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3 魔法学校の聖人候補

484 メイロード審議官

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484

私の言葉に、全員が一斉に反応してくれて、そこからは話が早かった。

「なるほど、それは有意義な催しですね。研究者の方とはあまり交流がない学生が多いですから新しい勉強にもつながりますし、いままで知らなかったことを共有できることは、魔法学校全体の学力の向上にも繋がるかもしれません」

「この学校では、こうした研究に関して奨励はしているが発表の場はなかった。その閉鎖性は、研究者にとっては面白くなかったでしょう。これは研究意欲を高められるかもしれないね」

「褒賞については学校側と相談しよう。やはり褒賞が出ると平民の子たちは喜ぶからね」

「栄誉を讃えるバッジも作りましょう。貴族の子たちには、きっとその方が喜ばれますよ」

「この学校での研究には多分に帝国の意向が反映されていますよね。ですが、それによって研究者の意欲が衰え、意見交換の機会が奪われているとも言えます。これって、長期的にみれば決して帝国にとっても有益ではないのでは?」

「その辺りを軸に話せば、いまの学校側の感じだといけそうですよね」

「では具体的な案については、次の集まりで決め、正式に学校側へ提案することにしよう。それまでに、各々考えをまとめておくように」

最後は生徒会長がまとめて、今日の会議は終了した。

「ありがとう、マリス君。早速のご活躍だったね。これからも、いい案があればいつでも言ってくれると助かるよ」

「あ、いえ、出過ぎたことを申しまして……」

「そんなことはない! 君のような得難い人材を私が率いる生徒会に呼べたことは、幸運以外のなにものでもないよ。ここで出会えたことは運命なのかもしれないね……」

「あの、それはどういう……」

と、私が言おうとした時には、シルベスター会長はすでに立ち上がり、副会長たちと話を始めていた。

(運命? ずいぶん大げさだなぁ)

私はそう思いつつ、そこでそれを追求することは諦め席を立った。

「いつもながら、素晴らしい発想でしたね、マリスさん!」

オーライリが笑いながら話しかけてきた。

「いやいや、そんなことはないよ。きっと誰かが思いついたって……」

前世では、ごく普通の学校行事のひとつだった研究発表会を提案したぐらいで、そこまで持ち上げられるとさすがにこそばゆい。それに、この〝研究発表会〟私が個人的に興味があったから、思いついたことだ。
現状、こっそりと《白魔法》について研究中の私は、あまり表立ってそのことを言わないよう心がけているため、情報が不足していることをここのところ感じていた。

(ひとりだけで研究すると、どうしても視野が狭くなっちゃうんだよね)

この催しが行われることで、この学校で行われている細かな研究にまで一気に触れられるのではないか、そこに何か私の研究のヒントがあるのではないかと私は期待しているのだ。

魔法学校は〝国家魔術師〟育成のための機関であり、卒業後の優秀な学生の多くはその道へと進むし、それが奨励されている。だが、唯一の例外がある。それが〝魔法研究〟だ。3年が過ぎ卒業が可能になっても、希望者は卒業をせずに、ここで魔法についての研究を続けることができるのだ。

帝国側としては、卒業して他のどこかで研究を続けられて、そこから画期的な魔法技術が知らない間に広まるより、この監視しやすい閉ざされた場所で研究をさせ、得られた成果については、まずは軍部で使えるかどうかを精査する方が良い、と考えているらしい。
お金のない平民の子が研究者になりたい場合、在野で研究をすることに比べれば、ここでの研究をすることにたしかにメリットはある。研究したいことがある彼らには、最初は特に資金提供はないそうだが、衣食住、そして研究棟での活動が認められる。そして学校に提出した論文について見込みがあると認められれば、褒賞があるそうだ。その研究が学校もしくは中央のどこかの部署に正式に採用となれば、ようやく学校の研究員として認められ、研究棟と俸給が与えられる。そこに至るまではなかなかイバラ道らしいが、目指している学生も少なくはないという。
そして、ごく稀に新しい魔法を開発したり発見した研究者には、莫大な報奨金と栄誉が与えられ、魔法研究者としての高い地位が与えられる。

(というわけで、パカパカ画期的な魔法を作ってしまうグッケンス博士には、誰も頭が上がらないのだ。褒賞をもらいすぎて、これ以上高くすると皇帝陛下より上になってしまうっていう地位にまで、すでに上り詰めちゃっているらしい)

だが、ただの一学生に過ぎない私には、学校内で誰がどこでどういう研究をしているのか、それを把握することはとても難しかった。研究者をしている学生に関しては学校側も外部への情報流失を恐れているのか、その研究の内容どころか、どのくらいの人数がいるのかさえ簡単には教えてくれない。

だが、こうして公式行事として発表会が行われれば、一挙に情報が集まるはずだ。学校側もこのアカデミックな催しを否定しにくいだろうし、褒賞が出るとなれば、活動資金がない彼らは飛びつくと思う。

(楽しみだな、どんな研究があるのかな)

というわけで、極めて個人的な思惑があっての提案だったが、生徒会の皆さんが思った以上に好感触でよかった。私としても、これは是非成功させたいイベントなので、ちょっとシルベスター会長の誘導通りの結果になり気に入らないが、積極的にコミットしていこうと思う。

「これから、よろしくお願いいたします」

クローナがそういいながら、私に生徒会のバッジを渡してくれた。

「うん。頑張りましょう」

私はその金色の百合とペンがデザインされたバッジを受け取り右の襟のつけた。これで、私の生徒会加入は正式になものとなり〝審議官〟として、活動することになったのだった。
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