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3 魔法学校の聖人候補

541 最初の実験

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541

今回、〝フリーズドライ製法による食品保存実験〟を開始するに当たり、私はいくつか予備実験を行った。

まず《エア・バブル》の強度と継続可能時間についてしっかり把握しておく必要があったので、様々なパターンでその強度と魔法を継続できる条件を検討した。そして、この実験によって明確になったことは以下の通り。

まず《エア・バブル》が保持できるのは最大でおよそ24時間。その時間内ならばいつでも解除はできるが、それを過ぎると解除せずとも魔法は自然に解け《エア・バブル》は消滅する。この辺りは授業でも教わった通りで、残念ながら《エア・バブル》の魔法は重ね掛けをして持続時間を伸ばせるという性質のものではないようだ。
授業でももし長時間の保持が必要となった場合は、解ける前に新たな《エア・バブル》を作るという方法が一般的で、最低でも一日一回の魔法の更新が必要だと教わった。

(これ、ひとつふたつならいいけど、大量に作った《エア・バブル》の更新作業となると魔法力もたくさんいるし、かなり大変だよね……)

《エア・バブル》はその大きさにより必要とされる魔法力が違う。人の全身を覆える程度の大きさならば10程度の魔法力で作れるので手軽なのだが、ここから大きさに比例してより多くの魔法力が必要となるため、小さな部屋ひとつ分ぐらいが限界だと授業でも聞いた。

(あれ? 私ダンジョンの1階層全体を覆ったことがあったような……ま、いいか)

改めて検証したところ真空状態でもきっちり形は保てそうだし、強度については問題なく使えそうだ。だが私の目指す最終目的を考えると、このままでは使い勝手がどうも悪い。やはり《エア・バブル》の改良も視野に入れなければならないようだ。

では一番作りたいトマトのフリーズドライにまずは挑戦してみよう。

冷凍した食材は一度型から外し、素早く等間隔に12個並べて再び《エア・バブル》で覆う。その後二重にぴったりと展開していた《エア・バブル》の内側を外に抜いていく。内側のバブルは置かれた食品をすり抜け内側の空気とともに外へと出され、食品の入った内側は〝昇華〟した水分で満たされる。そこで素早くトマトが並べられた周辺にぴっちり食品だけを覆うように《エア・バブル》を作り、外側の《エア・バブル》を消した。

エアバブル内の水分は解放され、後には《エア・バブル》に包まれたフリーズドライ処理済みのトマトが残っている。

「ふーっ、まずは第一段階成功かな?」

私は出来上がった綺麗なトマトの色のままの四角い塊を《エア・バブル》を割って取り出した。ソーヤも興味深そうに見ているので、食べてもいいというと早速そのまま食べてしまった。

「これはまた面白い食感でございますね。確かに香りも味もトマトなのにサクサクしていてものすごく軽いです。ああ、でも噛むほどにトマトの旨味が戻ってくるようです。こんなものは初めていただきました!」

「まぁ……そうでしょうね」

大興奮の悪食妖精の様子にやや引きつつ、私は水を含ませてひとつ分のトマトピューレを戻し、味見をする。

「ん、味には問題なさそうね」

その後は、トマト料理の定番をいくつかこの〝フリーズドライ〟したトマトで作ってみることにした。トマトスープにトマトの煮込み、トマトソースなどなど……。どれもしっかりとした美味しい味で、全く問題なし。

「よし。これで、まずできることはわかったわけだけど、この方法では大量に作るのは少し難しいかもしれないなぁ。〝昇華〟した水分の回収方法をもうすこし考えないといけないかもね……」

私の料理をいつものように片っ端から食べ尽くしていたソーヤが私にこう聞いてきた。

「この〝フリーズドライ〟という調理法は、メイロードさまのいらっしゃった世界では、ごく普通の調理法なのでしょうか?」

どうやら、カラカラに乾いた食品が不思議だったようで、逆に魔法なしでこれが作れる世界があるのか不思議のようだ。

「そうね……普通といえば普通ね。気軽に買えるものだったわ。でも、気軽に家で作れるようなものではないの。私も作ったのは今回が初めて」

「やはり、家庭で作れるようなものではないのですね。メイロードさまは、どうしてそんな特殊な調理法のことをご存知なのですか?」

「ああ、それはね……」

私の父が食料を十分に得ることが難しい地域で医療行為をしていたこともあり、父は毎回持てるだけの食料を自前でも用意していた。だが、それはものすごく重かったのだ。もちろん軽量のものを中心にしていたが、それでも毎回かなりの重量。その頃、私は〝フリーズドライ〟の技術がもっと発達したら、きっともっとたくさんの支援をもっと楽にできるんじゃないかと思っていた。

「それで、製法について調べたことがあったの。この方法を使えば味も栄養も保った状態のまま軽量で輸送できるでしょう。しっかりした料理が作れないような厳しいような場所でも、美味しく食事が取れたらいいな‥‥って思っていたの。まさか魔法でそれができるとは思ってなかったけどね」

ソーヤは私の言葉に大きくうなずき納得してくれたようだ。

「実にメイロードさまらしいお考えでございます。何よりこの〝フリーズドライ〟なる技術で作った料理は本当に美味しいです。これならばきっと冬のセルツの料理は一段と美味しくなるに違いありません!」

「うん。そのためにも量産化のための技術を研究しなくちゃね!」

私とソーヤはお茶でも乾杯をし、さらに熱を入れて研究に取り組むことを誓い合った。
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