないという理由で免除された。

「お役に立てずにすみません」

私の言葉に皆さん気にすることはない。でも、もしよかったら、またご飯を分けてくれると嬉しいと、ちょっと遠慮気味に提案してくれたので、もちろんとうなずいた。

歩哨を変わるぐらい、美味しいごはんが食べられることに比べればなんでもないことのようだ。

(まぁ、こんな場所ではほかに楽しみもないからね)

オルダンさん発見ミッションを完了し安心したからか、意外と図太いらしい私は、マジックバッグもどきから取り出した薄い敷物の上で、ぐっすりと眠ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『転生したら弱小領主の嫡男でした!!元アラフィフの戦国サバイバル~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
ファンタジー
【祝!93,000累計pt ローマは1日にして成らず・千里の道も一歩から】 歴史好き、という以外にこれと言って取り柄のない、どこにでもいるサラリーマンの沢森武は、休暇中の地元で事故にあい戦国時代に転生してしまう。しかし、まったくのマイナー武将で、もちろん某歴史ゲームには登場しない。おそらく地元民で歴史好きですら??かもしれない、地方の国人領主のそのまた配下の長男として。ひょっとしてすでに詰んでる?ぶっちゃけ有名どころなら歴史的資料も多くて・・・よくあるタイムスリップ・転生ものでもなんとか役に立ちそうなもんだが、知らない。まじで知らない。超マイナー武将に転生した元アラフィフおっさんの生き残りをかけた第二の人生が始まる。 カクヨム様・小説家になろう様・アルファポリス様にて掲載中 ちなみにオフィシャルは https://www.kyouinobushige.online/ 途中から作ったので間が300話くらい開いているいびつなサイト;;w

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

虚弱高校生が世界最強となるまでの異世界武者修行日誌

力水
ファンタジー
 楠恭弥は優秀な兄の凍夜、お転婆だが体が弱い妹の沙耶、寡黙な父の利徳と何気ない日常を送ってきたが、兄の婚約者であり幼馴染の倖月朱花に裏切られ、兄は失踪し、父は心労で急死する。  妹の沙耶と共にひっそり暮そうとするが、倖月朱花の父、竜弦の戯れである条件を飲まされる。それは竜弦が理事長を務める高校で卒業までに首席をとること。  倖月家は世界でも有数の財閥であり、日本では圧倒的な権勢を誇る。沙耶の将来の件まで仄めかされれば断ることなどできようもない。  こうして学園生活が始まるが日常的に生徒、教師から過激ないびりにあう。  ついに《体術》の実習の参加の拒否を宣告され途方に暮れていたところ、自宅の地下にある門を発見する。その門は異世界アリウスと地球とをつなぐ門だった。  恭弥はこの異世界アリウスで鍛錬することを決意し冒険の門をくぐる。    主人公は高い技術の地球と資源の豊富な異世界アリウスを往来し力と資本を蓄えて世界一を目指します。  不幸のどん底にある人達を仲間に引き入れて世界でも最強クラスの存在にしたり、会社を立ち上げて地球で荒稼ぎしたりする内政パートが結構出てきます。ハーレム話も大好きなので頑張って書きたいと思います。また最強タグはマジなので嫌いな人はご注意を!  書籍化のため1~19話に該当する箇所は試し読みに差し換えております。ご了承いただければ幸いです。  一人でも読んでいただければ嬉しいです。

妹に人生を狂わされた代わりに、ハイスペックな夫が出来ました

コトミ
恋愛
子爵令嬢のソフィアは成人する直前に婚約者に浮気をされ婚約破棄を告げられた。そしてその婚約者を奪ったのはソフィアの妹であるミアだった。ミアや周りの人間に散々に罵倒され、元婚約者にビンタまでされ、何も考えられなくなったソフィアは屋敷から逃げ出した。すぐに追いつかれて屋敷に連れ戻されると覚悟していたソフィアは一人の青年に助けられ、屋敷で一晩を過ごす。その後にその青年と…

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

皇太子から愛されない名ばかりの婚約者と蔑まれる公爵令嬢、いい加減面倒臭くなって皇太子から意図的に距離をとったらあっちから迫ってきた。なんで?

下菊みこと
恋愛
つれない婚約者と距離を置いたら、今度は縋られたお話。 主人公は、婚約者との関係に長年悩んでいた。そしてようやく諦めがついて距離を置く。彼女と婚約者のこれからはどうなっていくのだろうか。 小説家になろう様でも投稿しています。

転生幼女はお願いしたい~100万年に1人と言われた力で自由気ままな異世界ライフ~

土偶の友
ファンタジー
 サクヤは目が覚めると森の中にいた。  しかも隣にはもふもふで真っ白な小さい虎。  虎……? と思ってなでていると、懐かれて一緒に行動をすることに。  歩いていると、新しいもふもふのフェンリルが現れ、フェンリルも助けることになった。  それからは困っている人を助けたり、もふもふしたりのんびりと生きる。 9/28~10/6 までHOTランキング1位! 5/22に2巻が発売します! それに伴い、24章まで取り下げになるので、よろしく願いします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。