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3 魔法学校の聖人候補
481 春祭り
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481
さて、短い春休みがやってきた。
3週間ほどの休みの間、学生がかなり入れ替わるため、引っ越しやら掃除やらで、学校内はかなりバタバタとしている。卒業生の引越しはもちろんだが、期末試験の結果を受けて、移動となる学生も多い。魔法学校の生徒をしていると、学科や魔法のために必要な私物がだんだん増えてくるので、卒業して去っていく先輩たちは、大量の私物の仕分けに毎年苦労しているのだそうだ。不用品は個人での売り買いをしようとするそうだが、マッチングがうまくいかず時間切れで残されていく荷物はかなりの量で、これらは置いていく学生が手数料を支払い、学校側が処分しているそうだ。
「ガレージ・セールでもしたらいいんじゃないですか?」
〝もったいない〟と思った私が、大食堂向上委員会の時、ふと言ってしまった言葉がまずかった。
チェット・モートさんが、あまりに食いつくので、軽くガレージ・セールについて話したところ、ぜひやりましょうという話に発展してしまったのだ。
ガレージ・セールはその名の通り、自宅の不用品を家の庭やガレージを使って道行く人に売るという、個人的なリサイクルのやり方で、引っ越しの多いシーズンには、アメリカなどでよく見られるお金のない学生などにも優しいシステムだ。
「新一年生がやってくるのに合わせて、3年生が不要になって置いていったものをまとめて並べて安く売ってみたらどうですか。学校には人手がないでしょうから、寮生にやらせましょう。捨てるより無駄がないし、収益は寮のために使えるお金としてプールして、寮ごとのイベントや修繕に使ってみたらどうでしょう」
「いいですね、素晴らしい案です」
学校の半数を占める貴族や富裕層の学生たちには、もともといらなくなった私物を売ってお金にするという発想はない。まだ使えるものでも、なにもかも置いていってしまうことが多いらしく、今までは廃棄費用を受け取って処分していたそうだ。一般の生徒はそこまでではないが、やはり新生活の場所には必要ないもの、新しく揃えたいものも多く、家具、魔法道具、書籍と、大量の品物が置いていかれる。
(以前は高価だった書籍も、紙製になって安価になってきたからなのか、必要ないものは置いて行っちゃうみたい)
私は、その処分時に〝廃棄品の二次利用について文句をつけない〟という一筆を入れてもらい、廃棄費用とリサイクルで二重取りするというせこい作戦を考えた。
「なるほど、まぁ最終的に売れ残ったものは廃棄になりますから、費用はいただいておかないとですよねぇ」
(チェット・モートさん、悪い顔になってますよ)
「各寮の運営費が充実すれば、できることが増えますからね。今の貴族が多い寮との格差も少しは是正されるんじゃないでしょうか」
年がら年中派手なお茶会をしている第一寮のような貴族の多い寮と、下位の学生たちが住む寮の間では、どうしても使える寮費による格差が拡大してしまう。ある程度は仕方がないところだけれど、自治ということを考えると、もう少し予算があってもいい気はしていたのだ。
学校に寮費の増額を訴えるとなると大ごとだが、勝手に寮費が増える分には文句はないだろう。
「貴族の多い第一、第ニ寮はこんなことには不参加でしょうから、三以下の寮の寮生で第一、第ニ寮の分も売りましょう。どうせならセルツの町の人にも声をかけると、高価なものをより高く買ってくれるかもしれないですね」
そこからフリーマーケット風に話はどんどん大きくなり、大食堂も屋台を出してみようとなり、どうやら屋台が儲かるらしいと聞きつけた各部活がさらなる部費獲得のため模擬店などを考え始め、どんどん文化祭ノリになっていった。
「やっぱりメイロードさんの考えることは違うわね~」
〝広報クラブ〟の新部長となったレカ先輩は、私がこの〝魔法学校主催の春祭り〟の発案者だと知り、早速取材にやってきた。さすがに耳が早い。
「私の名前は……」
「出しませんよぉ、残念だけど」
ちょっとつまらなそうに、そういうレカさんだが、不可侵条約は守ってくれそうなので安心して取材に応じる。ついでに新聞部の模擬店のアイディアも欲しいみたいなので、条約維持のために私の持っている、以前村のお祭りで使ったベビーカステラ用の型を貸してあげることにした。
「カステラ生地のレシピもちゃんと教えますから、何度か作ってみてください。難しくはないですから、慣れればいくらでも作れますよ。温度は安定していたほうがいいので、ついでに魔石コンロも貸しておきますね」
「これは売れそうね。何から何まで、ありがとう! 当日は取材もしつつ、がっちり部費を稼ぐわ!」
レカ先輩は、しっかり私から取材した後〝広報クラブ〟の模擬店のネタも仕入れ、嬉しそうに帰っていった。
それからは、私はこの〝春祭り〟の準備に駆り出される春休みを送ることになった。実行委員長はチェット・モートさんに押し付けたものの、どんなものになるのかというビジョンを持っているのは私だけなので、これは関わらないわけにはいかず、急遽寮や部活の代表者で組織した実行委員会ともに、頑張ってしまった。
そして、新入生がやってきた2日後、始業式まで5日という今日、魔法学校で初めての〝春祭り〟が行われた。
事前にうまく〝美味しいものが色々あるらしい〟という噂が広まってくれたらしく、セルツの町の人たちも予想以上に来場してくれ、大いに盛り上がった。
物品の売り上げも上々で、学生たちは安く家具や道具が揃えられ、寮費にも余裕が生まれ、今年は各寮でも盛大な新入生歓迎会が開かれることになったという。
クラブ活動のための多くの模擬店も完売し、しっかり部費を確保できたようだ。中でも〝広報クラブ〟のベビーカステラは抜群の売れ行きで、かなり部費が潤ったらしく、今年は学園内情報誌を新たに創刊すると息巻いているそうだ。
(ま、レカ先輩の情熱がそちらに向いている間は、私は安泰だからいいことだよね)
さて、短い春休みがやってきた。
3週間ほどの休みの間、学生がかなり入れ替わるため、引っ越しやら掃除やらで、学校内はかなりバタバタとしている。卒業生の引越しはもちろんだが、期末試験の結果を受けて、移動となる学生も多い。魔法学校の生徒をしていると、学科や魔法のために必要な私物がだんだん増えてくるので、卒業して去っていく先輩たちは、大量の私物の仕分けに毎年苦労しているのだそうだ。不用品は個人での売り買いをしようとするそうだが、マッチングがうまくいかず時間切れで残されていく荷物はかなりの量で、これらは置いていく学生が手数料を支払い、学校側が処分しているそうだ。
「ガレージ・セールでもしたらいいんじゃないですか?」
〝もったいない〟と思った私が、大食堂向上委員会の時、ふと言ってしまった言葉がまずかった。
チェット・モートさんが、あまりに食いつくので、軽くガレージ・セールについて話したところ、ぜひやりましょうという話に発展してしまったのだ。
ガレージ・セールはその名の通り、自宅の不用品を家の庭やガレージを使って道行く人に売るという、個人的なリサイクルのやり方で、引っ越しの多いシーズンには、アメリカなどでよく見られるお金のない学生などにも優しいシステムだ。
「新一年生がやってくるのに合わせて、3年生が不要になって置いていったものをまとめて並べて安く売ってみたらどうですか。学校には人手がないでしょうから、寮生にやらせましょう。捨てるより無駄がないし、収益は寮のために使えるお金としてプールして、寮ごとのイベントや修繕に使ってみたらどうでしょう」
「いいですね、素晴らしい案です」
学校の半数を占める貴族や富裕層の学生たちには、もともといらなくなった私物を売ってお金にするという発想はない。まだ使えるものでも、なにもかも置いていってしまうことが多いらしく、今までは廃棄費用を受け取って処分していたそうだ。一般の生徒はそこまでではないが、やはり新生活の場所には必要ないもの、新しく揃えたいものも多く、家具、魔法道具、書籍と、大量の品物が置いていかれる。
(以前は高価だった書籍も、紙製になって安価になってきたからなのか、必要ないものは置いて行っちゃうみたい)
私は、その処分時に〝廃棄品の二次利用について文句をつけない〟という一筆を入れてもらい、廃棄費用とリサイクルで二重取りするというせこい作戦を考えた。
「なるほど、まぁ最終的に売れ残ったものは廃棄になりますから、費用はいただいておかないとですよねぇ」
(チェット・モートさん、悪い顔になってますよ)
「各寮の運営費が充実すれば、できることが増えますからね。今の貴族が多い寮との格差も少しは是正されるんじゃないでしょうか」
年がら年中派手なお茶会をしている第一寮のような貴族の多い寮と、下位の学生たちが住む寮の間では、どうしても使える寮費による格差が拡大してしまう。ある程度は仕方がないところだけれど、自治ということを考えると、もう少し予算があってもいい気はしていたのだ。
学校に寮費の増額を訴えるとなると大ごとだが、勝手に寮費が増える分には文句はないだろう。
「貴族の多い第一、第ニ寮はこんなことには不参加でしょうから、三以下の寮の寮生で第一、第ニ寮の分も売りましょう。どうせならセルツの町の人にも声をかけると、高価なものをより高く買ってくれるかもしれないですね」
そこからフリーマーケット風に話はどんどん大きくなり、大食堂も屋台を出してみようとなり、どうやら屋台が儲かるらしいと聞きつけた各部活がさらなる部費獲得のため模擬店などを考え始め、どんどん文化祭ノリになっていった。
「やっぱりメイロードさんの考えることは違うわね~」
〝広報クラブ〟の新部長となったレカ先輩は、私がこの〝魔法学校主催の春祭り〟の発案者だと知り、早速取材にやってきた。さすがに耳が早い。
「私の名前は……」
「出しませんよぉ、残念だけど」
ちょっとつまらなそうに、そういうレカさんだが、不可侵条約は守ってくれそうなので安心して取材に応じる。ついでに新聞部の模擬店のアイディアも欲しいみたいなので、条約維持のために私の持っている、以前村のお祭りで使ったベビーカステラ用の型を貸してあげることにした。
「カステラ生地のレシピもちゃんと教えますから、何度か作ってみてください。難しくはないですから、慣れればいくらでも作れますよ。温度は安定していたほうがいいので、ついでに魔石コンロも貸しておきますね」
「これは売れそうね。何から何まで、ありがとう! 当日は取材もしつつ、がっちり部費を稼ぐわ!」
レカ先輩は、しっかり私から取材した後〝広報クラブ〟の模擬店のネタも仕入れ、嬉しそうに帰っていった。
それからは、私はこの〝春祭り〟の準備に駆り出される春休みを送ることになった。実行委員長はチェット・モートさんに押し付けたものの、どんなものになるのかというビジョンを持っているのは私だけなので、これは関わらないわけにはいかず、急遽寮や部活の代表者で組織した実行委員会ともに、頑張ってしまった。
そして、新入生がやってきた2日後、始業式まで5日という今日、魔法学校で初めての〝春祭り〟が行われた。
事前にうまく〝美味しいものが色々あるらしい〟という噂が広まってくれたらしく、セルツの町の人たちも予想以上に来場してくれ、大いに盛り上がった。
物品の売り上げも上々で、学生たちは安く家具や道具が揃えられ、寮費にも余裕が生まれ、今年は各寮でも盛大な新入生歓迎会が開かれることになったという。
クラブ活動のための多くの模擬店も完売し、しっかり部費を確保できたようだ。中でも〝広報クラブ〟のベビーカステラは抜群の売れ行きで、かなり部費が潤ったらしく、今年は学園内情報誌を新たに創刊すると息巻いているそうだ。
(ま、レカ先輩の情熱がそちらに向いている間は、私は安泰だからいいことだよね)
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