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3 魔法学校の聖人候補
480 生徒会への勧誘
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480
三学期ももうすぐ終わる。
悲喜こもごもの最終テストが終わり、一年生の運命も決した。
私のお友達がどうなったかというと、まずトルルはギリギリながら滑り込みで〝基礎魔法講座〟をクリアすることができた。だが、ライアン、ザイク、モーラの3人は、残念ながら留年決定。来年ももう一度〝基礎魔法講座〟のやり直しだ。
モーラは、かなり落ち込んでしまい、もう諦めて帰るとまで言い始めたが、トルルが
「来年はもっと参考書が充実するはずだから、今年よりずっと受かりやすいはずだよ。もうかなりの数はできるようになっているんだから、きっと大丈夫!」
と、熱心に説得し、なんとか残る気になってくれたそうだ。それに、もともと半数は落ちるというとんでもない学科なのだ。一度や二度の失敗を、そんなに気にする人は誰もいない。
今年は参考書効果が如実に現れ、6割近くが合格し、これまでの年より合格者が多かった。きっと来年の合格率はさらに上がるだろうというトルルの予測も、その通りだと思う。
私はいよいよこのクラスともお別れだな、と感慨深く放課後の教室でみんなと雑談を楽しんでいた。
私から発言するとまずいことをしゃべってしまいそうな気がして、言葉少なにみんな話を聞いていると、そこへオーライリとクローナが、なんだかひそひそ声で私に話しかけてきた。
「あのね、マリスさん……ちょっと、聞いて欲しいことがあるのですけれど、よろしいですか?」
オーライリは、少し困ったような楽しそうなような、複雑な表情をしている。クローナは満面の笑みだ。
なんでも生徒会に関することでまだ極秘だというので、私たちは、ちょっと席を離れ廊下で立ち話をすることにした。廊下に出ると、言いたくてたまらなかった様子のクローナは、すぐ本題を話し始めた。
「次の生徒会長になられるアーシアン・シルベスター様から、メイロード・マリスさんを生徒会役員に迎えたいというお話がありました。これは異例中の異例なのですが、あなたの活躍が認められたという大変名誉なことですの! 私もオーライリも、本当に嬉しく思っておりますのよ!」
「え、せ、生徒会……ですか? 聴講生の私が?」
私の〝目立たない穏便な学生生活〟という目標を知っているオーライリは、私が認められたうれしさときっと嫌がるだろうという気持ちが半々で、ああいう不思議な顔になっていたようだ。今もその顔のままでクローナの話にうなづいている。
逆にそんな私の密かな〝お願いだからほっといて〟という目標を知るはずもないクローナは、無邪気に一緒に生徒会で活動できることを喜び、私が認められたことを大いに讃えてくれた。
「アーシアン・シルベスター様は大変厳しい方で、少しでもいい加減なお仕事をしたらどんな立場の方がお相手でも叱責されますのよ。とても優秀で怖い方です。言い方はお優しいのですが、本当に気が抜けないのです。ご本人が完璧でいらっしゃるので、こちらも言い返す言葉がございませんし……
そんな新生徒会長が、ぜひマリスさんに生徒会へ参加していただき、忌憚のない意見をいただきたい、とおっしゃったのですよ。素晴らしいことです!!」
だいぶテンションの高いクローナの様子に、私とオーライリは顔を見合わせて、ヒソヒソと会話した。
「これは断れないのかな? 私としては全力でお断りしたいのだけど……」
「そうおっしゃるだろうと思っていました。ですが、これを断るにはかなりの特別な理由が必要です。〝忙しい〟だけでは断れないと思いますよ」
この〝生徒会役員〟という名誉職。
魔法学校の成績の序列とほぼシンクロしていることもあり、とてつもなく重要なポジションなのだ。〝なりたい〟と切望している生徒しかいないポジションのはずなので〝忙しいから無理です〟なんて理由では、断る理由にはまったくならないようだった。しかも、私のために特別に〝審議官〟という役職が作られ、アドバイザー的な役割をわざわざ作ってまでの勧誘なのだ。
(うー、参ったな。でも、こうなったらアーシアン・シルベスター会長の意図をまずは探らないと、どうにもならないなぁ。この人、私にクローナをけしかけたり、イロイロやってくれているところをみると、私に含むところがありそうなんだよね。とにかく、一度会ってみるしかないね)
どうにも困った話だが、私に拒否権はなさそうだった。一応、考えさせてくださいとは言ってみたが、受けるしかないことは二人の態度からも明白で、新学期はさらに目立たざるをえなくなりそうだった。
(もう、生徒会長!! 一体何を考えているのよぉ!)
私の嘆きと疑問を残し、こうして三学期の終わりは、なにやら波乱含みで終わった。
この人事の撤回を願い出るため、春休み中に一度シルベスター会長と会っておきたかったのだが、彼は家の用事で早々に学校を出ており、春休みが終わるまで会えそうになかった。
後手に回ってしまったことを悔やみつつ、私はセーヤとソーヤに念話を送り、シルベスター生徒会長に関する高度な諜報活動をお願いし、憂いを帯びた春休みに入ることになったのだった。
三学期ももうすぐ終わる。
悲喜こもごもの最終テストが終わり、一年生の運命も決した。
私のお友達がどうなったかというと、まずトルルはギリギリながら滑り込みで〝基礎魔法講座〟をクリアすることができた。だが、ライアン、ザイク、モーラの3人は、残念ながら留年決定。来年ももう一度〝基礎魔法講座〟のやり直しだ。
モーラは、かなり落ち込んでしまい、もう諦めて帰るとまで言い始めたが、トルルが
「来年はもっと参考書が充実するはずだから、今年よりずっと受かりやすいはずだよ。もうかなりの数はできるようになっているんだから、きっと大丈夫!」
と、熱心に説得し、なんとか残る気になってくれたそうだ。それに、もともと半数は落ちるというとんでもない学科なのだ。一度や二度の失敗を、そんなに気にする人は誰もいない。
今年は参考書効果が如実に現れ、6割近くが合格し、これまでの年より合格者が多かった。きっと来年の合格率はさらに上がるだろうというトルルの予測も、その通りだと思う。
私はいよいよこのクラスともお別れだな、と感慨深く放課後の教室でみんなと雑談を楽しんでいた。
私から発言するとまずいことをしゃべってしまいそうな気がして、言葉少なにみんな話を聞いていると、そこへオーライリとクローナが、なんだかひそひそ声で私に話しかけてきた。
「あのね、マリスさん……ちょっと、聞いて欲しいことがあるのですけれど、よろしいですか?」
オーライリは、少し困ったような楽しそうなような、複雑な表情をしている。クローナは満面の笑みだ。
なんでも生徒会に関することでまだ極秘だというので、私たちは、ちょっと席を離れ廊下で立ち話をすることにした。廊下に出ると、言いたくてたまらなかった様子のクローナは、すぐ本題を話し始めた。
「次の生徒会長になられるアーシアン・シルベスター様から、メイロード・マリスさんを生徒会役員に迎えたいというお話がありました。これは異例中の異例なのですが、あなたの活躍が認められたという大変名誉なことですの! 私もオーライリも、本当に嬉しく思っておりますのよ!」
「え、せ、生徒会……ですか? 聴講生の私が?」
私の〝目立たない穏便な学生生活〟という目標を知っているオーライリは、私が認められたうれしさときっと嫌がるだろうという気持ちが半々で、ああいう不思議な顔になっていたようだ。今もその顔のままでクローナの話にうなづいている。
逆にそんな私の密かな〝お願いだからほっといて〟という目標を知るはずもないクローナは、無邪気に一緒に生徒会で活動できることを喜び、私が認められたことを大いに讃えてくれた。
「アーシアン・シルベスター様は大変厳しい方で、少しでもいい加減なお仕事をしたらどんな立場の方がお相手でも叱責されますのよ。とても優秀で怖い方です。言い方はお優しいのですが、本当に気が抜けないのです。ご本人が完璧でいらっしゃるので、こちらも言い返す言葉がございませんし……
そんな新生徒会長が、ぜひマリスさんに生徒会へ参加していただき、忌憚のない意見をいただきたい、とおっしゃったのですよ。素晴らしいことです!!」
だいぶテンションの高いクローナの様子に、私とオーライリは顔を見合わせて、ヒソヒソと会話した。
「これは断れないのかな? 私としては全力でお断りしたいのだけど……」
「そうおっしゃるだろうと思っていました。ですが、これを断るにはかなりの特別な理由が必要です。〝忙しい〟だけでは断れないと思いますよ」
この〝生徒会役員〟という名誉職。
魔法学校の成績の序列とほぼシンクロしていることもあり、とてつもなく重要なポジションなのだ。〝なりたい〟と切望している生徒しかいないポジションのはずなので〝忙しいから無理です〟なんて理由では、断る理由にはまったくならないようだった。しかも、私のために特別に〝審議官〟という役職が作られ、アドバイザー的な役割をわざわざ作ってまでの勧誘なのだ。
(うー、参ったな。でも、こうなったらアーシアン・シルベスター会長の意図をまずは探らないと、どうにもならないなぁ。この人、私にクローナをけしかけたり、イロイロやってくれているところをみると、私に含むところがありそうなんだよね。とにかく、一度会ってみるしかないね)
どうにも困った話だが、私に拒否権はなさそうだった。一応、考えさせてくださいとは言ってみたが、受けるしかないことは二人の態度からも明白で、新学期はさらに目立たざるをえなくなりそうだった。
(もう、生徒会長!! 一体何を考えているのよぉ!)
私の嘆きと疑問を残し、こうして三学期の終わりは、なにやら波乱含みで終わった。
この人事の撤回を願い出るため、春休み中に一度シルベスター会長と会っておきたかったのだが、彼は家の用事で早々に学校を出ており、春休みが終わるまで会えそうになかった。
後手に回ってしまったことを悔やみつつ、私はセーヤとソーヤに念話を送り、シルベスター生徒会長に関する高度な諜報活動をお願いし、憂いを帯びた春休みに入ることになったのだった。
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