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3 魔法学校の聖人候補

530 そして研究は……

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530

今日で六回目の実験となる。

この実験は日を追うごとに、実験の性質上大掛かりなものへとなっていった。やっていることは、同様の実験の繰り返しなのだが、使う魔法力量は日々増えていき、三日を経過した辺りからは、久しぶりに私も自分の魔法力量を気にしながらの作業になっていった。

当然だが、そうやって増やされていった〝銀の骨〟への魔法力量により、引き起こされる爆発の威力もわかりやすく強く大きくなっていった。轟音と共に大量の砕けた石が頭上の《障壁バリア》に降り注ぐ度に、ここが魔法学校の中でなくて本当に良かった、と思う毎日だった。

三日目の実験が終わった段階で、粉々に砕けた石と穴だらけになった地面の様子がひどくなり過ぎて、さながら荒野の戦場跡のようになってしまったのには困った。仕方がないので、そのあとは二度ほど場所を変え、セーヤとソーヤに穴だらけになった場所の修復を頼んでしまった。

ふたりはいつもの怪力で苦もなく仕事を終えてくれたし、荒野が少しだけ整地され、程よく石も減ったので、これからはもう少し植物も増え動物たちも住める土地になるかもしれない、とセイリュウが言ってくれたことだけが救いだ。

この数日の実験を経て、私の魔石の操り方も徐々に洗練されてきた。そしてこの過程で、ニ種類の魔石と〝銀の骨〟これを《索敵》や《地形把握》と上手く組み合わせることができれば、精度の高い遠距離攻撃が可能であることがわかってきた。
だが、他の可能性を考えて何度か試みた三種に魔石を繋いでの実験はことごとく失敗した。とはいえこの実験のおかげで〝銀の骨〟はきっちりと分割して二方向へと魔法力を流すことに特化していて、左右に置かれた魔石以外へは〝魔法力〟は供給されず、三つにバランスよく流すという機能はない、と確定した。

しかもいまの段階でも〝魔法力〟の注入量と比較した攻撃の衝撃はニから三倍になっている。つまり、魔法使いはいままでの倍以上効率よく魔法攻撃ができるのだ。

(実験を始めておいてなんだけど、〝銀の骨〟かなりまずい研究な気がしてきた……)

これはどう考えても強力な知られざる魔石の発見とその検証実験だ。こんなものを私が発表してしまったら、それこそ〝国家魔術師〟になるしかなくなる気がする。

「だめだぁ……、これは発表できないかも~」

ここまで一生懸命やってきた実験だが、これまでの検証実験だけでもごまかしようがないほどの成果が出てしまっている。これはだ。今日を最後に、ここでひとまず打ち止めにすると私は決めた。もう少し平和的利用が可能な使い方を考えられない限り、これはどう考えても表には出せない。

せっかくの研究をお蔵入りにするのは悔しいが、悪目立ちリスクを避けるほうが重要だ、と自分に言い聞かせた私は、今日も毎日立ち続けてきた実験用の机の前へと立った。そしてため息を隠すこともせず、ここまでやったのだからと、区切りをつけるためデータだけは揃えようと、やや気落ちしつつ最後の実験を始めた。

そんなどんよりした気分の私の頭の中に、ここ数日毎日来ている《念話》がさらに強力になって飛んできた。

〔メイロードさま! メイロードさま! 毎日こちらへお越しですのに、ワタクシのレッスンをお受けになる気配が微塵もないとはどういうことですの? 今日こそはレッスンいたしますからね! たとえ天賦の才があろうとも、努力を怠ってはなりませんよ!〕

この《念話》の声はミゼル。私の守り弓でもある竪琴の姿をした天才音楽家だ。ミゼルはこの地で創作活動に明け暮れながら天へ音楽を捧げて暮らしている。私は女神ソフィーラさまからミゼルを助けたお礼として頂いてしまった強靭な喉と美しい声を保ち鍛えるため、定期的にミゼルの授業を受けている。ここへ来たときには、短時間でも必ずこの音楽教師のスパルタ授業を受けるようにしていたのだが、今回は実験に集中したかったので、こそこそと逃げ続けていたのだ。

〔ごめんミゼル、いま実験中なの。あとで必ず行くから!〕
〔本当でございますね。絶対でございますよ!〕

私のやっていることを邪魔してはいけないと思ってくれたのか、必ず行くと約束したからなのか、ミゼルはすぐに引いてくれた。

(ふう、助かった。あれ? 私、いま〝銀の骨〟に魔法力入れてたよね)

ミゼルの《念話》で途中となった魔法力の注入を再開し、これまでの最高値五百を入れ終わり、発射の準備をするとなんだかいままでと違い〝銀の骨〟が高い音の唸りを上げ鈍く光り始めた。

(な、なに? 何が起こってるの?!)

それでも危険な暴発をさせてはいけないと、しっかり《索敵》と《地形把握》で目標位置を設定し、前方方向への《誘導》魔法も設定、発射に備えた。

そしてふたつの魔石から放たれた赤い炎と黄色味を帯びた白い光の混じり合った塊は、轟音と共にものすごい速度で飛び出したあと、前方ニキロほど先にあった丘というより山という大きさの場所へとすさまじい勢いで着弾し、そのすべて吹き飛ばした。その威力は〝王の審判〟と言ってもいいまさに大爆発だった。私のいる場所まで上空から石と埃の混じったものがまだ降り注いでいる。

「大丈夫でございますか? メイロードさま!」
「お怪我はございませんか? メイロードさま!」

作業中だったセーヤとソーヤが、慌てて私のところへ駆け寄ってきてくれた。

「私は大丈夫よ。ふたりとも怪我はなかった?」

頷くふたりに私もほっと胸を撫で下ろした。そして、ここが誰もいない荒野であったことにさらにほっとした。

(ああ、誰もいない場所で良かった。人に見られなくて本当に良かった)

《誘導》で力をすべて前方へと流したものの、それでも衝撃が吸収しきれず、発射後に机は倒れ、〝銀の骨〟も魔石もゴロリと石の荒野に投げ出されている。机を戻し、セーヤとソーヤが探してきてくれたそれらを机に戻すと、〝銀の骨〟は白化していた。見た目は普通の骨のようだ。

「これが〝銀の骨〟?」

どうやら〝銀の骨〟の本当の力は魔法力を左右均等に流すだけではないようだ。

吹っ飛ばされて丘がなくなり、見晴らしの良くなった霊山で、私は大きな声でこう言うしかなかった。

「これ、絶対、ぜーーーったい! 人に言えないヤツじゃん! 発表できるわけなーいじゃーーーん!!」
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