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3 魔法学校の聖人候補

477 断罪

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477

「さて、マバロンガ、そしてその子でありザイザロンガ工房の主人ザイザロンガよ。
私に言いたいことはないか?」

騎馬隊の騎士たちに取り囲まれたふたりは、サラエ隊長の美しい微笑みに顔を引きつらせブルブルと首を振るばかりだ。

「先ほどまでの威勢はどうした?
まぁ、〝鞍揃え〟に負けたのだから、意気消沈する気持ちはわかるが、それもお前たちの行いが招いた結果だな。この期に及んで口先ばかりの嘘が通用するとは思わぬことだ。お前たちの罪が〝ちょっとした意地悪〟程度でなかったことは、すでにわかっている。

自らの悪事をこの場でいますぐ認める以外、お前たちの道はないのだぞ!」

サラエ隊長の言葉に、マバロンガはそれでも言い訳を絞り出す。

「申し訳ございませんでした。すべては息子可愛さの愚かな親の所業でございました。チェンチェン工房では、ザイザロンガは一番弟子だったのにもかかわらず、息子のプーア可愛さに親方からいじめられてそれはそれは辛い思いをしていたのでございます。私にもその恨みがあり、チェンチェン工房に対して厳しい態度をとってしまったこと、本当に大人気ない態度であったと反省しております」

マバロンガの言葉を追いかけてザイザロンガも話し出す。

「そうなのです。すべてはチェンチェン工房の親方とプーアが悪いのです。奴らにウトんじられ、いじめられて追い出された私は、自分の工房を持つしかなかった。彼らに意趣返しをしたくなるぐらい当然ではないですか!」

「ならばなぜ、工房で働いている者たちが、いまのお前の話と口を揃えて言うのだろうな、ザイザロンガ……」

「え、は?」

サラエ直属の騎士たちは、この数日、ザイザロンガ工房、マバロンガ工房の職人たちや周囲の人間から、徹底的な聞き込みを行ってきていた。その聞き込みの結果をまとめた束になった資料を手に持ったサラエ隊長は、それを座り込むふたりの前に投げた。

「チェンチェン工房の親方は高潔な男だったと口を揃えて皆が語っている。息子のプーアにはむしろ厳しすぎるほどだったこともな。真面目すぎて口下手のプーアが言い返さないのをいいことに、お前が執拗にプーアを虐めていたことも、皆口を揃えて証言しているぞ」

「あ、あいつらぁ!!」

証言の束を握りしめてザイザロンガが呻くように叫んだ。

その証言の束には、いまはザイザロンガ工房にいる元チェンチェン工房の従業員たちの証言もあり、いかにザイザロンガの仕事がいい加減で従業員を食い物にしているかも克明に記されていた。

「お前は工房にほとんどいなかったらしいな。酒を飲み女と遊び、たまにやってきて怒鳴り散らし、表に出る目立つ部分だけ手をつけて後は何もしていなかったと、誰もが言っている。お前はそれでも職人か!!」

サラエ隊長の恫喝に、ザイザロンガは再び怯えたようにブルブルと震えながら、ブツブツと自分は悪くないとつぶやき始めた。その様子を見たマバロンガは、息子を叱咤し、許しを乞おうとするがその言葉をサラエ隊長は止めた。

「その言葉は、この男たちを見てからにしてもらおうか」

その場に、3人の男が引きずられてきた。

「お前の店、ロンガロンガ商店の番頭と闇仕事も仲介していた口入屋、そして魔法使いササン」

「あう、ああ、あ」

マバロンガの顔からを滝のような汗が噴き出していた。

「お前が番頭に指示を出し、私を殺すための魔法使いをこの口入屋に紹介させ、別の罪で〝魔術師横丁〟の奥深くに潜伏していたこの魔法使いササンに依頼した。そうだな、マバロンガ!」

サラエ隊長は3人の男たちを順番に指差しながら、自らに対する〝暗殺〟が依頼された状況を正確に示した。拘束されて連れてこられたもうすでに自供済みの3人は目を伏せ観念しているようだ。

「お、おゆ、おゆるし……を。決してあなた様の命を取ろうなど、ただ〝鞍揃え〟に出られなくなるようにと……」

立っていた騎士のひとりが我慢しきれずに、マバロンガを蹴り倒した。

「ふざけるな。隊長を傷つけようとするなど、貴様万死に値する!!
お前たちのやったことが、この街の皮革に関する利権のためだということもとっくにわかっているぞ!
そんな卑しい欲のために、サラエ隊長まで手にかけようとは……
隊長! どうか私にこの場でこの男たちを切らせてください!!」

騎士たちは、自分たちの隊長の暗殺を企んだこの親子に、怒りに燃えた目を向けている。

「落ち着け!今は断罪の時だ。この街を守る者として、すべてが終わるまで、諸君らはそこで見届けてくれ!」

騎士たちは、サラエ隊長の言葉にハッとして、一歩下がって整列した。その様子にうなづいたサラエ隊長は、ガクガクと震えるだけになった親子を冷ややかに見下し、反省しながら牢屋で沙汰を待つように言った後、踵を返しふたりに背中を向けた。

だが、その〝沙汰〟の重さを知るふたりは、愚かにも立ち上がりサラエ隊長に向かっていった。許しを乞おうとしたのか、やけになったのかはわからないが、ふたりは襲いかからんばかりの勢いでサラエ隊長の背中に手を伸ばした。

その刹那、サラエ隊長の《風魔法ウインド・カッター》が、彼女へと伸ばされたマバロンガの指輪だらけの指を一瞬ですべて落とし、彼女の服をつかみかけたザイザロンガの右手首を、その鋭い風で切り落とした。

「神聖な〝鞍揃え〟の場に血を落とすな!」

サラエ隊長の一言で騎士のひとりが《火魔法》を瞬時に発動し、ふたりの傷口を焼き止血した。切られた上に焼かれ、二重の激痛にのたうち回りながら言葉にならない何かを叫んだ親子ふたりは泡を吹いて、無様にもそのまま倒れてしまった。

「こんな者たちの浅はかな計略に掛かり殺されそうになるとは、私もまだまだだな……」

サラエ隊長は、愛馬リリア号にそう声をかけ薄く笑うと、〝鞍揃え〟の勝利者たちを讃えるため会場へと戻っていった。

近いうちにきっちりとした裁きを受けることのなる男たちはどこかへと連れていかれ、その場にはギラギラとした指輪をつけたままの指ともう二度と職人として使われることのない右手首だけが残されていた。
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