上 下
362 / 823
3 魔法学校の聖人候補

551 一獲千金の魔物

しおりを挟む
551

翌日も朝から魔術師ギルドへ向かう。トルルは昨日のことがあったので、とても警戒しながら歩いている。

「警戒は重要だけど、あまり神経を張り詰めてばかりでも疲れちゃうよ」

私の言葉にうなづきながらも、やはり昨日の連中のことが頭から離れないらしい。背格好としては、確かに私とトルルは姉に守られている妹にしか見えないし、トルルも魔法があるとはいっても肉体的には非力な私を自分が守らなくちゃ、という使命感があるらしい。

(弟妹にも優しい、いいお姉ちゃんだもんね、トルルは)

たくさんのギルドが同じエリアにあるからなのか、改めてみると冒険者の方たちも随分たくさん歩いていて、そこかしこでなにやら話をしている。しかも、昨日よりさらに人が多い印象だ。

どうも騒がしいので、何か大きな事件でも起きたのかと気になり、私は彼らの声に耳をそばだてた。ただ立っているのも怪しいかなと思い、露天で〝薬草茶〟というミントのような香りのするすっきりした味わいのお茶を買い、周囲に溶け込みながら話を聞いてみる。

「行くなら絶対10階層だよ! ヒールロックが出たんだぜ! 奴を倒してその核にある石を手に入れられたら、それを使って上級ポーションの材料が10個分は作れるっていうじゃないか! 最低でもハイポーション、もし質のいいやつが取れたらハイパーポーション10本分だぜ。一攫千金じゃねーか!」

どうやら、この町の近くにできたダンジョンで、かなり珍しいお宝が見つかったようだ。

「いまは癒し系の薬の材料が取れるダンジョンが減って、以前よりずっと高額で取引されるようになってるからなぁ。ここは無理してでもヒールロックを狙いたいもんだねぇ」
「そうはいうがよ。相手は人の躰よりデカくてしかもガッチガチに固いんだぜ。すごい勢いで突進してくるって話だし、俺たちには無理じゃないか?」
「魔法使いのいるパーティーならなんとかなるんだろうけどな……」
「腕のいい魔術師がこんな簡単なダンジョンに入ってくれるもんか!」
「だが、ひとつでもやっつけられたらひと儲けできるんだぜ!」

私たちはお茶を飲み終わると屋台にコップを戻して、何事もなかったかのようにその場を離れギルドへと向かった。
(もし私たちが魔法使いだと知れたら、パーティーに入ってくれという勧誘をしてくる人に捕まるかも知れないし、ここは黙って移動しようっと)

魔術師ギルドについた私たちは、昨日のように掲示板で現在依頼が出ている主な仕事を見てみることにした。

「ああ、さっきの噂話はやっぱり本当みたいだね。急にダンジョン攻略パーティー募集が増えてる」

一番お金になりそうなヒールロックという獲物を仕留めたい。だが魔法使いがいるといないとではかかる時間が雲泥の差になる、ということのようだ。それに、ヒールロックが仕留められるならば、魔術師を雇っても十分に元が取れるということなのだろう。

依頼書を読むと、どうやら求められているのは風系の雷属性の魔法が使える魔法使いらしい。

「ってことは、それがヒールロックの弱点ってことだよね……」

風系の適性があるトルルは、二年生になってから風系の上位魔法である雷の魔法に取り組んでいると言っていた。

「《サンダー》は、できるようになったんだけど、上位魔法は魔法力も多くいるし、そうたくさんは打てないなぁ。どのぐらい打てば倒せるんだろう?」

狩り大好き、そして高額報酬のもらえるお仕事大好きのトルルは、この仕事を受けられないものかと考えているようだ。

確かに報酬はかなり魅力的。成果報酬がボーナスとして計上されている案件も多い。

「ねえ、メイロードは薬のことも詳しいんだよね。どれぐらいするのかなぁ、この“ヒールロックの核”って」

目をキラキラさせながら、トルルが私に聞いてくる。

「……そうだねぇ。ハイポーションが作れるなら、素材がなかなか揃わなくなっているらしいし、最低でも4000-5000ポルで買い取ってもらえるんじゃないかな? もし、ハイパーポーションが作れるほど質がいいものが手に入ったら、その10倍以上じゃない?」

「50000……5万ポルって大金貨5枚、ひぃ!」

(まぁ、そういう反応になるよね)

ヒールロック一匹狩って五千万円分の大金貨がもらえる。誰しもが夢見てしまう一獲千金の獲物だ。だが、噂話を聞くだけでもとんでもない化け物だ。巨大な石の塊相手に戦うなんて、軽く踏まれただけで、確実に命を持っていかれるし、敵の防御力は凄まじいと想像できる。

「私たちが狩れるような相手じゃないと思うよ」

私の言葉にトルルはそうだよね、と笑ってこの話はおしまいになった。結局、この日はヒールロック騒ぎで、魔術師ギルドの担当者も忙しくしていて相談もできなかったため、しかたなく休養日に充てることにした。

「そうだ! 門であったオルダンさんのお店に行ってみようよ」

お金に余裕もできたので、学校のみんなへのお土産を買いたいとトルルが言うので、私たちはオルダンさんのお店があるという通りへと向かったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

とある婚約破棄の顛末

瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。 あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。 まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。