370 / 832
3 魔法学校の聖人候補
559 遭遇
しおりを挟む
559
早速オルダンさんと話をしようとしたのだが、周りは戦闘状態の修羅場中。
私は2匹の〝ビッグマモット〟と戦闘中のスフィロさんに大声で叫んだ。
「この怪我をした方たちを隔離したいんですが、私がいなくても大丈夫ですかーー?」
私の言葉に、スフィロさんも大声で返してくる。
「大丈夫だ。これぐらいなら私たちだけで充分さ。君たちの目的はその人なんだろう。なら彼の安全を確保してやってくれ!」
「ありがとうございまーす!」
と話しているところへ、私とオルダンさんに向かって“鉄爪ビッテ”が飛びかかってきた。
危ないと思った私は、ほぼ無意識で瞬時に《土壁》に圧力を加えて強化した《岩壁》を作り、“鉄爪ビッテ”はそれに全速力で体当たりをして気絶した。
(痛ったそー)
そのまま、倒れた冒険者のみなさんとオルダンさんの周囲も《岩壁》でガードしたので、これでもう襲われる心配はないはずだ。
他の冒険者の皆さんは、さすがにそこまでひどい傷はなく、体力の消耗が一番大きい感じだったので、〝ポーション〟を各々に配って飲んでもらい、回復を促した。オルダンさんには、もちろん〝ハイパーポーション〟だとは言わず、ひどい足の傷に少しかけてようすをみる。
「どうです。歩けそうですか?」
私はオルダンさんにもポーションを渡しながらそう聞いた。
「あ、ありがとうございます。痛みは引きました。すごいお薬をお持ちですね。私は……私はもう、ここで死んで天国で妻と会うのだと、思っていました……」
涙目のオルダンさんに私は少しいたずらっぽく返した。
「え、天国に奥様はいませんよ。もしオルダンさんが行ってたら、まちぼうけでしたね」
「マリスさんは、妻の容態をご存じなんですか? まだ、妻は生きていてくれるんですか? ああ、でもヒールロックがなかったら、もう長くは……」
「奥様は全快なさいました。もちろんお腹の赤ちゃんも無事です」
「へっ?」
号泣の準備に入っていたオルダンさんが、なんだかものすごく間抜けな顔でこちらを見ている。
「ですから、奥様の病気は治ったんです。私たちが見たときはまだお休みになっていましたが、意識はしっかり戻っていますし、病気は去りました」
それから、私たちがオルダンさんのお店に行ったこと。そして奥さんのことを聞き診察したこと。たまたま私が持っていた薬が奥さんに効いたこと、そんなちょっと嘘交じりの顛末を手短に話した。
「だから、こんなところで足を怪我して動けなくなっている場合じゃないんです。早く帰ってあげなきゃダメじゃないですか!」
一瞬涙が止まったかに見えたオルダンさんは、
「帰ります。帰ります。いますぐ帰りますう~」
っと言って、嬉しさと安堵で、再び大号泣。
大人の男性の大号泣を止める術もなく見ていると《石壁》を剣でたたく音がして、このあたりの魔物の駆除が終わったと知らせがあった。私の《索敵》でも、周囲に敵はいないことが確認できたので、《石壁》も撤去した。
「どうだ? 彼らは大丈夫そうか?」
「ありがとうございます。自力で帰れる程度だと思います。できればこの階層の入り口まで送っていきたいのですが、お願いできますか」
スフィロさんは仕方ないという顔をしつつも、了承してくれた。
「基本的に冒険者はほかの冒険者を助けない。それが冒険者の矜持だし、そんなことをしていたら共倒れになる可能性の方がずっと高いからだ。
だが、今回は事情が事情で、商人交じりのパーティーだったし、しかも君たちを雇用する条件が彼らの発見と救助だったからね。ちゃんと面倒見させてもらうよ」
「ありがとうございます。私たちは引き続きしっかりお仕事をいたしますので、任せてください」
最後までしっかり彼らを守ろうとしてくれる〝剣士の荷馬車〟の皆さんに、私はとても感謝していた。彼らの紳士的で誠実な対応には、私も誠実に応えたい。
「ああ、君らには期待している。ここから下の層はより《鑑定》が必要な素材も魔物も増えていくはずだ。君らとなら、かなり調査が進みそうで助かるよ」
ちょっと意味ありげな頬笑みを浮かべたスフィロさんだが、それ以上は何も言わず“ポーション”でなんとか回復したパーティーの皆さんを第三階層入り口まで護衛して送っていった。
「“剣士の荷馬車”の皆様、そしてマリスさん、トルルさん、本当にありがとうございました。生きてこのダンジョンを出られて、本当にうれしいです」
オルダンさんが頭を下げる。
「いまは一刻も早く奥様のところへ向かってください。お気をつけて」
「こんな無茶、もうしちゃだめだよ! ダンジョンは危険なんだからね!」
私たちのお説教に頭をかきながら、何度もお礼を言って彼らは上の階層へと上がっていった。
「ありがとうございました。皆さんのおかげでオルダンさんたちを助け、大事な伝言を伝えることができました。
さて、これで私たちの目的は達成されました。あとはスフィロさんたちのサポートに徹します。行ける階層までいきましょう」
私の言葉にスフィロさんは優しく微笑んで頷いた。
「ああ、頼むぞ」
そして私たちはまだ地図のない階層のダンジョンへ向かって、進み始めた。
早速オルダンさんと話をしようとしたのだが、周りは戦闘状態の修羅場中。
私は2匹の〝ビッグマモット〟と戦闘中のスフィロさんに大声で叫んだ。
「この怪我をした方たちを隔離したいんですが、私がいなくても大丈夫ですかーー?」
私の言葉に、スフィロさんも大声で返してくる。
「大丈夫だ。これぐらいなら私たちだけで充分さ。君たちの目的はその人なんだろう。なら彼の安全を確保してやってくれ!」
「ありがとうございまーす!」
と話しているところへ、私とオルダンさんに向かって“鉄爪ビッテ”が飛びかかってきた。
危ないと思った私は、ほぼ無意識で瞬時に《土壁》に圧力を加えて強化した《岩壁》を作り、“鉄爪ビッテ”はそれに全速力で体当たりをして気絶した。
(痛ったそー)
そのまま、倒れた冒険者のみなさんとオルダンさんの周囲も《岩壁》でガードしたので、これでもう襲われる心配はないはずだ。
他の冒険者の皆さんは、さすがにそこまでひどい傷はなく、体力の消耗が一番大きい感じだったので、〝ポーション〟を各々に配って飲んでもらい、回復を促した。オルダンさんには、もちろん〝ハイパーポーション〟だとは言わず、ひどい足の傷に少しかけてようすをみる。
「どうです。歩けそうですか?」
私はオルダンさんにもポーションを渡しながらそう聞いた。
「あ、ありがとうございます。痛みは引きました。すごいお薬をお持ちですね。私は……私はもう、ここで死んで天国で妻と会うのだと、思っていました……」
涙目のオルダンさんに私は少しいたずらっぽく返した。
「え、天国に奥様はいませんよ。もしオルダンさんが行ってたら、まちぼうけでしたね」
「マリスさんは、妻の容態をご存じなんですか? まだ、妻は生きていてくれるんですか? ああ、でもヒールロックがなかったら、もう長くは……」
「奥様は全快なさいました。もちろんお腹の赤ちゃんも無事です」
「へっ?」
号泣の準備に入っていたオルダンさんが、なんだかものすごく間抜けな顔でこちらを見ている。
「ですから、奥様の病気は治ったんです。私たちが見たときはまだお休みになっていましたが、意識はしっかり戻っていますし、病気は去りました」
それから、私たちがオルダンさんのお店に行ったこと。そして奥さんのことを聞き診察したこと。たまたま私が持っていた薬が奥さんに効いたこと、そんなちょっと嘘交じりの顛末を手短に話した。
「だから、こんなところで足を怪我して動けなくなっている場合じゃないんです。早く帰ってあげなきゃダメじゃないですか!」
一瞬涙が止まったかに見えたオルダンさんは、
「帰ります。帰ります。いますぐ帰りますう~」
っと言って、嬉しさと安堵で、再び大号泣。
大人の男性の大号泣を止める術もなく見ていると《石壁》を剣でたたく音がして、このあたりの魔物の駆除が終わったと知らせがあった。私の《索敵》でも、周囲に敵はいないことが確認できたので、《石壁》も撤去した。
「どうだ? 彼らは大丈夫そうか?」
「ありがとうございます。自力で帰れる程度だと思います。できればこの階層の入り口まで送っていきたいのですが、お願いできますか」
スフィロさんは仕方ないという顔をしつつも、了承してくれた。
「基本的に冒険者はほかの冒険者を助けない。それが冒険者の矜持だし、そんなことをしていたら共倒れになる可能性の方がずっと高いからだ。
だが、今回は事情が事情で、商人交じりのパーティーだったし、しかも君たちを雇用する条件が彼らの発見と救助だったからね。ちゃんと面倒見させてもらうよ」
「ありがとうございます。私たちは引き続きしっかりお仕事をいたしますので、任せてください」
最後までしっかり彼らを守ろうとしてくれる〝剣士の荷馬車〟の皆さんに、私はとても感謝していた。彼らの紳士的で誠実な対応には、私も誠実に応えたい。
「ああ、君らには期待している。ここから下の層はより《鑑定》が必要な素材も魔物も増えていくはずだ。君らとなら、かなり調査が進みそうで助かるよ」
ちょっと意味ありげな頬笑みを浮かべたスフィロさんだが、それ以上は何も言わず“ポーション”でなんとか回復したパーティーの皆さんを第三階層入り口まで護衛して送っていった。
「“剣士の荷馬車”の皆様、そしてマリスさん、トルルさん、本当にありがとうございました。生きてこのダンジョンを出られて、本当にうれしいです」
オルダンさんが頭を下げる。
「いまは一刻も早く奥様のところへ向かってください。お気をつけて」
「こんな無茶、もうしちゃだめだよ! ダンジョンは危険なんだからね!」
私たちのお説教に頭をかきながら、何度もお礼を言って彼らは上の階層へと上がっていった。
「ありがとうございました。皆さんのおかげでオルダンさんたちを助け、大事な伝言を伝えることができました。
さて、これで私たちの目的は達成されました。あとはスフィロさんたちのサポートに徹します。行ける階層までいきましょう」
私の言葉にスフィロさんは優しく微笑んで頷いた。
「ああ、頼むぞ」
そして私たちはまだ地図のない階層のダンジョンへ向かって、進み始めた。
184
お気に入りに追加
13,104
あなたにおすすめの小説
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
追放ですか?それは残念です。最後までワインを作りたかったのですが。 ~新たな地でやり直します~
アールグレイ
ファンタジー
ワイン作りの統括責任者として、城内で勤めていたイラリアだったが、突然のクビ宣告を受けた。この恵まれた大地があれば、誰にでも出来る簡単な仕事だと酷評を受けてしまう。城を追われることになった彼女は、寂寞の思いを胸に新たな旅立ちを決意した。そんな彼女の後任は、まさかのクーラ。美貌だけでこの地位まで上り詰めた、ワイン作りの素人だ。
誰にでも出来る簡単な作業だと高を括っていたが、実のところ、イラリアは自らの研究成果を駆使して、とんでもない作業を行っていたのだ。
彼女が居なくなったことで、国は多大なる損害を被ることになりそうだ。
これは、お酒の神様に愛された女性と、彼女を取り巻く人物の群像劇。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。