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3 魔法学校の聖人候補
508 〝人喰い〟リザード
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508
「〝王の審判〟……それはまた珍しいのぉ」
話を聞いたグッケンス博士もとても不思議そうだ。どうやら私が思った以上に使われることが稀な必殺技のらしい。
「いずれにせよ〝人喰い〟ということがはっきりしているようであれば、早急に退治せんと次の死傷者が出るな。いまは〝王の審判〟を使った直後ゆえ、食事もしばらく取れんし回復のため奴は潜伏すると考えて良い。しかし、そのあとは飢えでさらに凶暴化するじゃろうし、叩くならいま叩いておくべきじゃろうな……」
「私もそう思います。ニパさんにも少しその話をしたのですが、彼らとしては部族の誇りにかけて自分たちで仕留めたいのだそうです。まぁ〝王の審判〟は、いまは使えないでしょうからその点は安心ですけど、4人も狩人を失ってますからね。彼らにだけ任せるというのはどうなんでしょう……」
ともかく、ニパの回復を待って送りがてら、彼の集落の人々の考えを聞いてから、討伐計画を練るしかないだろう。
幸い、彼らの集落は《無限回廊の扉》を隠して開けてきたあの巨石からはそう遠くないらしいので、ニパが回復すればすぐに向かえる。すでに《ハイパーヒール》での回復を行なってあるニパだ。精神状態さえ回復すれば、すぐに元の状態へと戻れるだろう。
「それから、〝人喰い〟のキングリザードが出没していることは、冒険者ギルドにも伝えておいたほうがいいですよね」
グッケンス博士はコーヒー片手に仕事をしながらうなづいた。
「〝人喰い〟となれば事態は深刻だ。早く知らせたほうがいい。あの子は見ているから行っておいで」
私はニパさんに消化の良さそうな軽い食事をさせた後、まだだるそうな様子だったので、もうしばらく寝かせておくことにした。そして家のことはソーヤに任せ、この間にセーヤとともに街へと向かった。
冒険者ギルドはどこの土地でも、埃っぽくで騒々しいものだが、私たちが訪ねたセルツの冒険者ギルドは、一段と騒々しかった。何事かと驚き受付の方に話を聞いたところ、この騒々しさの原因は件のキングリザードだった。
数日前、商品を運ぶため山越えをしていたキャラバンがキングリザードと遭遇し、護衛をしていた冒険者や商人などに、多くの死者を出したのだという。生き残りの証言で、それが〝人喰い〟と化していることも確認されており、対応に追われているそうだ。
通常は、このような危険な魔物が出現すると即時地域の管理者や統治権を持つ貴族が討伐隊を結成するため、冒険者ギルドへ依頼を出し人を集めるのだが、現在、この地を治めるマッツア家の当主がパレスに赴いているため、まだ金銭的な条件が出揃わず《伝令》でやり取りしながら、話を詰めているところだそうだ。
「キャラバンについていた護衛の冒険者の皆さんはかなり手練れの方達だったので、キングリザードはもうすでにかなりの手負いになっているそうですよ。なので、討伐隊が向かえばきっとすぐ倒せるから心配はいりません」
(なるほど、そういうことだったのか!)
ニパさんたちが遭遇したしたのは、その手負いのキングリザードだったのだ。だがキングリザードへの攻撃は硬い鱗の下を狙うものなので一見しただけでは手負いかどうか判断できない。その事実を知らないニパたちによって、キングリザードは大怪我をした直後に追撃を受けたことになり、生命の危機を感じるまで追い詰められ〝王の審判〟を使うことになった、というわけだ。
キングリザードの狩りには常套手段が確立されている。多人数で弱体化させる毒を用いた狩りを行いじわじわと弱らせるのだ。このやり方をすると、たとえ瀕死になっても、もう〝王の審判〟を使うことができず倒れるという。
だが今回は、冒険者と散々戦ってきたあとで、しかも彼ら山岳部族は、街に情報を得られないまま活動しているためにそれを知らぬまま、突然状況もわからず遭遇してしまった。もし、彼らがすでにそのキングリザードが手負いであるという情報さえ持っていれば、状況は変わっていたに違いない。
私は受付の方にキングリザードに関する最新情報を伝え、遭遇した場所も詳しく話した。
「魔法学校の《狩猟同好会》の狩りの最中に、ただならぬ物音を聞き、その場所へ向かったところキングリザードに遭遇しました。そこで高地に住む狩猟民の若者一名を救出しましたが、その後のキングリザードの足取りは不明です」
「それは大変でしたね。その方たちは、年に数回こちらへ毛皮などをお持ち込みいただいている先住民の方々でしょう。もし可能ならば、その助けられた方からも状況をお伺いしたいのですが……」
「わかりました。では山へ戻る前に、一度こちらに寄ることにします」
ギルド内でたむろする冒険者たちは高い褒賞が期待できる〝人喰い〟討伐に期待しているようで、情報収集に余念がないが、一方護衛の仕事についている冒険者たちは、いつ出会うかもしれない〝人喰い〟に戦々恐々のようだ。
この騒ぎで荷物の行き来のリスクが高まったせいで、護衛に支払う依頼料も跳ね上がり、セルツの物価にも影響し始めている。
(これは早くなんとかしないと……)
「〝王の審判〟……それはまた珍しいのぉ」
話を聞いたグッケンス博士もとても不思議そうだ。どうやら私が思った以上に使われることが稀な必殺技のらしい。
「いずれにせよ〝人喰い〟ということがはっきりしているようであれば、早急に退治せんと次の死傷者が出るな。いまは〝王の審判〟を使った直後ゆえ、食事もしばらく取れんし回復のため奴は潜伏すると考えて良い。しかし、そのあとは飢えでさらに凶暴化するじゃろうし、叩くならいま叩いておくべきじゃろうな……」
「私もそう思います。ニパさんにも少しその話をしたのですが、彼らとしては部族の誇りにかけて自分たちで仕留めたいのだそうです。まぁ〝王の審判〟は、いまは使えないでしょうからその点は安心ですけど、4人も狩人を失ってますからね。彼らにだけ任せるというのはどうなんでしょう……」
ともかく、ニパの回復を待って送りがてら、彼の集落の人々の考えを聞いてから、討伐計画を練るしかないだろう。
幸い、彼らの集落は《無限回廊の扉》を隠して開けてきたあの巨石からはそう遠くないらしいので、ニパが回復すればすぐに向かえる。すでに《ハイパーヒール》での回復を行なってあるニパだ。精神状態さえ回復すれば、すぐに元の状態へと戻れるだろう。
「それから、〝人喰い〟のキングリザードが出没していることは、冒険者ギルドにも伝えておいたほうがいいですよね」
グッケンス博士はコーヒー片手に仕事をしながらうなづいた。
「〝人喰い〟となれば事態は深刻だ。早く知らせたほうがいい。あの子は見ているから行っておいで」
私はニパさんに消化の良さそうな軽い食事をさせた後、まだだるそうな様子だったので、もうしばらく寝かせておくことにした。そして家のことはソーヤに任せ、この間にセーヤとともに街へと向かった。
冒険者ギルドはどこの土地でも、埃っぽくで騒々しいものだが、私たちが訪ねたセルツの冒険者ギルドは、一段と騒々しかった。何事かと驚き受付の方に話を聞いたところ、この騒々しさの原因は件のキングリザードだった。
数日前、商品を運ぶため山越えをしていたキャラバンがキングリザードと遭遇し、護衛をしていた冒険者や商人などに、多くの死者を出したのだという。生き残りの証言で、それが〝人喰い〟と化していることも確認されており、対応に追われているそうだ。
通常は、このような危険な魔物が出現すると即時地域の管理者や統治権を持つ貴族が討伐隊を結成するため、冒険者ギルドへ依頼を出し人を集めるのだが、現在、この地を治めるマッツア家の当主がパレスに赴いているため、まだ金銭的な条件が出揃わず《伝令》でやり取りしながら、話を詰めているところだそうだ。
「キャラバンについていた護衛の冒険者の皆さんはかなり手練れの方達だったので、キングリザードはもうすでにかなりの手負いになっているそうですよ。なので、討伐隊が向かえばきっとすぐ倒せるから心配はいりません」
(なるほど、そういうことだったのか!)
ニパさんたちが遭遇したしたのは、その手負いのキングリザードだったのだ。だがキングリザードへの攻撃は硬い鱗の下を狙うものなので一見しただけでは手負いかどうか判断できない。その事実を知らないニパたちによって、キングリザードは大怪我をした直後に追撃を受けたことになり、生命の危機を感じるまで追い詰められ〝王の審判〟を使うことになった、というわけだ。
キングリザードの狩りには常套手段が確立されている。多人数で弱体化させる毒を用いた狩りを行いじわじわと弱らせるのだ。このやり方をすると、たとえ瀕死になっても、もう〝王の審判〟を使うことができず倒れるという。
だが今回は、冒険者と散々戦ってきたあとで、しかも彼ら山岳部族は、街に情報を得られないまま活動しているためにそれを知らぬまま、突然状況もわからず遭遇してしまった。もし、彼らがすでにそのキングリザードが手負いであるという情報さえ持っていれば、状況は変わっていたに違いない。
私は受付の方にキングリザードに関する最新情報を伝え、遭遇した場所も詳しく話した。
「魔法学校の《狩猟同好会》の狩りの最中に、ただならぬ物音を聞き、その場所へ向かったところキングリザードに遭遇しました。そこで高地に住む狩猟民の若者一名を救出しましたが、その後のキングリザードの足取りは不明です」
「それは大変でしたね。その方たちは、年に数回こちらへ毛皮などをお持ち込みいただいている先住民の方々でしょう。もし可能ならば、その助けられた方からも状況をお伺いしたいのですが……」
「わかりました。では山へ戻る前に、一度こちらに寄ることにします」
ギルド内でたむろする冒険者たちは高い褒賞が期待できる〝人喰い〟討伐に期待しているようで、情報収集に余念がないが、一方護衛の仕事についている冒険者たちは、いつ出会うかもしれない〝人喰い〟に戦々恐々のようだ。
この騒ぎで荷物の行き来のリスクが高まったせいで、護衛に支払う依頼料も跳ね上がり、セルツの物価にも影響し始めている。
(これは早くなんとかしないと……)
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