上 下
291 / 832
3 魔法学校の聖人候補

480 生徒会への勧誘

しおりを挟む
480

三学期ももうすぐ終わる。

悲喜こもごもの最終テストが終わり、一年生の運命も決した。

私のお友達がどうなったかというと、まずトルルはギリギリながら滑り込みで〝基礎魔法講座〟をクリアすることができた。だが、ライアン、ザイク、モーラの3人は、残念ながら留年決定。来年ももう一度〝基礎魔法講座〟のやり直しだ。

モーラは、かなり落ち込んでしまい、もう諦めて帰るとまで言い始めたが、トルルが

「来年はもっと参考書が充実するはずだから、今年よりずっと受かりやすいはずだよ。もうかなりの数はできるようになっているんだから、きっと大丈夫!」

と、熱心に説得し、なんとか残る気になってくれたそうだ。それに、もともと半数は落ちるというとんでもない学科なのだ。一度や二度の失敗を、そんなに気にする人は誰もいない。

今年は参考書効果が如実に現れ、6割近くが合格し、これまでの年より合格者が多かった。きっと来年の合格率はさらに上がるだろうというトルルの予測も、その通りだと思う。

私はいよいよこのクラスともお別れだな、と感慨深く放課後の教室でみんなと雑談を楽しんでいた。
私から発言するとまずいことをしゃべってしまいそうな気がして、言葉少なにみんな話を聞いていると、そこへオーライリとクローナが、なんだかひそひそ声で私に話しかけてきた。

「あのね、マリスさん……ちょっと、聞いて欲しいことがあるのですけれど、よろしいですか?」

オーライリは、少し困ったような楽しそうなような、複雑な表情をしている。クローナは満面の笑みだ。

なんでも生徒会に関することでまだ極秘だというので、私たちは、ちょっと席を離れ廊下で立ち話をすることにした。廊下に出ると、言いたくてたまらなかった様子のクローナは、すぐ本題を話し始めた。

「次の生徒会長になられるアーシアン・シルベスター様から、メイロード・マリスさんを生徒会役員に迎えたいというお話がありました。これは異例中の異例なのですが、あなたの活躍が認められたという大変名誉なことですの! 私もオーライリも、本当に嬉しく思っておりますのよ!」

「え、せ、生徒会……ですか? 聴講生の私が?」

私の〝目立たない穏便な学生生活〟という目標を知っているオーライリは、私が認められたうれしさときっと嫌がるだろうという気持ちが半々で、ああいう不思議な顔になっていたようだ。今もその顔のままでクローナの話にうなづいている。

逆にそんな私の密かな〝お願いだからほっといて〟という目標を知るはずもないクローナは、無邪気に一緒に生徒会で活動できることを喜び、私が認められたことを大いに讃えてくれた。

「アーシアン・シルベスター様は大変厳しい方で、少しでもいい加減なお仕事をしたらどんな立場の方がお相手でも叱責されますのよ。とても優秀で怖い方です。言い方はお優しいのですが、本当に気が抜けないのです。ご本人が完璧でいらっしゃるので、こちらも言い返す言葉がございませんし……
そんな新生徒会長が、ぜひマリスさんに生徒会へ参加していただき、忌憚のない意見をいただきたい、とおっしゃったのですよ。素晴らしいことです!!」

だいぶテンションの高いクローナの様子に、私とオーライリは顔を見合わせて、ヒソヒソと会話した。

「これは断れないのかな? 私としては全力でお断りしたいのだけど……」
「そうおっしゃるだろうと思っていました。ですが、これを断るにはかなりの特別な理由が必要です。〝忙しい〟だけでは断れないと思いますよ」

この〝生徒会役員〟という名誉職。

魔法学校の成績の序列とほぼシンクロしていることもあり、とてつもなく重要なポジションなのだ。〝なりたい〟と切望している生徒しかいないポジションのはずなので〝忙しいから無理です〟なんて理由では、断る理由にはまったくならないようだった。しかも、私のために特別に〝審議官〟という役職が作られ、アドバイザー的な役割をわざわざ作ってまでの勧誘なのだ。

(うー、参ったな。でも、こうなったらアーシアン・シルベスター会長の意図をまずは探らないと、どうにもならないなぁ。この人、私にクローナをけしかけたり、イロイロやってくれているところをみると、私に含むところがありそうなんだよね。とにかく、一度会ってみるしかないね)

どうにも困った話だが、私に拒否権はなさそうだった。一応、考えさせてくださいとは言ってみたが、受けるしかないことは二人の態度からも明白で、新学期はさらに目立たざるをえなくなりそうだった。

(もう、生徒会長!! 一体何を考えているのよぉ!)

私の嘆きと疑問を残し、こうして三学期の終わりは、なにやら波乱含みで終わった。

この人事の撤回を願い出るため、春休み中に一度シルベスター会長と会っておきたかったのだが、彼は家の用事で早々に学校を出ており、春休みが終わるまで会えそうになかった。

後手に回ってしまったことを悔やみつつ、私はセーヤとソーヤに念話を送り、シルベスター生徒会長に関する高度な諜報活動をお願いし、憂いを帯びた春休みに入ることになったのだった。
しおりを挟む
感想 2,983

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。