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3 魔法学校の聖人候補
535 歓迎
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535
トルルの里は山の中だ。
連なる山に点在する小さな村のひとつで、高地にあるセルツに比べるとそれでも標高はかなり低いため、夏はそれなりに暑いが、新緑の中見え隠れする日差しは気持ちよく、とても長閑ないい里山の村だ。
オーライリたちに聞いたトルルの様子が気になった私は、夏休みの数日、トルルの住む里山を訪ねてみることにした。私の出で立ちは、セーヤが魂を込めてブラッシングしてくれた長い髪をなびかせ、白いワンピースに麦わら帽子でバスケットを抱えた夏休みの子供スタイルで、いかにも避暑旅行という雰囲気だ。まぁ、山中にある大きな石を使って隠して設置しておいた《無限回廊の扉》を抜けるだけの、あっという間の旅行だが。
(とっても便利だけど《無限回廊の扉》を抜けるだけの旅行には、あまり旅情はないかな)
トルルには数日前に《伝令》を使って、遊びに行くことを伝えてある。それに対するトルルからの驚きの声の入った《伝令》もすぐに帰ってきた。
「え! 本当に来てくれるの? うれしい、ありがとう、待ってるね。家族のみんなも会いたがってるよ」
弾んだ声のトルルの《伝令》に、私も行くことに決めてよかったな、と改めて思った。
トルルの村にはきちんとした宿泊施設はないが、トルルの親戚の方がお客様のある時だけの民宿をしているそうなので、そちらに泊まらせてもらうことになっている。
(実は毎日家に帰れるのでご心配なく……っていうのも言えないからね。里山の村の暮らし体験だと思って泊まってみよう)
ソーヤとふたり《無限回廊の扉》を出た後は、人目の少ない場所から村へと続く道へと出て、いかにもその道を歩いてきましたという雰囲気を作りつつ進んでいった。すると時間も告げていなかったのに、トルルは兄弟たちと村の入り口の広場で待っていてくれた。
「マリスさーーん! 本当に来てくれたのね! ありがとう!」
トルルの大きな声に、広場付近にいた村の人たちみんなが振り返る。
「ああ、お嬢ちゃんじゃないか!」
「グッケンス博士はお元気かね?」
「あの時は、ありがとうね」
私がトルルに声をかける間もなく、私を見つけた人たちは、次々に声をかけてくれながら集まってきてしまった。
(そうだ、私はこの村では有名人なんだった)
村の子供たちを謎の誘拐団から救った立役者としてグッケンス博士が英雄視されているのは当然として、その助手である私に対しても皆さんとても感謝してくれている。事件後には村の方々から博士への贈り物のやり取りの仲介役などをしていたので、あの事件を通して、私もすっかり顔なじみなのだ。
広場には見る間に村の方々が増えていき、あれよあれよという間に、私の歓迎会を開くことが決まってしまい、今夜ご招待を受けることになってしまった。
「みんな、それだけ感謝しているのよ。楽しみにしててね」
トルルもそう言ってくれたので、ここは遠慮せず歓待を受けることにした。それだけあの誘拐事件は大ごとだったということだろう。無事に子供たちが戻ってきたからこそのいまの村の平和だ。彼らがそれを喜ぶ気持ちはよくわかる。
夜のご馳走の気配にはしゃぐ子供たちが、いつの間にか、私の周りにたくさん集まってきている。
(ああ、これかな?)
私は持っていたバスケットを開けて、作ってきたお菓子を取り出した。
前回餌付けをしてしまったようで、子供たちには〝お菓子のお姉ちゃん〟として私は大人気だとトルルに教えてもらってはいたが、半年が過ぎてもそれは変わっていないらしい。
子供たちが楽しみにしていると知っては張り切らざるを得ない私。クッキーやパウンドケーキ、それにキャラメルといったお菓子だけでなく、今回は里山の素材を使って、再現がしやすそうなお菓子も考えて持ってきている。
この子たちを待たせるのも気の毒だったので、ソーヤとトルルに手伝ってもらい、広場で目をキラキラさせながらお利口に並んでいる子供たちにお菓子を渡すことから、里山の村での避暑生活を始めることにした。
「はいみんなで分けて食べてね。夜もごちそうなんだから、食べすぎちゃダメよ。これ以外のお菓子も作る予定だから楽しみにしていてね」
私の言葉にトルルが反応する。
「ありがとう、マリスさん。私もいろいろお土産を買ってきたんだけど、マリスさんの作るようなお菓子はセルツでは手の入らなくて、弟妹をだいぶがっかりさせちゃって……」
確かにまだパレスやイスのごく一部にしか、私が作る菓子は流通していない。作るための食材や道具が普及していないので、まだまだ高級品なのだ。
「今回は、この村でも作れるお菓子を考えてきたの。あとで一緒に作りましょう。レシピも残していくから、村の人たちにも研究してもらうといいわ」
私の言葉にトルルは何度もうなずいて、何度もありがとうを繰り返した。
「そうだよね、ここにはここでしか食べられないお菓子があってもいいんだよね。ありがとう……教えてもらったお菓子は、大事にするね。来年は、学校のみんなへのお土産にできるぐらい美味しく作れるようになっているといいな」
私たちはお菓子を配りながら、この村で作るお菓子の話を楽しく話し、その後も子供たちと一緒に里山でのおしゃべりを楽しんだ。
トルルの里は山の中だ。
連なる山に点在する小さな村のひとつで、高地にあるセルツに比べるとそれでも標高はかなり低いため、夏はそれなりに暑いが、新緑の中見え隠れする日差しは気持ちよく、とても長閑ないい里山の村だ。
オーライリたちに聞いたトルルの様子が気になった私は、夏休みの数日、トルルの住む里山を訪ねてみることにした。私の出で立ちは、セーヤが魂を込めてブラッシングしてくれた長い髪をなびかせ、白いワンピースに麦わら帽子でバスケットを抱えた夏休みの子供スタイルで、いかにも避暑旅行という雰囲気だ。まぁ、山中にある大きな石を使って隠して設置しておいた《無限回廊の扉》を抜けるだけの、あっという間の旅行だが。
(とっても便利だけど《無限回廊の扉》を抜けるだけの旅行には、あまり旅情はないかな)
トルルには数日前に《伝令》を使って、遊びに行くことを伝えてある。それに対するトルルからの驚きの声の入った《伝令》もすぐに帰ってきた。
「え! 本当に来てくれるの? うれしい、ありがとう、待ってるね。家族のみんなも会いたがってるよ」
弾んだ声のトルルの《伝令》に、私も行くことに決めてよかったな、と改めて思った。
トルルの村にはきちんとした宿泊施設はないが、トルルの親戚の方がお客様のある時だけの民宿をしているそうなので、そちらに泊まらせてもらうことになっている。
(実は毎日家に帰れるのでご心配なく……っていうのも言えないからね。里山の村の暮らし体験だと思って泊まってみよう)
ソーヤとふたり《無限回廊の扉》を出た後は、人目の少ない場所から村へと続く道へと出て、いかにもその道を歩いてきましたという雰囲気を作りつつ進んでいった。すると時間も告げていなかったのに、トルルは兄弟たちと村の入り口の広場で待っていてくれた。
「マリスさーーん! 本当に来てくれたのね! ありがとう!」
トルルの大きな声に、広場付近にいた村の人たちみんなが振り返る。
「ああ、お嬢ちゃんじゃないか!」
「グッケンス博士はお元気かね?」
「あの時は、ありがとうね」
私がトルルに声をかける間もなく、私を見つけた人たちは、次々に声をかけてくれながら集まってきてしまった。
(そうだ、私はこの村では有名人なんだった)
村の子供たちを謎の誘拐団から救った立役者としてグッケンス博士が英雄視されているのは当然として、その助手である私に対しても皆さんとても感謝してくれている。事件後には村の方々から博士への贈り物のやり取りの仲介役などをしていたので、あの事件を通して、私もすっかり顔なじみなのだ。
広場には見る間に村の方々が増えていき、あれよあれよという間に、私の歓迎会を開くことが決まってしまい、今夜ご招待を受けることになってしまった。
「みんな、それだけ感謝しているのよ。楽しみにしててね」
トルルもそう言ってくれたので、ここは遠慮せず歓待を受けることにした。それだけあの誘拐事件は大ごとだったということだろう。無事に子供たちが戻ってきたからこそのいまの村の平和だ。彼らがそれを喜ぶ気持ちはよくわかる。
夜のご馳走の気配にはしゃぐ子供たちが、いつの間にか、私の周りにたくさん集まってきている。
(ああ、これかな?)
私は持っていたバスケットを開けて、作ってきたお菓子を取り出した。
前回餌付けをしてしまったようで、子供たちには〝お菓子のお姉ちゃん〟として私は大人気だとトルルに教えてもらってはいたが、半年が過ぎてもそれは変わっていないらしい。
子供たちが楽しみにしていると知っては張り切らざるを得ない私。クッキーやパウンドケーキ、それにキャラメルといったお菓子だけでなく、今回は里山の素材を使って、再現がしやすそうなお菓子も考えて持ってきている。
この子たちを待たせるのも気の毒だったので、ソーヤとトルルに手伝ってもらい、広場で目をキラキラさせながらお利口に並んでいる子供たちにお菓子を渡すことから、里山の村での避暑生活を始めることにした。
「はいみんなで分けて食べてね。夜もごちそうなんだから、食べすぎちゃダメよ。これ以外のお菓子も作る予定だから楽しみにしていてね」
私の言葉にトルルが反応する。
「ありがとう、マリスさん。私もいろいろお土産を買ってきたんだけど、マリスさんの作るようなお菓子はセルツでは手の入らなくて、弟妹をだいぶがっかりさせちゃって……」
確かにまだパレスやイスのごく一部にしか、私が作る菓子は流通していない。作るための食材や道具が普及していないので、まだまだ高級品なのだ。
「今回は、この村でも作れるお菓子を考えてきたの。あとで一緒に作りましょう。レシピも残していくから、村の人たちにも研究してもらうといいわ」
私の言葉にトルルは何度もうなずいて、何度もありがとうを繰り返した。
「そうだよね、ここにはここでしか食べられないお菓子があってもいいんだよね。ありがとう……教えてもらったお菓子は、大事にするね。来年は、学校のみんなへのお土産にできるぐらい美味しく作れるようになっているといいな」
私たちはお菓子を配りながら、この村で作るお菓子の話を楽しく話し、その後も子供たちと一緒に里山でのおしゃべりを楽しんだ。
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