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3 魔法学校の聖人候補
501 キャサリナ《魅了》作戦
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501
イス警備隊から帝国軍のイス駐留軍へ引き渡されたキャサリナは、まだ魂が抜けたような状態で、事情聴取もままならないらしい。
「だからやりすぎなんですよ、博士!」
「いや、お前の魔法薬が効きすぎなのだ!」
私と博士、それにセイリュウ、セーヤ、ソーヤはコーヒーや紅茶を飲みながら色とりどりのフルーツの入った断面が美しい、生クリームとフルーツたっぷりのロールケーキをいただきつつ、今回の作戦の反省会、というか責任のなすり付け合いをしていた。
「あの《魅了薬》は、トルッカ・ゼンモンの創った魔法の麻酔薬《幻睡薬》を改良したものだと言っていたが、あそこまでキャサリナを錯乱させるほどの執着を植え付けるとは……あれは劇薬だ。あれのせいじゃよ」
博士の言う通り、私は今回の仕掛けのアイディアを思いつき、トルッカ・ゼンモンさんのところへ相談に行った。ゼンモンさんはスキル《魅了》のような効果がある薬として、先の《幻睡薬》を紹介してくれ、その生成方法も快く教えてくれた。
「メイロードさまが悪巧みにお使いになるとは思えませんから、お教えするのですよ。これはこれで、使用がなかなか難しい魔法薬ですので、どうかお気をつけて。それから……もし、新たな魔法薬のついて何か情報がございましたら、ぜひ私どもにもお教え下さい。秘密については一切口外いたしませんよ」
「そうですね。お教えできる処方と出会いましたら……」
そして、私はこの《幻睡薬》をベースにかなり《魅了》に近いことのできる魔法薬を作り出した。このベースとなる薬がなければ、とてもこの短時間で作り出すことはできなかったと思う。それでも、宝石の持つ力の利用、煙のように立ち上る成分、相手の意識をぼんやりさせ対象物への注意だけを喚起する……と、ヒントは多かったので、睡眠薬に催眠効果を付与したような薬と考え、かなり近いものはできたと思う。
これを作るためにした試行錯誤の過程で博士の宝石をだいぶ使ってしまったが、それは博士からの許可を取ってのことなのでよしとしよう。
(5、いや6億円分ぐらいは使っちゃったかな。最終的に一本作るだけで大金貨5枚必要だったし……ひとつで極上の宝石が五千万分……高すぎだわ)
とにかくとてつもなく高価な魔法薬なので、処方を渡したところで作れる人は限られるだろうが、キャサリナへの効果をみると、思った以上に強力。……これは封印しておくべきだろうし、ゼンモンさんにも教えられないかな、と思う。
(キャサリナの腕輪の宝石以上に高くついたなぁ……メイロード式《魅了薬》)
そう、今回の首飾りの競りを行なっていた時、キャサリナは私の作ったこの魔法薬で完全に魅了され、我を失っていたのだ。
薬は首飾りの箱に仕掛けられていて、箱をキャサリナの方へ向けて開くと広がるよう細工をしてあった。テーブルの上に置いた後も、常に彼女の方へ《魅了薬》が流れるようにし、彼女が首飾りに完全に《魅了》されたタイミングで、姿を消したままのグッケンス博士が《幻惑魔法》を展開、キャサリナの首飾りに対する執着を増幅したのだ。
実は最初にキャサリナに首飾りを見せた時に、すでにこの《魅了薬》を仕込んでいた。彼女にも効果があるかどうか試していたのだが、その効果は思った以上のものであっただけでなく、彼女はまったくこちらのしていることに気づくこともなかった。彼女が耐性があるのは、着けている《魅了の腕輪》の効果だけで、他の魔法薬や魔法への耐性があるわけではなかったのだ。
そこで、これはいけると踏んだ私は、彼女になにもかも吐き出させるために、グッケンス博士にあまり得意ではないという《幻惑魔法》をかけてもらうことにしたのだ。
「もともとあの女は、なにもせずともあの首飾りに執着しておった。それをさらに《魅了薬》で煽ったのだから、冷静でいられるはずがないのだ。わしの《幻惑魔法》など添え物よ」
グッケンス博士はそういうが、博士の魔法が進むにつれ明らかにキャサリナはヒートアップしていったように思う。
「セイリュウも今回はありがとう。絶対に《魅了》に惑わされないセイリュウやソーヤたちがいなかったら、この作戦は使えなかったもの。本当に助かったわ」
セイリュウは優雅に紅茶を飲みながら、
「なかなか面白いものを見せてもらったし、楽しかったよ」
と、笑っている。この一件が片付いたら、みんなでいい日本酒を飲みながら祝杯をあげ、大宴会をしよう。
私に協力し、無償の労力をいつでも使わせてくれる仲間に、私ができるのはそれぐらいのことなのだから。
「そういえば、あの古代語の資料はどうだったんだい?」
セイリュウの言う古代語の資料とは、あの時、錯乱したキャサリナが机にぶちまけた大量のボロボロの古い資料のことだ。どうやらキャサリナは、どこかの山奥にあった廃屋を偶然見つけそこにあるものを根こそぎ盗んできたらしい。金目のものがないかと探した結果出てきた薬瓶を《鑑定》のできる魔法使いのもとに持ち込み、それが《傀儡薬》であることを突き止めたらしい。
「製法が手に入れば巨万の富と考えたのでしょうが、結局この古代語には歯が立たず、それを利用した詐欺を考えた、ということのようです」
「では、やはり《傀儡薬》は、あの残された2本の瓶しかないのだな」
「もう少し資料を読んでみる必要はあると思いますが、おそらくそうだと思います」
コーヒーを飲み終わった博士は立ち上がり、出かける支度を始めた。
「ドール参謀には一刻も早く《傀儡薬》の製法をキャサリナが知らず、その製法は現状誰も知らぬし、おそらく知られることもない、ということを知らせてやろう。キャサリナという女のタチの悪い魔法についても話してやらねばな。シルベスター家の息子の名誉もそれで少しは回復できるだろう」
「あれは、毒を飲まされたようなものです。少しでも、名誉の回復ができるよう助けてあげてください」
「うむ、ではな」
博士が去ったリビングでは、美味しい新作ケーキにご機嫌のソーヤと心ゆくまで私にオシャレをさせ髪をいじることができてご機嫌のセーヤが、陽気にキャサリナの袖振りダンスを再現して、私とセイリュウを大笑いさせてくれた。
イス警備隊から帝国軍のイス駐留軍へ引き渡されたキャサリナは、まだ魂が抜けたような状態で、事情聴取もままならないらしい。
「だからやりすぎなんですよ、博士!」
「いや、お前の魔法薬が効きすぎなのだ!」
私と博士、それにセイリュウ、セーヤ、ソーヤはコーヒーや紅茶を飲みながら色とりどりのフルーツの入った断面が美しい、生クリームとフルーツたっぷりのロールケーキをいただきつつ、今回の作戦の反省会、というか責任のなすり付け合いをしていた。
「あの《魅了薬》は、トルッカ・ゼンモンの創った魔法の麻酔薬《幻睡薬》を改良したものだと言っていたが、あそこまでキャサリナを錯乱させるほどの執着を植え付けるとは……あれは劇薬だ。あれのせいじゃよ」
博士の言う通り、私は今回の仕掛けのアイディアを思いつき、トルッカ・ゼンモンさんのところへ相談に行った。ゼンモンさんはスキル《魅了》のような効果がある薬として、先の《幻睡薬》を紹介してくれ、その生成方法も快く教えてくれた。
「メイロードさまが悪巧みにお使いになるとは思えませんから、お教えするのですよ。これはこれで、使用がなかなか難しい魔法薬ですので、どうかお気をつけて。それから……もし、新たな魔法薬のついて何か情報がございましたら、ぜひ私どもにもお教え下さい。秘密については一切口外いたしませんよ」
「そうですね。お教えできる処方と出会いましたら……」
そして、私はこの《幻睡薬》をベースにかなり《魅了》に近いことのできる魔法薬を作り出した。このベースとなる薬がなければ、とてもこの短時間で作り出すことはできなかったと思う。それでも、宝石の持つ力の利用、煙のように立ち上る成分、相手の意識をぼんやりさせ対象物への注意だけを喚起する……と、ヒントは多かったので、睡眠薬に催眠効果を付与したような薬と考え、かなり近いものはできたと思う。
これを作るためにした試行錯誤の過程で博士の宝石をだいぶ使ってしまったが、それは博士からの許可を取ってのことなのでよしとしよう。
(5、いや6億円分ぐらいは使っちゃったかな。最終的に一本作るだけで大金貨5枚必要だったし……ひとつで極上の宝石が五千万分……高すぎだわ)
とにかくとてつもなく高価な魔法薬なので、処方を渡したところで作れる人は限られるだろうが、キャサリナへの効果をみると、思った以上に強力。……これは封印しておくべきだろうし、ゼンモンさんにも教えられないかな、と思う。
(キャサリナの腕輪の宝石以上に高くついたなぁ……メイロード式《魅了薬》)
そう、今回の首飾りの競りを行なっていた時、キャサリナは私の作ったこの魔法薬で完全に魅了され、我を失っていたのだ。
薬は首飾りの箱に仕掛けられていて、箱をキャサリナの方へ向けて開くと広がるよう細工をしてあった。テーブルの上に置いた後も、常に彼女の方へ《魅了薬》が流れるようにし、彼女が首飾りに完全に《魅了》されたタイミングで、姿を消したままのグッケンス博士が《幻惑魔法》を展開、キャサリナの首飾りに対する執着を増幅したのだ。
実は最初にキャサリナに首飾りを見せた時に、すでにこの《魅了薬》を仕込んでいた。彼女にも効果があるかどうか試していたのだが、その効果は思った以上のものであっただけでなく、彼女はまったくこちらのしていることに気づくこともなかった。彼女が耐性があるのは、着けている《魅了の腕輪》の効果だけで、他の魔法薬や魔法への耐性があるわけではなかったのだ。
そこで、これはいけると踏んだ私は、彼女になにもかも吐き出させるために、グッケンス博士にあまり得意ではないという《幻惑魔法》をかけてもらうことにしたのだ。
「もともとあの女は、なにもせずともあの首飾りに執着しておった。それをさらに《魅了薬》で煽ったのだから、冷静でいられるはずがないのだ。わしの《幻惑魔法》など添え物よ」
グッケンス博士はそういうが、博士の魔法が進むにつれ明らかにキャサリナはヒートアップしていったように思う。
「セイリュウも今回はありがとう。絶対に《魅了》に惑わされないセイリュウやソーヤたちがいなかったら、この作戦は使えなかったもの。本当に助かったわ」
セイリュウは優雅に紅茶を飲みながら、
「なかなか面白いものを見せてもらったし、楽しかったよ」
と、笑っている。この一件が片付いたら、みんなでいい日本酒を飲みながら祝杯をあげ、大宴会をしよう。
私に協力し、無償の労力をいつでも使わせてくれる仲間に、私ができるのはそれぐらいのことなのだから。
「そういえば、あの古代語の資料はどうだったんだい?」
セイリュウの言う古代語の資料とは、あの時、錯乱したキャサリナが机にぶちまけた大量のボロボロの古い資料のことだ。どうやらキャサリナは、どこかの山奥にあった廃屋を偶然見つけそこにあるものを根こそぎ盗んできたらしい。金目のものがないかと探した結果出てきた薬瓶を《鑑定》のできる魔法使いのもとに持ち込み、それが《傀儡薬》であることを突き止めたらしい。
「製法が手に入れば巨万の富と考えたのでしょうが、結局この古代語には歯が立たず、それを利用した詐欺を考えた、ということのようです」
「では、やはり《傀儡薬》は、あの残された2本の瓶しかないのだな」
「もう少し資料を読んでみる必要はあると思いますが、おそらくそうだと思います」
コーヒーを飲み終わった博士は立ち上がり、出かける支度を始めた。
「ドール参謀には一刻も早く《傀儡薬》の製法をキャサリナが知らず、その製法は現状誰も知らぬし、おそらく知られることもない、ということを知らせてやろう。キャサリナという女のタチの悪い魔法についても話してやらねばな。シルベスター家の息子の名誉もそれで少しは回復できるだろう」
「あれは、毒を飲まされたようなものです。少しでも、名誉の回復ができるよう助けてあげてください」
「うむ、ではな」
博士が去ったリビングでは、美味しい新作ケーキにご機嫌のソーヤと心ゆくまで私にオシャレをさせ髪をいじることができてご機嫌のセーヤが、陽気にキャサリナの袖振りダンスを再現して、私とセイリュウを大笑いさせてくれた。
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