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3 魔法学校の聖人候補
483 最初の議題
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483
「アーシアン・シルベスターだ。無理を言ったようで申し訳ないが、ぜひ君の手腕を生徒会のためにふるっていただきたい」
初めて会った新生徒会長は、それは腰の低い態度で私に接してきた。
今日は新体制となる生徒会の自己紹介を兼ねた顔合わせのため、お茶にお菓子まで出る気軽な雰囲気での集まりだった。二年生となったトルルやオーライリは、緊張した一年生に話しかけたりして、緊張をほぐそうとしたり、上級生らしく立ち回っている。
私はなるべく目立たない場所はどこかと、早くに来て席を取ろうとしたのだが、会長に彼の隣の席を指定されて、仕方なくメチャクチャ目立つその席へと移動した。そこで最初のセリフを言われたわけだが、初手から随分と持ち上げてくれる。
「いえ、あの……」
という私の言葉を笑顔で制して、シルベスター会長はこう続けた。
「この魔法学校の中でも一際有名であられるハンス・グッケンス博士の世話係は、お忙しいことと思う。ゆえにマリス君、君には〝審議官〟という特別なポジションを私の権限で用意させてもらった。体力的にも負担のない範囲で時々会議に出席して、私たちの意見に君らしい考えを少し加えてもらえるだけで十分なんだ」
さらっとシルベスター会長は、私のお断りしたい理由を潰してきた。体力的にきついとか忙しいとかでは、こうなっては断れない。
「この間の〝春祭り〟だったかな。あれも見事なものだったね。きっとこれからは恒例になっていくだろう。ああいったマリス君独自の視点で、この生徒会で少し助言してもらえれば、今期の生徒会はきっと素晴らしいものになると思う。そうだろう、サンス君」
「ええ、ええ!! 私たち貴族とも違う独自の視点をお持ちのマリスさんは、きっとこの生徒会を盛り立てて下さいますわ」
(ひぃ、クローナ!! 会長の援護射撃はやめてぇ~)
私の気持ちとは裏腹に、クローナの言葉を聞いた新役員からは拍手まで起こってしまった。
(やられた……。もう逃げられない)
ここまで担がれてしまっては、もうこの〝審議官〟というお役目を逃れることは難しいだろう。私は覚悟を決めることにした。
「わかりました。お役目はお引き受けいたしましょう。ですが、私はあくまでも聴講生です。お世話係としてのお役目が最優先となりますし、ことと次第では任期中に学校を出る可能性もございます。それでもよろしいのですね」
「もちろんだとも! では、学校側から提案されていることについて意見交換を始めようか」
アーシアン会長、私の〝途中で逃げ出したって知らないからね!〟という脅しも華麗にスルー、。
(ああそうですか、わかりましたよ)
お茶を飲みながら話し合いとなったのは、学校側からの生徒会主催による行事の提案についての打診だった。
「この魔法学校では、いままでほとんど催しものは行われてこなかった。この学校の一義は〝魔法を学び極める〟ことであり、それ以外の要素は排除されてきたからだ。だが、学校当局は昨年から、このやり方について方向転換を始めている。部活動の奨励もその一環だと思われるが、当局は学校内での多彩な活動を推し進めようと考えているそうだ」
学校側が部活動の奨励に踏み切った理由を知っている、というかそうさせた私は、なるべくそれを顔に出さないよう、会長の話を聞いていた。私が成績のデータ分析によって明らかにした〝魔法使いの成長を促すひとつの大きな要素、それは魔法に直接関連がない多彩な経験から得られる〟という事実は、主に政治的な理由から公にはされていない。だが学校としては、公に言わないまでも、できる限りそれを推し進めたいと考えたのだろう。
オーライリが発言する。
「とはいっても、私たちは今まで生徒会主導で催しものを行った経験はないのですよね。いきなりそう言われても、何から手をつけたらいいのか、難しくはないですか?」
この学校の生徒会は、いままで縁の下の力持ち的な立場で、校内の秩序を守ることを主眼としてきたため、こうしたイベントについては、経験が乏しい。だから、皆オーライリの言葉に考え込んでしまう。
みんなの消極的でどんな意見を言うべきなのか困っている雰囲気を見ていた私に、横からシルベスター会長の言葉が飛んできた。
「どうだろうマリス君、私たちにできそうな催しは何かないだろうか」
「え?」
恋愛体質の女子ならきっとドキドキするのだろうその整ったお顔で微笑みつつ、会長の目は私から離れない。これ何か言うまで離さないという目だ。仕方なく私は深呼吸をしてから話し始めた。
「催しものとは、管理そのものです。時間、人、予算、あらゆるものを管理する。それが催しを主催し運営するものの責任となります。規模が大きくなり複雑化すれば、その管理は難しくなる。当然ですね。
ならば、もっとも学生に馴染みそうなことから始めてみてはどうでしょう?」
私の言葉に、少しづつ話が進み始めた。
「そうですよね。できることをやっていきましょう。いきなり大きなことをしようとしても上手くいくはずがありません。式典の管理は、生徒会でも経験がありますから、講堂を使ったものならば取り組みやすいのでは?」
「いいね。それなら、できる気がする」
「だが、学生たちにも学校にもわかりやすく運営を我々主導でできそうなことってなんだろう。誰に何をさせる?」
なかなか具体的な案が出ないのにじれた私は、結局こう言ってしまった。
「研究発表会はいかがですか。この学校は、さまざまな魔法の個人研究を奨励していますよね。そうした方々に研究したことを発表してもらい、素晴らしいものを表彰するんです!」
「アーシアン・シルベスターだ。無理を言ったようで申し訳ないが、ぜひ君の手腕を生徒会のためにふるっていただきたい」
初めて会った新生徒会長は、それは腰の低い態度で私に接してきた。
今日は新体制となる生徒会の自己紹介を兼ねた顔合わせのため、お茶にお菓子まで出る気軽な雰囲気での集まりだった。二年生となったトルルやオーライリは、緊張した一年生に話しかけたりして、緊張をほぐそうとしたり、上級生らしく立ち回っている。
私はなるべく目立たない場所はどこかと、早くに来て席を取ろうとしたのだが、会長に彼の隣の席を指定されて、仕方なくメチャクチャ目立つその席へと移動した。そこで最初のセリフを言われたわけだが、初手から随分と持ち上げてくれる。
「いえ、あの……」
という私の言葉を笑顔で制して、シルベスター会長はこう続けた。
「この魔法学校の中でも一際有名であられるハンス・グッケンス博士の世話係は、お忙しいことと思う。ゆえにマリス君、君には〝審議官〟という特別なポジションを私の権限で用意させてもらった。体力的にも負担のない範囲で時々会議に出席して、私たちの意見に君らしい考えを少し加えてもらえるだけで十分なんだ」
さらっとシルベスター会長は、私のお断りしたい理由を潰してきた。体力的にきついとか忙しいとかでは、こうなっては断れない。
「この間の〝春祭り〟だったかな。あれも見事なものだったね。きっとこれからは恒例になっていくだろう。ああいったマリス君独自の視点で、この生徒会で少し助言してもらえれば、今期の生徒会はきっと素晴らしいものになると思う。そうだろう、サンス君」
「ええ、ええ!! 私たち貴族とも違う独自の視点をお持ちのマリスさんは、きっとこの生徒会を盛り立てて下さいますわ」
(ひぃ、クローナ!! 会長の援護射撃はやめてぇ~)
私の気持ちとは裏腹に、クローナの言葉を聞いた新役員からは拍手まで起こってしまった。
(やられた……。もう逃げられない)
ここまで担がれてしまっては、もうこの〝審議官〟というお役目を逃れることは難しいだろう。私は覚悟を決めることにした。
「わかりました。お役目はお引き受けいたしましょう。ですが、私はあくまでも聴講生です。お世話係としてのお役目が最優先となりますし、ことと次第では任期中に学校を出る可能性もございます。それでもよろしいのですね」
「もちろんだとも! では、学校側から提案されていることについて意見交換を始めようか」
アーシアン会長、私の〝途中で逃げ出したって知らないからね!〟という脅しも華麗にスルー、。
(ああそうですか、わかりましたよ)
お茶を飲みながら話し合いとなったのは、学校側からの生徒会主催による行事の提案についての打診だった。
「この魔法学校では、いままでほとんど催しものは行われてこなかった。この学校の一義は〝魔法を学び極める〟ことであり、それ以外の要素は排除されてきたからだ。だが、学校当局は昨年から、このやり方について方向転換を始めている。部活動の奨励もその一環だと思われるが、当局は学校内での多彩な活動を推し進めようと考えているそうだ」
学校側が部活動の奨励に踏み切った理由を知っている、というかそうさせた私は、なるべくそれを顔に出さないよう、会長の話を聞いていた。私が成績のデータ分析によって明らかにした〝魔法使いの成長を促すひとつの大きな要素、それは魔法に直接関連がない多彩な経験から得られる〟という事実は、主に政治的な理由から公にはされていない。だが学校としては、公に言わないまでも、できる限りそれを推し進めたいと考えたのだろう。
オーライリが発言する。
「とはいっても、私たちは今まで生徒会主導で催しものを行った経験はないのですよね。いきなりそう言われても、何から手をつけたらいいのか、難しくはないですか?」
この学校の生徒会は、いままで縁の下の力持ち的な立場で、校内の秩序を守ることを主眼としてきたため、こうしたイベントについては、経験が乏しい。だから、皆オーライリの言葉に考え込んでしまう。
みんなの消極的でどんな意見を言うべきなのか困っている雰囲気を見ていた私に、横からシルベスター会長の言葉が飛んできた。
「どうだろうマリス君、私たちにできそうな催しは何かないだろうか」
「え?」
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「催しものとは、管理そのものです。時間、人、予算、あらゆるものを管理する。それが催しを主催し運営するものの責任となります。規模が大きくなり複雑化すれば、その管理は難しくなる。当然ですね。
ならば、もっとも学生に馴染みそうなことから始めてみてはどうでしょう?」
私の言葉に、少しづつ話が進み始めた。
「そうですよね。できることをやっていきましょう。いきなり大きなことをしようとしても上手くいくはずがありません。式典の管理は、生徒会でも経験がありますから、講堂を使ったものならば取り組みやすいのでは?」
「いいね。それなら、できる気がする」
「だが、学生たちにも学校にもわかりやすく運営を我々主導でできそうなことってなんだろう。誰に何をさせる?」
なかなか具体的な案が出ないのにじれた私は、結局こう言ってしまった。
「研究発表会はいかがですか。この学校は、さまざまな魔法の個人研究を奨励していますよね。そうした方々に研究したことを発表してもらい、素晴らしいものを表彰するんです!」
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