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3 魔法学校の聖人候補
470 下山そして〝魔法薬師の宝箱〟にて
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470
「メイロード、あんた〝回廊持ち〟だったんだね。驚いたよ」
下山するサラエ・マッツア隊長に、念のためこっそりセーヤとソーヤを護衛につけ見送った私とエルさんは《無限回廊の扉》を使って、エルさんのお店へ一瞬で帰ってきた。
「くれぐれも極秘でお願いしますよ。これ、なかなか珍しくて欲しい人の多い能力らしいので……」
私と一緒に回廊を通ってきたエルさんは、何度もうなづきながら、私の言葉にわかっている言って笑った。
「《無限回廊の扉》は、今では伝説に近いスキルだ。持っていることが知れればどうなるか、よくわかってるよ。今回だけは特別に使わせてもらったけどね、チェンチェン工房の件が片付いたら、二度と使わないよ。ありがとうね、私を信用してくれて……」
私の手を取り、頭を下げるエルさん。
「エルさんにはとてもよくしていただきました。それに、今回のことではなるべくエルさんに矢面に立っていただいて私の存在を隠しておきたいというのもありますから。
それに、私にはエルさんのように魔法についての知識が豊富なだけじゃなく、気軽に話せてグチが言える方がいてくれることは、すごく嬉しいことなんです。だから、できることはやりますよ。それに、私もあの人たちのやり口にはいい加減頭にきてますし」
真面目にコツコツ仕事をする職人さんたちを大いに尊敬している私としては、ずる賢く立ち振る舞い、そういった人々を足蹴にするザイザロンガたちのようなやり方は、本当に気分が悪い。心から腹立たしいのだ。
店の奥のいつもの席で、エルさんと私がやがてやってくるサラエ隊長のためにお茶の準備を整えながら、どう話を進めるか話し合っていると、念話が届いた。
〔サラエ様、もうすぐご到着です〕
下山を始めて2時間を過ぎた頃、セーヤからの念話が彼女が無事下山したことと、こちらに向かっていることを教えてくれた。
〔ありがとう。セーヤ、ソーヤ、ふたりともお疲れさまでした〕
セーヤはそのままチェンチェン工房とザイザロンガ工房の偵察に向かうとのことなので、ソーヤにはこちらに来てお茶係をお願いした。
(本当に働き者ね、ふたりとも)
そう思ってちょっと笑っていると、店のドアが開いた。
「おお、私も魔法使いの端くれのつもりだが、やはり魔法騎士と本物の魔法使いは違うものだな。
どうやって帰ってきたのだと聞くのは無粋か……まぁいい」
そこで、居住まいを正したサラエ隊長は、私たちに頭を下げた。
「まずはお礼を言わせていただきたい。ありがとう、心より感謝を申し上げる。あなた方がいなければ、私はともかく、リリアは確実に死んでいた。あなた方はリリアの命の恩人だ。このお礼は必ずさせていただきたい」
こんな時でも、自分より愛馬リリア号が無事であったことの方に感謝の軸があるあたりが、騎馬姫らしい。
エルさんはサラエ隊長に席を勧め、今回の〝事故〟についての話を始めた。いつの間にかセーヤもずっと前からそこにいたかのように自然にお茶を用意してくれている。
「ともかく、ご無事でようございました。あのままでは、怪我をせずいることは難しかったでしょうからね」
「お恥ずかしい限り。何度も行き来しているあの山道であんな事故に合うとは、私の注意不足だ」
自分が悪いと落ち込み始めてしまったサラエ隊長に、私が考える方向を変えてもらおうと口を挟んだ。
「あ、あの、私はハンス・グッケンス博士の内弟子で世話係をしておりますメイロード・マリスと申します。
エルさんとはご縁がありまして、今回も同行させていただいております」
明らかにサラエ隊長は、こんな子供が何を……、というような顔つきになっているが、そこは無視して話を続けた。
「今回の〝事故〟エルさんがあの場所にいたのは偶然ではないんです」
「なっ! それは、一体どういう……」
口をつけようとしていたカップを取り落としそうになりながら、絶句するサラエ隊長に向かい、エルさんはじっと目を見てはっきりこう言った。
「私たちは、あそこで〝事故〟が起こることを知っておりました。いえ、あれは〝事故〟ではございません。魔法を使って故意に起こされた崖崩れなのです」
私は、当然自分が殺されかけたということに驚くと思っていたのだが、不思議なことに、サラエ隊長はエルさんの言葉を聞いて、得心がいったというさっぱりとした顔をした。
「なるほど、そうであったか。あれは自然災害ではなかったのだな。なるほど気付けなかった筈だ。そうか、そうだったか」
どうやら、今回のことが自分の注意不足ではないと知って、ホッとしたらしい。おかしな人だ。
「だが、こんな山の中の騎馬隊の長を狙って何になるのだ。父や兄たちも、もちろん私もだが、特段恨まれるようなことはしていないと思うが……」
お茶を飲みながら、エルさんは薄く笑った。
「確かに、サラエ様にもお館様にも落ち度はございません。有り体に言ってとばっちりというやつですよ。どうにも愚かな連中の考えることでございまして……」
そう言ってエルさんは今回の事件に至るまでのチェンチェン工房とザイザロンガ工房の確執について話し始めた。
「メイロード、あんた〝回廊持ち〟だったんだね。驚いたよ」
下山するサラエ・マッツア隊長に、念のためこっそりセーヤとソーヤを護衛につけ見送った私とエルさんは《無限回廊の扉》を使って、エルさんのお店へ一瞬で帰ってきた。
「くれぐれも極秘でお願いしますよ。これ、なかなか珍しくて欲しい人の多い能力らしいので……」
私と一緒に回廊を通ってきたエルさんは、何度もうなづきながら、私の言葉にわかっている言って笑った。
「《無限回廊の扉》は、今では伝説に近いスキルだ。持っていることが知れればどうなるか、よくわかってるよ。今回だけは特別に使わせてもらったけどね、チェンチェン工房の件が片付いたら、二度と使わないよ。ありがとうね、私を信用してくれて……」
私の手を取り、頭を下げるエルさん。
「エルさんにはとてもよくしていただきました。それに、今回のことではなるべくエルさんに矢面に立っていただいて私の存在を隠しておきたいというのもありますから。
それに、私にはエルさんのように魔法についての知識が豊富なだけじゃなく、気軽に話せてグチが言える方がいてくれることは、すごく嬉しいことなんです。だから、できることはやりますよ。それに、私もあの人たちのやり口にはいい加減頭にきてますし」
真面目にコツコツ仕事をする職人さんたちを大いに尊敬している私としては、ずる賢く立ち振る舞い、そういった人々を足蹴にするザイザロンガたちのようなやり方は、本当に気分が悪い。心から腹立たしいのだ。
店の奥のいつもの席で、エルさんと私がやがてやってくるサラエ隊長のためにお茶の準備を整えながら、どう話を進めるか話し合っていると、念話が届いた。
〔サラエ様、もうすぐご到着です〕
下山を始めて2時間を過ぎた頃、セーヤからの念話が彼女が無事下山したことと、こちらに向かっていることを教えてくれた。
〔ありがとう。セーヤ、ソーヤ、ふたりともお疲れさまでした〕
セーヤはそのままチェンチェン工房とザイザロンガ工房の偵察に向かうとのことなので、ソーヤにはこちらに来てお茶係をお願いした。
(本当に働き者ね、ふたりとも)
そう思ってちょっと笑っていると、店のドアが開いた。
「おお、私も魔法使いの端くれのつもりだが、やはり魔法騎士と本物の魔法使いは違うものだな。
どうやって帰ってきたのだと聞くのは無粋か……まぁいい」
そこで、居住まいを正したサラエ隊長は、私たちに頭を下げた。
「まずはお礼を言わせていただきたい。ありがとう、心より感謝を申し上げる。あなた方がいなければ、私はともかく、リリアは確実に死んでいた。あなた方はリリアの命の恩人だ。このお礼は必ずさせていただきたい」
こんな時でも、自分より愛馬リリア号が無事であったことの方に感謝の軸があるあたりが、騎馬姫らしい。
エルさんはサラエ隊長に席を勧め、今回の〝事故〟についての話を始めた。いつの間にかセーヤもずっと前からそこにいたかのように自然にお茶を用意してくれている。
「ともかく、ご無事でようございました。あのままでは、怪我をせずいることは難しかったでしょうからね」
「お恥ずかしい限り。何度も行き来しているあの山道であんな事故に合うとは、私の注意不足だ」
自分が悪いと落ち込み始めてしまったサラエ隊長に、私が考える方向を変えてもらおうと口を挟んだ。
「あ、あの、私はハンス・グッケンス博士の内弟子で世話係をしておりますメイロード・マリスと申します。
エルさんとはご縁がありまして、今回も同行させていただいております」
明らかにサラエ隊長は、こんな子供が何を……、というような顔つきになっているが、そこは無視して話を続けた。
「今回の〝事故〟エルさんがあの場所にいたのは偶然ではないんです」
「なっ! それは、一体どういう……」
口をつけようとしていたカップを取り落としそうになりながら、絶句するサラエ隊長に向かい、エルさんはじっと目を見てはっきりこう言った。
「私たちは、あそこで〝事故〟が起こることを知っておりました。いえ、あれは〝事故〟ではございません。魔法を使って故意に起こされた崖崩れなのです」
私は、当然自分が殺されかけたということに驚くと思っていたのだが、不思議なことに、サラエ隊長はエルさんの言葉を聞いて、得心がいったというさっぱりとした顔をした。
「なるほど、そうであったか。あれは自然災害ではなかったのだな。なるほど気付けなかった筈だ。そうか、そうだったか」
どうやら、今回のことが自分の注意不足ではないと知って、ホッとしたらしい。おかしな人だ。
「だが、こんな山の中の騎馬隊の長を狙って何になるのだ。父や兄たちも、もちろん私もだが、特段恨まれるようなことはしていないと思うが……」
お茶を飲みながら、エルさんは薄く笑った。
「確かに、サラエ様にもお館様にも落ち度はございません。有り体に言ってとばっちりというやつですよ。どうにも愚かな連中の考えることでございまして……」
そう言ってエルさんは今回の事件に至るまでのチェンチェン工房とザイザロンガ工房の確執について話し始めた。
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