利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ

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3 魔法学校の聖人候補

495 詐欺師のための餌

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495

おじさまを狙ったキャサリナの目的は〝天舟アマフネ〟だった。

(保有には厳しい制限がある上、建造に何億……いやもっとかな……とにかくめちゃくちゃ貴重なあの空飛ぶ船をおじさまにとは、どれだけ自分の魔法に自信があるのやら……)

だがこれではっきりしたことがある。彼女は高飛びを考えているのだ。さすがに、政治の中枢にいる貴族を騙して大金をせしめたこの国では、暫く大きな仕事はできないと考えたのだろう。
こちらにとって最悪な展開は、キャサリナがサイデムおじさまの籠絡に成功し、《傀儡薬》を持って〝天舟アマフネ〟で高飛び。その後、他国が《傀儡薬》に関する魔法や技術を手に入れてしまう……というものだったが、おじさまがキャサリナの魔法にかからないことはっきりさせたので、彼女のターゲットからは外れたはずだ。かといって、他にホイホイ〝天舟アマフネ〟をくれそうな相手は簡単に見つからないだろうし、これで、急な国外逃亡はひとまず回避できた。

「とりあえず、〝天舟アマフネ〟でいきなり姿をくらますワケにはいかないでしょうから、その点は安心ですけどね」

グッケンス博士にパーティーでの顛末を伝えながら、私はルミナーレ様からお借りした宝石を確認していた。これは今後の作戦において重要なアイテムとなる予定のものだ。

「で、この後は、キャサリナに大金を使わせ《傀儡薬》についての情報を得るわけだな」

私たちの計画はこうだ。いまのキャサリナは大きく稼ぐこともできず、だが《魅了》を使い続けるための宝石は買わなければいけないという状況にある。
おそらくまだ彼女の資金は潤沢だと思われるので、彼女を追い詰めるため、それを上回る高額な宝石を売りつける(フリをする)つもりだ。そのためにセイリュウを宝石商としてキャサリナに接触させ、その代金として法外な金額を請求してみようと思う。現状《魅了》を増幅できるだけの力のある宝石が手元に少なくなっているキャサリナは、是が非でもそれを欲しがるだろう。それに、彼女は増幅用の石以外にも大量に宝石を身につけている筋金入りの宝石コレクターだ。

「それにしても、さすがルミナーレ様というべきか、素晴らしい品物をお借りできました。もう大きすぎてゴツいとさえ言えるような宝石のついた首飾りまであります。これは、国宝級ってやつですよ。これ、絶対キャサリナは食いつきますね」

私が、預かった宝石の入った箱を開けて見せると、グッケンス博士もその宝石の巨大さに驚いていた。

「これを貸し出してくれるとは……メイロードはよっぽど信用されているのだな」

確かに、これを貸し出してくれたのは、いままで培ってきた信頼関係といい仕事をしてきたという実績があってこそだ。これは我ながら自慢していいことだと思う。

(せっかくのご厚意、大事に使わなくちゃね)

「では、これも使うといい」

グッケンス博士はマジックバッグから無造作にみかん箱ほどの大きさの木箱を出した。中には、ぎっちりと宝石が詰まっている。

「わしの所有する鉱山で採れたものや、仕事の謝礼としてもらったものや、あれこれで半分以上は原石のままだ。使い道もないので、とりあえず置いてあるだけのものじゃから、好きにお使い」

ルミナーレ様の極上品の宝石のインパクトも凄かったが、これもまたものすごい衝撃的な量の宝石だった。確かに魔法使いであるグッケンス博士にとっては、宝石には魔石のような価値はない。言ってしまえばただの色石なのだろう。

(それにしても、このゾンザイな扱いは……)

私は少し宝石たちが気の毒になってしまった。博士の元に来たばっかりに、この粗末な木箱にしまわれたまま忘れ去られていたのだから。

「ありがとうございます。これ、きっとキャサリナを食いつかせるネタになると思います。お返しするときには、ちゃんと仕分けもして、できる限り綺麗な宝石にしてお返ししますね」

私はこの木箱の宝石たちを救出したい、と心から思いこの整理をすることに決めた。

「あ、ああ……まぁ、それはどうとでも……」

「いえ、きっちり仕分けいたしますよ。可哀想じゃないですか、せっかく綺麗なのに!」

旗色が悪いと思ったのか、グッケンス博士はその売れば途方もない額になるだろう木箱一杯の宝石を置きっぱなしにしたまま、コーヒーのカップを抱えて自室に入ってしまった。本当に、なんの興味もないのだろう。

私は親しくしている宝飾工房マルニール工房に、宝石用の持ち運びができる棚を作ってくれる工房を紹介してもらうことにした。そしてすぐに大量の宝石を綺麗にしまうことのできる箱をデザインをして、最高の材料で作ってくれるよう依頼した。

(これをみたら、きっとキャサリナはすぐ食いついてくるはず)

ただキャサリナを捕まえればいいというわけではない今回の話。なんとかキャサリナから《傀儡薬》に関する正確な情報を引き出さないと、問題は解決しない。相手はベテラン詐欺師だ。信用できる証言を引き出すには、それなりの仕掛けが必要だ。

「上手く追い詰めて、彼女の方から話させるように持っていき、証拠を抑えないと安心できないものね」

私は木箱の中の宝石を《鑑定》し、分類しながら、これが終わったらいよいよ始まる詐欺師を釣り上げる作戦の成功を祈っていた。
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